亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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いきなりここで急展開?です。


№35:人知れず迫る危機

 さて……浦村と剣崎の元に入った情報。

 塚内によると、彼はつい先程ステインの信奉者3名を逮捕したらしく、そんな彼らを取り調べたところ、ステインが今後の活動拠点を移す事を全員が自白したのだ。

 警察やプロヒーローにとって、これは大手柄といえるが……。

「ちょっと待て。それは本当に正しい情報なのか?」

「何……?」

 剣崎が待ったをかけた。

「俺も一応、睡から奴の情報を得たが……ステインは保須を拠点にしてるんだろ? その情報が仮に本当だとしても、奴は「偽物の粛清を全部済ませていない」としてしばらく保須に残るはずだ……それに単独犯にとって移動先の拠点がバレるってのは致命的なミスだぞ」

 情報の漏洩は予測不能の危機を呼ぶ。ゆえに、ヒーローだろうと(ヴィラン)だろうと、強豪・大物達はそういった細かいところに敏感である。剣崎自身、(ヴィラン)勢力の拠点奇襲を何度も行ってきたため、こういった手口を見抜くのが得意なのだ。

 つまり、剣崎はステインの信奉者達が自白した情報はガセであると判断したのだ。

「塚内君が得た情報……信奉者が自白した内容はデマだと?」

「〝ヒーローは信じるのが仕事、警察は疑うのが仕事〟……両親からそう習ってきたんで」

「……!」

 剣崎の言葉に、目を見開く浦村。

 そして数秒考えてから、塚内に告げた。

「塚内君、その情報は我々の意識を逸らす為の罠の可能性もある。あまり信用しない方がいい……とりあえず、その情報は私が神奈川県警に伝えるから、君達は保須市周辺をくまなく捜査しなさい」

《! 了解》

「うむ、ご苦労」

 浦村は労いの言葉を伝え、塚内との電話を終える。

「……話はもういいよな」

「……ああ。もういいぞ」

 浦村の許可の言葉を耳にした剣崎は、コートを翻して立ち去ろうとする。

 しかし、その時剣崎が何かを思い出したのか立ち止まった。

「文さん……一つだけ言っておく。平和ってのは常に誰かが犠牲になり続けて成り立つんだ。警察のあんたに言うのもなんだが、「今時のヒーロー」に、その犠牲の役を務められるのか考えてほしい」

「……!」

「それじゃあ、俺は行く」

 剣崎はそう言い残し、部屋から出て行った。

 

 

           *

 

 

 ここは、甲府市のあるビル。

 そこでは、一人の老人が電話をしていた。

 老人の名はグラントリノ……オールマイトの師匠であり、志村菜奈と剣崎優の盟友でもあった男だ。ヒーローとしての知名度は無名だが、その実力は確かなものである。

 そんな彼は、弟子であるオールマイトと電話で話し合っていた。

「確かに奴は世間に敬遠され恐れられる程に(ヴィラン)を斬った。だが私利私欲の為にではなく、全ては己が犠牲の果てにある未来の為。事実、俺も奴に救われた」

《……ええ、彼は自分自身を引き換えに未来を切り開こうとしていますからね。その点では優さん譲りです》

「……あいつは、あいつなりになろうとしてたんだがな……」

 剣崎は、優や菜奈(ヒーロー)になりたかった。無個性でも、自分の力で平和な新時代を築きたかった。

 しかしあの惨劇により、剣崎は豹変した。人一倍優しかった少年は、修羅の道を歩むようになり、常に死と血に染まった衣を纏うようになった。

 彼の母・優と盟友だった縁もあり、グラントリノもまた、剣崎の件には責任を感じている。

「剣崎の件についてだが……いつまでも隠し通すわけにはいかねェぞ。良くも悪くも、社会的に大きな影響を与えたんだ…あの時代を生き残った連中は未だに奴を怨んでる、いつまでも庇い続けるのは奴自身も望まんはずだ」

《はい……》

「それとお前が先日戦った札付礼二の件……あいつは手強いぞ、〝ヒーロー殺し〟を上回る力の持ち主だ。お前の弱体化を察してしまった以上、本格的に奴らも動くだろう」

《シックス・ゼロが……ですか》

「まァ、今はまだ様子見だろう…すぐには仕掛けちゃ来ねェはずだ。それに思想上(ヴィラン)連合と手を組むことはねェだろうしな。だからっつっても気ィ抜くなよ、お前や剣崎とは浅からぬ因縁があるからな」

 悪の一大勢力「無間軍」の首領たるシックス・ゼロは、あのオール・フォー・ワンと同格とされている程の大物。今はまだ大人しいとはいえ、今後の動向には細心の注意を払うべきだろう。

「あとはもういいな……俊典、まずはやるべきことをやれ。どんな継承者か、楽しみにもしてるぞ」

《? ……まさか!?》

 オールマイトの驚愕の声の直後、すぐさま電話を切るグラントリノ。

 異論は認めないようだ……。

「さて……どう動く気だ? 剣崎……」

 

 

 一方、スタジアムの外では――

「例年以上の警備……ですが、何事も起きないようですね」

 剣崎の同志・御船はたこ焼きを頬張りながら呑気に見回る。

 先日(ヴィラン)に襲撃されたばかりだが、危機管理体制が盤石である事を示す為にあえて強行した今回の雄英体育祭。

 当然、例年以上の警備に加え著名的なヒーロー達を警備に参加させる事で更に強化したので、現時点ではこれといった問題はない。ゆえに、警備する側も多少なり息抜きはできた。

「相変わらずたこ焼き美味しいな……それにしても、第一種目の一位が刀真のお気に入りとは」

 御船自身、剣崎からある程度の話は聞いている。

 剣崎は今の雄英の生徒で、特に緑谷出久なる少年を大層可愛がっており時間を見つけては指導しているらしい。

「刀真の指導を受けてれば、予選ぐらい一位通過しても当然か……」

 かくいう御船も、剣崎から剣術を多少なり指導された立場。

 出久に対してはある種のシンパシーを感じているのだ。

「さすがの大物達も紛れ込みはしないか――」

「そうでもないようだが……?」

「っ!?」

 すかさず腰に差した得物の刀を抜こうとする御船。

 しかし得物の柄を握って抜刀しようとした瞬間、まるで金縛りにあったかのように全身が動かなくなる。

「フム……さすがは〝黒の処刑人〟、動くのが速いな。だが……あの小僧よりは遅い」

 御船の動きを止めたのは、大きな刀傷が刻まれた顔面が特徴の中年の男だった。

 雰囲気は至って温和そうであるが、御船は瞬時に理解した。

 この男の正体と、その強さを。

「何をしに来た……!!」

「フフ……そう興奮せずともいい。私は何も騒ぎを起こしにわざわざこんな所に来たわけではない」

(ヴィラン)は信用できない……ましてや「無間軍」の総帥となれば!!」

 何と男の正体は、かつて剣崎とオールマイトに敗れたはずの超大物(ヴィラン)……シックス・ゼロだった。


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