剣崎刀真。その名前に、出久は目を見開いた。
オールマイトの口から、自らの恩人の名を聞くとは思ってなかったようだ。
「剣崎少年は個性を扱えない生徒…いわゆる無個性の少年だった。しかし彼は個性を持つ生徒達ですら圧倒する比類なき力で
「む、無個性……!?」
「無個性で
無個性は、社会的な面でハンデを背負うケースが多い。個性を持つことが常識となったこのヒーロー社会において、個性を持たない者は差別されたり見下される事もある。そして
しかし剣崎はその逆…無個性で
耳を疑うような内容に、生徒達は驚愕の表情を隠せないでいる。
「
ふとその時、八百万百が手を上げた。
どうやら質問があるようだ。
「どうした? 八百万少女」
「何故、
「――確かにその通りだ、八百万少女…だが、彼にはどうしても戦わねばならない理由があったのだ」
「理由……?」
「……ある悲劇に遭ってね……」
オールマイトは、剣崎の身に起きた悲劇を語り始めた。
彼の身に起きた悲劇…それは、
最愛の存在であり、かけがえのない居場所であった家族を失った剣崎は、その日から
「だから彼が掲げた目標は、〝全
剣崎は父の形見である日本刀と短刀を武器に、
街で
彼の悪者退治には、様々な評価がある。ある者は大いに支持し、ある者は恐怖すら覚えて非難し、ある者はその勇姿に羨望する。良くも悪くも、彼は当時のヒーロー社会に多大な影響を与えたのだ。
「だが当然、彼を恐れる
『……』
だが剣崎は、そんなオールマイトに匹敵するくらいに
「それ以来、
「ってことは……その剣崎って言う俺らの先輩は、
「そうだ。享年15歳――君達と同じ年頃で、剣崎少年は志半ばにその命を散らしたのだ」
オールマイトは呟いた。
あれほど正義感の強い少年はいなかったと。あれほど自分を傷つけ、
そんな中、麗日お茶子はオールマイトに質問した。
「剣崎さんは、生きていたらどうしてたんでしょうか……?」
「それは難しい質問だな、麗日少女……「死人に口なし」だ、彼は死んだのだから何も語らないのだ」
しかし少なくとも、剣崎はこれからも必要とされていただろう。
明日の正義を背負う
「以上が…己の信念と正義を貫いた剣崎少年の物語だ」
オールマイトの話を聞き、生徒達は複雑な表情を浮かべる。
皆、自分自身に問うているのだ。彼のように、自らが課した使命を果たすために
「……しかし、
突如、地獄の底から響くような声が響き渡った。
全身に鳥肌が立ち、思わずドアの方へ振り向く一同。
「少年は、人知れず蘇っていたのだ。それは、志半ばで散った彼の無念によってか……それとも今まで眠っていた〝個性〟が覚醒し、宿主の死に反応して再び生を与えたか――いずれにしろ、彼は生ける亡霊として蘇った」
声と足音、そして床を何かで突くような音が、ゆっくりと確実に教室へ近づいていく。
今まで感じたことの無い、得体の知れない不気味さを感じた生徒達は、喉仏を上下に動かした。しかしそんな中、出久だけは違った。
(この声って……!!)
出久は知っているのだ、この声の主を。その声の主とは、3年前に会っているからだ。
今でもはっきりと覚えている。おぞましい姿でありながら、
「16年の時を経て……少年は生前よりも遥かに強大な力を得て復活し、生ける亡霊として世に解き放たれた。そう、
そして教室の扉の前に異形の少年が現れ、刀身がボロボロになった刀をステッキのように突きながら、大股でゆっくりと歩いて教室に入った。
顔は傷だらけで、死人のように血の気が無い。風もないのに深緑の癖毛が揺らめき、マントのように羽織ったコートがなびく。
それを見たオールマイトと出久は、驚愕して叫んだ。
「まさか!!」
「剣崎さん――!?」
「3年ぶりだな、出久君……随分と成長したじゃないか」
剣崎刀真、雄英高校に降臨する。
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