亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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ついにこの時が来ました。


№5:3年ぶりの再会

 剣崎刀真。その名前に、出久は目を見開いた。

 オールマイトの口から、自らの恩人の名を聞くとは思ってなかったようだ。

「剣崎少年は個性を扱えない生徒…いわゆる無個性の少年だった。しかし彼は個性を持つ生徒達ですら圧倒する比類なき力で(ヴィラン)達を狩りまくっていったのだ」

「む、無個性……!?」

「無個性で(ヴィラン)と戦ったのかよ……!!」

 無個性は、社会的な面でハンデを背負うケースが多い。個性を持つことが常識となったこのヒーロー社会において、個性を持たない者は差別されたり見下される事もある。そして(ヴィラン)と戦うことすら出来ず、ヒーローにもなれない場合もあるのだ。

 しかし剣崎はその逆…無個性で(ヴィラン)達と戦えたのだ。それも無個性とは思えぬ戦闘力で(ヴィラン)達に勝利している。

 耳を疑うような内容に、生徒達は驚愕の表情を隠せないでいる。

(ヴィラン)達は彼を恐れ、〝ヴィランハンター〟と呼んだ。現に彼が行った悪者退治は、たった数年で(ヴィラン)達を壊滅寸前に追い詰めたのだ」

 ふとその時、八百万百が手を上げた。

 どうやら質問があるようだ。

「どうした? 八百万少女」

「何故、(ヴィラン)を退治していたのですか?プロヒーローに任せた方が身も安全のはず…無個性ならば尚更ですわ」

「――確かにその通りだ、八百万少女…だが、彼にはどうしても戦わねばならない理由があったのだ」

「理由……?」

「……ある悲劇に遭ってね……」

 オールマイトは、剣崎の身に起きた悲劇を語り始めた。

彼の身に起きた悲劇…それは、(ヴィラン)によって自分以外の家族が全員殺されてしまうという事件だったのだ。

 最愛の存在であり、かけがえのない居場所であった家族を失った剣崎は、その日から(ヴィラン)への憎しみと怒りの気持ちを滾らせ、家族の仇を討つ為に生きる修羅の道を自ら選んだのだという。

「だから彼が掲げた目標は、〝全(ヴィラン)滅亡〟。全ての(ヴィラン)を自らの手で滅ぼし、次代の者達が(ヴィラン)にならない平和な世界を実現する事だった。そこから、剣崎少年の悪者退治は始まったのだ」

 剣崎は父の形見である日本刀と短刀を武器に、(ヴィラン)達を狩りまくっていった。

 街で(ヴィラン)絡みの事件があれば、何の迷いもなく飛び込んで、ヒーロー達や警察の制止も振り切り(ヴィラン)達に襲い掛かる。憎き(ヴィラン)達を刀を振るって斬り裂き、突き刺し、薙ぎ払う……その非情で無慈悲な粛清は、多くの(ヴィラン)達だけでなくプロヒーロー達ですら戦慄させたという。

 彼の悪者退治には、様々な評価がある。ある者は大いに支持し、ある者は恐怖すら覚えて非難し、ある者はその勇姿に羨望する。良くも悪くも、彼は当時のヒーロー社会に多大な影響を与えたのだ。

「だが当然、彼を恐れる(ヴィラン)がいれば恨む(ヴィラン)もいる。(ヴィラン)達は、この私ではなく剣崎少年を標的にするようになった」

『……』

 (ヴィラン)達にとっての最大の脅威は、〝平和の象徴〟オールマイトだ。それは今も変わらない。

 だが剣崎は、そんなオールマイトに匹敵するくらいに(ヴィラン)達から恐れられていた。個性を扱えない人間とは思えぬ戦闘力と、正義を掲げるヒーローとは思えぬその無慈悲さから。

「それ以来、(ヴィラン)達は剣崎少年を執拗に狙った。剣崎少年は幾度となく返り討ちにしてきたが、ついには(ヴィラン)達の狡猾な罠にハメられ、死に追いやられた」

「ってことは……その剣崎って言う俺らの先輩は、(ヴィラン)によって殺されたのですか……?」

「そうだ。享年15歳――君達と同じ年頃で、剣崎少年は志半ばにその命を散らしたのだ」

 オールマイトは呟いた。

 あれほど正義感の強い少年はいなかったと。あれほど自分を傷つけ、(ヴィラン)に痛めつけられても、己の課した使命のために戦い抜こうとした少年はいなかったと。

 そんな中、麗日お茶子はオールマイトに質問した。

「剣崎さんは、生きていたらどうしてたんでしょうか……?」

「それは難しい質問だな、麗日少女……「死人に口なし」だ、彼は死んだのだから何も語らないのだ」

 しかし少なくとも、剣崎はこれからも必要とされていただろう。

 明日の正義を背負う後進(こうはい)達に。(ヴィラン)に大切なモノを奪われた人々に。(ヴィラン)達と戦うヒーロー達や警察に。

「以上が…己の信念と正義を貫いた剣崎少年の物語だ」

 オールマイトの話を聞き、生徒達は複雑な表情を浮かべる。

 皆、自分自身に問うているのだ。彼のように、自らが課した使命を果たすために(ヴィラン)と戦えるのかと。彼のように、命を擲って自分の信念と正義を貫けるのかと。

 

「……しかし、剣崎(その)少年の物語には続きがあった」

 

 突如、地獄の底から響くような声が響き渡った。

 全身に鳥肌が立ち、思わずドアの方へ振り向く一同。

「少年は、人知れず蘇っていたのだ。それは、志半ばで散った彼の無念によってか……それとも今まで眠っていた〝個性〟が覚醒し、宿主の死に反応して再び生を与えたか――いずれにしろ、彼は生ける亡霊として蘇った」

 声と足音、そして床を何かで突くような音が、ゆっくりと確実に教室へ近づいていく。

 今まで感じたことの無い、得体の知れない不気味さを感じた生徒達は、喉仏を上下に動かした。しかしそんな中、出久だけは違った。

(この声って……!!)

 出久は知っているのだ、この声の主を。その声の主とは、3年前に会っているからだ。

 今でもはっきりと覚えている。おぞましい姿でありながら、(ヴィラン)の魔の手から自分を救ってくれたあの人を。

「16年の時を経て……少年は生前よりも遥かに強大な力を得て復活し、生ける亡霊として世に解き放たれた。そう、(ヴィラン)達から〝ヴィランハンター〟と恐れられる日々が再び始まるのだ――そして明日の正義を背負いし少年少女達は気付く…この教室に入ろうとするおぞましい姿の少年こそ、比類なき力で(ヴィラン)共を無慈悲に退治(ころ)した剣崎刀真(あのおとこ)であると」

 そして教室の扉の前に異形の少年が現れ、刀身がボロボロになった刀をステッキのように突きながら、大股でゆっくりと歩いて教室に入った。

 顔は傷だらけで、死人のように血の気が無い。風もないのに深緑の癖毛が揺らめき、マントのように羽織ったコートがなびく。

 それを見たオールマイトと出久は、驚愕して叫んだ。

「まさか!!」

「剣崎さん――!?」

「3年ぶりだな、出久君……随分と成長したじゃないか」

 剣崎刀真、雄英高校に降臨する。




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