亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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№41:轟焦凍VS緑谷出久~後半~

 ――全力でかかって来い。

 そう啖呵を切った出久。

 しかし「ワン・フォー・オール」による衝撃波を放ち続けたことで右手の指はほぼ全壊、左に至っては腕全体が壊れてしまっている。

 本来ならドクター・ストップものだろう。

「全力だと……? クソ親父に金か弱みでも握らされたか……? イラつくな……………!」

 出久の衝撃波に対抗すべく、再び間合いを詰める轟。

 しかし氷結攻撃を連発していた轟の動きは鈍くなっており、スピードがわずかに遅くなっている。

 出久はそれを見逃さず、一気に間合い詰めて懐に飛び込み、本来からはかなりの低出力ながらも「ワン・フォー・オール」を発動させて一撃を見舞う。

 身体の状態自体は出久の方がボロボロであるが、一発入れて更には轟の氷結攻撃の勢いも目に見えて弱まっている。出久の勝ちの目も見えて来たと思われたが……。

「止めますか? ミッドナイト」

「!」

「緑谷くんは「どうせ治してもらえる」からか……無茶苦茶してる。しかしあの負傷だと恐らく一度の回復で全快は……たとえ彼が勝っても次の試合はムリかもしれませんよ!?」

「……」

 そこで懸念されていた「試合を止められる」という審判も検討され始めた。

 確かに仮に轟に勝っても、次戦の参加は難しいだろう。

 しかしミッドナイトは、試合を止めるタイミングは今ではない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)と判断し続行させる。

「轟君! そんなんじゃ……僕に勝てないぞ!!」

 轟を煽りながら、ボロボロの体に鞭を打って攻め続ける出久。

 剣崎との手合わせで鍛えた格闘で、少しずつ轟を追い込んでいく。

「ゲホッ……お前、何でそこまで――」

「僕はオールマイトの様に強くていつも笑顔じゃないし、剣崎さんの様に迷いや恐れを断ち切ったりすることは出来ない…でも……カッコいい(ヒーロー)に、なりたいんだ!」

 〝平和の象徴〟と〝ヴィランハンター〟。

 二人の男の背中を見て、ついてきたからこそ言える言葉だった。

「だから全力で! やってんだ! 皆! 君の境遇も君の決心も、僕なんかに計り知れるもんじゃない………でも……全力も出さないで一番になって、完全否定なんて、フザけるなって今は思ってる! 剣崎さんなら「そんなバカげた信念を掲げて戦うな」って言ってるはずだ!!」

「っ――」

 出久の心からの叫びに、轟は表情を変える。

 忌むべき生い立ち。虐待に近いスパルタ教育…実の父親であるNO.2ヒーローを憎む轟でも、純粋にヒーローに憧れ、ヒーローにはなりたかった。

「うるせェ………………………!」

「だから、僕が勝つ! 君を超えてっ!!」

「親父を──」

「違うよ轟君! 君の力じゃないか!!!」

「!!」

 

 ――本当に大事なのはその繋がりではなく……自分の血肉……自分であると認識すること! そういう意味もあって私はこう言うのさ! 「私が来た!」ってね。

 

 ――いいのよ。お前は血に囚われることなんかない。なりたい自分になっていいんだよ。

 

 テレビモニター越しの、オールマイトの言葉。

 いつの間にか忘れてしまっていた、母親の言葉。

 自分が何故ヒーローの道を目指し始めたのか――その全てを思い出した轟は泣きそうな顔をし……!

 

 ゴゥッ!!

 

『!!』

 轟の体から、炎が上がった。

 まるで呪縛から解き放たれたかのように燃え盛る赤色。その赤色は父への憎しみを忘れているかのように澄んでいた。

「あつつ!!」

「これは――」

「轟君…!」

「……!!」

 観客席から見ていたクラスメイトも、驚愕する。

「左側を使わせた……! 緑谷少年…まさか轟少年を……救おうと……!?」

 オールマイトは出久の行動の真意を読み取った。

「勝ちてえクセに…………畜生…敵に塩送るなんて、どっちがフザけてるって話だ……俺だって……ヒーローに……!」

「轟君……!!」

 プロヒーローに近いと思われていた轟は、自ら科していた枷からようやく解き放たれたことに歓喜しているのか、涙を流して笑みを浮かべていた。

 

 

「焦凍ォォォォォ!!!」

 エンデヴァーは〝反抗期〟の息子が決して使わなかった炎を見て、唐突に観戦席から立ち上がった。

 エンデヴァーのハイテンションに観客はドン引きするが、彼は歓喜に満ちた表情で言葉を紡ぐ。

「やっと己を受け入れたか!! そうだ!! 良いぞ!! ここからがお前の始まりだ!! 俺の血をもって俺を超えて行き……俺の野望をお前が果たせ!!」

 それは、息子(しょうと)に憎まれる父親(エンデヴァー)なりの激励だった。

 その言葉には、ようやく真の力を解放した息子は必ずやオールマイトを超えてくれるだろうという期待と、かつて剣崎優が言っていた我が子の成長の嬉しさに対する共感を感じ取れた。

 親バカなのかと突っ込まれているが、そんなことなどそっちのけでエンデヴァーは興奮している。

「……スゴイね」

「何笑ってんだよ……ハハ……お前はイカれてるよ……こんな状況で、ケガも大分酷いのに笑ってるなんてさ……」

 轟は腕で涙を拭い、笑顔を見せる緑谷にそう言う。

「もうどうなっても知らねえぞ」

 封印していた左半身を解禁する全力の轟と、すでにボロボロの体からなお全力の一撃を放とうとする出久。

 審判であるセメントスとミッドナイトの二人がこれ以上は危険だと判断し、互いに〝個性〟を発動する。

 

「緑谷……ありがとな」

 

 ドガアアアアアアン!!

 

 互いに渾身の一撃を打ち込んだ瞬間、会場を巻き込むほどの爆発が起こる。

 立ち上る水蒸気と弾け飛んでいく瓦礫が、その凄まじさを物語る。

「何十層もの硬いコンクリを固めたのにああも簡単に壊れて……どれだけ威力が高いんだか……」

 セメントスは冷や汗を流して呟く。

 視界を覆っていた水蒸気が晴れると、フィールドの外で気を失っている出久と左半身がはだけた状態で立っている轟の姿が。

 出久は場外へと吹き飛ばされた。ミッドナイトはそれを確認すると、高らかに声を上げた。

「緑谷君、場外! よって轟君、決勝進出!!」

 

 轟焦凍、緑谷出久に勝利。


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