亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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そろそろステインと戦えるかな?
来月末までにはステインとの戦いを投稿しますので、よろしくお願いいたします。


№31:ステイン=出張れば済む話

「はあ、やっと終わったぜ……」

 顔や手に絆創膏を張った火永は、廊下を歩いていた。

 授業中の手合わせで、生徒達が腹を括ってチームワークで勝負してきた為、さすがの火永も無傷では済まなかったようだ。それでも絆創膏を張る程度の傷で圧倒したのはさすがと言えるが。

「少し本気出しちまったな…あいつら大丈夫だよな……?」

 火永と今のA組生徒では、力の差は雲泥の差。チームワークで攻めても、それすら上回る力で捻じ伏せたのだ。

「まァ、この程度でくたばりゃしねェだろうからいいか……」

そう呟きながら、職員室の戸を開ける。

「刀真、待たせたな」

「……ああ」

「……何だよ、随分と重々しいな……」

 火永の視線の先には、剣崎達がいる。

 しかし腕を組んでいる剣崎を除いて、ミッドナイト達は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべている。

「…素直に喜んでいる時間がねェってこった」

「は?」

「火永……旦蔵さんが、やられた」

「な……加藤のおっちゃんが!? やられたって、襲撃か!?」

 御船のその言葉に、目を見開き冷や汗を流す火永。

 加藤は剣崎が生前の頃からの付き合いで、火永達のフォローもしていた警察の中でも屈指の実力者。そんな彼が(ヴィラン)の手によって倒れたため、動揺したのだ。

「あの旦那がやられるなんざ……誰にやられたんだ!?」

「〝ヒーロー殺し〟との戦闘で重傷を負ったの……今は入院中らしいわ……」

「マジか…ステインの野郎、はしゃいでくれるじゃねェか……」

 頭を抱える火永。

 そんな中、剣崎は口を開いた。

「……襲撃場所はわかってんだよな、睡」

「ええ…保須市って情報がきてるわ」

「なら話が早ェな……警察の上層部に「暫くの間、ヒーローを一人たりとも動かすな」って伝えろ」

「えっ……!?」

「なっ……」

 剣崎の言葉に絶句するミッドナイト達。

 ステインを見逃せとでも言っているかのような発言に、熱美はあること(・・・・)を想像して顔を引きつらせた。

「刀真……まさか……」

「俺が出張れば済む話だろ、辻斬り野郎の一件は」

(やっぱりだー!!)

 予想通り、剣崎が暴れたがっていた。

「辻斬り野郎の情報は睡から聞いている。相手の血液を摂取すると、その相手の体の自由を奪えるらしいじゃねェか。血も涙も枯れた状態の肉体である俺なら、相性上は何の問題も無い……奴と一対一(サシ)で十分だ」

 剣崎は生きた亡霊である。

 その肉体は攻撃を受けても一滴も血は流れず、さらに過度の衝撃や攻撃で肉体が欠損しても再生する。相手の血液を摂取しなければ効果が発動しないステインにとっては天敵ともいえるのだ。

「お前らも十分承知の上だろう。たかだか(ヴィラン)のクズ一人とて、下手に警備を薄くすれば思わぬ数の命を失うことになる」

 剣崎は、獰猛な笑みを浮かべてミッドナイト達に告げた。

今は(・・)特にいけねェ……お前ら、その辻斬り野郎が雄英の都合を考えて暴れてくれる(・・・・・・・・・・・・・・・)と思ってんのか?」

「「「「っ!!!」」」」

 

 

 同時刻、オールマイトはある大物(ヴィラン)と戦闘を繰り広げていた。

「ムゥ……やはり手強いな……!!」

 左腕から血を流しながらも、決して笑みを崩さない。

 手負いの彼の前には、頭から血を流しつつも刀を構える着流し姿の隻眼の(ヴィラン)が。

 実はオールマイトと戦っている(ヴィラン)は、かつて剣崎と戦った歴戦の強豪(ヴィラン)――札付礼二だった。オール・フォー・ワンやシックス・ゼロ程ではないが、その実力は凄まじく多くのヒーローが彼の凶刃に倒れている。

 現にオールマイトも、彼の一太刀を受けて苦戦している。

「くっ……! さすがに一対一(サシ)はキツイな……剣崎との斬り合いを思い出す…」

「しかし……何故姿を現した!? 貴様の組織は滅んだはず……!!」

「一度は滅びこそしたが、また新たな力を集めてお前らと決戦を挑むつもりだよ」

(やはり……あの男は生きていたのか!)

 礼二の言葉の意味を知り、歯を食いしばるオールマイト。

 かつては剣崎や自分、そして師である志村菜奈によって滅んだ組織が人知れず復活していたのだ。

「オールマイト……隠しても無駄だぜ?」

「!? 何のことだ……!?」

「剣崎だよ。俺達「無間軍」の復活を知っちまったら、あいつが止まるか? 志村菜奈の亡き今、あの死神の暴走を止められる人間はどこにもいない」

 礼二の言葉に、絶句するオールマイト。

 何と剣崎の復活を、いつの間にか知っていたようだ。

「俺達だって情弱じゃねェ……死柄木のガキが率いる組織があいつ一人の手でほぼ全滅したって事はすでに知られている。しっかし…つくづく剣崎はすげェと思うぜ。あれから16年経った今も、トラウマになってる連中がまだいるからな」

「……!」

「さてと、そろそろ頃合いだな……オールマイト。暫くの間は俺達は大人しくしといてやるよ……良い収穫もあったしな」

「何だと……?」

「ああ……〝平和の象徴〟の時代の終焉が始まっているってことと、〝ヴィランハンター〟の時代が近づいてるってことがな」

 礼二はそう言うと一枚の札を取り出し、咥えていた煙草で火をつけた。

 すると次の瞬間、札は爆発して凄まじい量の煙を発生させた。

「……逃げたか……!」

 出血している傷口を押さえて呟くオールマイト。

 その時、ようやく警察が到着して塚内らが駆けつけた。

「オールマイト!!」

「塚内君……」

「どうやら……「無間軍」が復活したようだね」

「そのようだ……早く手を打たねば、私達だけでは対処しきれない……!! やはり剣崎少年を動かすしか……」

 オールマイトは、自らの力の弱体化を隠し続けてきた。しかし出久に「ワン・フォー・オール」の力を譲って以来、弱体化が著しく進んでいる。彼の中に残った「ワン・フォー・オール」の残り火は少しずつ小さくなり、近い将来に潰えてしまうだろう。

 それは「〝平和の象徴〟の死」を意味し、剣崎が活動していた頃のような激動の時代が再び到来することに他ならない。「16年前(あのころ)(ヴィラン)」に対抗するには、あれらと互角に渡り合った実力者が必要なのだ。

 オールマイトの脳裏には、そんな大役を任せられるのはエンデヴァーや剣崎ぐらいしかなかった。

「……彼のことを公表してもいいのかい?」

 塚内は、剣崎の件を公表することに対し心配している。

かつて(ヴィラン)に恐れられた男が復活したと公表すれば、色んな所で波及する。世間的だけでなく、法的にも社会的にも大きな影響を与えるだろう。それは良い方向に行くか悪い方向に行くかは誰もわからない。

「塚内君……時代というものはいつか終わるものだ。〝平和の象徴〟も、いつまでもあるわけじゃない」

「オールマイト……」

 オールマイトは、自嘲気味に笑った。

 塚内はそんな彼を、ただ見つめるのだった。


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