亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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やっと体育再編が終了です。
次回からステインとの戦いです。


№42:体育祭終了

「随分遅れちまったな。もう終わってるか」

「そうね……何か、ごめんね」

「止むを得ないことなんざ腐る程ある。気に病むなよそんぐれェで」

 ようやく病院から去って会場へ着いた剣崎。しかし肝心の弟子達の試合はすでに終わっており、剣崎が来た頃には表彰式が終わろうとしていた。

「まあ、あいつらもそれなりに頑張ったろうし。労っておくとするか」

 剣崎はゆっくりとした足取りで会場に入ろうとしたが…。

「刀真!!」

「!」

 そこへ御船が駆けつけた。

「やっと来た……遅いよ……」

「色々あってな。で、どうした?」

「奴が……シックスが動いた!!」

「!」

「え!?」

 御船の言葉に、目を見開く剣崎と熱美。かのシックス・ゼロがついに動き出したのだ。

「刀真を探していた。多分、連中は刀真の復活を……」

(勘付いたか。まァ奴のことだからいつかはこうなると思ったが、こうも早いとなると……)

 今はまだこれといった騒ぎを起こす気はないだろうが、剣崎としては計算外だった。

 つまり、シックスはいつ剣崎と事を構えてもいいように準備をするということだ。シックスの強大さを忘れつつある現代においては、目には見えずともかなりの危機である。

「……参ったな、俺ァこれから忙しくなるんだが……」

「忙しくなる?」

「熱美から聞け」

 剣崎は左手をヒラヒラと振りながら、会場内へと向かった。

「……熱美、刀真に一体何が……?」

「実は……」

 

 

 さて、体育祭も終了し観客が帰り始めたころ。

 剣崎は控え室にて出久とお茶子と話していた。

「「負けてしまいました……」」

「それ、謝ることなのか?」

 申し訳なさそうに口を開く出久とお茶子を、剣崎は一蹴する。

「睡が審判やったっつってるから話ァ聞いたが、頑張ったと思うぜ。あと1ヶ月……いや、あと2週間あればよかったがなァ……」

 髪の毛やコートを穏やかに揺らしたり作り笑いをして、怒ってないアピールをする剣崎。

 ここ最近で、剣崎は自分の感情に合わせて髪の毛や衣服の揺れが変わるのではないかと気づいたようだ。

「あの、作り笑いしても……顔が顔なんですけど」

 ※剣崎は表情によっては顔のひびがピキピキと鳴ります。

「まあ…俺も人のこと言えねェしな」

「「?」」

「今日の昼間だったか……巷を騒がすチンピラ(ヴィラン)を逃がしちまってな」

「剣崎さんが…!?」

 剣崎の言葉に目を見開く出久。

 どんな(ヴィラン)も逃がさず追い詰め斬り伏せる剣崎がミスを犯したのだから、驚くのも当然だろう。

「まァ、あいつも準備(・・)がいるだろう。すぐには仕掛けちゃこねェはずだろうが……」

「一体、誰なんですか……?」

「君なら案外わかるんじゃないのか? この世の中を騒がすクズ共の中で、俺と戦って逃げ延びれる可能性のある奴――そいつが正体だ」

 ケラケラと笑う剣崎。

「まァ、そんなことはどうでもいい。ケガ治ったら放課後の授業は再開すっからな」

 そう言いながら、剣崎は轟の元へ向かった。

「……少しは気が晴れたか?」

「……」

「確執ってのは、時間をかけて埋めるモンだからな。ゆっくりと進めりゃいい――」

「剣崎刀真……」

「?」

「――俺はあいつと戦って少しわかった気がしたよ……あんたが何故、緑谷に期待しているのか」

 轟の言葉に、目を見開く剣崎。

 その言葉の意味を察した剣崎は、口角を上げてコートを翻した。

「……一丁前に理解できるようになったじゃねェの」

 刀を杖のように突きながら、剣崎はどこか納得したような笑みを浮かべた。

「おい、ゾンビ野郎」

「誰がゾンビだ、生ける亡霊と言えせめて」

 剣崎を睨みつける爆豪。

 剣崎もまた、闇のようにどす黒い瞳を爆豪に向ける。

 一触即発の空気に、固唾を飲む一同。

「てめェがデクと丸顔を鍛えたんだろ」

「へェ……勘づいてたか。いかにもそうだが……鍛えちゃ悪ィか?」

「何で俺も入れねェ」

(そっちかよ!!)

 爆豪の意外な一言に、因縁を吹っ掛けると思っていたのか、コケかける一同。

「任意加入だからな。出久君とお茶子ちゃんも申請していた」

「俺も入れろや、ゾンビ野郎――」

「やだ」

「んだと!?」

「口の悪さはともかく、上から目線だし誠意も感じねェんだよ――身の程知らずは出直してこい」

「んなっ……」

 爆豪の痛いところを突いて、剣崎は壁をすり抜けて行った。

「……爆豪、ドンマイ」

「ドーンマイ! ドーンマイ!」

「アホ面、ぶっ殺すぞ!!! つーかてめェにだけは言われたくねェよ、しょうゆ顔!!!」

 

 

           *

 

 

 その日の夜――

 体育祭の後始末を終えたミッドナイトは、自宅へ戻ろうとしていた。

 いつものヒーローコスチュームではなく、私服を着ているため誰だかわからないのは秘密だ。

「今日は相澤君達と飲むのも悪くないかもね~……っ! 刀真……?」

 ふと、ミッドナイトは刀を杖のように突いて歩く剣崎を見た。

 しかしそれは、いつもの彼ではなかった。

 いつになく覇気の無い黄昏た雰囲気を醸し出しており、髪の毛や衣服の揺れはゆらゆらと宙を漂っている感じだが、どこか寂しげに感じる。

(――そうよね。刀真だって、当然辛いこともあるわよね……)

 かつて(ヴィラン)達を震え上がらせた〝ヴィランハンター〟は、生きているとも死んでいるとも言い切れない。そんな彼の抱える悩みは、自分達の想像を遥かに超えるだろう。

 百戦錬磨の彼でも太刀打ちできない障害…その正体は不明だが、ミッドナイトは彼の悩みを聞いてあげようと勇気を振り絞って声をかけようとした――のだが…。

「……母さんの味噌汁……菜奈さんの塩むすび…」

「!?」

 剣崎はある意味で想像以上の重症だった。

 何と彼の障害は、〝個性〟そのものだったのだ。

 剣崎は眠っていた今まで発現しなかった〝個性〟によって生ける亡霊として蘇った。亡霊と化したことにより超自然的な力を得られるようになったが、一度死を迎えたがゆえか、「人間の欲」を十分に満たせないでいた。

 特に食欲は、一番心に来た。悪者退治に執念を燃やし人生を捧げた彼にとって、食事は数少ない娯楽。それを封じられるのは、やはりキツイようだ。

 毎日を憎悪と共に過ごしていた彼は〝ヴィランハンター〟の矜持と己の信念ゆえに、弱音を吐いたり弱気な姿を見せないよう努力しているが、所詮は人の子――我慢にも限度はある。しかもそれが16年も続けば、とんでもない形で表に出てしまうのも必然だ。

(――ごめんなさい……それはどうしようもならないわ、刀真……)

 今ではほぼ無敵ともいえる強大な怪物――剣崎の厳しい現実を垣間見た気がしたミッドナイトであった……。


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