一人は、もう察している方も多いでしょうが…某海賊映画のサ〇ザール。もう一人は「ONE PIECE」のゼットです。
1年A組の教室に突如現れた、生ける亡霊〝ヴィランハンター〟剣崎刀真。
しかしその姿は、あまりにも痛々しくおぞましい。死人のように血色の無い顔は火傷と切り傷まみれで、手にした日本刀や着用している雄英の制服、羽織っているコートもボロボロ。深緑の癖毛は風もないのに揺れており、コートとブレザーの裾や所々破れたネクタイも同様にゆらゆらと動いている。生前の勇ましさは消え、死者としての不気味さが醸し出されている。
不気味な姿をしたヴィランや珍妙な姿のヒーローは多いが、それらを遥かに上回るインパクトの剣崎に、一同は喉仏を上下させ冷や汗を流す。
「会いたかったぞ、出久君……」
地獄の底から響くような声で、出久の名を呼ぶ剣崎。
生徒達だけでなく現役プロヒーローとして活躍する相澤ですら縮み上がるその声に、出久は不思議と懐かしさと嬉しさを感じていた。
ふと、剣崎は日本刀の切っ先をゆっくりと上げて出久がいる席へ向け、生徒達に当たらないよう小さく振った。その仕草の意味を理解した出久は、席を立って剣崎の元へ向かう。
「お、おい緑谷……!!」
「さすがにあいつは危険だっての!! マジで!!」
「……大丈夫だよ、僕はあの人と3年前に出会ってるから」
『ハァ!?』
男子生徒達の制止を振り切り、剣崎の元へ向かう出久。
3年ぶりの再会……先に口を開いたのは、剣崎だった。
「出久君……君のおかげで、死から蘇り亡霊と化した俺は憎き
「それは僕もです、剣崎さん……あの時助けてくれて、本当にありがとうございました」
「俺は明日の正義を背負う若き力に手を差し伸べたまでだぞ、出久君。礼を言われるほどの事などやってない」
傷だらけの顔に無邪気な笑みを浮かべさせながら、剣崎はそう言う。
すると剣崎は周囲を見渡し、怯えた表情を見せる生徒達に対し気さくに声を掛けた。
「おっと……恐れることは無いぞ、お前達は俺の「同志」だ。共に正義を掲げ、平和と秩序の為に
剣崎はそう簡単に信じてはもらえないことを承知の上で告げる。
剣崎は
すると、剣崎はオールマイトの元へ近づき口を開いた。
「ようオールマイト、あんたとは16年ぶりだな……」
「剣崎少年……」
「あんたには色々と聞きてェことがあるが……それは後でもいいだろう。そういやあ校舎の外に何か分厚い壁があったが、アレは?」
「! 剣崎少年、まさか……!!」
「すり抜けて通ったが、何だアレは? セキュリティにしては脆く感じたぞ」
剣崎はどうやら、雄英まで徒歩で移動し頑強な雄英バリアをまるで幽霊のようにすり抜けたらしい。彼は明らかに自分達の常識を超えた異形の存在になっているようだ。
「ダメじゃないか、オールマイト。この俺だったから良かったものを…これからはセキュリティを更に強化した方がいいぞ? どんなに小さくても穴は穴…強引に突破すれば巨大な風穴になっちまうからな。そうだな…せめて赤外線センサーと顔認証システム、指紋認証システム、レーザーセンサーは必要だな…」
ムスっとした顔で何故かオールマイトに危機管理のダメ出しをする
本来なら茶目っ気があるだろうが……剣崎の顔が顔なのでむしろ余計不気味だ。
「まァ、それは後でいい……それよりもオールマイト。あんたに頼みがある」
「私に、頼み?」
「俺は今一度、この雄英高校の生徒に再びなる事を宣言する。悪者退治の新たな出発点としてな……だから、手続きをして欲しい」
『!!?』
その言葉に、耳を疑う一同。
何と剣崎は、雄英高校の生徒として復学したいのだ。
死者の復学の申し出……それは雄英高校の歴史上、いや、ヒーローの歴史上前代未聞であった。
「お前が生徒だと……!?」
「言い分はあるぞ? 俺はちゃんと
剣崎は淡々とそう告げる。
ふと剣崎は、何かを思い出したかのような表情を浮かべ、深緑の癖毛を揺らして出久に目を向けた。
「そうだ……出久君、オールマイトとは何年前に会った?」
「えっ?」
「君は随分とオールマイトと親しく見えるが……今更だが、俺の伝言をもっと早く伝えられたんじゃないのか?」
剣崎は出久に対し、ゾッとするような笑みを浮かべる。
出久は一瞬で顔面蒼白になる。そう…実は出久はオールマイトと大分前に出会っていたのだが、自分のことに夢中になって忘れていたのだ。
ちなみに彼のことを思い出したのは、雄英高校に入学する時である。
「……まァ、俺は過ぎた事を一々掘り返す男じゃあない。ヒーローらしくないからな」
剣崎はそう言い、刀をステッキのように突きながら今度は相澤の元へ向かった。
「お前がこのクラスの担任だな?」
「っ……ああ、相澤消太だ」
「相澤消太か……随分と乾ききった眼だな、ちゃんと眼を休めているか? ヒーローたる者、体調管理くらい出来ないと
相澤のドライアイをストレートに指摘する剣崎。
相澤の〝個性〟は「抹消」――視た者の〝個性〟を一時的に消し去る事が出来る凄い能力であるが、その影響で彼自身はドライアイである。相澤の事情を知らない剣崎は、ただの体調不良にしか見えないのだ。
「……生徒の手本である先生が倒れては世話が無いぞ、体調管理には気をつけた方がいい」
相澤に労いの言葉を投げかけると、剣崎はオールマイトに目を向け大股で近づく。
「それにしてもだ、オールマイト…俺が死んでから随分と
オールマイトを見据える剣崎。
16年前に
剣崎は、オールマイトに疑いの目を向けているのだ。
「俺が死んだことで調子に乗る
剣崎は静かに怒る。
過去の一件以来
人々を恐怖に陥れて平和を脅かす悪者に慈悲をかけるからこそ、厄介な復讐を生み、その度に罪の無い人々が犠牲になり、また新たな憎しみと悲しみを生んでいく。その負の連鎖を断ち切るには、
「……」
「……まァ、その答えなどどうだっていい……どの道奴らは終わりだ。この俺が16年ぶりにヒーローとして表舞台に出るのだからな」
剣崎はそう言うと、背を向けた。
「明日、再びここへ来る。その時にお前達雄英の返事を聞く。もっとも、どっちに転ぼうが俺は
そう告げて、剣崎は黒板をすり抜けて行った。
風のように過ぎ去った剣崎。死してなおその正義感と信念は、健在だったようだ。
(――とんでもねェのがやって来たな…)
死者が自分のクラスに入ることを想像し、相澤は心のどこかで恐怖を覚えるのだった。
次回辺りに、剣崎の裏話についてちょこっとだけ触れます。
あと、もし剣崎のイラスト書いてくれるよって人がいたら、設定を元に書いてくれると嬉しいです。