ついに始まった人質奪還後訓練。
爆豪ら
「なァ爆豪、相手はどう来ると思うよ?」
「あのゾンビ野郎は壁をすり抜ける……デクはゾンビ野郎を利用して俺達の妨害をするだろうな」
「利用するって……」
ぶっちゃけた話、剣崎は未知の存在だ。
〝個性〟は勿論、戦闘力や身体能力も把握できてない。しかし、少なくとも
「あの先輩に構ってる暇はねェ、早く見つけようぜ!」
「おう!」
切島と上鳴がそう意気込んだ時だった。
突如剣崎がビルの壁をすり抜けて上鳴の前に現れたのだ。
「ぎゃあああああ!!!」
思わず悲鳴を上げる上鳴。
しかし剣崎は――さすがに納刀状態であるが――問答無用で刀を振るった。
「危ねっ!!」
切島は〝個性〟である「硬化」を用いて両腕を硬化させて、上鳴の前に立ち剣崎の一撃を防ぐ。
ガォン!!
衝撃が切島を襲う。
剣崎の一撃は、重圧と例えるに相応しい程の重さだった。74人ものヴィランを葬ってきた伝説の男の、刃の無い一太刀。抜き身でないのに、切島は斬られる恐怖を感じた。
(ふざけやがって……刃物も圧し折る硬度があるってのに、全身をズタズタに斬られる気分じゃねェか!! これが〝ヴィランハンター〟か…!!)
歯を食いしばって耐える切島。
それを見た剣崎は、笑みを浮かべた。
「俺の一撃を真っ向から受け止めるか。ちょっと本気で行ったんだがな……中々できるじゃねェか」
「爆豪っ!!」
切島が叫ぶと、爆豪が剣崎を思いっきり蹴飛ばす。
しかし剣崎は空中で体勢を立て直し、そのまま着地する。
「良い一撃だ、不意打ちも中々良かった」
「嘘つきやがって……!!」
どこからどう見てもノーダメージな剣崎の様子に、苛立つ爆豪。
化け物レベルの運動神経の持ち主であり「爆破」という強力な〝個性〟を有している彼は、とてつもなく自尊心が強い。剣崎の評価は、爆豪にとっては侮辱されているように思えるのだ。
「俺を越えねば君達の負けは確定……どう出る?」
「てめェをぶっ殺すに決まってんだろ!!!」
爆豪は剣崎と真っ向勝負に出て、殴りにかかる。
しかし剣崎は、それを躱して切島と上鳴の懐に潜り込んで刀を振るい、脇腹を殴った。納刀状態であるため斬られることはないが、打撃による衝撃は強烈であり一発で二人は倒れた。
(速い……!!)
「次はお前だ」
「っ……死ねやゾンビ野郎!!!」
爆豪の右ストレートを、剣崎は納刀状態の愛刀で弾く。すかさず爆豪は蹴りを繰り出し脇腹を狙うが、剣崎に左腕で受け止められてしまい納刀状態の刀で殴り飛ばされる。
爆豪の攻撃はどれも強力だが、剣崎に読まれているかのように受け止められ弾かれてしまう。
そんな様子をモニターで見ていた生徒達は、驚きを隠せないでいた。
「爆豪の攻撃を全部捌いていやがる……!」
「相当な手練れね」
「どうやって見抜いてんだ!?」
そんな中、八百万が口を開いた。
「……視線ですわ」
『視線?』
八百万曰く、剣崎が爆豪の攻撃を見抜いてるのは爆豪の自分に対する視線だという。
爆豪が自分の体のどの部分を見て攻撃しているのか…その一瞬向ける視線を探って攻撃の出所を予測して戦っているという訳だ。
「身体能力、経験値、基礎戦闘力……戦闘における総合能力は爆豪さんの遥か上ってことですわ」
「……あの二人が瞬殺である点も含めれば、爆豪君でも足止めになるかわからない程のレベルって訳なの?」
梅雨の質問に、無言で頷く八百万。
それに続き、轟も口を開く。
「それにあの様子だと明らかに手を抜いている……爆豪達の技量を量る為だろうが、正攻法で勝てるような相手じゃねェのは明白だな」
『……!!』
剣崎の力は、底が知れない。
手を抜いた状態で爆豪らを圧倒している彼にどう勝とうというのか。
一方の出久達は、
「よし、行こう!」
「うんっ!」
「……オイラの出番が……」
剣崎と別行動している出久達。
かれこれ3分経過しているが、未だに
「おい緑谷、建物の中にわざわざ入る理由はあるのか?」
峰田のそんな質問に、緑谷は答えた。
「剣崎さんはルール上、〝人質役を無事に奪還する〟のが
屋内での大規模な攻撃は、建物の倒壊を招き人質も仲間も無差別に巻き込んでしまう。
剣崎はそれを利用し、
「剣崎さんは〝個性〟を持つ
「「……!!」」
*
そして、爆豪達は……。
「ハァ……ハァ……」
「随分息が荒いな。大丈夫か?」
余裕な笑みを浮かべる剣崎を前に、膝を突く爆豪。
地力の差で追い込まれた
「どうする? そろそろ俺を突破しないと時間切れになって負けるぞ?」
爆豪は周囲を見渡す。
切島と上鳴は剣崎の一撃で倒れたまま…頼れる仲間は戦闘不能状態だ。復活まではもう少し時間がかかりそうだ。現時点では
(だったら…これでどうだゾンビ野郎!)
爆豪は手榴弾をモチーフにした籠手のピンを外し、爆発を起こした。
(煙幕の代わりか、考えるじゃねェか)
爆風と共に視界が狭まる。
煙が漂い、剣崎は視覚を封じられる。その隙に爆豪は切島と上鳴の元へ向かう。
「おいクソ髪、アホ面!! とっとと起きろ!!」
「っ……悪ィ、ちょっと痛くて立てなかったわ……」
「〝個性〟を使う前にやられたなんてな……」
ようやく切島と上鳴は立ち上がり、爆豪と移動を始める。
だが、剣崎はこの程度では終わらなかった。
「見つけたぞ!」
「わあああああ!! 来たァ!!!」
三人の前に再び現れる剣崎。
しかし爆豪は笑みを浮かべ、籠手を剣崎の顔面に向けた。
「死なねェからいいよなァ!?」
「っ!!」
爆豪は至近距離でピンを外し、剣崎を文字通り爆破した。
剣崎は爆炎を纏ったまま吹き飛び、頭から地面に落ちた。
「っしゃあ、今の内だ!!」
「「いやいやいやいや!!」」
笑みを浮かべてヒーローチームの追跡を始める爆豪と、ドン引きする切島と上鳴。
「おいおいおい!! 今のアリかよ!?」
「エグ過ぎるぞ!!」
「うるせェ、とっととデクを潰すぞ!!」
「爆豪、それ目的違うぞ!!」
何とか体勢を立て直した
しかしこの時、三人は気づくべきだった。剣崎を抑える必要があったことを。
「ったく、やってくれるな……」
むくりと起き上がる剣崎。
その姿は先程よりも遥かに悍ましかった。左半分の頭部は爆発の影響で吹き飛んでおり、足や腕は未だに炎に包まれているが、肉体の修復が始まっているのかパキパキと音を立てながらゆっくりと顔が元通りになっていく。
「まァ、初めてにしては上出来だ。ちったァ本気で行くか……!」
満足げな笑みを浮かべ、剣崎は立ち上がる。
その笑みは、死神が獲物に対して見せる恐怖すら感じる微笑みのようであった。