剣崎とミッドナイト……二人の再会は、何とも言い難かった。
ミッドナイトの前にいる剣崎は、彼女の知る剣崎である。だが、その姿はおぞましく第一印象なら
「刀真……」
「っ……」
剣崎は気まずそうな顔をして視線を逸らす。
剣崎は死してから16年もの長い年月の間、
自分との突然の別れに、彼女は壊れてないかと。剣崎刀真の死亡という現実に、心を打ち砕かれてないかと。剣崎はミッドナイトに恋心は無いが、数ヶ月という短い期間とはいえ生死を共にした間柄がゆえに彼女の身を案じていたのだ。
そして、16年ぶりに二人は再会した。剣崎は、眠っていた個性の覚醒により蘇り、往時のように全
「睡……16年間、本当に悪かった。
バチィン!!
『!?』
「!?」
剣崎は謝罪の言葉を口にした瞬間、ミッドナイトに引っ叩かれた。
だが剣崎は死者だ。肉体は朽ち果て、痛覚が死に絶えている。彼女の一発は剣崎にはビクともしない。
だが……彼女の顔に流れる涙には
「何で……!? 何であの時私に言わなかったのっ!?」
「……俺はあの戦いで全てに
彼女の問いかけに対し冷淡に言う剣崎だが、ミッドナイトは彼の心の内を理解した。
ミッドナイトは剣崎が家族以外で最も信頼した人間の一人だ。彼女を失うのは剣崎の信念に反するだけではなく、
「……不器用なんだから、昔から……!」
涙を拭うミッドナイト。
昔から剣崎はこうだった。自分一人で何でも背負い、他人を巻き込まぬ為に常に一人で戦っていた。そんな不器用な優しさが、ミッドナイトには懐かしく感じたのだ。
(それにしても、随分と相棒も女らしくなったな…)
剣崎の脳裏に、ミッドナイトとの思い出が浮かぶ。
初めて出会った時、彼女はここまで女らしくなかった。気が強くてアクティブで、どっちかっていうと男を尻に敷くような人間だったはずだ。
それにここまでアダルティな女性だったのだろうか。見た目は完全にSM嬢、新宿の歌舞伎町にで働いた経験でもあるかのような見た目ではないか。
(16年もあれば、人間こうなるか……時の流れは残酷だな……)
そう思いながらも、剣崎はミッドナイトを見据える。
「睡…察しているだろうが、俺はまたお前に世話になるみたいだ。生憎俺は死者…生ける亡霊なんだが、よろしく頼む」
「それは私もよ、刀真。今度こそあなたの力になりたい」
「おいおい、俺は色恋沙汰は興味ねェぞ」
剣崎は口角を上げ穏やかな笑みを浮かべる。
ミッドナイトは16年前と変わらぬぶっきらぼうな態度の剣崎に、思わず微笑む。
「んで……睡をわざわざ呼んだってこたァ、俺を睡のペットにさせる気か?」
「いやいやいや、そんなプレイは誰一人求めてないぞ!!?現役ヒーローをネクロマンサーにするとでも思っていたのか、剣崎少年!!?」
「ゴホン……まァ、剣崎君の件は君に任せるよミッドナイト。君の方が彼とは上手くいくだろう」
「はい」
根津はミッドナイトにそう告げ、剣崎に目を向ける。
「剣崎君……改めて言うが、16年前とは情勢が違うことを忘れるな。君がもし平和を脅かす存在になったら、我々も容赦しない」
「当たり前だ、ヒーローごと殺る程バカじゃねぇよ俺は」
*
とあるビル。
建物内では、顔や首に生命維持の様なチューブが何本も繋がれている男性がイスに座っていた。
彼はオール・フォー・ワン……かつて〝悪の支配者〟として日本に君臨した人物で、現在活動している
そんな彼は、手下の
「以上が、その……ここ最近の活動報告です……」
活動内容は、悲惨なモノだった。
ここ最近の何者かによる
その報告を聞いていたオール・フォー・ワンは、口を開いた。
「成程……どうやら剣崎刀真の仕業のようだね」
『!!?』
オール・フォー・ワンの言葉に驚愕する
「そ、そんなバカな……!! あいつは16年も前に死んだはず……!!」
「報告を聞く限りでは、僕は彼以外に考えられないね。ステインとは明らかに違う……
数多くのヴィラン達を脅かしてきた剣崎刀真が、死の淵から蘇って暴れだした……そう断言するオール・フォー・ワン。
それはオール・フォー・ワンにとって、驚く程のことではない。彼自身、5年前に「平和の象徴」として絶大な人気と実力を誇るオールマイトとの戦いで顔面の上半分が挫滅し、肉体的な損傷や後遺症も数多くある状態でも生き永らえている。理由や現在の状態は不明だが、何らかの形で蘇ったとしてもそれ自体は大したことではない。
問題なのは、剣崎が生前の頃の続き……悪者退治をしていることの方だ。16年の時を経て、数多くの
オール・フォー・ワンにとって、それはマズイ事である。全
(面倒事になりそうだ……)
オール・フォー・ワン自身、剣崎は強いと考えている。
何せ彼も、剣崎が生きていた頃は少なからず警戒はしていた。剣崎の本当の恐ろしさは、〝無個性〟とは思えぬ戦闘力もそうだが、何よりも
例え少年であっても、迷いの無い相手はいつの時代も手強いのだ。
「彼の始末も、検討しなければね」
オール・フォー・ワンは、溜め息でも吐くかのようにそう呟いた。