亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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やっと来た!!
ついにこの小説の折り返し地点です。


№48:〝ヴィランハンター〟VS〝ヒーロー殺し〟・その1

 3日後――

 ついに雄英の職場体験が始まった。この職場体験において、出久は「ワン・フォー・オール」の秘密を知る数少ない人物であるオールマイトの師匠でもあるグラントリノの下で修業することとなった。

 そして出久とグラントリノは、現在渋谷へ向かって移動中だ。

「……警察が多いな……」

「ここ最近、ステインに加えて無間軍の動きが活発になり始めたからな。神経尖らせるのも無理もない」

 溜め息を吐くグラントリノ。

「え? グラントリノ……「無間軍」って何ですか?」

「何だ小僧、剣崎に随分可愛がられとるのに知らんのか」

「えっ――」

 剣崎との関係性を指摘され、目を泳がす出久。しかしそんな彼に対しグラントリノは笑いながら語る。

「あいつの母と昔、面識があってな。昔の奴はおめェのようなぺーぺーだったわ」

 そんなことを喋りながらも、グラントリノは出久に説明した。

 無間軍は、かつて悪の支配者として裏社会に君臨し続けたオール・フォー・ワンに匹敵するとされた程の大物(ヴィラン)シックス・ゼロが率いる反社会勢力である。構成員も強者揃いで、若き日のオールマイトや生前の剣崎と互角に渡り合う程の実力だったという。しかし剣崎との死闘と彼の同期、オールマイトの助太刀により一時は完全崩壊したらしい。

「そんな人達と……剣崎さんは……」

「だが今となって蘇った……恐らく奴への復讐心で煮え滾ってるだろう。だが剣崎もまた怒りと憎悪を更に強くして蘇った。――あの頃の戦いを知らん者が多い今のご時世で殺し合えば、どれ程の被害と犠牲を被るか……」

 あの激動の時代を知るグラントリノだからこそ、今後の展開を憂いている。

 剣崎が滅ぶのか、それとも無間軍が滅ぶのか――ヒーロー社会の未来を賭けた巨大な戦いをグラントリノは恐れてもいるのだ。

「正直な話、奴はもうヒーロー社会に関わらん方がいいと思っとる。あいつが暴れてた頃とは訳が違う。俺のような先の時代の残党は、御役御免が一番似合っとる」

「グラントリノ……」

 

 

「ここか……」

 同時刻。剣崎は保須市にある唯一の廃墟を特定してそこへ潜入していた。

 そこは、今回の標的のアジトであり次代へ引き継がれるモノを決める決戦の地でもある。

「――決着(ケリ)つけてやらァ」

 そんな剣崎の様子を、遠くで眺める女性が一人。

「剣崎……やはり朽ち果てても変わらぬか。それでいい……」

その女性は、そう呟いて姿を消した。

 

 

           *

 

 

 数時間後――

(ちっ……贋作共が……!)

 この日、ステインは酷く苛立っていた。ここ最近――特に保須周辺の贋物(ヒーロー)達と警察による警備が強化されて包囲網に近い状態となり、粛清活動が儘ならないからだ。

 こうしている間にも贋物は続々と増え、このままではいつまで経っても真の英雄(ヒーロー)は来ないし贋作共が蔓延る世界を正しい形に変わる日も遠くなる。

 暫く息を潜めるかアジトを変えるかを考えていたその時だった。

「……よう、正義の面汚し」

「……!!」

 その声に目を見開くステイン。

 視線の先には、生きとし生ける全ての存在を射殺さんばかりに鋭い目を向ける剣崎の姿が。彼に一歩近づく度に、常人なら息を殺されそうな程の強い殺気をその肌で感じるステイン。深緑の癖毛と羽織ったコート、身に着けている制服は、まるで剣崎の意思と殺意の強さを表しているかのようにいつもよりも少し激しく揺れているように見える。心なしか、16年前の一度目の死の時に刻まれた無数の傷が、つい昨日負ったばかりのような生々しさも感じる。

「ハハァ……まさかそちらから来るとはな……」

「来ちゃ悪ィか」

「いや、むしろ好都合だ……!!」

 二度目の因縁の邂逅。

 全身を切り刻むような殺気が渦巻く中、会話が始まる。

「ハァ……ヴィランハンター……今のヒーローをどう思う?」

「今の……だと?」

「この社会には贋者が蔓延っている……英雄気取りの拝金主義者共がアリのようにいる……!! 貴様はそれを許容するのか……!?」

 ステインは両手を広げ、演説するかのように語った。

 オールマイトに感銘を受けヒーローを目指したが、そこでヒーロー観の根本的腐敗に失望したことを。ヒーローとは見返りを求めず、自己犠牲をもって得られる称号でなくてはならないと。今のプロヒーローは人を助けることが純粋な「目的」ではなく、地位や名誉、収入を得るための「手段」になっていることを。

「どうなんだ、ヴィランハンター……!! 先の時代のヒーローを知る者は、今のプロヒーローは腐ってると思わないか……!?」

 そう問い質すステインに、剣崎は答えた。

「……私欲と己が利益の為に動く不届き者がいるのは、この俺も認めよう。16年前(むかし)のように己が信念と正義を貫くために――新時代の為に人生を捧げた人間は少なくなった」

 剣崎の知るヒーローのほとんどは、ステインの言うように自分を犠牲に他者(ひと)を救けていた。それは最愛の両親も然り。心から敬慕し憧れた志村菜奈(ヒーロー)も然り。

 だが今の時代、他者(ひと)を救うことで得られる収益や名声を目的としてプロヒーローとして活動する人間は少なくない。むしろ増えている。しかし時代は常に変わるモノ…その度にヒーローの在り方が変化していくのは当然であり、ある意味で仕方のないことだろう。良くも悪くも社会に大きな影響を与えた剣崎でも、全てのヒーロー達の頂点に君臨するオールマイトでも、〝時代のうねり〟には勝てないのだ。

「自己犠牲の精神が失われつつある今…先の時代の残党である俺もそれを憂いているのは紛うことなき事実だ」

「ハハァ……ならば――」

「だが……この超人社会の正義は何一つ変わっちゃいない」

「!!」

 人を救けたいから、ヒーローは人を救ける。(ヴィラン)をはじめとした悪者達から人々と平和を護りたいから、ヒーローは戦い悪者を退治する。時代が変わっても、社会が変わっても、これが揺らぐことは無い。

 剣崎はそう語る。

「俺の悪者退治は、俺の信念と正義の為でもあり、この世の全ての(ヴィラン)を滅ぼし人々が二度と(ヴィラン)に憧れない世界を創るためでもある。「全(ヴィラン)滅亡」……その悲願を成就させるには、蔑まれようとも憎まれようとも構わない。剣崎刀真という犠牲の果てに、平和な世を脅かす(ヴィラン)共がいなくなればそれでいい」

 平和というものは常に誰かが犠牲になっており、その犠牲の役を担うのがヒーローである――剣崎の言葉には、そういう意思が込められている。だが、その犠牲の役を担う者は今の時代にいるのかと言われると、それはオールマイトだけだろう。

「ハハァ……さすが〝ヴィランハンター〟、やはりお前は本物のようだ……! 俺の信念に同意してくれないのが実に残念だが……!」

(ヴィラン)に褒められるとは、実に腹立たしい」

 剣崎は刀を構え、殺気を放ってステインを見据えた。

 対するステインも、右手に刀、左手にナイフを手にして構える。

 それと同時に両者の膨大な殺意が渦巻き、それに反応するかのように木々が震え、周囲を飛んでいた鳥の群れが慌てるように一斉に飛び立っていく。

「俺とお前……ぶつかり合えば当然、弱い方が淘汰される」

「そうだ。そして信念を持つ者同士の戦いは、どちらが正義かを決める戦い――敗けた者は信念も残らず朽ち果てて終わる」

 〝平和の象徴(オールマイト)〟に心酔する、正義に飢えた悪。

 正義と悪の争いの間に生まれ、惨劇で覚醒し世に解き放たれた死神。

 両者の信念がどんなカタチであれ、何を犠牲にしようと、まずはこの殺し合いで勝たねばならない。己の未来を、真実とするために。もっとも納得がいく、唯一の事実(れきし)とするために。

「お前の死をもって、この世界は新たな夜明けを迎えるだろう……!! これが最後だ……どっちの信念(こたえ)がこの世界の〝正義〟として次の世代を導くのか、決着(ケリ)をつけようじゃねェか!! 〝ヒーロー殺し〟!!!」

「ハハァ……!! 望むところだ〝ヴィランハンター〟……!!!」

 

 己が信念を懸け、二人は刀を振るった。


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