亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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一番面白くなるところにやっと来た!!
長かったな~……。

剣崎の弱点がやっと発覚です。


№38:〝ヴィランハンター〟VS〝ヒーロー殺し〟第一戦

 さて……本来ならすでに会場に着いているはずの剣崎らは、未だ道路を走っていた。

 当然と言えば当然だが、渋滞が起こっていたので迂回ルートで会場につくハメになったのだ。

「ごめんなさい……渋滞ぐらい起こるってことを忘れてたわ……」

「そんなもん言う程の大事じゃあるめェし……気にしねェよ。しかしまさか保須まで回されるとはな」

 車の窓から、天を仰ぐ剣崎。

 その時、剣崎は何かを察知した。

(殺気!)

「? 刀真……?」

「熱美、非常事態だ。俺は一旦降りる!」

「え、ちょ!?」

 剣崎は刀を手にして、車のドアをすり抜けてそのままビル街へと向かった。

「ちょっと、マズいんじゃないかな……?」

 熱美の心配は、剣崎である。

 彼の存在は、世間には公表されていない。正直な話、バレるのも時間の問題ではあるが今は雄英襲撃の件も含めて情勢が不安定なため、剣崎は警察としてもヒーロー側としてもしばらくの間は身を隠すようにと口利きされている立場なのだ。

 そんな剣崎がいきなりシャバへ出ては、大変な事になるのは目に見えている。

 だが、その当事者はすでに車のドアをすり抜けてどこかへ行ってしまっている……。

「……仕方ない、とりあえず警察呼ぶか!!」

 

 

           *

 

 

 とある路地裏。

 東京の事務所に65人もの相棒を雇っている大人気ヒーロー――インゲニウムこと飯田天晴は、人生最大の危機を迎えていた。

 保須市でヒーローとしての活動をしている際に、ステインに襲撃されたのだ。

 当然彼は応戦したのだが、闇討ちであった事に加えて傷を負わされ〝個性〟で動きを封じられてしまったのだ。

(天哉……すまない……!!)

「俺はお前に恨みは無いが……お前のような贋物が蔓延る社会を正すためだ、ここで死んでもらう。全ては、正しき社会の為だ」

 ステインは一言告げ、動けないインゲニウムに止めを刺そうとした。

 その時!

 

 ギィン!!

 

『!!?』

 インゲニウムとステインの間に、刃こぼれが生じた日本刀を手にしてコートを羽織った異様な少年が現れ、片手持ちの状態でステインの一太刀を受け止めていた。

 そう、剣崎だ。

「フンッ!」

 剣崎は左手による裏拳をステインの左脇腹に減り込ませ、そのまま壁に叩きつけた。

 突然の乱入とはいえ、あのステインを圧倒した少年の登場に目を見開き愕然としてしまうインゲニウム。

「この辺りの地形はあまり変わってねェからな、早く見つけられたな」

「あ、あなたは……?」

 大きな火傷の痕。

 無数の切り傷によって、ひび割れたように見える顔面。

 風も無いのに揺らめく、深緑の癖毛と傷んだ衣服。

 それは、生まれてから一度も見たことの無い、得体の知れない雰囲気の異形の少年だった。しかし悪意は感じられず、現に自分を庇ったことから少なくともステインの仲間ではないようだ。

(彼は一体……!?)

 その直後、突如ナイフが剣崎の顔面に迫った。

 しかし――

 

 ビシッ!!

 

 何と剣崎は、ナイフを素手で受け止めた。

「こんなおもちゃで俺を殺せるとは思ってないだろうが……ちと甘く見すぎじゃねェか? 〝ヒーロー殺し〟よ」

「……っ!? バカな、あれ程の衝撃を食らっても……!!」

 剣崎とインゲニウムの視線の先には、血を流しつつも堂々と立つステインの姿が。

 ステインは肌を突き刺すような殺気を放つが、剣崎はむしろそれすらも上回る殺気で跳ね返している。

「40人の同志が世話んなったようだな、その分の落とし前をつけてもらう――が、その前に……」

 剣崎はそう言いつつ、今度はインゲニウムに目を向ける。

「どこかで見たような顔だが……それはどうでもいい。住民の避難誘導、もし負傷者がいるなら応急手当と救急車の手配を頼む。こいつは俺が始末する」

「!? そんな無茶な……相手は〝ヒーロー殺し〟だ、ヒーローでない君では到底――」

「余計なお世話はヒーローの本質……命懸けで助太刀に来た者にそんなことを言う余裕があるのなら、今の自分ができることをやれ」

 剣崎はそう言いながら、ステインと睨み合う。

 瞬きをした瞬間に殺し合いが始まりそうな一触即発の空気が漂う中、ステインは笑った。

しかしそれは、嘲笑ではなく、歓喜の笑みだった。

「その出で立ち……その強さ……その顔………そうか、お前が伝説の………!!」

 ステインは笑みを浮かべたまま、地面を蹴って剣崎に斬りかかった。

 それと同時に、剣崎も刀を構えて動いた。

 

 ガギィン!

 

 二人の刃が交わり、火花が散る。

 そこから先は、一太刀浴びれば命すら危ういほどの鍛えぬいた殺人剣同士の衝突だ。

 互いに連撃を繰り出し、強烈な斬撃がぶつかり合う。

 しかし、互いに斬撃を繰り出す度にステインの腕や肩に切り傷が生じる。傷は浅いが、純粋な斬り合いでは剣崎が勝っている証だ。

「太刀筋は悪くないな。だがその程度じゃ俺には通用しねェ……〝斬乱(さみだれ)〟!!」

 剣崎は刀を構え、無数の斬撃を高速でステインに浴びせた。

 ステインはそれを刀で受け止めるが、剣崎が放った斬撃全てを防ぐ事は出来ず、体中から血を噴出した。

「かっ……!!」

「……んだよ、この程度の奴に今時のヒーローは手こずってんのか? 俺が生きてた頃はてめェ程度はゴロゴロいたぞ?」

 剣崎は膝を突くステインを見つめ、呆れた表情を浮かべる。

「しかし……文字通り血も涙もないこの朽ちた肉体では、やはり体が思うように動いてくれないな。生前(むかし)なら〝斬乱〟一発で倒せたんだが……」

 肉体が朽ちたということは、血や涙だけでなく筋肉すらも朽ちているわけでもある。

 囚われていた16年間の間に戦闘の機会が少なくなったゆえに腕が落ちたことも影響しているが、やはり「死んだ肉体」は思うようには動いてくれないようだ。

「まァ、急所を突けばどうってことねェか……」

 剣崎は大股でゆっくり近づき、止めを刺すべく血が滴る刀を構える。

「ちっ……!」

 ステインは剣崎を近づかせないよう、そばに置いてあった酒瓶を手にしてそれを剣崎目掛けて投げつけた。

 剣崎は無造作に刀を振るい、投げつけられた酒瓶を斬り裂く。

 そして、中身の日本酒が剣崎の肌にかかった瞬間、それは起こった。

「ぐっ……ぐあァァァ!! うっ……ぐぅっ……!!」

 剣崎が突然呻き声を上げて膝を突いた。

 日本酒がかかった部分からは煙のようなモノが立ち昇り、肉を焼くような音も聞こえる。

 すると、信じられない現象が起こった。

 

 ポタッ……ポタポタ……

 

「……!?」

(熱い……!! 何が起こってる……!?)

 何と、剣崎のひび割れた顔から血が流れたのだ。普通の血とは違ってどす黒いが、出血は出血である。

「……これは……」

 神道において、日本酒は「神の気が宿っている」とされており、神饌(しんせん)――日本の神社や神棚に供える供物――には欠かせないものとされている。その強い除霊効果は、封を開けて置くとその場所を自然浄化してくれると言われている程である。

 生ける亡霊と化した剣崎は、この日本酒が攻撃として通じるのだ。

「ぐう……クソッタレ……!!」

 今までにない状態に苦しみ、戸惑う剣崎。それを見たステインは、一気に距離を詰めて剣崎の頬を舐めて血を摂取した。

 しかし、今度はステインが驚くべき現象にあった。

(……!? これは……!?)

 ステインが驚いた理由は……〝個性〟を発動しているにもかかわらず、剣崎がまだ動いていることだ。

 ステインの〝個性〟である「凝血」は、相手の血液を摂取することでその相手の体の自由を最大8分間奪える。剣崎の血液型がB型であるので、それを踏まえると本来なら一番長く動きを封じられるはずだ。

 だが、剣崎はそれを無視して動いているという事は、ステインが剣崎に投げつけた日本酒では効果は完全には伝わらない(・・・・・・・・・・・・)…つまり、「ただの日本酒」では剣崎を怯ませ隙を生ませる程度にしかならないということに他ならない。

 それでも、ステインにとっては重要な情報だ。今の剣崎は不死身だが、特定の弱点を突けば倒せる可能性があるという事が証明されたのだから。

「ハァ………見たところ、日本酒に弱いようだな……意外な弱点があったものだ――」

「っ……!! 自惚れるな!!!」

 憤怒に満ちた顔で起き上がり、ステインを殺意を孕んだ目で睨む剣崎。

 日本酒で濡れた部分が渇きつつあるのか、剣崎のどす黒い血は止まっている。

「弱点が相手に知られた程度で(・・・)正義の味方(ヒーロー)は屈しない……!! 俺の正義は砕けないっ!!!」

 殺気を放ちながら怒声を上げ、ステインを睨む剣崎。

 その言葉に、ステインは更に口角を上げる。

 弱点が知られても、本物のヒーローならば勝てるのだ。敗けたヒーローは贋物だ。

「卑怯だとは言わねェさ、弱点を知らなかった俺もいけねェ……だが、お前が俺の能力(ちから)を奪う術を知ったとしても、この俺を殺せなければ意味は無い!」

 剣崎は刀を構え、斬りかかる。

 ステインもまた、落ちていた刀を拾いあげて斬りかかる。

 振り出しに戻ったが、状況はステインの劣勢……剣刃をぶつける度にステインは息を荒くしていく。

「死ね!」

 ステインは刀を真上に振り上げ、渾身の一太刀を放った。

すると剣崎は刀を逆手に持ち替え、柄頭でステインの刃を受けてそのまま跳ね返した。

 体勢を崩され、無防備になるステイン。その隙に剣崎は納刀し、右足で踏み込むと同時に鞘に納めた刀を前に突き出し柄頭でステインの鳩尾を突いて吹き飛ばした。

 居合道における〝柄当て〟という技だ。

(つ、強い……彼は戦闘の達人なのか……!?)

 見た目は、恐らく15歳くらい。雄英に通う自分の弟とほぼ同い年と思われる。

 しかし少年というにはあまりにも戦闘慣れしすぎている。まるで幼い頃から戦場で生きてきた少年兵のようだ。その上、刀一本であのステインと互角以上に渡り合っている。エンデヴァーのようなプロヒーローの中でもトップクラスの猛者とも張り合えるだろう。

 しかもよく見れば、傷んでいるとはいえ身に着けている衣装は雄英高校の制服ではないか。つまり、少なくとも雄英の関係者であるのだ。だがそんな話は聞いた事も無い。

ますます理解に苦しむインゲニウム。

「……俺の〝柄当て〟食らっても、息をしてるか。思った以上にタフだな…」

 剣崎がそう言うと、ステインが体中から血を流しつつも立ち上がった。

(ハァ……今日はここまでだな……)

 剣崎自身に16年のブランクがあっても、ステインにとっては地力の差があまりにも大きい。剣崎の弱点を把握しきれてない以上、これ以上戦うのは不利だろう。

 しかしそれでも、ステインは喜んでいた。

 贋物(インゲニウム)を庇ったとはいえ、強い信念を持つ本物(おとこ)に……一度は会いたかった少年にようやく出会えたのだから。

「贋物の蔓延る腐った世を生きた甲斐があった……いいだろう、標的をお前一人に変更だ〝ヴィランハンター〟……!!」

「!」

(〝ヴィランハンター〟…!?)

 ステインは刀を鞘に納め、血まみれの顔面で恍惚の表情を浮かべ、剣崎に指を差した。

「近い内に再びお前の前に現れよう……それまで勝負はお預けだ。命拾いしたな、贋物」

 ステインはそう言い残し、逃走した。

(……追撃したいが、今は後回しだな)

 今回の戦いは、剣崎にとっても大きな収穫があった。

 それは、日本酒を浴びると浴びた部分が一時的に生身になるという己の弱点を知った事だ。自分の弱点を知られれば、大抵はピンチである。しかし裏を返せば、相手は弱点を狙うようになるのでそれに対する対策が打てる。

「さてと、帰るとすっか……」

 剣崎はコートを翻し、その場を去ろうとしたが、インゲニウムが待ったをかけた。

「ま、待ちたまえ!! これでは君が狙われるハメに――」

「それでいい、その方が好都合だ。もっとも、欲を言えばこの場で粛清(ころ)したかったがな……それよりも、住民の避難誘導とかはやったろうな?」

「いや、ステインに会う前に(ヴィラン)が暴れていた。すでに住民は避難していたよ」

「成程、後始末中に襲われたって訳か……そのケガは大丈夫か?」

「ああ、何とかね……助かったよ、申し訳ない」

「礼はいらねェさ。人を救けるのがヒーローの本職だ」

 

 しかし、この件を機に社会が大きく動くことになるなど、剣崎自身も知る由も無かった。




剣崎の放った剣技〝斬乱(さみだれ)〟は、「るろうに剣心」の〝飛天御剣流・龍巣閃〟がモデルです。

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