亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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№8:家族への愛情

 「(ヴィラン)連合」のアジトでは、リーダー格の死柄木弔が酷く苛立っていた。

 全ての原因は、ここ最近発生している連続大量殺人事件にある。

 実は一連の大量殺人事件の被害者である(ヴィラン)は、死柄木がリーダーを務める犯罪者集団「(ヴィラン)連合」に配属していた者が多かった。(ヴィラン)連合に属していない(ヴィラン)は多いので、それをどうにか傘下に収め勢力拡大をしようと動いてた矢先にこれだ。

 オールマイト抹殺を目論む中でこれほどの甚大な被害が出るのは、(ヴィラン)連合としてはかなりの打撃である。

「クソが、クソが!! どうなってんだ、一方的に()られるなんてよ……!!」

 自分の作戦が、どこの馬の骨ともしれぬ輩に大打撃を与えられる。それは死柄木にとって、耐え難い屈辱であった。

「落ち着んだ、死柄木……とはいえ、その気持ちはわかるよ」

 黒い霧が服を着たような風貌が特徴の(ヴィラン)連合幹部兼参謀――黒霧は、死柄木を諫めながらも同調する。

 勢力拡大を提案したのは、元はといえば黒霧にある。自分の計画が自らの誤算や仲間のミスならばいざ知らず、赤の他人に横槍を入れられるのは不快であった。

(犯人は刃物で敵のみを(・・・・)斬殺している…これは思想犯の仕業か?)

 黒霧は今まで自身が集めた情報をもとに、事件の犯人を割り当てようとする。

 最有力候補なのは、ステインだ。彼は日本刀やナイフを得物としているので可能性はある。

 だが今回の事件は彼が起こした事件とは言い難い。ステインは独自の倫理観を基に粛清活動をしている。(ヴィラン)だって、自分が同調できる思想や信念の持ち主ならば命くらいは助けるだろうし場合によっては加担してくれる可能性もある。しかし今回の一連の事件は、一切の慈悲もなく問答無用で皆殺し――となると、犯人は(ヴィラン)に対し強烈な憎悪を向けている、非常に強い私怨に駆られた者による犯行となる。

(この時代にそんな輩がいるのだろうか……?)

 (ヴィン)に対し強烈な憎悪を持っている輩……黒霧が知る限りでは、一人だけ心当たりがある。

 それは、16年前に雄英高校に属していた――厳密に言えばヴィジランテだが――最凶無情の少年ヒーロー……〝ヴィランハンター〟剣崎刀真だ。

 かつて(ヴィラン)に家族を殺害された事から全ての(ヴィラン)を皆殺しにするという誓いを立てた彼は、悪者退治として(ヴィラン)を狩りまくり74人の(ヴィラン)を殺害した。当時の(ヴィラン)達はその無慈悲さ・憎悪の強さ・執念深さからオールマイト以上の脅威と認知しており、剣崎の悪者退治から運よく生き延びた者は今でも死神のように恐れている。

 しかし、だ……彼は16年前に死んだのだ。空人間を始めとした当時の若き(ヴィラン)達が彼を嵌め、悪者退治による剣崎の恐怖支配に終止符を打ったのだ。

(どの道、注意した方がいいね)

 その時だった。

「リ、リーダー……!!」

 

 ドサッ……

 

 (ヴィラン)連合のアジトに、全身血塗れの男が現れ倒れた。

 死柄木と黒霧以外の(ヴィラン)達は、慌てて駆け寄る。

「お…おい、何だこの血は…!!?」

「酷ェ出血だ…!!」

 血塗れの男は、(ヴィラン)連合の中でも新入りの方だ。まだ未熟な面があるとはいえ、それなりに戦える。それなのに腹から大量の血を流し、息も絶え絶えで瀕死だ。

 黒霧の脳裏に、ある可能性がよぎる。

「早く手当てを。〝ドクター〟には私が言っておく」

 黒霧は(ヴィラン)達に指示し、応急処置を始める。

「つ、強すぎる……うっ……!!」

 体から血を流して苦しむ(ヴィラン)

 死柄木と黒霧はそんな彼に近づき、問いただす。

「大体事情は把握出来るが、一応訊く……何があった?」

「て、敵襲です…た、たった一人のガキが殴り込んで…俺以外は、もう……ぐっ……!!」

 (ヴィラン)の口から出た、衝撃の言葉。

 個性を持つ(ヴィラン)が、たった一人のガキに襲われて彼以外が全滅状態になった…その言葉に、思わず死柄木と黒霧は戸惑う。

「……どんな奴だ?」

 死柄木がそう問うと、彼は震えながら答えた。

 自分達を襲った者は、深緑の癖毛をなびかせ、大きな火傷の痕とひびが入ったかのような無数の傷が刻まれていて、死人のように血の気が無い顔の不気味な少年の姿だったという。

 それは突然壁をすり抜けて現れ、刃こぼれが生じた日本刀で自分の仲間を赤子のように殺していったという。彼自身も重傷を負ったが、たまたま所持していた煙幕を用いて何とか生き延びたらしい。

「ア、アレは……ヒーローでも何でもない……ほ、本物の化物(・・・・・)です……!!」

 しかし出血は止まらず、(ヴィラン)は最期にそう言い息絶えた。

 そして(ヴィラン)連合は、思い知る事となる。

 16年前に死んだはずの殺戮悪鬼が、生きた亡霊として蘇り再びヴィランを滅ぼしに来る事を。

 

 

           *

 

 

「全く、どうなっているんだ……」

 鼻息を荒くして、刀をステッキのように突きながら歩く剣崎。

 彼は今、かなり苛立っている。その理由は、先程の戦闘にあった。

雄英からの返事を待つまで悪者退治をする事にした剣崎は、自分の直感を頼りに(ヴィラン)のアジトっぽい場所を手当たり次第徒歩で(・・・)捜索した。

 捜索して2時間で、(ヴィラン)達が集っている場所に乗り込む事に成功し強襲。瞬く間に制圧した。

「こんなに増えてるのは想定外だ、プロヒーロー達は何をやってるんだ……」

 今回の悪者退治では、瀕死の重傷を負った(ヴィラン)が一人逃げてしまった。

 しかし彼にとってはどうってことない。袈裟斬りに加え人体急所の肝臓を刺したのだ、仮に逃げ切ったとしても出血多量で野垂れ死ぬだろう。

問題なのは、(ヴィラン)が増えていることの方だ。生前は74人も狩っていたが、死者として再び始めてから1週間足らずで70人を超えそうだ。

 剣崎にとっては明らかに異常である。いくら自分が死んだことで勢いを取り戻したとはいえ、こうも増えているモノなのか。

「やっぱり慈悲かけやがったな、下らねェ……」

 苛立つどころか、殺気立つ剣崎。

 彼にとって(ヴィラン)は、諸悪の根源であり生き場所どころか生きる価値すらないゴミクズである。そして、そんなゴミクズがのさばる事を享受する世界は狂っていると考えている。

 だからこそ、このヴィランハンターがそんな世界を破壊しなければならない。(ヴィラン)に脅かされない、真の平和の為に。人々が悪に惹かれない世界を創るために。

「……お、やっと着いた……」

 剣崎が訪れたのは、墓だった。

 そう、16年ぶりの家族の弔いだ。

「キキョウの花束買えなかったな……」

 こんな見た目じゃ花屋はキツイか、と自嘲気味に笑う剣崎。

 大股でゆっくりと歩き、愛する家族が眠りし墓へと向かう。

(16年経った上に、こんなみっともねェ面で会いに行くとはな……)

 無数の切り傷と火傷の痕が刻まれた顔を触る。

 切り傷はまるで顔にひびが入ったかのようで、火傷の痕は16年の時を経ても痛々しい。手にも首元にも顔と同様ひびが入ったかのような切り傷があり、こんなにも化け物じみた出で立ちで墓参りする事に、剣崎は少し情けなく感じた。

「父さん、母さん、おばあちゃん……久しぶり」

 剣崎家之墓と刻まれた墓石の前で、口を開く。

 16年ぶりの再会。すでにこの世にいないが、剣崎にとっては久しぶりに会えて嬉しく思える。

「!」

 ふと、剣崎は気づいた。

 墓の花立に、キキョウとリンドウの花が供えられているのだ。

 キキョウは花言葉で「永遠の愛」を意味し、剣崎が家族にいつも供えている花だ。そしてリンドウは「正義と共に」を意味し、剣崎が最も好きな花だった。

 つまり、この花を献花した者は剣崎のことをよく知っている人物なのだ。

「フッ、物好きな奴だ。16年も前に死んだ俺を弔ってくれるなんざ…もっとも、俺に対する献花は必要ないがな」

 剣崎は死者になってから久しぶりに穏やかな笑みを浮かべたのだった。


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