エンジェェェェェル★スタァァァァァイル!   作:kurutoSP

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彼は地獄を天国に変える天使になる

 彼は正義を求める声に応じいつでもどこでも、それが例えトイレの中であろうと彼の気にいる美少ね………あまねく弱者の下に駆け寄る。

 

 彼のヒーローとしての在り方は異質であり、世間に影響を与え、流行語大賞に変身がノミネートされたほどだ。

 

 しかし、彼のヒーローコスチュームは異端というかそもそもコスチュームを着ていない……いや、世間では獄中服が彼のコスチュームとして認識されており、彼もそれをきてよく活動した。

 

 なぜ、ヒーローとは正反対の服装でヒーロー活動をしているのかと言えば、彼が刑務所にいるからとしか言いようがない。

 

 先ずもって、最初の事件の時に公然わいせつを平然と行ったことから既に彼は犯罪者であり、碌なヒーロー活動もしていないので経済力が皆無な人間に罰金は払えず、刑務所に入る他なく。ヒーローが過剰に暴力を振るうことや周りのモノを破壊してしまって訴えられることはあれど、ほぼヒーロー活動とは無縁の罪状でヒーロー活動中に捕まったのは彼が初めてだろう。

 

 だが、昔ならあり得なかっただろうがこのヴィランがあふれる世の中で単なる軽犯罪を犯した者に個室の牢獄など与える余裕などない刑務所は複数人が生活できる雑居房に彼を入れた。

 

 それもそうだろう、たった数日の拘束期間しかないのだから、彼等の判断は普通は間違っていないだろうし、雑居房に入れられる人間のほどんどが個性がないか、それが他人に影響をほぼ与えない、破壊力のないものがいれられるのであり、そんな囚人たちがガタイの良い彼と喧嘩など起こすはずもなく、さらに言えば犯罪者とは言え彼もヒーローなのだから雑居房にいる囚人たちも大人しくなり、仕事が減るかもしれないと考えて、彼をそこに送った。

 

 この時の警察側は良かれと思いした行動であったが、後にこれがプリプリプリズナーを覚醒させる要因になるとは思ってもみなかっただろう。

 

 事件が、雑居房にいた囚人たちにとっての地獄が始まったのは彼が来た晩のことである。

 

 

 

 

 

「ここが、拘束期間の5日間世話になる場所だ。飯は朝昼晩の三回、決められた時間内なら、館内の一部ではあるが出歩くことを許されている。ここの部屋だ。ついでにここでもヒーロー活動してくれれば仕事が減って楽なんだがなっと、すまない、愚痴をこぼしてしまった」

 

「……!」

 

 彼を案内した警官はこの雑居房の中で最も問題を犯しているグループに割り当て、そこに入るのを確認したら、鍵をかけて出ていった。

 

 ちなみに、刑が軽いのはヒーロー活動として一応人命救助に、人質の奪取、犯人の逮捕をこなしたため、減刑されているのと、この個性が当たり前のこのご時世では軽犯罪者を長く拘束するのが大変であり、初犯であれば刑が軽くなっているためである。

 

 ここで、女性と男性とを分け、更に個性の能力で分けたりと、警察関係者の仕事は多い、だが、世間ではヴィラン受け取り係と揶揄され、ヒーローになる人間ばかりで人が足りない現状ではその内面まで見て、そして逐一監視していることなど不可能なのだから、この後の悲劇を警察のせいにするのは酷なのかもしれない。

 

 なので、彼は五人の性悪な青年のいる中に放り込まれたのである。ちなみに若い人間の方が実際問題を起こすケースが多いのでこれは必然であろう。

 

 ここで、教訓として言えることはオオカミとヒツジは一緒に飼ってはいけないということだろうか。もちろんどちらがどちらかというのは言う意味が無いことであろう。そしてもう一つ、力なき正義は正義にあらずとはよく言う言い回しであろう。だがここでは力なき悪もまた悪足りえないという他ない。

 

 

 

 

 

 部屋に入ってきた彼を五人の囚人は睨みつける。そこには入ってきた新人をどうするかを考えているのが丸わかりな目をしていた。

 

 その目を見て……いや彼が見ていたのは彼等の顔だが、彼はボソリと、

 

いい♥

 

 しかし、彼等にそんな不吉な言葉は届いておらず、逆に彼が一人一人の顔をじっと見ていたのをガンつけられたと勘違いし、彼等のリーダー格の一人が不用意に彼に近づいた。

 

「何ガン飛ばしたんだよ!」

 

 リーダーは右手を突き出し彼の胸を強く押した。ちなみにだがリーダーの体はよく鍛えられ、引き締まっていたと追記しておこう。

 

 その手は彼の身長差の関係より左胸に当たったが、かなりの力で押したのにビクともしなかったのにリーダーは驚き硬直した。

 

 一方、普通の人なら、腰を地面に付け、胸にかかった衝撃によりむせ込んでもおかしくないのだが、彼はリーダーの手を掴むと頬を染め、

 

「気持ちイイ。大胆なのね」

 

 バチン

 

 そんな音がしそうなウインクを送ると彼のたくましい腕と比べられると細く見えるリーダーの腕を引っ張りその大胸筋へと誘う。盛り上がった彼の筋肉はさながらπ(パイ)のようであるがそれに包まれた彼が至福を感じたかは定かではない。ただ言えることとして、彼が安らかに眠ったとは思えない形相で何も言う間もなく旅立ってしまったことは確かであろう。

 

「うふ♥可愛い寝顔、食べちゃいたい」

 

 この時、リーダーは気を失っていて幸せだったであろう。いや、気を失っていなければ抵抗し万が一にも助かったかもしれないだけに不幸だったのかもしれない。とにかく、天敵の前で自らを差し出す獲物がどうなるかは想像に難くないことは確かであり、

 

 ブチュゥゥゥゥゥゥゥ……ジュバ……フゥ

 

 一般人にはこの世に此処まで不愉快なラブシーンはないであろうと確信できる眠り姫を起こす暑いベーゼ(※誤字にあらず)を行う現場を見ればどうなるか。

 

「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」

 

「「おぼろろろろろろろ」」

 

 二人は信じられないものをその目に焼き付けられ、のけ反り絶叫し、残りの二人は脳が拒絶をし、彼等の口がマーライオンと化す。

 

 ここで、警察所であろうが拘置所であろうが人を管理する場所には必ず監視者が存在する。なのでいくら人材不足でも、杜撰な管理で被害が大きくなるのは警察組織として本末転倒であるため、彼がいる場所にももちろん一人とは言え看守が存在する。

 

 つまり、ここで大の大人二人の絶叫という明らかに異常が発生していれば駆け付けに見に行くのは当然の行為であり、()()は悲惨な光景を見ることになる。

 

 

 

 

 

 きゃぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ♥

 

 彼が入った雑居房で阿鼻叫喚の地獄絵図と化していたところに女性の叫び声が聞こえ全員がそちらを向いた。

 

 そこには女性看守がケータイを構え何やらボタンを押している姿が見えた。

 

 ……何かがおかしい。

 

 しかし、囚人たちにはいつも邪魔に思える看守がこの時ばかりは神様に見え、

 

「たっ助けてくれ!」

 

 囚人の一人が檻に縋り付き懇願した。

 

 しかし、本来騒ぎを止め、囚人たちの暴走を抑制する存在である彼女は頬を赤く染めたまま、囚人を豚を見るかのような冷たい視線をやると、

 

「は?なんでそんな()()()()()()()()をしないといけないんですか?」

 

「…………へ?」

 

「いっいや待ってよ。普通、囚人同士の喧嘩や諍いを止めるのがアンタらの役目だろうが!」

 

 言葉が良く理解できずに、更に三人が檻に詰め寄り、そのうちの一人が言い募るが、彼女の態度は変わらなかった。

 

 この事件が最悪となったのはある意味彼女の存在も大きかったのかもしれない。そもそも、警察などの組織に関わらず、たいていの企業でもそうだが、人材の能力を見るだけでなく、その人となりを確かめるために面接を行う。だが、先にも述べたように警察は人手不足で、能力があれば少しくらいは人格に対して目を瞑っていた。特に上層部などにそういう人間が出世したりすると問題だが、足りないのはある種の肉体労働系の部門や事務処理や現場の人間である。少々の人間性は目を瞑っても、大きな問題は起こらなかった。

 

 しかし、ここに大きな問題が生じてしまった。そう、彼女は腐っていたのである。それも重度に……。

 

 彼女はいつも人がいないのを良いことにこの監視の仕事をさぼりながら腐った趣味に没頭する不良看守であったのだ。だが、普段は問題にはならなかった。何故なら、彼女は優秀であり、囚人達のもめごとを直ぐに鎮圧でき、皆に信頼されていたため、まずもって時間が来るまでここに彼女を信用して誰も見に来ないので問題にならないのだ。

 

 一度腐ると元には戻らない。それが世界のルールならば、カビなどの発生は広がって行ってしまうのもまたルールであり、近くにいればいる程、それが強ければ強いほどその摂理に逆らえる者はいなくなる。つまり、何が起きるかと言うと、

 

「何で?彼はヒーローですよ。無暗な暴力は振るいませんし、今も振るっていないじゃないですか。ただスキンシップをとっているだけですよ」

 

「「「「口から泡拭いてるんですが!!」」」」

 

「……病人を介抱するのに人を抱き上げて楽な体勢をとるのは普通ですよ」

 

「「「「顔がゼロ距離なんですけど!!」」」」

 

「…………介抱するときに最初に体調の有無を確かめるために呼吸と熱を確かめます。呼吸は耳を口元に近づけ、そして体温はオデコで測るのが常識でしょうね」

 

「「「「何か後ろから聞こえちゃいけない音がするんですけど!!」」」」

 

「……………………意識がない、そして呼吸をしていないと判断された場合、心臓マッサージと人工呼吸を交互に行うのを推奨されています。これは三十秒間隔がよろしいでしょう」

 

「「「「マッサージする気配がないんですけど!!」」」」

 

「…………………………我々の日本には古来より忍者と呼ばれるものがいます。その彼らが扱う武術の中に、胸部を圧迫することにより一定間隔で刻み続ける心臓に強烈な衝撃を与えることで、心臓のリズムを崩して死に至らしめる技があります。彼の大胸筋はまさに凶器!その筋肉の収縮運動を利用し、抱きしめている彼の胸に心臓マッサージをしているのでしょう……たぶん」

 

「「「「多分って!?それにそれ、必殺技というか殺人術じゃないですか!!」」」」

 

「…………………………………達人とは常人の理解の範疇を超えることはしばしばあるの。それにドイツの天才科学者ウェルナー・フォン・ブラウンは大量殺人兵器である液体ロケットV-2号というミサイルを作ったけど、彼はその技術を生かして今度は人類初となる月面着陸という偉業を成し遂げたサターン五型のロケットを設計している。つまり、殺人術だろうが何だろうがそこにあるのはただの技術、使う人間次第なのよ。だからこそ、人類は失敗を繰り返しながらも、今の進歩があると思うの」

 

「「「「良いこと言っているぽいけど、その携帯から鳴るカメラ音で台無しだよ!!」」」」

 

「チッ!とにかくだ。問題はない。ここの、そして今の時間は私が法だ!実際問題けが人もいないし、普段のお前らの行いの悪さは有名だし、お前らが怪我をさせたやつだってこの中にいる。私の高尚な趣味のために協力位するさ」

 

「「「「ゲスい!!」」」」

 

「煩いね。証拠は残らないだろうし、カメラは私が監視室で操作できる。一時不慮の故障か、停電で記録消失、保存の失敗……理由なんてごまんとあるのさ」

 

「「「「アンタ本当に警察!!」」」」

 

 ここまでの問答でどちらが犯罪者であるのか全く分からなくなってきたが、そこは問題ではない。一番の問題は彼等の後ろに次のターゲットを誰にするか迷っている獣がいるということだろうか。

 

 後ろが静かになったのに気が付いた彼等はゆっくりと後ろを振り返り、そこにリーダーだった男と目を血走らせた男を確認できた。

 

「「「「………………こんばんは、ボス」」」」

 

 獣を静めるにはどうすればいいのか、彼等は本能的に理解した。いな、後ろに逃げ道がなく、目の前に自分から行くか、それとも連れ去られるかの違いしかないのに気づいてしまったのだろう。

 

「「「「あっあぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」

 

「フフフフ腐腐腐腐フフフフ腐腐腐腐」

 

 雑居房という鉢にあった五枚の花弁をつけた花は外から現れた天使(化け物)が花占いをするように一枚一枚むしり取られ、地面に落ちていく。その様子を見ている本来なら花を守るべき立場の人間はその花に水と肥料を過剰与え、その花が根元から腐っていき、散る様を楽しんでいた。

 

 ここに、彼と彼女の天国が出来た。これが犯罪者(※男性に限る)にとっては地獄が出来たも同然であり、知らず知らずのうちに入り、腐らされ、散っていく。

 

 この過程で、彼は

 

「一般男子を襲うのは許されないことだが……犯罪者男子だったら成敗も兼ねて一石二鳥。誰も文句を言わないしグッドだ!」

 

 恐ろしい結論に至り、そして同時に強い味方を得た彼は自身の楽園を作り始める。

 

 

 

 

 

 彼が何時ものように牢に入れられ、数日後には何時ものように出てくる。それを繰り返す毎日に彼は幸せを感じていた。そして彼の足元には一枚の記事があった。

 

 その内容は

 

プリプリプリズナーとヴィランの関係!

 彼は治安維持に貢献する存在なのか!!

 

 この〇〇市ではここ数か月のヴィラン発生件数が激減しており、さらに軽犯罪などの犯罪自体も減り、日本でも有数の安全な市になっている。これは今様々な物議を醸しだしているヒーロー、プリプリプリズナーの存在が大きいとされており、一部ではオールマイトの様な犯罪抑制を促す存在なのではとも言われている。▼確かに氏が活動してから、事件の発生件数もへり、更に再犯率は減少し、全国で最も再犯率が少ない市という快挙をお成し遂げている。ただ、そのヒーロー活動は依然変わりなく、犯罪者こそいないが、ヴィランから変態に変身した人が増えたといわれ、街の風景も変わっている気がする。▼そこで我々はとあるA氏のもとにを訪れインタビューに成功した。▼しかし、彼から何があったのか結局詳しいことは聞くことは出来なかった。ただ、彼の部屋は妙にピンク色で、男性には似合わないような家具が存在し、彼の元犯罪者としての側面に似つかわしくないと考えた我々はそこから切り崩していくことにした。▼だがそこにあったのは彼がどうやら腐り落ちていることしか分からなかった。▼このような取材を何度も続け、我々は恐ろしい事実にたどり着いた。全ての男性の元犯罪者が

…………』

 

 記事は汚れ途中までしか読めなくなっていたが、何やら恐ろしげなことが書いてあったような気がする。

 

 彼は外の空気を吸い込むしぐさをすると、

 

「今日もヤルか!」

 

 高らかに宣言した。

 

 

 

 

 

 

 市の様々なカラーが混在する中から黒の色が消えはじめ、ピンクに侵食されていく。

 

 彼が世間に認められる日は何時だろうか。 


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