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さて、雄英体育祭では出久と轟の対戦が始まろうとしていた。
(緑谷を超えれば……奴を……)
轟にとっては、緑谷出久という存在は
オールマイトと剣崎……二人の傑物と繋がる出久を氷の力だけで勝てたら、自分の人生を狂わせた
それが轟の目標であり、ヒーローを目指す理由である。ゆえに、この勝負は絶対に敗けられないのだ。
「来たな」
「……」
フィールドの上で、轟と出久は互いを見据える。
《今回の体育祭 両者トップクラスの成績!! まさしく両雄並び立つ!! 轟VS緑谷、START!!》
大きな歓声に包まれる中、轟VS出久が、ついに開始した。
出久は構え、先に攻めるであろう轟の氷結攻撃に備える。
しかし轟は右腕に冷気を纏わせ迎撃態勢になるも、すぐには仕掛けようとしなかった。
「轟……!?」
「どうしたんだ、あんなチート性能持ってるってのに……」
「デク君……」
轟はまるで様子を見るかのように出久を見据えている。
瀬呂のときのような秒殺展開ではない事に、クラスメイトも少しざわつき始める。
「どうした、焦凍……?」
エンデヴァーもまた、今までにない息子の姿に違和感を覚える。
確かに
「……すぐに攻めると思ったんだけどな……」
「3日ぐらい前の放課後に剣崎とやり合ってるお前と麗日を見たからな…」
轟自身、剣崎の化物じみた戦闘力はその目に焼き付けている。
ゆえに、彼が一番気に入っている出久に対しては最大限の警戒もしていた。そして、剣崎が出久に対して何かしらの指導も施していた事にも警戒していた。
「……そっちからじゃねェなら……こっちから行くぞ」
轟がそう言った瞬間、猛烈な勢いで氷が出久を襲った。
しかし出久は、それを紙一重で避けた。
「!」
(何て速さだ……!!)
先程まで自分がいた場所はあっという間に氷漬けになっており、冷や汗を流す。
「……使わねェのか?」
「使うけど……こっちも、色々考えて動いてるからね」
轟は恐らく、氷結攻撃を何度も繰り出して出久の「自損覚悟の打ち消し」を利用した消耗戦を狙う。つまり、出久が両腕を使えなくなった瞬間ゲームオーバーという訳だ。
そして轟の厄介な点は、情報の少なさ。彼の戦いは一瞬で勝負が付いてしまうゆえ、出久にとっては爆豪と戦うよりも厳しい状況だ。戦いながら轟の弱点や隙を見つけなければならない。
(持久戦や消耗戦は愚策……となると……)
出久は、剣崎との修行での会話を思い出す。
――轟君のような射程範囲が広い〝個性〟の持ち主となると、勢いじゃ倒せねェ。それなりの技を仕掛けなきゃいけねェ。
――技、ですか……。
――はっきり言って……轟君の〝個性〟は、強力な応用技を作りやすいタイプだ。菜奈さんのを受け継いでいるとはいえ…今の出久君の〝個性〟はオールマイトと同様の「規格外なだけのシンプルな増強型」だ。轟君との相性を考えると、相当キツイぞ?
――はい……わかってます。
(攻めるなら……!)
出久は指一本を犠牲にして、フィールドに目掛けて「ワン・フォー・オール」の衝撃をぶつけた。
轟音と共に土煙が昇り瓦礫が舞う。
「くっ……!」
一時的に、轟の視界が遮られる。視界が遮られた状態での〝個性〟の使用は、相手に当たりづらくなるため、迂闊には出れなくなる轟。
幸いにも、出久の放つ衝撃波で吹っ飛ばされないために氷壁を背後に用意しておいたので、少なからず後ろからの攻撃は無いだろう。
(どこから攻める……!? 右か……!? 左か……!?)
轟はどうにかして出久の攻撃の出所を見極めようとする。
出久にとっては過酷な消耗戦になる。ゆえに、確実に轟を倒すには至近距離で攻撃を浴びせ、一撃で場外まで吹き飛ばさねばならない。両腕と両手の指が使えなくなった時が勝負の分け目…それまでは気を抜いてはいけない。
そう考えている内に、段々煙が晴れてきて……。
「! 正面か!!」
煙の中を突っ切って、出久が飛び込んだ。
しかし、轟は一切動じず氷結攻撃を放つ。
ドオォォォン!!
至近距離の衝撃。
ある程度離れた距離から放たれたそれよりも威力は高く、衝撃を殺しきれず背後の氷壁に叩きつけられる轟。しかしその反動で、出久もまた後方へ吹き飛ばされてフィールドを転がる。
それを見逃さなかった轟は、先程よりも威力を高めた氷結攻撃を仕掛ける。
(マズイ!! このままじゃ……)
出久は何とか立ち上がり体勢を立て直すが、すぐそこまで氷は迫っている。しかも氷は先程以上の大きさと速さで迫っている。指一本では到底敵わない。
止むを得ず、出久は――
ズドオォォォン!!
丸々一本左腕を犠牲にして、迫りくる氷を粉々に砕いた。
《うおおおおお!!! あのバカデケェ氷を一発で破ったァァァァァァ!!!》
盛り上がる観客と実況のプレゼント・マイクだが、出久は絶体絶命のピンチに陥っていた。
左腕はほぼ使えない状態であり、右手指の残弾はまだ残ってるが、先程のような高威力の氷結攻撃では対処しきれない。
一方の轟は冷静に高威力の攻撃を受け止めている。〝個性〟が強力であることはもちろん、判断力・応用力・機動力…全ての能力が強い轟に驚愕せざるを得ない。
「悪かったな、ありがとう緑谷。おかげで……奴の顔が曇った。その両手じゃもう戦いにならねえだろ? 終わりにしよう」
轟の言葉を聞き、出久は剣崎の言葉を思い出した。
――それにしても、あの子は勿体ねェ生き方をしてるな。
――え……?
――どういう訳なのかは詮索する気はねェが、せっかく生まれ持ったてめェの〝個性〟を使わねェなんざ……
「……どこ見てるんだ……!」
「!?」
ドォォンッ!!
出久は右手の指先を2本使い、渾身の一撃を見舞った。
さすがにもう攻撃は無いと見て背後の氷壁を解除していた轟は、不意に喰らった衝撃波で吹き飛ばされ、何とか場外に落ちる前に背後に氷壁を生成して踏み止まる。
「何でそこまで――」
「〝個性〟だって身体機能の一つだ、君自身冷気に耐えられる限度がある……それって左側の熱を使えば解決できるもんなんじゃないのか……?」
出久の言葉に、轟は目を見開く。
冷気と熱気を操る轟は、片方を多用すると体に影響が出る。つまり、冷気に耐えられなくなるときがいずれ来る。これは熱気を使えば解決できるのだ。
「皆本気でやってるんだ……勝って目標に近づくために……っ一番になるために! 半分の力で勝つ!? まだ僕は君に傷一つつけられちゃいないぞ!」
出久は、轟に対して叫ぶ。
「全力でかかって来い!!」
「何のつもりだ……!」
怒りを露わにする轟。
その一方で、それを見ていたエンデヴァーも驚いていた。
「あの小僧……」
轟VS出久は、佳境を迎える。