エンジェェェェェル★スタァァァァァイル! 作:kurutoSP
「良い太陽だ」
久しぶりに外に出たプリプリプリズナーは眩しい太陽とアスファルトから立ち上がる熱気に、季節を感じていた。
「今日はどうしようか」
そんな彼の背後に、出所を見届けていた例の女看守は何かを手渡す。
「あっそうだ。あなたには囚人の更生を手伝ってもらっているお礼をしたかったんだ」
「礼などいらないさ。ヒーローとして当然のことをしたまでだ」
これがオールマイトあたりが言ったのであれば然りだろうが、ただ更生という名の調教しか行っていなかった彼が言うと途端にうすっペラく感じてしまうのはなぜだろうか。
全国のヒーローに謝ってもらいたい。
しかしこの場にいるのはどうしようもない変態二人である。
物事はいつもおかしな方向に転がるのである。
「まあ、いいからこれ」
押し付けるように紙袋を渡す彼女。
一応ヒーローである彼は他人からの善意を無碍に断れず受け取り、その場で中身を確認する。
そんな彼を横目に見ながら彼女は去り際に呟く。
「あっ関係ないけど、今年の海開きは温暖化の影響もあり例年より早く、今日らしいわよ。じゃあ、良い一日を、腐腐」
彼女が立ち去った後には紙袋から取り出したブーメランのあれを握りしめ、太陽を眩しそうに見つめていた。
「今年も夏が始まるか。そうだな、市民の安全のためにも見回るとしよう。うんうん、ヒーローとしてケシカランし、ん、危ない敵がいるかも知れないしな」
しの後に続く言葉が気になるが、彼は誰もいないのに何かに言い訳するように一人しゃべると、その場をスキップしながら立ち去るのである。
美しい砂浜で一人の男が囚人服のまま仁王立ちするさまは意外と海の男という雰囲気が漂い似合っていた。
囚人服を来ていることを除けば。
「今日も平和だ」
とてもヒーローとしては喜ばしいことなのに彼はとても悲しそうに言っていた。
「青い空、弾ける太陽、そして白い砂浜。ああ…」
彼はどこを見て青い空、弾ける太陽、白い砂浜などと言ったのであろうか?彼の視線は虚ろでその言葉が別の何かを指しているようにしか思えなかったが、彼はとにかく落ち込んでいた。
「誰もいない」
そう、彼は一人寂しく誰もいない場所をパトロールしているのである。
彼の目的が何だったかは想像に難くないが、ここではヒーロー活動を真面目にしている彼を立てて明言することを避けるとして、普通に考えたらこのように誰もいない海も珍しい。
だが、これは何も珍しいことではない。
少し離れた海では人が年々増加しているのだから。
まあ、当たり前な話ではあるが、誰も猛獣の住処で泳ぎたくないということだ。
この海水浴場が賑わうのは最近では彼が牢にいる間だけだ。
後は女性が子供連れでとか友達で来るくらいなものだ。絶対に彼氏とは行かないし、行けない。
とにかく、物凄く期待していただけに彼は物凄く落ち込みつつ、犯罪情報を調べ、近くの犯人を捕らえに行く。
因みに誰もいないと言ったが、元気なおばあさんが水着姿で日光浴をしていた。まあ、本当にどうでもいいことだが、訂正を入れておく。
所変わって、ある海岸、ここは不法投棄されたゴミが溢れかえり、もう砂浜など殆ど見えない場所に一人の少年が疲労困憊な様子で海を泳いでいた。
『後どのくらいだろう?意識が』
意識朦朧として溺れるようにして泳ぐ彼は、この「僕のヒーローアカデミア」の主人公緑谷出久である。
彼はヒーローの中のヒーローオールマイトに見出され、彼の指示の元ヒーロー修行に明け暮れているのである。
今回のこれも、浜辺のゴミ掃除と並行して体を鍛える目的として彼は泳いでいた。
そんな彼だが、既に限界なのか、泳いでいるのか溺れているのか傍目にはわからない状況になっていた。ちなみに、一応前には進んでいるので泳いでいると言えるはずだ。
もちろんそんなギリギリな状況を放置すれば危ういが、ここには彼のコーチたるオールマイトとが見守っている。
彼はそろそろ泳ぐのをやめるように指示しようと声を出そうとして、必死になって泳ぐ彼に声が届くのか不安になり、直接海に入って彼を止めようと、骸骨の体のまま海に入る。
だが、ここで問題が生じる。
傍目から見るとこの状況は痩せた男が溺れている子供を助けようとしているように見えなくもない。そしてもし常識を持つ人間なら二次災害を恐れ、他に助けを呼ぼうとする。
つまるところ、その現場を偶然にも見たプリプリプリズナーは海、溺れ、助けが不安、救助、
オールマイトはサクッと彼を海から上げようと皆がよく知るヒーローとしてのオールマイトになろうとした。
「ここは俺に任せて」
しかし、変身は第三者に見られるわけにはいかない。
背後から聞こえた声に変身するのを止め、事の成り行きを見守ることにする。
彼はこの判断を後に後悔する。
「今こそぷりぷりプリズナーの真夏のエンジェルスタイルを見せる時!」
彼は天高く跳躍する。
「エンジェぇぇェル☆スタァァァァァイル(真夏ver)」
そこにいつもと変わらぬ彼がいた。いや、同じではない。彼は裸ではないのだ!そして公序良俗を反してもいない!海だから。
彼は今、ブーメラン水着を装着して輝いている!
突然の自体にオールマイトはただ見守るだけである。
「いま人工呼吸をぉぉぉぉ」
ドボン、ともザバンとも言い難い大きな音を立て、海面を荒立てる彼は、必死に泳ぐ緑谷にトドメを刺した。
「大変!沈む」
彼は慌てて助けに行き、海中から緑谷を救い出す。
「エンジェぇぇェル☆スカァァァァァァイ!」
そして緑谷は空を飛ぶ。お約束の水着ポロリをして裸で空を飛ぶ。
「…………はっ!まずい」
オールマイトは彼が見ていないことと、その他に視線がないことを確認して落下する縁谷を全力で助けに行く。
「エンジェぇぇぇぇル☆ダァッシュ!」
彼は今、物理法則の壁を破り、その巨体で海を走る。泳ぐのではなく走るのである。
そしてオールマイトより先に落下地点に入ると、両腕を広げ彼を迎え入れる体勢を整えているのだが、彼の息子も体勢をしっかり整えているさまに最早、公序良俗という言葉はかすみゆく定めなのだろう。
そんな明らかな変質者を平和の象徴が逃すはずもなく。
オールマイトの拳は彼の体にあたりその体を吹き飛ばし、緑谷をあらゆる面から救出する。
一方、彼はといううと、握りしめたものを見て、そしてその持ち主の立派なものを見て幸せそうに昇天するのだった。
本日二度目のポロリは中々価値の高いものだった。
こうして夏の一日が終わり。少年がスカートめくりを経ておとなになるように、ポロリを期待し、性心ともに成長するのが男の定めであるならば、ポロリを体験した緑谷出久はこの日確かに大人の階段を登ったのかもしれない。
一歩間違えれば転げ落ちるように転落したかもしれないが、こうして何事にも負けぬ強い精神が養われてヒーローとは誕生するものなのであろう。
ほら!水着もポロリもやつじゃない!作者嘘つかない
誤字報告に、感想ありがとうございました。