亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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ついに迫った第48回衆議院議員総選挙。
皆さん、選挙に行きましょう。


№12:質問攻め

 翌日、1-Aにて――

「そういう訳で、俺ァ雄英(ここ)の人間になった。以後よろしく」

 傷でズタズタになった顔で大きな欠伸をしつつ、剣崎はそう告げる。

 剣崎は昨日以降雄英高校に属して奉仕する立場になったのだが、基本的には雄英で自由気ままに生活している。

 そもそも剣崎という男は約束や規則を破る気は無いが守る気も無い。いつも時と状況に合わせて行動する。最低限の事は守り、他は自分の判断で行動するのだ。

 もっとも、根津とオールマイトは必ずこうなると予測していたため、雄英高校の敷地内での自由行動はある程度許可はしたが。

「しかし、こうして考えると世代を感じるな……俺達の世代はそんなに「華」が無かったからな」

「アハハ、16年も経ってますから……」

「それもそうだな」

 出久と話し合う剣崎。

 その中の良さは、まるでご近所の挨拶みたいである。

「ねェ緑谷ちゃん、一昨日の会話でもかなり仲良しのようだけど……どういう関係かしら? 私達、3年前に出会ってるって情報以外知らないの」

 そんな二人に食いついたのは、カエルっぽい面立ちの女子・蛙吹梅雨。

 おぞましい死者である剣崎と一体どういう関係なのかに鋭く切り込んだのだ。

 そして彼女の言葉が引き金となり、出久と剣崎の関係に興味を持っていた面々が同意する。

「え~っと、何ていうか……僕の命の恩人なんだ。3年前に(ヴィラン)に攫われた時に救けてくれてさ……」

「そうだったのか……」

「死者に助けられるなんて、貴重な体験ね」

「蛙吹さん、それはそうかもしれないけど…」

 梅雨の言い方に、思わず顔を引きつらせる出久。

「じゃあ、今度は僕からいいかな」

 次に声を上げたのは、飯田天哉。著名なターボヒーローである〝インゲニウム〟こと飯田天晴の弟だ。

「あなたは何故(ヴィラン)を殺すんだ? ヒーローは規律を重んじるべきだと思うが」

 それは、飯田らしい質問だった。

 剣崎ほどの猛者ならば、法律に従えばトップクラスのヒーローになれたのでは――そう思っての質問だろう。

 剣崎は目を細めて、口を開く。

「――ルールや規則ってのは、時と場合によっては大きな枷となることがある。破らないと打破出来ない状況があるようにな。非常事態には非常の対応をしなければならねェだろ?」

「では何故、(ヴィラン)を殺し続けるのですか?」

「…それは話すと長くなるからこの場では一旦控える。ただ…俺は(ヴィラン)共を皆殺しにするまで戦い続けると誓っている。俺が社会からお役御免になる時は、(ヴィラン)共がこの世から消えたときだと思え」

「……」

「まァ、そーゆーシケた話(・・・・)はここで言う気もねェ…次の質問に移ろうか」

「じゃあ、俺がいく」

 痩せ気味で黒髪の男子生徒・瀬呂範太が挙手する。

「ぶっちゃけさ…何で逮捕されなかったんすか?」

 瀬呂のある意味で核心に迫るような質問に剣崎はきょとんとした表情をし、その後かぶりを振った。

「それは俺もわからない……俺は逮捕しなかった理由を聞くよりも、一人でも多く(ヴィラン)を狩る事を優先しちまったからな。警察や法務省に聞けばいいんじゃないか? 何かしらの返答くらい寄越すだろう……雄英からの問い合わせとなれば尚更な。他には?」

 すると今度は、前髪の両端が長い茶髪のショートボブが特徴の女子・麗日お茶子が手を挙げた。その質問内容は…。

「剣崎さんって、〝サイドキック〟の人っていました?」

「〝サイドキック〟? 何だそれは?」

「相棒だよ、剣崎さん」

 サイドキックとは、自身と連携戦闘を行える仲間として雇えるヒーローだ。 有名なサイドキックは、オールマイトのかつての相棒だったサー・ナイトアイだろう。

 剣崎の場合、サイドキックではないが監査者という形のパートナーはいた。

「それは……睡のことなのか? 今は〝ミッドナイト〟と名乗ってると言えばわかるか」

『ええっ!?』

 剣崎の言葉に驚愕する一同。

 ミッドナイトは雄英高校の教師の一人であるプロヒーロー…政府が「コスチュームの露出における規定法案」を制定するきっかけとなった別の意味で伝説の人である。

 そんな彼女と剣崎はコンビだったとのこと。

「世代っつーか、年齢も同じだったからな。あん時死ななきゃあ今頃あいつと同じ年……31歳だな。しっかし驚いたよ、何か16年経ったらSM嬢になってたからな……」

 どこか遠い目の剣崎。

「今思うと、あいつにはずいぶんと世話になった。まさかまた世話になるとは思いもしなかったが」

「ずりィぞ〝ヴィランハンター〟ァァァ!!! オイラと代わってくれよォォォォォォ!!!」

「何だ、問題でもあんのか?」

 事の経緯を全て出久達に語った剣崎は、どういう訳か出久のクラスメイトである峰田実に突然胸ぐらを掴まれた。

 目を血走らせて涙を流す峰田に何があったのか。

「出久君、何だこいつは」

 引き剥がして峰田の頭を片手で鷲掴み、ブラブラと揺らす剣崎は出久に問う。

「ん~と…その、峰田君は妬いているんじゃないかな? だって剣崎さんは、ミッドナイトと一緒だったから」

「それが何だってんだ? 俺とは昔コンビを組んでた間柄だ、親しくて当然だろう」

「それが気に入らねェんだよォォォォォォォォッ!!!」

 峰田、発狂する。

 剣崎は目を細めつつ首をかしげる。

「お前死んでるクセに何でミッドナイトと一緒なんだよォ!? 膝枕して貰ってイチャついてることぐらいわかるぞオイラは!! あのたわわな胸とピッチピチの太ももとか触ってんだろォ!? 先輩なんだろ、オイラと代わってくれよォォォォォォォ!!!」

 欲望剥き出しの峰田。

 ストイックな剣崎とは真逆のそれに、周囲はドン引きする。

 剣崎は深緑の癖毛を揺らし、出久達に顔を向ける。

「……こんな性欲の権化みてェなのと3年間付き合うのかお前ら? 死人の俺より相手にするの面倒だろ?」

『超思う』

「えェェェェェェェェェェ!? 何でだよ、相手はアンデッドだぞ、ア・ン・デッ・ド!!!」

 死者よりもスケベの方が面倒だと即答するクラスメイトに涙する峰田。

「いや…アンデッドっつっても、緑谷と知り合いなんだろ?」

「見た目はアレだけど、何か結構イイ人っぽいぜ?」

「ストイックな先輩とスケベでサイテーなクラスメイトを比べると、どっちが頼りがいがあるかは一目瞭然ですわ」

 上から切島、上鳴、八百万の順に回答。

 辛辣な言葉の雨に、プルプルと震えながら血涙を流す峰田。

「……まァ、俺も何だかんだ言って睡と喧嘩した事あるがな」

「え!? 喧嘩!?」

 剣崎とミッドナイトの喧嘩。

 あのミッドナイトがキレるというのは、余程の事だ。相当凄まじい内容なのだろう。

「正義感のぶつかり合いもあったが、記憶に残ってるのはどっちかって言うとコスチュームの件だな。露出ゼロと露出アリで揉めてな…今思うとすげェくだらねェ内容だったよ」

(思った以上にふざけた内容だ!!)

 どうやらヒーローコスチュームの件で口喧嘩したそうだ。

 ある意味でミッドナイトらしい喧嘩の原因である。

 そしてチャイムが鳴り響き、出久達は席に着き始める。

「じゃ、俺ァ行くわ…死人がいるのは迷惑だろう」

 コートと髪の毛を揺らしながら教室を出ようとした、その時!

「私が銀時代(シルバーエイジ)の姿で来たっ!!!」

「……」

 オールマイトが登場。

 出久達は驚き、歓声と拍手で迎えるが剣崎だけ無表情。それどころか可哀そうな人を見る目でオールマイトを見つめている。

「け、剣崎少年……?」

「いや……俺死んでるし。心臓も動いてねェからドキッとしねェな~って…」

 しれっととんでもない発言をする剣崎。

「ウソだと思うなら触っていいけど。あ、服脱ぐね」

 剣崎はそう言い、羽織っていたコートやブレザーを脱ぎ始めて上半身裸になる。

 そして、剣崎の上半身を見た一同は唖然とする。

 程よく引き締まった体に、目で見えるくらいはっきりと割れている腹筋。そして何より一同を驚かせたのは、夥しい数の傷痕だ。きっと全て、生前の傷…(ヴィラン)を狩りまくったがゆえに負ったのだろう。

「剣崎少年……」

「胸触ってみん、多分動いてねェよ」

 オールマイトは迫力ある見た目とは程遠い、割れ物を触るかのように慎重に胸に手を当てる。

「……本当だね……」

「所詮俺は死者…生者に戻れやしない」

 剣崎は自嘲気味に笑い、服を着る。

 傷んだシャツを着てネクタイを巻き、ブレザーに袖を通してコートを羽織ると、オールマイトを見ながら口を開く。

「んで、授業妨害になんなら出ていくが」

(思いの外気配りが出来てる!!!)

 後輩に対する気配りに、思わず感嘆とする出久達。

 世に言う「人は見かけによらない」とは、このことか。

「いや、今回は君にも参加してもらいたいのだ!!」

「……何?」

「今回は模擬戦闘訓練だ!! 数多くの修羅場をくぐり抜けた剣崎少年も、授業に参加してもらうぞ!!」

「……俺が、授業に……!?」

 剣崎、16年ぶりに授業を受ける……!?




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