エンジェェェェェル★スタァァァァァイル! 作:kurutoSP
クリスマス。
それは日本ではもはや一大イベントであり、ぶっちゃけ元の意味などどうでもよく、とにかくイチャイチャする人間が勝ち組であり、孤独にジングルベルをシングルベルと歌い、一人ベットで寝る孤独な者たちを大量生産し、深き闇がより一層勝者たちを輝かせる、もしくは勝者たちの輝きが敗者の闇をより一層暗くさせる聖なる夜を語った悪魔な様なイベントであると今年も女子から避けられてしまった峰田実♂(15→16)はマウントレディの雑誌を無造作に放り投げ、現実のエロい女性ヒーローと理想とのギャプと恐ろしさを噛みしめ、この世を儚み、それでも捨てきれぬその雑誌をいそいそと本棚に戻した後、寮の部屋で一人毛布にくるまるのである。
「間違ってる!この世界は間違っている。ヒーローはモテるんじゃないのかよ!オイラの見た目はどう考えても女性受けするはず!テストの成績も悪くない!キャラもいい!そして天下の雄英生。これで持てないのがおかしい」
彼は持て囃される轟を頭に思い浮かべながら、この世の理不尽さを嘆く。
「何処が、何がいけないんだ!」
彼は布団から這い出るのと同時に、スマフォの光が漏れ、暗い部屋で彼の血に濡れた頭皮をぼんやりと映し出す。
「ああああああああああ」
少年の悲しき慟哭が部屋に満ちるのと同時に、彼の手からスマフォが滑り落ち、画面が割れる。
「みんな砕けろォォォォォォォォォォ!」
砕け散ったその画面には、エロ仲間の上鳴電気が何故か耳郎響香の家族と一緒にいる写真が写っていた。
偶然かはたまた必然化、その画面の割れは二人の仲を裂くように走っていた。
「緑谷も轟も切島もオイラを裏切りやがってぇぇぇぇぇ」
彼はスマフォが割れたことに気が付いていないのか、他の友人三人にも怒りの声を発し、血の涙を流す。
彼の脳裏には今日のことが鮮明に思い出されていた。
『今日ちょっと外に出て行かへん?』
『えっ!ぼっ、 僕なんかと!あっそれとも他の皆に連絡する必要があるよね。まず飯田君に………………』
『デク君』
『ひゃい。う、麗日さん』
『いこ』
ここで真っ赤になって黙りこくり、同じく顔を赤くした麗日に手を引っ張られるデクを見たオイラは今日の新作、『性なる夜の宴(18禁)』をその手から落とし、崩れ落ちる。
『うわぁぁぁぁぁぁぁ』
頭を掻きむしるオイラは………………
とりあえずその頭のモギモギをスパーキングした。
「クリスマスは恋人の宴じゃねーんだよぉぉぉぉ!
クリスマス(英: Christmas)は、イエス・キリストの降誕(誕生)を祝う祭である(誕生日ではなく降誕を記念する日)。毎年12月25日に祝われるが、正教会のうちユリウス暦を使用するものは、グレゴリオ暦の1月7日に該当する日にクリスマスを祝う。ただし、キリスト教で最も重要な祭と位置づけられるのはクリスマスではなく、復活祭である。
キリスト教に先立つユダヤ教の暦、ローマ帝国の暦、およびこれらを引き継いだ教会暦では日没を一日の境目としているので、クリスマス・イヴと呼ばれる12月24日夕刻から朝までも、教会暦上はクリスマスと同じ日に数えられる。教会では降誕祭といった表記もある。
一般的年中行事としても楽しまれ、ジングルベルなどのクリスマスソングは多くの人に親しまれている。
by,フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
だぁぁぁぁぁ。オイラは、オイラは全世界キリスト教信者20億人の思いを代弁してクリスマスの何たるかを緑谷に教えようと思っていたのに、あいつは、あいつはオイラを裏切った!」
彼は使えなくなったスマフォの代わりにパソコンに噛り付く。
パソコンの青い光がたった一日で痩せこけた彼の顔をぼんやりと映し出す。
その顔は懺悔であろうか、はたまた、机の上に広げられたお気に入りのミニスカサンタ服特集が涙でかすんで見えないことによるものか、定かではない。ただ、彼の部屋に飾られている、ミニスカサンタコスは青い光にぼんやりと照らされている様はどこか、いや、そこはかとなく虚しい。
そしてパソコンでクリスマスの何たるかを調べる彼の意識は今日のデクたちの朝の出来事から昼の出来事へと移っていく。
『羨ましくなんかないぞ。オイラだってオイラだって』
オイラはあの衝撃の事件で茫然自失となり、部屋に戻った後、暫く部屋を暗くして籠っていたんだけど、腹が減ったため、部屋を出るのと同時に、あの衝撃事件が起きた共同スペースにオイラの大切な物を置き忘れたことに気が付き、急遽食堂にはいかずに、食堂の途中の購買で適当に、ただ何故だか無性に魅かれて買ったあんパンを片手に急いで共同スペースに向かい、その前の廊下に着いき、目の前に落ちていたその『性なる夜の宴(18禁)』に手を伸ばそうとして、聞こえてきた声にその手が止まる。
『あっ、あの轟さん』
『ん?どうした八百万。お前は確か今日は家族でパーティーを開くんじゃなかったのか』
『いっいえ。その、そのですね。そのお父様とお母さまに急用が入りまして………』
オイラは手を胸の前で組み、もじもじとする八百万のその強調される胸元に釘付けだ。
『?…そうか。それは残念だな』
『ええ、そうなんですわ』
『………………』
『………………』
『………、あう、これでは、でも…………、ど、どうしましょう』
『?体調でも悪いのか?』
『はう、うう』
自然と女子の間合いを潰し、そのイケメン力により女子を赤面させる余りの力にオイラは彼らのやり取りの間に素早く拾った雑誌を見ている己とを比べ、言い知れぬ敗北感を感じずにはいられない。
『イケメン氏ね』
オイラはダークヒーローの心得が分かったような気がした。
オイラがダーク―なヒーローに堕ちる前に彼らの空気がいつの間にか変わっていた。
『分かった。俺にできることなら何でもやる』
『ほっ、本当ですか、轟さん』
『ああ、本当だ』
女子の喜ぶ姿はいつ見ても素晴らしい。特にプリプリした時のヤオヨロッパイはカァイイ。
オイラがダークからほんのりと性なる方向へ救われている間に、オイラは目の前で起きている悪魔たちの行いにより、絶望を知る。
『でっでは、轟さんのお宅に行ってみても、よろしいでしょうか?』
『ん?そんなことでいいのか?』
『え、ええ。もちろんですわ』
『じゃあ、さっそく行くか』
『とっ、轟さん!』
女子と手をつなぎやがった!
オイラが大人しく見ていられるのもここまでだ!
許せん!
大いなる怒りと、ヒーローの卵として絶対悪を許さないオイラは立ち上がり、その手に持つ精一杯の勇気の力をあらん限りの力を持って!
『結局イケメンかよぉォォォォ!ドッチクショォォォォォォォォォォォォォ!』
あらん限りの力を持って、頭のモギモギで八百万を飾り付け、オイラは右手に持っていたあんパンをイケメンの顔に向かってスパーキングした。
正しい行為だったと思う。
最初の頃よりも、何か自分の行動が完成されたような気がしてスッキリした。
「クリスマスは宗教イベントなんだよ!オイラみたいに、何時でも四六時中、シスターの為なら協会に三六五日籠れるくらい熱心な宗教への下地があってこそクリスマスを堪能できるわけであり、その為に労力をいとわないオイラこそがこのクリスマスにおいて正義なんだ!オイラが主役なんだ!オイラはモブじゃない!」
彼はパソコンの画面に映るクリスマス一色のサイトにギリギリと歯ぎしりをして叫ぶ。
しかし、『神よお許しください(R18)』『淫らなシスター(R18)』『監禁教会(R18)』などのピンクなタイトルが机の棚にしまってあり、そこから察せられる彼のキリスト教への深い愛により、彼の学校の参考書が異端者として隅に追いやられ、もしくは挟まれ哀れにも埋もれているその光景が今の彼の現状の全てを物語っていた。
「クソクソクソォォォォォォォ」
悔しさ、怒り、後悔、興奮、発情、様々な感情がない交ぜとなりながらも昼から何もモノを入れていない胃は食べ物を要求する。
彼は泣きながらも惨めにも一人あんパンの封をビリッと破りむしゃむしゃとかぶりつき咀嚼する。
「クリスマスのように甘いのに、しょっぺぇ」
甘いあんこは傷ついた彼の心を甘さで満たすことなく、その甘さが彼の負った傷の大きさを分かりやすく対比し、更に傷つける。
「オイラは、このクリスマスでは主人公なんだ!モブじゃない。モブじゃないんだ」
彼はパソコンでたまたま見つけた隅っこでクリスマスのせいで忘れ去られた存在の様な扱いを受けているロボコップの画像を見ながら、モブじゃないと暫くの間呟き続け、アンパンの包装を虚ろな目で見つめ、最後の回想に入る。
『う、ア』
もはやオイラはあの場所に、いや、部屋から出るべきではないのだ。
外の世界はキリストを汚す異教徒の猿どもが発情し、オイラの神聖なる性なる夜を汚している。
これ以上オイラはあの空気に堪えれない。
ああ、叫びつつけたせいか口からもうかすれたような声しか出ないような気がする。
しかし、オイラは迫りくる生物としての当たり前の欲求に逆らえず、部屋から出て、トイレに向かう。
『あ!切島じゃん。何?クリスマスなのにもしかして一人なの』
『いきなり男のガラスのハートを傷つけるなよ』
オイラは心の中で二度あることは三度あると思いながら、傷つくことがうすうす分かっていたのに、トイレに行くはずだった足を止め、廊下の角に息を潜める。
大丈夫だ。芦戸と切島ならそんな変な空気にならないはずだ!
それに傷つく友を見ると少しだけ、自分と同じ存在がいるのだと救われた気分になる。
『心も漢なんでしょ!そのくらい気合で堪えれるでしょー』
オイラは芦戸が笑うのにツッコミを猛烈にいれたかった。いや無理でしょっと。
『いや、そりゃあ、情けないかもしれないけどよ。漢でも落ち込むぜ』
『全く変わらないなー。ウジウジしちゃって。そだ、お茶子も八百万も耳郎ちゃんも何故だか連絡取れないし、梅雨ちゃんは家族でクリスマスだし、葉隠ちゃんは何処にいるのか分からないし困ってたんだよね~』
ん?なんだか流れがおかしい。
安心してトイレに向かおうと廊下の角から出ようとしたオイラの足が止まった。
オイラの肛門は震えていたが、それ以上にオイラの手の震えは止まらず、無意識のうちにその手が頭のモギモギに向かう。
『ん?なんだよ。結局一人なんじゃ、ほぐ』
『んん~。何か言ったかなァ』
『いや、何も言ってないぜ』
『でだ、折角のクリスマスなんだから一緒に楽しまない』
『嬉しいけど、俺もう少し筋トレしてからでいいか?』
『むー。女子が誘っているのにその言葉は無いでしょー』
『いや、そうかも知れねえけどよ。爆豪や轟、そして緑谷が頑張って理想のヒーローになろうと今も全力で書けているのに、俺なんかが、此処でゆっくりしてたら置いて行かれるような気がしてな』
『はあ。今年いろいろあってカッコよくて、そろそろ高校デビューマンって言いふらそうとも考えてたけど、まだなんだね。あーあ、何時になったら私は言いふらせるんだろうか。もう口が滑りそうで我慢できない。う゛~』
『ちょっ!約束を守らないなんて漢らしくないぜ!』
『ヒッヒッヒッ。私は女だモーン』
へ?ナニコレ。オイラは幻聴を聞いているのか。
二人の秘密的何かを共有していらっしゃる?それも男女で?そう言えば二人は同じ中学だったっけ?
オイラの頭にはあの切島に裏切られたという考えが即座に浮かぶ。
だからオイラは今日何度ももいで既にもぐだけで血が止まらないのを無視して両手いっぱいのモギモギを持って、二人に向けてスパーキングしようと足腰に力を籠める。
無理だ!何もかもオイラを止めるには遅過ぎる。もう止められない。誰にも、オイラにも!
『きりしまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
二人の驚く顔がオイラに見える。そうしてオイラは!
『あっ』
『『………………』』
オイラがスパーキングしていた。
「………………」
オイラは回想から戻ると、何も履いていない下半身を、その乾ききった瞳で見て、そしてただ虚ろにその真実を確認し、一階の共同スペースで稼働している洗濯機の音が二階のオイラの部屋まで聞こえてきてくるあり得ない幻聴を聞き取る耳に、そして二人のあの眼が脳裏に焼き付いて離れない。
12月の寒い風が開けっ放しの窓からオイラの孤独を際立出せる様に心を震わせる。
もはや窓を閉める気にもならないオイラはただ布団に包り、瞳を閉じて心を、体を休めるのである。
この日オイラは夢を見た。
布団を被る頭からかぶるオイラは開けっ放しの窓からサンタ服をきた青髭のごつい何かが何も入っていない白い袋を背に背負い、機敏な動作で侵入するのに気が付かない。
その何かは部屋に侵入すると、手袋をはめ、掃除をし始めた。
とても丁寧なモノで、オイラは悲しきオイラの思いにサンタが答えてくれたのだと寝ているはずなのに嬉しい気持ちでいっぱいになった。
『むふ!ショタの縮れた毛、そしてゴミ箱のティッシュハアハア』
何か言っていたオイラには聞こえなかった。しかし、サンタさんの笑顔はとても良いものでオイラはそこまで気にしなかった。
『なっ!これはスイートボーイを誑かす悪魔の書!くっ、だがまだ救える』
オイラは部屋の性書を片付ければよかったと少しほど後悔した。ヨイ子とは程遠いとオイラも流石に常識的に判断でき、サンタの顔が怒りに染まるのを申し訳なく思った。
そしてサンタは部屋の掃除が終わるとゴミをこぼしてまた部屋を汚さぬようにそれは丁寧に、宝物を手に入れたかのようにゆっくりとその大きな袋に入れる。
それから、サンタさんはオイラのベットまで近づくと、顔のあたりの布団を引きはがし、耳元まで口を寄せる。
メリークリスマスとでも言ってオイラに性書をプレゼントしてくれるのだろうか。
期待に胸を膨らませる夢の中のオイラ。
そしてサンタはそのまま口を近づけオイラの耳を
………………へ?
思考が上手くできない。
しかしサンタは止まらない。
『こんなに泣きはらして可哀そうに。下半身裸で、サンタの帰りを待っていたんだな。俺が性なる夜の天使として癒してあ・げ・る♡』
部屋が光り輝き、漢の体が膨張する。そしてオイラの下半身は収縮する。
『エンジェェェェェル☆スタァァァァァイル(Ver.ナイトモード)』
その光は眩しくも優しく、部屋を照らせど、闇を全て駆逐する強い輝きではない。
だが、夢の中のオイラはトラウマを刺激されたのか、生物の生存本能を刺激されたのか、眠りから覚め、飛び起き、ベットから出ようとしていた。
しかし、間に合わない。
いつの間にかオイラは全裸の天使に抱擁され、ベットインしていた。
『癒してあげる』
ぞわぞわとする。
何とか離れようともがくがその分厚い胸板がオイラの顔に無慈悲に近づく。
「あっあぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ!」
そうしてオイラは朝日と共に目が覚めた。
オイラはこの日悟った。
次の日、オイラは緑谷、麗日、轟、八百万、切島、芦戸に囲まれ昨日のことについて聞かれたが、オイラは悟ったのだ。
「我無也。我空也。オイラはおっぱいに全然興味が無い也」
「えっと、峰田君?」
オイラの言葉に緑谷が動揺する。
「ちょっ!デク君、何時もの峰田君じゃないのは分かるけど、心配するよりもまず、昨日のことについて説明してもらわな」
「色即是空色即是空」
「なんだか今までの峰田じゃねぇ。何か知らんが悟ってやがる」
麗日の言葉を流すオイラの悟りの凄さに気が付いた切島が恐れおののく。
「ですが。昨日のあれは少し酷いと思いますし、私はここで諦めてはいけないと思いますわ。…峰田さん」
「色即是空色即是空」
「これは駄目だな。昨日の煩悩まみれな峰田と何か違う気がするし、昨日何かあったのか?」
轟がオイラの変化の理由を鋭く切り込んでくるが、今のオイラが動揺するほどの言葉ではない。
「我無也。我空也。おっぱいは二也」
「いや、これ煩悩を取り除けているの?」
オイラは何と言われようと悟ったのだ。
「女体の素晴らしさに貴賤は無い。その神秘こそがオイラをオイラたら占めるのだと。その女体の精神がどうであれ、どういう生活をしているのかなど、浮世のことを気にするのはオイラにはおこがましいことなのだと。オイラはただそこにあるおっぱいに感謝して、おがめ、奉り、その輝きに目を焦がし、祈らなければいけなかったんだ。昨日のオイラは間違っていた。ただ、今のオイラには分かる。男の胸より女の胸。おっぱいはゼロよりも二つあるのがいい。それがオイラの悟りの道。オイラは間違っていた」
オイラは深々と土下座をしつつ。スカートの中が見えないかとすっきりした頭で考える。
「え~と。何時もの峰田君なのかな?」
「ああ、クリスマスでおかしくなったんだろ」
友人が失礼なことを言っているが今のオイラにはどうでもいいことだ。
そこに女性がいるのか、そこにおっぱいがあるのか。そこにくびれがあるのかの方が重要なのだから。
オイラは悟った。
決して戸締りは怠ってはいけないのだと。
部屋に落ちていた見覚えのない縮れた毛から学んだのだ。
オイラは迷わないし、いらないことを考えない。何故なら悟りを開いたから。
だから、オイラは昨日のことがどこまでが夢で何処までが夢じゃないのかなど考えない。
部屋の本の配置が微妙に動いている気がするし、そしてなんだが部屋がきれいな感じがするが、今のセキュリティレベルの雄英に忍び込める人間など存在しないと、だから大丈夫だと、夢だとオイラは切り捨てる。
オイラは昨日パンツを回収するのを忘れたのだが、悟ったオイラはどうでもよかった。
オイラは悟った。
戸締りは本当に大切だと。
今日もオイラの肛門はキュッとしまっている。