亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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№11:感動の再会

 剣崎とミッドナイト……二人の再会は、何とも言い難かった。

 ミッドナイトの前にいる剣崎は、彼女の知る剣崎である。だが、その姿はおぞましく第一印象なら(ヴィラン)顔負けの不気味さに満ちていた。

「刀真……」

「っ……」

 剣崎は気まずそうな顔をして視線を逸らす。

 剣崎は死してから16年もの長い年月の間、(ヴィラン)を一心に憎み続けていたが、それと同時にかつての相棒を心配していた。

 自分との突然の別れに、彼女は壊れてないかと。剣崎刀真の死亡という現実に、心を打ち砕かれてないかと。剣崎はミッドナイトに恋心は無いが、数ヶ月という短い期間とはいえ生死を共にした間柄がゆえに彼女の身を案じていたのだ。

 そして、16年ぶりに二人は再会した。剣崎は、眠っていた個性の覚醒により蘇り、往時のように全(ヴィラン)滅亡の為に(ヴィラン)を狩りまくる亡霊ヒーローとして。ミッドナイトは、明日の正義を背負う後進の育成のためにも(ヴィラン)達と戦う現役プロヒーロー兼教師として。

「睡……16年間、本当に悪かった。(ヴィラン)のゴミクズ共の下らない罠にハメられてな……次は気をつけ――」

 

 バチィン!!

 

『!?』

「!?」

 剣崎は謝罪の言葉を口にした瞬間、ミッドナイトに引っ叩かれた。

 だが剣崎は死者だ。肉体は朽ち果て、痛覚が死に絶えている。彼女の一発は剣崎にはビクともしない。

 だが……彼女の顔に流れる涙には心にきていた(・・・・・・)

「何で……!? 何であの時私に言わなかったのっ!?」

「……俺はあの戦いで全てに決着(ケリ)をつける気だったんだ、そう易々と他人を巻き込むわけにはいかない。それだけだ」

 彼女の問いかけに対し冷淡に言う剣崎だが、ミッドナイトは彼の心の内を理解した。

 ミッドナイトは剣崎が家族以外で最も信頼した人間の一人だ。彼女を失うのは剣崎の信念に反するだけではなく、一端の男として(・・・・・・・)許せなかったのだ。

「……不器用なんだから、昔から……!」

 涙を拭うミッドナイト。

 昔から剣崎はこうだった。自分一人で何でも背負い、他人を巻き込まぬ為に常に一人で戦っていた。そんな不器用な優しさが、ミッドナイトには懐かしく感じたのだ。

(それにしても、随分と相棒も女らしくなったな…)

 剣崎の脳裏に、ミッドナイトとの思い出が浮かぶ。

 初めて出会った時、彼女はここまで女らしくなかった。気が強くてアクティブで、どっちかっていうと男を尻に敷くような人間だったはずだ。

 それにここまでアダルティな女性だったのだろうか。見た目は完全にSM嬢、新宿の歌舞伎町にで働いた経験でもあるかのような見た目ではないか。

(16年もあれば、人間こうなるか……時の流れは残酷だな……)

 そう思いながらも、剣崎はミッドナイトを見据える。

「睡…察しているだろうが、俺はまたお前に世話になるみたいだ。生憎俺は死者…生ける亡霊なんだが、よろしく頼む」

「それは私もよ、刀真。今度こそあなたの力になりたい」

「おいおい、俺は色恋沙汰は興味ねェぞ」

 剣崎は口角を上げ穏やかな笑みを浮かべる。

 ミッドナイトは16年前と変わらぬぶっきらぼうな態度の剣崎に、思わず微笑む。

「んで……睡をわざわざ呼んだってこたァ、俺を睡のペットにさせる気か?」

「いやいやいや、そんなプレイは誰一人求めてないぞ!!?現役ヒーローをネクロマンサーにするとでも思っていたのか、剣崎少年!!?」

「ゴホン……まァ、剣崎君の件は君に任せるよミッドナイト。君の方が彼とは上手くいくだろう」

「はい」

根津はミッドナイトにそう告げ、剣崎に目を向ける。

「剣崎君……改めて言うが、16年前とは情勢が違うことを忘れるな。君がもし平和を脅かす存在になったら、我々も容赦しない」

「当たり前だ、ヒーローごと殺る程バカじゃねぇよ俺は」

 

 

           *

 

 

 とあるビル。

 建物内では、顔や首に生命維持の様なチューブが何本も繋がれている男性がイスに座っていた。

 彼はオール・フォー・ワン……かつて〝悪の支配者〟として日本に君臨した人物で、現在活動している(ヴィラン)連合の黒幕ともいえる大物(ヴィラン)だ。

 そんな彼は、手下の(ヴィラン)達からある報告を聞いていた。

「以上が、その……ここ最近の活動報告です……」

 活動内容は、悲惨なモノだった。

 ここ最近の何者かによる(ヴィラン)襲撃が相次ぎ、多くの(ヴィラン)達が狩りまくられていた。(ヴィラン)連合にとっては大損だ、せっかくの努力がどこの馬の骨ともしれぬ輩によって無駄になっていくのだ。

 その報告を聞いていたオール・フォー・ワンは、口を開いた。

「成程……どうやら剣崎刀真の仕業のようだね」

『!!?』

 オール・フォー・ワンの言葉に驚愕する(ヴィラン)達。

「そ、そんなバカな……!! あいつは16年も前に死んだはず……!!」

「報告を聞く限りでは、僕は彼以外に考えられないね。ステインとは明らかに違う……(ヴィラン)だけを狙っているなら尚更さ」

 数多くのヴィラン達を脅かしてきた剣崎刀真が、死の淵から蘇って暴れだした……そう断言するオール・フォー・ワン。

 それはオール・フォー・ワンにとって、驚く程のことではない。彼自身、5年前に「平和の象徴」として絶大な人気と実力を誇るオールマイトとの戦いで顔面の上半分が挫滅し、肉体的な損傷や後遺症も数多くある状態でも生き永らえている。理由や現在の状態は不明だが、何らかの形で蘇ったとしてもそれ自体は大したことではない。

 問題なのは、剣崎が生前の頃の続き……悪者退治をしていることの方だ。16年の時を経て、数多くの(ヴィラン)達を恐怖の底に陥れた〝ヴィランハンター〟が復活し、悪者退治を再開した……それはつまり、(ヴィラン)連合をはじめとした全ての(ヴィラン)が剣崎という脅威に再び晒されることを意味する。

 オール・フォー・ワンにとって、それはマズイ事である。全(ヴィラン)滅亡を掲げる剣崎が復活して悪者退治を再開したのは、想定外であると同時に不都合だ。仮に自分が(ヴィラン)連合と共にオールマイトを抹殺して「平和の象徴の死」を達成できたとしても、その次に待ち受けているのは「〝ヴィランハンター〟の再来」だ。(ヴィラン)という獲物を次々に狩りまくる、それこそ百戦錬磨の狩人のようなあの殺戮悪鬼(バケモノ)を相手取るのは、いくら(ヴィラン)連合でも手に余るだろう。

(面倒事になりそうだ……)

 オール・フォー・ワン自身、剣崎は強いと考えている。

 何せ彼も、剣崎が生きていた頃は少なからず警戒はしていた。剣崎の本当の恐ろしさは、〝無個性〟とは思えぬ戦闘力もそうだが、何よりも(ヴィラン)の息の根を止めるまで慈悲なく追撃する執念深さと自らの信念を貫くために命を捨てるような危険な行動を躊躇せず実行する「覚悟」にある。

 例え少年であっても、迷いの無い相手はいつの時代も手強いのだ。

「彼の始末も、検討しなければね」

 オール・フォー・ワンは、溜め息でも吐くかのようにそう呟いた。


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