エンジェェェェェル★スタァァァァァイル!   作:kurutoSP

3 / 12
禁断の果実 アダムとイヴは人になりました。では彼は?

 ヘドロ事件以降、爆豪勝己は友達との付き合いが悪くなっていた。

 それは、自分が見捨てられたのもあるが、雄英高校に入り、自分がNO.1ヒーローになるために必要なことを理解し、バカ騒ぎをするのを止めたからである。

 

 実際のところ、人間の本質はそう簡単に変わりはしないが、表面上は大人しくなり、彼にいじめられる側だった緑谷はホッとしていた。だが、同時に幼馴染がそう簡単に大人しくなる玉じゃないことを知っている緑谷からしてみればそれがもう一か月以上続いているのが不思議であった。

 

 事実は小説よりも奇なりというが、爆豪は新たなトラウマを手に入れたが、それによりはるか過去に似たような目にあっていたことを思い出し、トラウマが拭えなくなり、さほど離れていない市でプリプリプリズナーが活動している情報が頻繁に流れてくるからだ。

 

 爆豪は帰りに緑谷をひと睨みすると、さっさと帰宅するのであった。睨まれた緑谷はビビりながらも、以前こんなことが無かったかとデジャブを感じながら、オールマイトとの訓練に向かい、疲労困憊しながら家に帰り、そのままごはんを食べて、風呂にでも入ろうかと思っていたところにテレビのニュースが飛び込んできた。

 

 それはヴィランが暴れて大量のけが人が出たとかという大事件でもなんでもなく、ヒーローが出なくても警察でどうにかなるレベルの出来事だったが、その場所とその内容に彼は何か引っかかりを覚え、食卓に向かう足を止め、テレビを見るのである。

 

 テレビが報道する地方欄のニュースは小さな丘の小川で起きた事件とされ、そこは子供が良く遊びに来たり、軽い近道で通ったりと自然豊かな公園扱いの場所であり、緑谷も爆豪達と一緒に遊んだことがある場所であった。

 

 そこで起きた事件とは、小学生低学年の女子生徒に対し、恥部を露出する露出狂が現れたというモノで、さらに少女たちの証言が流され、どうやら犯人が小児性愛者であることも判明し、近くの小学生に集団下校を呼びかけるとともに、情報提供を促していた。

 

 それをじっと見ていた緑谷は自身の記憶の蓋がはがれ、封印していた物が溢れ出し、己が体を這いずり回る感覚を覚えた。

 

「あっ!…………ウプ。思い出した!」

 

 激しい運動の後であり、強い吐き気を感じたが、幸い食事の前であったため、被害は出なかった。

 

「僕とかっちゃんは彼に一度会っている!」

 

 夏のある日を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 それは太陽が昇り、アスファルトの上は灼熱となるほどの快晴であり、公園よりも木陰が多いその丘に緑屋は爆豪と来ていた。この時、他の友人達は計画性の無さからか、夏休みの宿題が終わらずに家に籠っていた。

 

 二人は小川まで行ったが、その様子は幼馴染の友達という光景には見えず、爆豪が先頭を歩きその後ろをおどおどと歩く緑谷の姿はどちらかと言えば主人と下僕の関係性にしか見えなかった。

 

 しかしそれも仕方ないだろう、彼等は小学一年生であるが、そのスペックには天と地ほどの差が存在していた。

 

 この年代の子供たちにとって運動能力が高いことや頭がいいことなど、何かに秀でていることは尊敬の対象になる。それは大人でも同じだが、より一層その傾向があり、また影響を受けやすい。なので、爆豪はその頭脳、その身体能力、そして爆破という派手で攻撃力の高い個性は、子供たちの憧れのヒーローという職業に最適であり、特に悪をやっつけるヒーローに憧れる子供が多いだけに彼が自信と同時に高い自尊心を持つのも当然であり、逆に幼馴染の緑谷は全て人並みで無個性となると、その扱いがどうなるかは自明である。

 

 どんどん進み余り人が来ない静かな場所まで二人は来ていた。

 

 緑谷はその当時から、学校のテストではあまり役には立たない技能だが、その高い分析力と早い論理展開が出来、それでいて爆豪はに劣りこそすれど頭も悪くなく、慎重な性格をしていたため、

 

「かっちゃん。ここは最近変な人が出るって言われてるし、此処に入らない方がいいんじゃな……」

 

 おどおどしながらも爆豪を心配して声を掛けるが、それを聞いた爆豪は無個性で自分よりも弱い人間に心配されたことにムカつき、同時に強い自尊心と個性から来る自身により、自分が変質者如きに負けるはずがナイト思っていたため、自分かいるかどうかも分からない人間よりも弱いと言われた気がして、

 

「ああん!デクのくせに何言ってんだ。んなもん一発でこうだ!」

 

 爆豪の両手から爆風が生じ後ろにいた緑谷を軽く吹き飛ばした。

 

 その様子を見て満足した爆豪はそのまま緑谷に近づき、

 

「ここで、練習でもすっか」

 

 緑谷の顔の前で手のひらと拳をぶつけ、そこに軽い爆発を起こしながら笑顔で言う爆豪を見た緑谷の顔は恐怖を浮かべていた。

 

 更に心が満たされた感じがした爆豪は実際に行動に移ろうとして、彼の鋭い直感は違和感を覚えた。デクの様子がいつもと違うのだ。

 

 いつもは足腰が震えているが、それでもデクが自分にビビることがあれど恐怖することが無かったのを思い出し、そしてデクが自分の後ろを指しているのに気づいた彼は後ろを向いてしまった。

 

「いじめは駄目だぞ♥」

 

 ガタイの良い大男がパンツ一丁で川の中から這い出て来ているところだった。その髪は濡れており顔は分からないだけに余計不気味であった。

 

 そんな明らかに不審者な姿に言葉が出なかった爆豪だが、緑谷の言葉を思い出し、

 

「変質者に言われるいわれはねーんだよ!」

 

 その両手を顔に着け吹き飛ばした。

 

 ここでも、彼の天才的センスが光り、通常なら個性が発言したばかりの子供がそれを上手に扱うのは難しいはずなのだが、彼はそれを使えるだけでなく、応用もできたのだ。つまり、彼は両手をブースター代わりにして身長差を埋めて届かぬ攻撃を当てたのだ。

 

 しかし、それをまじかで見ていた緑谷は個性の無断使用に、人に使ったことで怒られたらどうしようと考え、敵をやっつけて自慢げな幼馴染に忠告しようとして、爆破により生じた煙の中に影が見えて硬直した。

 

「ひゃ!」

 

「あん!」

 

「かっかっちゃん」

 

「何だ、デク!」

 

 意味不明なデクの言動にイラつく爆豪はデクの胸倉をつかもうとして、後ろから抱きすくめられた。

 

「駄目じゃないかボク。暴力はいけないと習わんかったのかい」

 

 髪が爆風で巻き上げられ、青髭のないプリプリプリズナーの顔がそこにはあり、それはかっこいいと称しても良いのだが、その顔は少年の隣にセットされており、息は荒く、その頬を染めているのを見ると、誰もがチェンジを要求するだろう。

 

 たくましい腕と大胸筋に挟まれた爆豪は一撃で仕留められなかったことに驚愕していたが、直ぐに持ち直し、追加の一撃を食らわせようと体を捻りその手を振り上げたが、急に彼の視界は塞がれ息が出来なくなった。

 

 いや、これは語弊があろう。正確には何かに顔が密着し汗のにおいがいっぱいに広がる空気を吸い込むのに嫌悪感が出たため呼吸ができないが正しいであろう。

 

「しょt……少年が非行に走るのは母の愛、父の愛が足りないからだと言われている」

 

 彼は捕まえた少年のつむじを見ながら聞かせるようにしゃべり、更に強く抱きしめる。

 

「むぅぅぅぅぅぅぅ」

 

「だから、足りない愛を私が授けよう。」

 

 そうすると、彼は息を吸い込み、

 

「父の愛」

 

「むがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 おもいッきし、その大胸筋を脈動させながら爆豪の顔をπ(ちち)の間に押し込み抱きしめる。

 

 果たしてそこに愛があるのだろうか?

 

「そしてこれが、母の愛だぁぁぁぁぁぁぁエンジェェェェェル☆ハグ

 

「…………………」

 

 緑谷は変質者の背中から天使の羽が出たように思えたが、すぐにそれが見間違えであったと認識する。

 

 なぜなら、変質者の胸の谷間から救い出された幼馴染が慈愛の眼差しを向ける変態に母親が子供を抱きかかえるようにして肩に爆豪の顔を乗せたが、その抱きしめでは幼馴染の体からなってはいけない音が鳴り、何時も強気な彼が白目をむくというあり得ないことが起きており、その行いはどう見ても母の愛というよりも、鞭であり、拷問にしか見えなかった。

 

 この光景をもし大人がみたら、天使とは何であろうかと考えるであろう。少なくとも救済者ではないことは確かであろう。

 

「かっちゃん………」

 

 恐怖で一歩も動けなかった彼はそれでも手を伸ばそうとする。

 

 しかし、その手は届くことは決してなく、変質者はそのまま爆豪を抱きしめたまま緑谷に近づき、優しく草の上に幼馴染を下した。

 

 降ろされてすぐに緑谷は恐怖を押し隠し、もしもの時のために持たされていた防犯ブザーを構えつつ、苦悶の表情で意識を失い、うめき声を発する幼馴染の前に立った。

 

「安心しなぼうや。君の友達はきっと正しき心を取り戻したはずさ」

 

「……」

 

 近寄ろうとする彼を防犯ブザーを突きつけることにより止めた緑谷だったが、その内面はもういっぱいいっぱいであった。

 

 そして、正義を執行したと思っている彼はなぜ自分が怖がられているのか分からず首をひねっていたが、何かに気づき、

 

「そうか、すまなかった」

 

 彼は謝罪をしながら、下半身のパンツをどうやったのか不明だが、弾き飛ばした。

 

 そこに広がる余りの光景に幼い緑谷少年は耐え切れず、張り詰めていた緊張の糸が切れ、倒れ伏した。

 

「これでいいだろう…………?」

 

 そしていきなりとんでもないことを行った男はと言うと、無邪気に寝ている?少年二人を見て、手を震わせながら少しずつ距離を詰めていき、もう少しでその青すぎる果実を手中に収められるところまできて、その手が止まった。

 

 ここで、二人にとっては幸運な出来事が起きる。

 

 彼はその禁断の果実を見て、食べてみたい欲求と禁忌を犯すことの重大さを秤にかけ、悩んでいたのだ。

 

 そして、僅かに理性が打ち勝つという、もう二度と起こることのないであろう奇跡が起き、彼等の貞操が守られたのである。

 

「私はヒーロー。全ての男子の笑顔を守るモノ」

 

 彼は颯爽と去って行く。二人にトラウマと記憶障害を残して…………。

 

 

 

 

 

 

 記憶を取り戻した緑谷は尻に手を当て、

 

「大丈夫だったんだよね…………」

 

 震えながら呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 一方、雄英高校に受かるために猛特訓と猛勉強をこなす緑谷と違い、爆豪の友人二人は安全圏の高校を志望校として、余裕をもっているため、太陽が沈んでいるが家に帰らずにゲーセンで遊んでいた。

 

「はぁ、最近爆豪の奴付き合い悪いな」

 

「仕方ねぇだろ。あいつ、雄英高校志望していて、内申が大切だからよ」

 

 対戦ゲームをしながら遊んでいた二人だが、金が無くなると、

 

「どうする。もう金がねぇぜ」

 

「爆豪がいりゃあ楽なんだがどうする?」

 

「適当に一人の奴に狙い定めて巻き上げようぜ。相手を間違えなければ大丈夫だよ」

 

 二人はあくどいことを考え、それを実行するために一時ゲーセンを出て、通りの人間を細い路地から観察し、そしてちょうどよいカモを見つけ、二人で路地に引っ張り込み脅迫する。

 

「俺ら金なくて困ってんだ。金かしてくんない?」

 

「えっ!でも」

 

「ちょっとでいいからさ~」

 

 連れ込まれたのは中学生になりたての気の弱そうな男の子であり、何とか否定の言葉を出そうとするが、もう一人が壁を手で思いッきり叩きつけた音に驚き、恐怖して動けなくなった。

 二人は少年がカバンに手を突っ込んだのを見て顔に笑顔を浮かべたが、

 

「待ちな!」

 

「うっせ!出すもん出せって言ってるだけだよ!」

 

「だすモノ?…………ふん!」

 

「ぴゃ!」

 

「「…………?」」

 

 二人はカツアゲをされる側の少年がいきなり今まで以上に震えだしたのに疑問を抱き、そして後ろから声が聞こえたことに気づき、ゆっくりと後ろを振り向くと、そこには身長二メートルをこす巨漢が何故か裸でその全身の筋肉美を強調させるように立っていた。

 

「「……何故に裸?」」

 

「だすモノ出せって言ったのはあなた達じゃない♥」

 

「「ひっ!」」

 

「私は知っている。あなた達の腐った性根を正すのは努力や友情ではない。それは愛!」

 

 二人は良くないことが起きようとしているのを本能的に感じあとずさり逃げようとしたが、そこはもともと少年を追いつめるために行き止まりまで連れて行っていたため逃げ場など存在しなかった。

 

「あなた達に私の愛を、パトスを注ぎ込んであげるわ」

 

 彼は犯罪者には何をしてもいいと考えるようになったため、それが例え青い禁忌の果実であろうが迷わず食べられるようになったのだ。つまり、

 

だきしめてあげるぅぅぅぅぅぅぅ!

 

「「ひっ!」」

 

「こんなチャンス滅多にないわぁぁぁぁぁぁ。少年は全て少年院に行って抱けないんだものぉぉぉぉぉぉ」

 

「「たったすけてぇぇぇぇぇぇぇ、ひっひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」

 

 木から落ちた果実は後は腐っていくだけ、彼等の明日は果たしてくるのだろうか?

 そして、一度味をしめたモノはその味を忘れられない、坂を転がりだしたボールが止まらないように、

 

「たっ助けてくださってあっありがとうございます。でっでは」

 

逃がさない

 

「ぼっ僕も!」

 

 そう、木に生った果実だろうがその手に届くならば落とされ食われるのみ。

 

「ぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 彼は今日も平和のために愛をばらまき布教をする伝道師となり、悪を調きょ………更生をなすのであった。




 おまけ

 友の誘いを断り部屋に戻った爆豪は、母の晩飯が出来たことを知らせる声に荒々しく扉を開け食卓に向かうことで返答をし、席に座り置いてある飯を口に放り込んだ。

 その様子を母親は注意するが、彼はその小言を無視して、いや、それよりもテレビでやっている露出狂の話題に目が離せなくなっていた。

 彼も緑谷同様に思い出していた。

 そして彼はその当時のことを思い出したのか、

「あの野郎、ぜっていぶっ殺す!」

 手のひらで爆発を無意識に起こしながら宣言するが、まさかその憎い変態が自分の住んでいる市で自分の友達を開発しているなど夢にも思わないであろう。

「何やってんだ!」

 更に進むニュースにイライラがマックスになり吹き飛ばしてしまおうと考えていた彼の顔にしゃもじが突き刺さり沈黙させる。

 彼の無意識の爆発で母親が作った飯と食器が壊れたのである。

 普段の彼なら、そこら辺の計算は上手くでき、悪党ながら法律に触れたり、相手のギリギリを見極めるのが上手いためこんなことは起こらないのだが、あまりにあまりな記憶を思い出した彼はセーブを忘れてしまったのだ。

 彼は居ても居なくてもその強烈な存在感は一度でも会えば拭えるものではない。これほど傍迷惑なヒーローはいないであろう。

 哀れ爆豪、自身の飯を自分で爆破しただけでなく母に渾身の一撃をくらい意識を絶つのと同時にその夜は飯を絶つこととなった。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。