その夜。
浦村警視監との面会を終え、通常の業務を終えて帰宅していた加藤は、警部補である部下の水島史郎とたまたま合流し剣崎のことを話していた。
「加藤さん…ステインと剣崎君の違いって何なんですか?」
「……何気にいい質問だな、水島」
煙草の紫煙を燻らせる加藤は、水島の質問に感心する。
〝ヒーロー殺し〟として数多くのヒーローを死傷させ恐れられながらも、社会現象を引き起こす程のカルト的人気を集めた凶悪犯罪者――ステイン。
「全
この二人…実は比べてみると共通点があるのだ。
「考えてみると、妙に似ているんだよな…」
そう呟く加藤。彼の言う通り、確かに似ている部分が多い。
まずステインと剣崎は、独自の倫理観・思想に基づいている。
ステインは「英雄回帰」という思想に基づいて活動している。ざっくり言えば「ヒーローをあるべき姿に、社会をあるべき形に」というわけで、真に人々を守り救う事のみを目的とするのがヒーローだと考えている。
剣崎の場合は「全
共通点はまだある。殺人という手段で解決している点、ヒーローを志していた点、社会的に大きな影響があった点、自身の信条を優先する点、そして揺るぎない信念の持ち主である点。二人を調べると、こんなにも共通点があるのだ。
「唯一の違いが……〝個性〟の有無だったんですね」
「唯一じゃねぇな、正しくは〝2つの決定的な違い〟だ」
「え?」
「ステインとの違いは〝個性〟の有無もそうだが…最大の違いは「人を惹きつけるか、恐怖を与えるか」だ」
ステインはこれまでに17人を殺害して23人を再起不能に追い込んでいるが、彼の思想と行動は一部の
だが剣崎は、
「ステインを「悪のカリスマ」と例えれば、剣崎は「善人悪人問わず恐れる死神」と言えばいいか」
人を惹きつけるか、恐怖を与えるか。
どんなに共通点はあれど、掲げる想いで他者の心への影響は全く違う。
「〝正義に飢えた悪〟と〝暴走した正義〟……それがステインと剣崎の差だ」
その時だった。
人の気配を察知したのか、加藤が拳銃を手にし真後ろを向いた。
「俺達を尾行してるのは誰だ!? 顔を出せ!!」
その直後だった。
キンッ、キンッと金属音が響き、少年が姿を現した。
深緑の癖毛とコートを揺らし、傷でズタズタになった顔で笑みを浮かべており、まるで地獄の使者のようであった。
「反応がいい……さすがだ、旦那」
地獄の底から響くような声。
しかしその声は、加藤にとっては懐かしさすら感じる声だった。
「随分と老いたもんですね、旦那…16年経てばそうなるか」
「まさか……剣崎、なのか……!?」
少年の正体は、〝ヴィランハンター〟剣崎刀真だった。死んだ筈の剣崎と再会し、瞠目する加藤。
しかし今の剣崎は、誰がどう見ても恐怖を感じるであろう姿だった。
刃こぼれが生じた日本刀をステッキのように突きながら歩く彼の姿は、非常に痛々しい。大きな火傷の痕と無数の切り傷が刻まれた血の気が無い顔、首元や手にも刻まれたひびのような傷は、長い年月が経っても生々しさをも感じる。
「……そうか、やはりお前が
「……俺が悪者退治を再開したのわかったんですか」
ゆらゆらと髪の毛とコートを揺らして近づく剣崎に、水島は思わず拳銃を抜いて発砲しようとするが加藤が無言でそれを制止した。
加藤はわかっているのだ……今の剣崎がこの世の者でないことに。そして銃弾では倒すことはおろか血を一滴流すこともできないであろうと。
「警察もヒーローも随分とサボリ気味のようですね…俺が死んで16年経ったら、
「っ……!」
「……何でですか?」
剣崎の光の無い漆黒の瞳には、失望と怒りが宿っていた。
彼にとってヒーローは絶対的正義であり、警察もまた彼にとって絶対的正義だった。16年前のあの日を境に、一つの時代に区切りがついた。
死者として再び生を持って異空間に囚われ、
それなのに……
「俺がいねェと、正義は廃れるんですか?」
殺気を放つ剣崎。
加藤はその肌に突き刺さるような殺気を浴び、冷や汗を掻き始める。水島に至っては金縛りにあったかのように動けなくなり顔を青褪めている。
「……まァ、あなた方に怒っても仕方がない。
溜め息を吐いて、殺気を放つのをやめる剣崎。
剣崎は加藤には色々と世話になった。いくら自分が
ただし、恩人でも
「……水島、大丈夫か?」
「ええ……意識を失うかと思いましたが……」
加藤がそう言うと、水島はげっそりとした顔で返事をする。
「そういえば旦那、オール・フォー・ワンはどうなったんですか?」
「「!?」」
剣崎は加藤にそう問いかけた。
「俺は今まで悪者退治してきたが、ふと気付いた。枝を切っても根っこを切らなきゃあダメだと。だから
「それは……」
加藤は、それに答えることは出来なかった。
一応5年前に、オールマイトとの戦いで多大な犠牲を払って倒れたのだが……彼の遺体は回収されておらず、生存している可能性が高いのだ。
「……俺の戦いはまだ終わってねェんだな…」
剣崎は二人に背を向け、刀をステッキのように突きながら歩いていく。
「剣崎…!?」
「やはり時代はこの俺を……ヴィランハンターを必要とするようになったようだ。悪者に慈悲など無用、奴らに目にものを見せてやるとしますわ」
剣崎はそう告げ、闇の中へと姿を消したのだった。
次回、運命の日ですww