亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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深夜投稿です。
感想・評価お願いします。
あともうちょっとで原作ルートに行くと思います。


№16:熱導冷子

 さて、ミッドナイトに引っ張られた剣崎は職員室にいた。

「んで、俺をこんな所へわざわざ連れ込んだ理由は?」

「この書類を見て頂戴。」

 ミッドナイトの机の傍に座らせられた剣崎は、彼女から書類を受け取った。

熱導冷子(ねつどうれいこ)って、憶えてるでしょ?」

「……あの女か」

 熱導冷子は〝ヒートアイス〟の異名を持つ女性の(ヴィラン)で、ヒーローを何人も亡き者にしてきた超極悪強豪(ヴィラン)でもある。その脅威的な実力に加えて凶悪かつ残忍な性格から(ヴィラン)達にすら恐れられている。

 剣崎が16年前に一度死んで以来は大人しくなったらしく、一時は死亡説も流れたのだが…ここ最近彼女の仕業と思われる事件が起こったという。

「……つい先程、彼女の犯行と思われる事件が起きたの。幸い死者はいなかったけど」

「ハァ……やっぱあの時、俺が追撃して殺しておけば良かったんじゃねェか。こうなる未来は予測出来たろうが」

 かつて剣崎は、熱導と剣を交えたことがある。

 その時は剣崎が多少なり疲弊していたこともあって止むを得ずミッドナイトの説得に応じ、プロヒーロー達に後を任せ追撃を断念したのだ。しかしプロヒーロー達は取り逃したようだ。

「でも、もしあの時刀真が死んだら!!」

「死んだらその程度の男ってこった。それに……俺はもう後戻りしねェし出来もしねェって事ぐらい、いい加減わかってるだろ」

 剣崎の言葉に、押し黙るミッドナイト。

 彼はすでに決めているのだ。自らの手でこの世から全ての(ヴィラン)を滅ぼす事が人生の全てであり、最優先事項であると。大切なパートナーの手を振り払ってでも、彼は戦うのだ。

 例え、我が身を滅ぼしても。

「まァ、あの女が何を企んでるかはどうでもいい……俺が始末すればいい話だ。問題なのはあの女を丸め込もうと思ってる奴がいるかどうかだ」

「え?」

「そう簡単に性根を捻じ曲げるたァ到底思えねェが…利害が一致して同盟を組むようになったら面倒だ」

 剣崎が警戒しているのは、誰かに屈するような人格とは思えない熱導が他勢力と手を結ぶことだ。

 ぶっちゃけた話、剣崎は16年前の人間だ。情勢自体は16年前(むかし)とは全く異なってるのはわかっているが、具体的にどうなっているかはわからないのだ。それに16年も時が経てば、考えや性格も変わることだってあり得る。

「ん? いや、むしろ徒党を組んでくれた方が一度にまとめて潰せるか……!?」

 ニヤニヤし始める剣崎に、ミッドナイトは呆れる。

「相変わらず物騒ね…まァ、それが刀真らしいけど」

「やかましい」

 そう言った剣崎は立ち上がり、コートと癖毛を揺らしながら職員室から立ち去ろうとする。

「刀真、どこに行くの?」

「散歩だよ……どうせ悪者退治に行かせたくねェんだろ?」

 どこか不満げに言いながら、剣崎は職員室を後にした。

 

 

           *

 

 

 マンモス校である雄英高校の敷地内は、かなり広い。

 演習場や巨大ドームといった施設を設備してる分、移動も大変だ。

 剣崎は在学当時から敷地内を歩いて気分転換をしたりしていたので、16年も殺風景の中に閉じ込められていた分、新鮮味もあった。

「……すげェ狩りてェ」

 ベンチに座り、青空を仰ぐ剣崎は呟く。

 剣崎としては一刻も早く前線に立って16年前の続きをしたい所だが、それをオールマイト達が許すとは思い難い。立場があるからだ。

 今の自分は、正直(ヴィラン)顔負けの容姿。マスゴミ…ではなくマスコミが「(ヴィラン)を利用している」としてあらぬ誤解を招くわけにいかないだろう。とは言っても、こうしている間にも(ヴィラン)に苦しめられてる人々がいる。

 こっそり抜け出して狩りに行くのもいいが、せっかく再会できた相棒(ミッドナイト)に迷惑が掛かる。

 思わず溜め息を吐く。

 すると…。

「あ、剣崎さん!!」

「! 出久君か」

 授業を終えたばかりの出久が、剣崎の前に現れた。

 どうやら休憩中のようだ。

「隣、良いですか…?」

「おう」

 剣崎の隣に座る出久。

 緑の癖毛同士の男二人…しかも片方は生ける亡霊。第三者から見ればシュールを通り越して異様である。

「あの……剣崎さん」

「ん?」

「やっぱり、強いですね……かっちゃん達を圧倒するなんて」

 先程の演習で剣崎の実力を垣間見た出久。

 爆豪は出久が知る限り、同世代では驚異的な能力を有する才能の塊…天才の中でもトップクラスの存在だった。

 しかし剣崎は、そんな彼をいとも容易く退けたのだ。それこそ赤子のように。

「あれくらい造作もねェよ……俺が本気で潰しに掛かればあの3人は40秒もあれば全滅させることはできた」

「アハハ……随分と手厳しい……」

「そんなもんだ……お前らは実際の戦闘を知らないんだろ? 未知の相手…自分の知らぬ個性を持つであろう(ヴィラン)を前に立ち向かうという事を。死と隣り合わせになるってのがどういうことかを」

 剣崎の言葉に、押し黙る出久。

 剣崎は多くの(ヴィラン)と戦い、何度も傷だらけになり何度も血塗れになった。そして何度も自分の振るう刀で命を落とした愚かな(ヴィラン)達の屍を踏み越えた。

 本来は無縁である筈の「死」がいつもすぐそばにあり、力を振るう度に何の兆候(しらせ)もなく突然やってくる。その感覚を知らない彼らなど、剣崎から見れば未熟そのものだ。

「正直言うと俺は、今の雄英に危機感も覚えてる。この学校の生徒連中は、(ヴィラン)との戦いを知らねェだろう……(ヴィラン)がどれだけ腐った連中か、どれだけ救いようがない連中かすらもな」

「剣崎さん…」

「……いいか出久君、世の中には死ななきゃ治らねェバカって奴もいるんだ。俺はそういうの(・・・・・)をごまんと見てきた。だから同じ心臓一つの人間だからって情に流されるな……(ヴィラン)は人の情けすら蔑ろにする」

 剣崎は出久を見据えて忠告する。

 それは、幾度となく(ヴィラン)と衝突したからこそわかる「悪の本質」。

 (ヴィラン)という害悪と常に戦った剣崎にとって、彼らに対し情けをかけることは自殺行為に等しいのだ。

「……肝に銘じておきます……」

 剣崎の気迫に押された出久は、そう答えざるを得なかった。

 しかし剣崎は、子供のように無邪気な笑みを浮かべた。

「……まァ、俺の価値観を押し付ける気はねェさ。てめェで掲げた正義を死ぬまで貫いてヒーローはナンボだ」

 剣崎はそう言い、立ち上がる。

(早く俺のいるステージに上がって来い、緑谷出久君)

 幼き日のヴィランハンター(じぶん)と影を重ねた若き力に、剣崎は微笑んだ。


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