「
全ての原因は、ここ最近発生している連続大量殺人事件にある。
実は一連の大量殺人事件の被害者である
オールマイト抹殺を目論む中でこれほどの甚大な被害が出るのは、
「クソが、クソが!! どうなってんだ、一方的に
自分の作戦が、どこの馬の骨ともしれぬ輩に大打撃を与えられる。それは死柄木にとって、耐え難い屈辱であった。
「落ち着んだ、死柄木……とはいえ、その気持ちはわかるよ」
黒い霧が服を着たような風貌が特徴の
勢力拡大を提案したのは、元はといえば黒霧にある。自分の計画が自らの誤算や仲間のミスならばいざ知らず、赤の他人に横槍を入れられるのは不快であった。
(犯人は刃物で
黒霧は今まで自身が集めた情報をもとに、事件の犯人を割り当てようとする。
最有力候補なのは、ステインだ。彼は日本刀やナイフを得物としているので可能性はある。
だが今回の事件は彼が起こした事件とは言い難い。ステインは独自の倫理観を基に粛清活動をしている。
(この時代にそんな輩がいるのだろうか……?)
それは、16年前に雄英高校に属していた――厳密に言えばヴィジランテだが――最凶無情の少年ヒーロー……〝ヴィランハンター〟剣崎刀真だ。
かつて
しかし、だ……彼は16年前に死んだのだ。空人間を始めとした当時の若き
(どの道、注意した方がいいね)
その時だった。
「リ、リーダー……!!」
ドサッ……
死柄木と黒霧以外の
「お…おい、何だこの血は…!!?」
「酷ェ出血だ…!!」
血塗れの男は、
黒霧の脳裏に、ある可能性がよぎる。
「早く手当てを。〝ドクター〟には私が言っておく」
黒霧は
「つ、強すぎる……うっ……!!」
体から血を流して苦しむ
死柄木と黒霧はそんな彼に近づき、問いただす。
「大体事情は把握出来るが、一応訊く……何があった?」
「て、敵襲です…た、たった一人のガキが殴り込んで…俺以外は、もう……ぐっ……!!」
個性を持つ
「……どんな奴だ?」
死柄木がそう問うと、彼は震えながら答えた。
自分達を襲った者は、深緑の癖毛をなびかせ、大きな火傷の痕とひびが入ったかのような無数の傷が刻まれていて、死人のように血の気が無い顔の不気味な少年の姿だったという。
それは突然壁をすり抜けて現れ、刃こぼれが生じた日本刀で自分の仲間を赤子のように殺していったという。彼自身も重傷を負ったが、たまたま所持していた煙幕を用いて何とか生き延びたらしい。
「ア、アレは……ヒーローでも何でもない……ほ、
しかし出血は止まらず、
そして
16年前に死んだはずの殺戮悪鬼が、生きた亡霊として蘇り再びヴィランを滅ぼしに来る事を。
*
「全く、どうなっているんだ……」
鼻息を荒くして、刀をステッキのように突きながら歩く剣崎。
彼は今、かなり苛立っている。その理由は、先程の戦闘にあった。
雄英からの返事を待つまで悪者退治をする事にした剣崎は、自分の直感を頼りに
捜索して2時間で、
「こんなに増えてるのは想定外だ、プロヒーロー達は何をやってるんだ……」
今回の悪者退治では、瀕死の重傷を負った
しかし彼にとってはどうってことない。袈裟斬りに加え人体急所の肝臓を刺したのだ、仮に逃げ切ったとしても出血多量で野垂れ死ぬだろう。
問題なのは、
剣崎にとっては明らかに異常である。いくら自分が死んだことで勢いを取り戻したとはいえ、こうも増えているモノなのか。
「やっぱり慈悲かけやがったな、下らねェ……」
苛立つどころか、殺気立つ剣崎。
彼にとって
だからこそ、このヴィランハンターがそんな世界を破壊しなければならない。
「……お、やっと着いた……」
剣崎が訪れたのは、墓だった。
そう、16年ぶりの家族の弔いだ。
「キキョウの花束買えなかったな……」
こんな見た目じゃ花屋はキツイか、と自嘲気味に笑う剣崎。
大股でゆっくりと歩き、愛する家族が眠りし墓へと向かう。
(16年経った上に、こんなみっともねェ面で会いに行くとはな……)
無数の切り傷と火傷の痕が刻まれた顔を触る。
切り傷はまるで顔にひびが入ったかのようで、火傷の痕は16年の時を経ても痛々しい。手にも首元にも顔と同様ひびが入ったかのような切り傷があり、こんなにも化け物じみた出で立ちで墓参りする事に、剣崎は少し情けなく感じた。
「父さん、母さん、おばあちゃん……久しぶり」
剣崎家之墓と刻まれた墓石の前で、口を開く。
16年ぶりの再会。すでにこの世にいないが、剣崎にとっては久しぶりに会えて嬉しく思える。
「!」
ふと、剣崎は気づいた。
墓の花立に、キキョウとリンドウの花が供えられているのだ。
キキョウは花言葉で「永遠の愛」を意味し、剣崎が家族にいつも供えている花だ。そしてリンドウは「正義と共に」を意味し、剣崎が最も好きな花だった。
つまり、この花を献花した者は剣崎のことをよく知っている人物なのだ。
「フッ、物好きな奴だ。16年も前に死んだ俺を弔ってくれるなんざ…もっとも、俺に対する献花は必要ないがな」
剣崎は死者になってから久しぶりに穏やかな笑みを浮かべたのだった。