亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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すいません、大分遅れました。
やっと更新ですね。
今回からオリキャラ登場です。肘神さまさんとyonkou さんの案を採用しました。


閑話その2:蘇る因縁

 全ては、16年前のあの日の出会いだった。

 歴戦の(ヴィラン)ですら本能的に怯むであろう強烈な殺気、思わず身震いする程の凄まじい怒りを宿した目、生者でありながら死神のような無慈悲さ……全身から憎悪が立ち昇っているような男が、刀一本で蹂躙し同志達を次々と葬っているその姿に、私は思わず見惚れた。

 私はヒーロー共を何人も亡き者にしてきたが、目の前の男は私以上に殺している。だが、あれほど血を浴びているというのに私と同じ臭い(・・・・・・)がしない。それが余計私を惚れさせた。

「残すはお前だけだな…女とはいえ、(ヴィラン)である以上は死に値する」

 怒気を孕んだ冷たい一言。

「……見事だ……! その絶対的な力、揺るがぬ信念……お前はヒーローにはもったいない逸材だ…!!」

 この男は、〝無個性〟でありながら私と違った力を得て私と同等の強さを得ている。歓喜して称賛しないわけにはいかない。

 それに……この男を敵に回すというより、この男を手に入れたい。この男はいずれあのオールマイトやエンデヴァーに届く強さを秘めているのだ、この男がいれば私の野望を叶えてくれるだろう。

 この男は、私の所有物(モノ)にせねば。

「お前の物語はここで終わる……大人しく殺されるのなら、一思いに心臓を突いてやる」

 男は私に刀を向ける。

 ふと、ここで思った。私はこの男を知らないではないかと。彼を私の所有物にするのは確定だが、そう易々と私にその魂を売るとは思えない。

 ならば、この男の名を聞きださねば。いくら無慈悲でも所詮は人の子……言葉巧みに持っていけば、その名を聞き出せるのかもしれない。

「……私を殺すのならば、せめて名を名乗れ。それから殺すのもいいのではないか?」

「――仲間を呼ぶための時間稼ぎのつもりか? バカが……ヒーローたる者、悪者に慈悲など無用。俺がお前を殺すと決めた以上、お前の死は絶対だ。そしてお前の望みを叶える義理も無い」

「確かにな……だがお前も知っての通り、世の中には〝冥土の土産〟という言葉があるだろう? 私はヒーローに殺される事を甘んじて受け入れる……だが、何の手土産もなく地獄へ行くのは納得できん」

 思いの外強情だった。

 私は心のどこかで自分の言葉を理解してくれるよう祈った。

「……剣崎刀真。それが俺の名だ」

「剣崎刀真……憶えたぞ。この熱導冷子(ねつどうれいこ)、必ずやお前を手に入れて見せる!!」

「図に乗るな、(ヴィラン)風情がっ!!!」

 私はレイピアで、剣崎は刀で斬りかかる。

 

 ガギィィン!!

 

 互いの刃が、火花を散らして激突した。

 それから放たれる、斬撃のぶつかり合い。しかし互角であり、私は一度離れて体勢を立て直す。

 だが、剣崎は一瞬と間を置かずに懐に突っ込んだ。

(速い!!)

 剣崎の平刺突を避ける。

 その直後放たれる横薙ぎや唐竹割りも躱し、私はレイピアでの鋭い刺突を連撃で繰り出す。

 しかし、やはりこの男は強かった。剣崎はそれに反応出来ており、全ての攻撃を受け流している。

「いいぞ、もっと楽しませろ!!」

 やはりこの男は、強い。

 今まで私が殺してきたヒーローよりも遥かに強く、そして〝イイ目〟をしている。殺し合いはこうでなくては!!

 私は遠慮は無用と判断し、個性を用いた。

 私の〝個性〟は「温度」……自分や周りのものの温度を支配する力だ。剣崎は殺し甲斐のある男だが、私の所有物(モノ)にするのだから殺すわけにもいかない。寒さで動きを鈍らせ、急所を外して無力化する…それが一番と思い、行動に移した。

「これでどうだ!!」

 私は〝個性〟を用いて周囲の気温を一気に低下させた。

 使い手である私には無効だが、剣崎には効果的だろう。ましてや〝無個性〟は常人と同じだ、戦い辛くなるだろう。

「行くぞ!!」

 私は突きの連撃を放つ。

 剣崎は平然と私の攻撃を受け流し、反撃に機会を窺っている。だが、そうはいかない。

「はっ!!」

 

 ドスッ……!

 

「っ!」

 私のレイピアが、剣崎の右肩を貫く。

 周囲の気温を氷点下以下にしたのだ。個性の影響による温度の急低下で皮膚が緊張して硬くなり、筋肉が動きづらくなるに決まっている。動きが鈍くなる分、私も攻撃を当てやすい。

 剣崎は刀を落とした。勝負ありだな。

「安心しろ、お前は私の所有物になるのだ…命までは取らん」

 私は満面の笑みで剣崎を見据える。

 だが、その直後黒く長いモノが私の腹を突いていた。

「ガハッ……!?」

 突如全身に走る激痛。

 私は倒れ、レイピアを落とし、血を吐いた。この男、一体何を…!?

「鞘も立派な武器だ。俺が刀だけで(・・・・)戦うと思っていたようだが、それは間違いだ。一人でも多くの(ヴィラン)を討ち取らんと様々な戦法を用いる俺を知らないお前の無知が、我が身の破滅を招いたというわけだ」

 剣崎はゆっくりと私に近づき、地面に落ちていた刀を拾う。

 そしてコートから短刀を取り出し、私の腕を貫いて押さえつけた。

「ぁっ……!!」

(ヴィラン)は存在自体が罪……地獄で悟れ」

 鬼か悪魔の如く憎悪に狂った顔の剣崎を前に、私は死を覚悟した。

 その時だった。

「冷子様を放せ、怪物!!」

「!?」

 

 ドゴッ!!

 

 何者かの拳が剣崎の顔を捉え、殴り飛ばした。

 アレは…私の部下の執刀壊(しっとうかい)……!?

「か、壊……!?」

「大丈夫ですか……!?」

「ああ……腕を貫かれて内臓がちょっとヤバイくらいだ……」

 私は壊に助けられた。短刀を抜かれ、応急手当を受ける。

 だが、剣崎はあの一撃で倒れるような軟な輩ではなかった。

「ちっ、連れか……お前もわざわざ殺されに来たとは、俺もずいぶん人気者になったな」

 壊の不意打ちを食らっているのに平然と立ち、刀の切っ先を私達に向ける剣崎。

 タフな奴め、あれほど戦って手負いの身でまだ……。

「刀真!!」

「睡か、ちょうどいいところに来た」

 剣崎の方も助太刀が来たようだ。

 くっ……さすがに分が悪いか……!

「……剣崎、勝負はまた今度だ。次は必ず一対一で決着を付ける」

「逃がすか!!」

「待ちなさい、刀真!!」

 剣崎の味方であろう女も、制止した。

 「あなたもかなりの傷よ!! それにさっきまで一度も休まず戦ってたのよ!? これ以上戦えば、さすがに身体が持たないわ!!」

 なっ……剣崎は私と戦うまで一度も休んでないのか!?

 もし万全の体制だったら私をも殺せたというのか……。

「プロヒーロー達も丁度駆けつけてきているわ、あとはオールマイト達に任せましょう」

「……ちっ…」

 剣崎は不満そうに舌打ちしながら納刀する。

「……今回は私達も引くわ……だけど、次に会ったら私も刀真と共にあなた達を倒す。覚悟しなさい〝ヒートアイス〟」

「…いいだろう、剣崎を私の所有物にできるのが遅くなるだけだ。勢いで倒せるような弱輩ではないという事がよくわかったからな」

 それが、私と剣崎の最初で最後の戦いだった。

 

 

           *

 

 

 あの日以来、私は剣崎と再会していない。もう死んだのだ。

 奴はどうしても手に入れたかったのに、自分から離れていった。

 なぜだ、なぜ私から離れた。なぜ先に逝ったのだ。肉片一つ残さず何故逝ったのだ、剣崎。

「……」

 あれから早16年。私は34を過ぎ、プロヒーローを何人も亡き者にしてきた超極悪強豪(ヴィラン)として裏社会に君臨しているが、どうにも娑婆で暴れる気がしない。剣崎がいないからだ。

 奴との戦いに備え、私は修行をして対剣崎用必殺技を習得した。しかし、もうそれを生かす機会は無い。死者は戻ってこないのだ。

 オール・フォー・ワンから何度も(ヴィラン)連合という名の組織の勧誘があったが、全て蹴ってきた。私は剣崎と再び戦い、血を流し殺し合い、屈服させたいのだ。

「16年も過ぎた……そろそろ足を洗うか……」

 その時だった。

「冷子様!! 大変です、ここ最近(ヴィラン)が次々と殺される例の事件についてですが…!!」

「……私は感傷に浸っているのだ、邪魔をしないでくれないか」

「ですが、これを……!!」

 壊が見せつけたのは、写真だった。

 しかし夜に撮ったのか、全体的に暗い。

「この人物です、一連の殺人事件の首謀者が……!!」

「!? こ、これは……!!」

 私は心の底から驚いた。

 その写真に写る幽鬼の如く不気味な出で立ちの男に見覚えがあったのだ。

 ボロボロのコートを羽織り、制服を身にまとって日本刀を杖のように持っている謎の輩。

 その人物は、私にはわかった。

「け、剣崎……!?」

 そう、あの剣崎が生きていたのだ。

 私が一生を懸けて手に入れたかった、真の強者。

「壊、今すぐにでもこの写真に写る輩の情報を……剣崎の情報を集めよ!!」

「承知しました!」

 私は、16年ぶりに心の底から歓喜した。

 もう二度と巡ってこないであろう戦いの機会が、まだ残っていた事に。

 今度こそ、今度こそ奴を奪い取り自分の所有物にする。どんな手段を使ってでも剣崎を手に入れてやる!!

「待っていろ剣崎……今度こそお前を手に入れてみせる!!」

 私はいずれ来るであろう再会の時を想像し、笑みを零した。


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