エンジェェェェェル★スタァァァァァイル!   作:kurutoSP

9 / 12
もう分ったからという言葉は聞こえない。タイトルでもう分るかもしれないけど読んでください。

いろいろとifということでへ?と思うことはあるかとは思いますが最後までお読みください。


if イズク☆チェェェェェンジ!

 テレビをつけると必ず聞こえる声とはヒーローの活躍の声。

 

 「エンジェェェェェル☆スタァァァァァイル!」

 

 ヒーローはいつだって輝いている。

 

 その輝きに魅せられ、そして誰もがその輝きを自分に宿したい。自分もヒーローになりたいと思うことだろう。

 

 このヒーローという一昔前なら空想、妄想、夢の世界の職業が現実のものとなったこの時代ではその輝きはより一層人々を魅了した。

 

 だからであろう。ヒーローに魅せられてしまう人が、その憧れから、その憧れそのものになろうというのは何処も不自然なところはないであろう。

 

 そう、不自然なところはないはずである。

 

「エンジェェェェェル☆スタァァァァァイル!」

 

 だからであろう。人々が憧れ、マネをしたがるヒーローとはテレビ映りが良いヒーロー、メディアに良く取り上げられる知名度が高いヒーローであるのは明白である。

 

 そう、こんな当たり前なことは言わなくてもいいことなのかもしれないが大切なことなのでもう一度言う。

 

 テレビ映りと()()()()(変換ミスにあらず)である。

 

 さて、諸君、此処に一人の少年がいた。

 

 いや、少年だったである。もう既にその姿少年と呼ぶにはいささか精悍すぎる。

 

 その少年無個性ながら、誰よりもヒーローに憧れ、誰よりもヒーローたらんとしたその少年の名は縁谷出久。そう、このヒロアカの主人公である。

 

 彼はその心を、誰にも負けない、そして稀有な心を見込まれてオールマイトの力の継承者になった男である。

 

 継承した当時は彼の器はその力を受け入れるだけで精一杯だった。彼は少年のあどけなさを残しつつ、引き締まった肉体を手に入れてはいたが、オールマイトと比べればひょろりとした姿であった。

 

 しかし、そんな彼が一体何の因果か、仮免試験を受ける彼の姿は全くと言っていいほど別人だった。

 

 それは見た目が違うという単純なことではない。

 

 見た目は確かに変わっている。以前よりも体が引き締まり、制服の上からも筋肉の盛り上がりを確認できるが、その身長が変わったわけでも、その髪型が変わったわけでもない。だが。その表情には大きな違いがあった。しいて言うなら、漢であった。

 

 おどおどした雰囲気が無くなった彼はこの場で誰よりも自信に溢れた人間に見えなくもない。

 

 クラスメイトも彼の友人も、そして彼に惹かれていた少女はその変わりように、この試験会場に来る道中、騒がしいこのクラスが静かに会場入りしたくらいである。

 

 担任の相澤はこの事態に合理的だと思いながらも言い知れぬ不安感を抱き緑谷の姿を見ていた。

 

 しかし、誰もその違い、圧倒的致命的な違いに、その原因に気づくことは無く物語は進んでいくのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仮免許取得試験第一試験が開始されて、衝撃的アナウンスが二度され、試験が終了した。

 

 一つ目の衝撃的なアナウンスはとある風を操る夜嵐イサナの一度に120人脱落させたという離れ業である。

 

 ではもう一つはと言うと、それは衝撃的であることは間違いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 試験会場のとあるエリア、緑谷は既に一度被弾し後二回被弾すれば失格となる厳しい状況に置かれていた。

 

 ちなみに、一次試験は簡単に言えば、ターゲットの特定の部位三か所全部にボールを当て、二人脱落させたものから抜けるというモノである。

 

 だからこそ、最初に抜けた夜嵐イサナの為した120人の脱落者は異常である。何せボールは一人につき6つ携帯できる。そして彼が殲滅させた人数は120人。その場に会ったボールは単純に言えば720個であるが当てる箇所は360であることから、彼の操った風により投げられたボールは半分当たったということなのだからそのコントロールは恐ろしい。まさしく離れ業言える。

 

 さて、話は戻るが、彼は士傑高校の唇がプルっとした女性ケミィに死角からやられ、今も気配を隠した彼女を見つけられず、そして彼の個性は近接専用であり、状況打開に向いていない。

 

 ありていに言えば万事休すというところである。

 

 しかし、彼はここでこれ以上被弾することは無かった。

 

 何故ならば彼がヒーローだったからだ。

 

 そう、プルス・ウルトラである。

 

 更に向こうへ。

 

 彼は現状から一歩踏み出し、向こうの世界へと足をこの日踏み入れた。

 

 そう、彼は内気な自分とおさらばし、ありのままの自分をさらけ出し、その受け次し力の全てを開放する!

 

僕は、何時までもダメなデクじゃない!頑張れって感じのデクだ!

 

 彼の叫びは物理的に空間を震わせ、彼に被弾をさせた士傑高校のケミィに化けた渡我被身子は今まで見てきた彼とは異なる気配に驚き目を見開き、そして周囲で雄英狩りをするために協力していた他校の生徒を集める。

 

僕はヒーローになるんだ。これが今できる僕の最大限だぁぁぁぁ」

 

 彼の気迫が隙だらけの状態の彼への攻撃をためらわせる。

 

 彼は自分の限界を超える今この時今までのことを思い出してきた。

 

 彼はいつだって自分の無個性に、劣等感を感じていた。そしていつも自分をさらけ出すのに自身が持てず、そしてこの高校に入ったのも借り物の力、それも制御しきれない力は、彼の劣等感をそしてネガティブな心に拍車をかけてしまった。

 

 もちろん、全てにおいて劣等感を感じてきたわけではない。ヒーローに自分でもなれることは素直に嬉しかったし、その後の雄英に受かったことも、ヴィラン襲撃の時にオールマイトを助けられたのだって自信になった。そして自分がヒーローに一歩また一歩近づけてイケているのは幸せを感じていたともいえるであろう。

 

 だからこそ、他の人が自分の個性でヒーローを目指しているのに自分だけこんな事でいいのだろうか、ただ導かれるだけの自分でいいのだろうかとどうしても思わずにはいられなかった。

 

 だが、その心を何とかするすべはオールマイトになかったし、教師たちも相談されれば何とかするが、相談もされず、まだ入ってから数か月の生徒の異変など気づくのは難しいし、そもそも彼は少し暗く、不気味なところがあっただけに気づけるのは一年以上彼と一緒に訓練したオールマイトだけなのだが、彼はあまり教師に向いていない。

 

 だから、彼の心は強く固いが、脆いという側面が知れず知れず出来上がっていた。

 

 雄英に入った彼は様々な事件に会い、成長しつつも自分がオールマイトの力を受け継ぐに値するか悩み続け、そして何時もの様に彼は輝かしいヒーローの姿を見るのである。

 

 そこに自分にないモノ、自分がなるべき姿がきっとあるはずだと信じて、彼はテレビの前に座るのである。

 

 そして彼は衝撃を受けたのである。

 

 あの時自分たちを救い衝撃を与えたヒーローがその時映っていたのだ。

 

 そのヒーローの名はプリプリプリズナー。もはやヒーローと言えるのか分からない彼の姿に何故だか彼は目が離せない。

 

 その裸になるスタイル。どんな声にも恥じず、自分を貫く姿。そして自分を嘘偽りなく出しながらも犯人を捕まえるその姿に何故だか彼は魅かれたのだ。

 

 もちろん彼の理性は、これが正しくないことなど百も承知である。

 

 だが、人とは常に正しく生きることなど出来ない生き物である。ほんの些細なことで人生をガラリと豹変させてしまうモノだ。

 

 緑谷もこの例に漏れず、自分の信じるあまりに強すぎる正義の像は、オールマイトを見て作り上げたモノであり、その壁は彼には高すぎた。

 

 だからであろう。事件を解決しようが彼は自分の壁を越えた感じを強く得れない。

 

 そこに余計なモノを捨て去り、己が信念だけをひたすら見据え走り抜ける変態の姿は強烈にインパクトを残し、そして記憶の中にあった助けられたというただ字面だけの正しいという記憶が彼の心を揺さぶる。

 

 変態なのに正しい。犯罪者なのに正義を執行する。まさしく凄まじいギャップと何が正しいのか分からないそのヒーローの姿は間違いなく彼の心の闇を深くする。

 

「僕もこれだけ自分を貫けられたら」

 

 運の悪いことにこれからプリプリプリズナーの活躍は数日にわたり報道され、その凄まじい活躍と見るものに()()()が過ぎるダメージを与えるその姿は、彼の心に知らずのうちに染み渡る。

 

「僕もあんな風に」

 

 勘違いとは気づかなければ酷くなる。

 

 彼はひたすら己を磨いた。

 

 それはひと夏で完全に己の皮をむいたと言えるほどに彼はその筋肉を成長させた。

 

 憧れのヒーローオールマイトに近づくためにひたすら、ただひたすらその体を磨き上げ、彼の体はいつしか個性を100%使える体へと進化していた。

 

 ただ、彼は進化したはずだが、その力を使うことはできなかった。その力を使う代償が余りにデカく、彼は結局のところ不安のある拳を使わぬ足技に磨きをかけることになるが、それでも彼は不思議と不安を感じていなかった。

 

 彼は己の目標にたどり着いたからだ。自分のなりたいモノになる力を手に入れた。たとえそれが使えなくてもその事実が彼を変え、更なる飛躍を促した。

 

 それはこの仮免許試験でも言えることだ。

 

 付け焼刃ながら彼の振るう足技は地を砕き、空気を震わせ、その移動は目に追えぬ。

 

 そんな彼はその日々を思い出しつつも、自分のなりたいヒーローとは何かを思い出しつつ、隠れている敵、近づいている敵を見据え、その力を開放する。

 

「僕は!」

 

 筋肉が膨張する。その膨張率はすさまじく、彼の腕に付けていた補助や、その足のシューズが先ず耐え切れず、破壊音を周囲にまき散らす。 

 

 今の彼の姿は筋肉の鎧を纏う戦士。誰もその鎧を突破できる自分を想像できる物が居ないほどにそのスーツ越しに浮かび上がる筋肉は固くそして逞しく、圧倒的な力を感じさせる。

 

 そんな彼を固唾を呑んで見守ってきた受験生たちは更なる変化にもはや腰が引け、その足が一歩無意識に下がる。

 

 しかし、一旦そこでヒーロースーツをパツンパツンにしつつも筋肉の膨張が止まる。

 

『このスーツは母さんの思いが詰まっている』

 

 壊したくない。そんな気持ちが彼の筋肉を押しとどめる。だがそれでも彼はヒーローに、最高のヒーローになりたかった。

 

「プルス・ウルトラ!僕はヒーローになるんだ!」

 

 緑谷の更なる叫びに呼応して筋肉が脈動し始める。

 

『僕はこの壊れた右手に、この傷だらけの体を恥じない!すべて僕が頑張ってきた証!デクの証だ!何より、ヒーローが救うべきものを前に、壁を前に己可愛さに立ち止まることがあってはならない。真のヒーローに僕は、僕はなる』

 

「僕はデクだぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 新たなヒーローの産声が周囲に響き渡る。

 

 そして、スーツがはじけ飛び、筋肉の膨張によって生み出された衝撃波が周囲に土ぼこりを舞わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デク君の声があっちから」

 

「よし、近くにまだ仲間がいるのか!合流しよう」

 

 麗日お茶子と瀬呂範太は瓦礫の中を隠れながら近くの仲間と合流しようと周囲の様子を窺っていた時、聞きなれた声が聞こえたため、その方向に急いで向かう。

 

「デクの野郎、一人勝手に脱落してないよな!」

 

 走りつつ、叫ぶという危険極まりない行動をとったデクに瀬呂は言い知れぬ不安感を感じつつ、それを吹き飛ばすように軽口を叩きつつ彼の迂闊な行動に文句を垂れる。

 

「大丈夫だよ。デク君ならきっと大丈夫」

 

 瀬呂の此方を励ますつもりで言った言葉に彼女は何時もの様に返そうとして失敗し、声に不安がにじみ出てしまっていた。

 

 二人ともこの夏の間に代わってしまった彼の姿にどうしても何時もの彼の姿を結び付けられず、口を噤み走ることしかできなくなった。

 

 そして二人が現場に着いた時、言葉を失った。

 

 二人の目の前には訳の分からない物体の後ろ姿がうつっていた。

 

 いや、その筋肉に包まれた巨体こそ見たことがないが、その緑のモジャモジャ頭には見覚えがあった。

 

「「………………」」

 

 しかし、二人にはそれを見知っている人物と結び付けることはできなかったし、何より全裸でポージングしている変態を知り合いとは思いたくなく、その口は重く閉ざされる。

 

 声を掛けるのが怖い。

 

 この二人のみならず、周囲の皆がそう思った。

 

 しかし、時間は無情にも進む。

 

「これが、僕の全て」

 

 自信にあふれる声がやけに静かな空間に響く。

 

 周囲を見渡す彼はこの段階になり、二人を見つける。

 

 そして二人はその見覚えのある顔に硬直する。

 

 その顔は明らかにデクそのものだった。

 

 いや、それでも彼らはその顔が別人の可能性に欠けてじっくりと観察する。

 

 精悍な顔つきはモブそうな何時もの彼とは一線を画し、堀が深く、もう漫画がオールマイトと同じく違う状況になっていた。

 

『『あれはデクじゃない!………………ハズ』』

 

 だが、現実は残酷だ。

 

 二人の後ろに何も事情を知らぬ他校の生徒が忍び寄っていたのだ。

 

「危ない!」

 

 二人は視界から消えた変態に、あれは夢だったんだと一瞬思い込もうとし、肌に風があたり、背後から鈍い音がし、前方から変態の立っていた地面が砕ける音が何故か背後の音より後に聞こえた。

 

「大丈夫だった?瀬呂君にお茶子さん」

 

 何時ものデクの声が背後から聞こえる。

 

 二人は信じた。今まで見ていたのは不安が見せた幻覚で後ろにはいつもの彼がいるんだと信じ振り向く。が、その割に彼らの首はなかなか後ろを向かない。

 

 再度言おう。現実は残酷だ。

 

 少女は膝から崩れ落ち、淡い恋心が砕けるのと共にその体を地に伏せ、少年は余りに立派なそれと自分の息子を見比べ壮絶な敗北感を感じるとともに、その敗北感にただ目を向け、膝をつくことで知りたくもない事実を知ることを拒絶する。

 

 彼らの視線に入ったのは身長2メートルを優に超え、成人男性の胴回りと同じくらいぶっとい腕と足は圧倒的な力を感じさせ、その筋肉はグロテスクだった。

 

 顔が精悍になっているが、それでも緑谷ベースの顔である。

 

 何が言いたいのかと言うと、悲惨であるということだ。

 

「これで僕もオールマイトに近づけたかな」

 

 彼の独り言は誰にも聞こえない。

 

 いや、彼の声は決して静かな空間において周囲の人間に聞こえない声量ではなかった。では何故か?

 

 それは彼の呟きと共に連続して鳴り響く地面が砕ける音、風を切る鈍い音、そして肉を叩く音が余りも短い時間に連続して発生し、一つの音の塊となり、周囲を支配していたため誰の耳にも届かない。

 

 いや、届かないのではなく、誰も聞くことが出来ないが正しいのであろう。

 

 彼がぶれ、動きが止まって時には全ての人が宙を浮き、意識を刈り取られていた。

 

 ボールと人と粉塵に瓦礫が宙を舞う中、一人の全裸の男がポージングする。

 

 すべてが終わった。一切合切の()()()()()()()()()

 

 彼がその場を振り向き歩き出すと、宙を浮き止まっているかのように見えた物と人が落下をし始める。

 

「僕はヒーローデク」

 

 名を告げ去る彼は全裸でなければ決まっていた。

 

 そして驚愕の声がアナウンスから聞こえる。

 

「すッ凄い!50人を一瞬でダウンさせた!彼は何者だぁぁぁぁぁ」

 

 その声に彼は嬉しそうに顔を緩めると自分の服を拾おうとして、服を勢いに任せ破いてしまったことを今更ながら思い出し、母の思いが詰まった一品だけに破片だけでも回収しようとし、服を破ってしまった所に視線を向けて、固まる。

 

 別に服が無惨に壊れすぎ、見つけるのが不可能な事態になっていたのに愕然としたわけではない。だが、彼の動きは止まった。

 

「彼の名は緑谷い………………あれ?」

 

 アナウンスに戸惑いの声が響く。

 

 そして彼の視線は光輝く彼の服の一部。その光は三か所………………。

 

 そう、全てが既に()()()()()()()()

 

「えっと。失格者が一人出ました。………………はい」

 

 アナウンスは沈黙し、彼は崩れ落ちる。

 

 むなしい戦いであった。彼が吹き飛ばしたボールが偶然にも彼の………………。本当に空しい戦いである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 新たなヒーローの産声は難産の証だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「男の人って凄いんだ」

 

「びっくりしましたぁ~。でもなんだか胸がどきどきする」

 

 お茶子恋心が、トガは好奇心が、余りのショックに完全にこわれたが、同時にその心に空いた穴に深い闇が蝕み、開いてはいけない扉を開きつつあった。

 

 腐海は広くそしてその勢力は余りに強い。いずれこの世界も腐海に呑まれる日もそう近くないのかもしれない。

 

 ここも時期に腐海に沈む。

 

 プリプリプリズナーの正義はこの日芽吹き始めたのである。彼の正義が認められる日も近いのかもしれない。

 

 ………………腐ってやがる。

 

 

                       イズク☆チェェェェェンジ!<完>




イズクがもっと精神を病んでいたら、もし、心に隙があったら。そんなあり得ない物語。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。