亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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実は剣崎の誕生日を変えました。
今までは誕生日を4月2日(4と2=死に)としましたが、年齢と経歴に矛盾が生じたので1月3日(タロットにおける死神のカード番号が「13」)にしました。
ご了承ください。
小説内に何か剣崎の設定と矛盾が生じている点があったら感想等で知らせてくれると嬉しいです。


№32:雄英体育祭前夜

 さて……ついに雄英体育祭が明日に迫った。

 それぞれが明日に備えて準備する中、出久とお茶子は剣崎との手合わせをグラウンドでしていた。

「ハァ……ハァ……」

「ゼェ……ゼェ……」

「だいぶ付いて来れるようになったな、偉いぞ」

 剣崎は二人の基礎戦闘力を上げるためにそれなりに厳しく扱いたが、ここまで成長が早いのは感心したと同時に想定外でもあった。つまり、出久とお茶子は剣崎と手合わせをし続けることによって潜在能力を開花させつつあるのだ。

 爆豪のような才能の塊や轟のような規格外の〝個性〟を越えるにはまだ遠いが、少なくとも剣崎が指南し続ければ相当の実力者になれるだろう。

(菜奈さん……こいつらは俺と違った強さを持ってるよ)

 剣崎は満足気な笑みを浮かべると、二人に急接近し攻撃を仕掛けた。

 逆袈裟、刺突、唐竹…あらゆる斬撃を放つが、出久とお茶子は辛うじて避けている。

「俺の太刀筋を少しは読めるようになったか。だが……!」

 剣崎は左手で掌底を放ち、お茶子を吹き飛ばそうとした。

 しかしここでお茶子は〝個性〟である「無重力(ゼログラビティ)」を発動させて自身を浮かせて回避した。

(考えたな、そう来たか)

 華麗に着地するお茶子だが……。

「うっ! うええ……」

 突如顔色が悪くなったお茶子は、その場で吐き始めた。

(負担でもかかるのか? その隙を突かれたら致命的だな……)

 一瞬の隙や油断が、実戦では命取りとなる。

 ヒーローと(ヴィラン)の戦いは、常に死と隣り合わせ。少しでも相手に隙を見せたら、それが死につながるのだ。

(いずれにしろ、改善する必要があるな)

 そんなことを考えながら、出久に攻撃をする剣崎。

 そんな中、出久は勝負に出た。

(剣崎さんの太刀筋はデタラメ…勘や先読みで避けるしかない。でも……一つだけ弱点を見つけた!)

 剣崎は大きく踏み込んで刺突を放つ。

 すると出久は剣崎に目掛けてスライディングし、それを避けた。

(剣崎さんの弱点は、刀! 剣崎さんの刀は刃渡りが長め……長ければリーチも伸びるけど、返り(・・)が遅くなる!)

 出久はそのまま剣崎の股をくぐって、背後に回る。

 そして剣崎の背中を狙ってケリを放ったが……。

「甘い!」

 

 ゴッ!

 

「っ!?」

 剣崎は鞘を用いて背後の出久を攻撃。

 見事に出久の腹に直撃した。

「ぅっ……!!」

 鞘による強烈な打撃に、思わず倒れる出久。

 すると剣崎は左手を大きく上げて鉄槌打ちの構えを取り、出久の腹に目掛けて一気に振り下ろした。

 出久は咄嗟に躱し、剣崎から離れた。

 その瞬間!

 

 ドンッ!!

 

 剣崎が左手で地面を思いっきり叩いた瞬間、周囲の地面が数㎝陥没した。

 それを見た出久は、絶句した。

(〝雷轟〟……!! 何て威力だ……!! あんなのを食らったら……!!)

 〝雷轟〟は、少し前に雄英高校を襲撃した(ヴィラン)連合の主犯格――死柄木弔を一撃で戦闘不能にさせた必殺技だ。

 もしあれが自分の腹に直撃したら……。

(今のを避けたか……出久君は成長が早いな)

 出久の成長ぶりに、内心驚く剣崎。

 ここまで動けるようになれば、とりあえず合格(いい)だろう……そう察した剣崎は手合わせの終わりを告げた。

「……ここまで動ければ何とかなるだろう。とりあえずはここで終わりだ、万全の態勢を整える為にも家に帰るこった」

 剣崎は明日に備えるように促す。

 二人は剣崎に一礼し、そのまま帰ろうとしたが……。

「あ、タンマ。出久君、ちょっといいか?」

「はい?」

 出久を呼び止める剣崎。

 不思議に思いながらも、出久は剣崎の元へ駆けつける。

「出久君、君の〝個性〟について俺なりに考えたが……肉体への負担が尋常じゃないぞ。少なくともパンチ主体の戦法は変えるべきだ、下手すれば高校時代で二度と戦闘で腕が使えなくなるぞ」

「っ!!」

 剣崎曰く、全身に〝個性〟をかけて身体能力を継続的に強化するのが理想的だという。剣崎自身は出久の〝個性〟は「シンプルな増強型」であると考えており、応用を利かせれば十分可能であるという。

「もっとも、俺が言うのも何だがな……明日頑張れよ、何事も為せば成るもんだ」

「……はい!」

 出久は剣崎に一礼して、帰途に着いていった。

 それと共に剣崎はコートを翻し、刀をステッキのように突きながらグラウンドを離れていった。

 だがその時、突如オールマイトが剣崎の前に立ちはだかった。

「剣崎少年、少しいいかな?」

「……?」

 

 

           *

 

 

 校舎の裏で、二人は話し合っていた。

「それで……生ミイラ面で何の用だよ」

「出久君の〝個性〟について知ってほしくてね……」

 オールマイトは、出久の〝個性〟について語り始めた。

 彼の〝個性〟は「ワン・フォー・オール」という、オールマイトと志村菜奈も有していた超強力な能力であること。「ワン・フォー・オール」は任意の相手に譲渡することで力を育てていくということ。その力の継承は、次代の継承者が何らかの形で遺伝子を取り込むということ。

 そう……オールマイトは「ワン・フォー・オール」にまつわる話を、剣崎に明かしたのだ。

「菜奈さんと同じ〝個性〟か……」

「いや、そこは「オールマイト(わたし)と同じ〝個性〟」って言ってほしいのだが――」

「俺はあんたよりも菜奈さんに憧れてたんでな」

 剣崎は口角を上げてオールマイトを見据える。

「そういやあ、菜奈さんは元気なのか?」

「っ!!」

 剣崎の一言に、オールマイトは凍りついた。

 実は剣崎は、彼女が既に亡くなっているという事実を知らないのだ。

「……あの人には迷惑をかけたからな…ちゃんと面と向かって謝りてェんだよ…今はどこにいるんだ?」

 剣崎は菜奈を尊敬し、憧れていた。

 だからこそ、剣崎は彼女に謝りたかったのだ。菜奈の為とはいえ、彼女が差し伸べた手を払ってしまったことを。

「……」

 押し黙り俯くオールマイトに、剣崎は不審に思う。

 何か言わねばマズイ……そう判断したオールマイトは、咄嗟に思い付いたウソ(・・)を言った。

「お、お師匠はもうヒーローを辞めている…〝個性〟を完全に譲渡してしまったからね」

「……そっか……まあ16年経っちまったからな。現役引退も当然と言えば当然か……今どこに住んでんだ?」

「そ、それは私でも言えんよ!! 「ワン・フォー・オール(このちから)」の正体については私自身の衰えよりも重い秘密なんだぞ、それを知っているお師匠の身元がバレたら……!!」

「……成程……下手に周囲に情報が洩れたら狙われる恐れがあり、顔見知りであっても言えないってことか。それは残念だ……じゃあ菜奈さんによろしく言っておいてほしい。「あなたの意志は俺が守る」ってな」

 どこか上機嫌な剣崎は、そのまま校舎の方へ向かって戻っていった。

「……お師匠……」

 オールマイトは、真実を言えなかった。

 彼女が5年前に亡くなっていることを。ましてや彼が憎み続けてきた(ヴィラン)の頂点ともいえるオール・フォー・ワンに殺されたなどと言える訳がない。

 オールマイトは、剣崎が菜奈に対してどんな想いを抱いていたのかを理解している。だからこそ言えなかったのだ。

 真実を語れば、その先の展開こそ剣崎次第だが……下手をすれば剣崎は怒りと憎しみに支配された心に何とか残っている「生来の〝人間性〟」を完全に失ってしまい、(ヴィラン)だけでなく菜奈を救えなかった全ての存在を破壊しようとするかもしれないのだ。

(彼の怒りと憎しみが、(ヴィラン)どころかヒーロー(われわれ)にまで向けられたら……その時は……私が彼を倒すのか? 一人の若者をまた(・・)死に追いやり、同じ悲劇を繰り返せというのか……!?)

 

 16年――言葉にすればたった三文字だが、それはあまりにも残酷なものであった。


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