エンジェェェェェル★スタァァァァァイル! 作:kurutoSP
ここはとある監獄、そこに一人の女性看守と牢屋の中の大男が鉄格子越しに何故かお茶をしていた。
「はあ」
「どうしたのかしら?元気がないわね」
彼女はけだるげにため息を吐くプリプリプリズナーを見て、心配そうに空になったコップに紅茶を注ぐ。
「ええ、最近悩んでいて」
「悩み?」
彼の全身を、特に筋肉を眺めながら彼女はしばらく思案する。
「…………、そう言えば新しい凶悪犯罪者がここ最近はぶちこまれないわね」
牢屋に死屍累々と無造作に横たわっている囚人を見て彼女は納得したように頷き、頬に手を当て、ため息を吐く。
「一応あなたはヒーローなのだから、極悪犯が外にいない平和を喜んだらどうなの。確かに最近同じ絵で今一つな感じだけど、毎日代わる代わるの5人体制のハーレムなのだからそのくらい我慢したらどう?」
「それもあるけど違う」
「ん?じゃあ、分からないわね。何について悩んでいるの?」
彼は少しだけ逡巡したが、いろいろ融通利かしてくれている彼女に話さないのは同じ腐海に住むものとして裏切りだと感じ口を開く。
「最近、脱いでも何も感じないんだ」
頭を抱えて彼は己の性癖をいきなり暴露する。
「そっ!それは重症ね」
「ああ、昔はよかった。脱ぐたびに集まる男たちの視線。そして、強敵に対して解放される己を十分に感じてきていた。だが、最近はどうだ。脱いで殴って終わってしまう。それどころか変身を披露する前に敵が降参してしまうこともある。私は強くなり過ぎたのだろうか。そして私の変身はもうこれ以上成長しないことに対して、私が行き詰まりを感じているせいなのだろうか」
重苦しくなる空気に、彼女はコップをそっと置くと、その手を握るとプリプリプリズナーの顔面に向けて拳をぶつける。
「何を言っている!あなたは、貴方は己の裸に誇りを持っていないの。貴方の筋肉に限界があると信じているの!あなたは男たちの熱き思いを無下にするつもり!」
「そっそんなことは無い!俺はいつだって己を信じてきた!」
「じゃあ、何でそんなくだらないことを言うの!あなたは何なの」
胸倉をつかまれ鉄格子越しに濡れた瞳がプリプリプリズナーの目を睨む。
「俺はプリプリプリズナー。世界中の男を守るヒーローだ」
「違う!」
彼女は叫ぶ。その声は牢屋にも聞こえ、囚人たちが二人に注目する。
「違うでしょ!あなたはそんな肩書のために脱いできたの!そんなに世間の目が気になるの!おかしいじゃない。全てを開放するあなたの変身は神々しいわ。でもそれはあなたが何物をも気にしない、その己を全て開放することによって生まれる美なのよ。なのにそんな誇りあるあなたの変身は、貴方の筋肉は、貴方の裸はそんな世間の目を気にした着飾ったモノのためにあったのかって聞いているのよ!」
明らかに違う!そう叫びたい囚人だが、腐ったドSに目を付けられたくないから固唾を呑んで事の成り行きを見守る囚人たち。
「…………っ!」
彼は息を呑む。
『『『何故息を呑む!!!』』』
お願いだそれ以上その変態を壊さないでくれ、一心に願い見守る囚人は、嫌な予感がしつつも心の中で突っ込むだけで、口にはしない。
囚人たちの心など知らぬ彼は、天を仰ぎ見て、そして目を閉じ、その目を再度開けた時にはそこには漢がいた。
その目を見た彼女は彼の胸倉から手を離す。
「もう一度聞く。貴方は何者?」
「俺は……」
彼は覚悟を決めたが、それをいざ言うとなるとその口はどもる。だが、彼は自分を見る視線を感じ、周りを見る。
彼の視線の先には彼をじっと見つめる囚人たち、彼が作り上げた夢の楽園の住人たちが彼を信じるかのように見ている。
それを見た彼は勇気をもらい、もう迷わない。
「俺は世界中の男を守るヒーローだ」
同じ言葉を言った彼に、彼女は目を吊り上げる。
「何を言っている!」
囚人はホッとした。まだヒーローと言う枷が、理性の枷が残っていたことに。
「だが!同時に俺は世界中の男に俺の素晴らしさを、このピュアな心を伝えるんだ。俺は男のための愛の伝道師、天使の中の天使プリプリプリズナーだ!」
彼は今度こそ迷わない。自分のスタイルを貫けていなかったのだと気づいてしまったから、彼はもうためらわない。
「これが俺だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!変身」
神々しい光が薄暗い牢屋をあまねく照らし、影を駆逐する。
「エボリューション!
エンジェェェェェル☆スタァァァァァイル
(Ver.2モザイクの解放)」
そこにはすべてを開放し、更なる高みへと昇ったプリプリプリズナー全てをさらけ出し、何も隠されることのない生まれた姿がそこにある。
「そうよ。それでこそ、それでこそR18の高みに行くことが出来るのよ」
囚人たちはその姿を見ることが出来ない。神々しいとかそんな次元の話ではない。そう、言うならば生々しい、そしてグロテスクである。
「ああ、感じる。今まで感じてきたことのないこの解放感。誰にも憚れることなく、己の全てを開放している感覚」
目を閉じ、その両腕を広げ、何一つ隠すことをしない。
「俺は今、進化した!感じる。今まで感じたことのない力を」
彼は既に立っていた(意味深)。
「これがフルパワー。俺の真の姿」
感動に震え、その両手のひらをまじまじと見つめると、拳を作り、そして開く。
「ええ、貴方はようやく真の姿を取り戻したの。脱げば脱ぐほど強くなる。貴方が今までつけていたそのモザイク。最後のツマラナイ倫理を脱ぎ捨てたあなただからこそたどり着ける境地!尊い」
「ありがとう。あなたのおかげだ」
「いえ、貴方なら、きっとその境地にいずれ至っていたわ。毎日、極悪犯と裸で新技を生み出し続けるあなたならきっと!」
「それでもだ!何かお礼がしたいんだ」
「でっでも」
「お願いだ」
「そこまで言うなら…腐腐」
感動のシーンポイモノがいきなり終わり、囚人たちの背筋におぞけが走った。
このままではまずい。誰もが思ったが、誰も行動に移せるはずもなく。
「この薄い本の回転や、高速技、空中体技を見してくれるだけでいいから」
「「「あっあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
この日、監獄から悪の芽が摘まれた(意味深)。