エンジェェェェェル★スタァァァァァイル!   作:kurutoSP

11 / 12
女性成分がこの作品には足りなすぎるのかも。だから毎回この作品はおかしくなるのだと気づいた私は乙女を作り出すことにした。


乙女の悲鳴(笑)

 飯田天哉、その外見は眼鏡に七三分けが先ず第一印象として大きく残るであろう。

 

 そこから想像される人物像は真面目、堅苦しい、委員長キャラなど様々だが、誰もが同様の方向性のイメージを持つ人物であり、実際の所その通りである。

 

 そんなごく普通、いや、雄英高校ヒーロー科A組の委員長であるからしてごくふつうはあり得ないが、常軌を逸している存在ではないということでは様々な輝ける存在が何かと多い彼のクラスメイトと比べれば普通である彼は、その目を濁らせていた。

 

 彼の兄はヒーローを止めた。

 

 それもヒーロー殺しと呼ばれる犯罪者に癒えぬ傷を負わされて、彼の憧れ、彼の理想像があっけなく、そして突然消えたことは多感な時期のこの生真面目な青年のあり方を歪めるには十分であったのだ。

 

 憎い。ヒーロー殺しが憎い。

 

 彼の心は兄がヒーローを止めた日から曇り続け、その仇を討てと彼に語り掛け、そんな声を彼は拒むことがどうしてもできなかった。

 

 これでもし、彼が本当の意味でごく普通の青年ならばそれでも時間が癒したであろうが、彼には兄の無念を、自分の心の負荷を発散させるだけの力と行動力、そして運があった。

 

 彼は有名高校のヒーロー科の生徒。それも兄がヒーローを止める傷を作った日は、ヒーローの卵が自分を売り出す日ともいえる体育祭が行われており、彼はそこで好成績を出し、少なくないヒーロー事務所からドラフト指名が来ていた。

 

 その中には彼の兄がヒーロー殺しにやられた保須市も含まれていたことは彼自身にとっては幸運であり、不幸であった。

 

 彼は兄の仇を討つためにそのヒーロースーツに身を包み、その心を、その顔を誰にも見せぬように、ひたすら仇敵を探す。

 

 そんな彼だが、一日目、二日目と何の情報も得れず焦燥だけが募る。

 

 そんな彼の様子に、流石に彼をドラフトしたヒーローマニュアルも声を掛ける。

 

「聞きにくいけど、君、ヒーロー殺しを追ってここに来たんだよね?」

 

「………………」

 

 疑問形だが、確信に満ちた声に、どう返せばよいか、優秀だと兄から褒められた彼の頭脳は答えを返してくれない。

 

「いや、別にいいんだよ。来てくれたことは嬉しいし、理由の一つとして、此奴だけは捕まえるってのも原動力の一つになるしね。ただ…」

 

 マニュアルは彼を責めなかった。ただ、表情が変わる。彼の顔は何時もの緩いモブ顔ではなく、真剣な目で背後を歩き、一緒にパトロールする飯田を見る。

 

 両者の足は止まる。

 

「私怨で動くのはやめた方がいいよ」

 

 そこからマニュアルはヒーローの在り方、社会の法、そして飯田の身を案じて話しかけてくるが、彼はそれを受け入れることも聞き入れることも出来なかった。

 

 相手が自分を本気で案じているのも分かるし、ヒーローとしての心構えを教えてくれているのも分かる。そしてそれが口だけじゃないのも分かる。

 

 だが、それでも彼の心が納得しない。

 

 逆にヒーロー殺しの理不尽な在り方に抑えきれない怒りがあふれ、それをとどめるために拳を力強く握ることしか出来ない。

 

 しかし、三日目。事態は動き始める。

 

「こんなご時世に暴れるなんて、バカやろうか!行くぞ飯田君」

 

 マニュアルは火災がおき、煙が立ち上る一角を睨み、現場に向かうが、飯田はその時、どうしても路地裏が気になっていた。

 

 本来ならば別行動は褒められたものではない。だが、彼はヒーロー殺しが現れる場所はいつだって人気の少ない路地裏であることを知っていた。

 

 そして今こそが監視者から逃れ、自分一人でヒーロー殺しを探せる最後のチャンスに思えた彼は、迷わず路地裏に向かい走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっほぉぉぉぉ」

 

 男の悲鳴が聞こえた。

 

 飯田は慌てて、その声がした方に走り、角を曲がると、そこには彼が見付けたい、この三日間最も会いたい人物がいた。

 

 血の様な紅い巻物、全身に携帯している刃物、そして包帯に隠されたその顔、そして物陰でよく見えないが誰かに向けて刀を振り上げている姿はどう考えても犯罪者であり、特徴的な姿は彼が追い求めていた人物そのもの。

 

 彼は見つけたのだ。ヒーロー殺しを。

 

 彼は幸運だった。そして同時に不幸だった。

 

 彼の奇襲は、攻撃が当たる前に察知され、振り向きざまの一刀で彼のヘルメットは吹き飛び、彼もその衝撃で倒れ込む。

 

 だが、それでも彼はここでいつまでも倒れているわけにはいかず、即座に立ち上がると、仇を睨みつける。

 

「ヒーロー殺しステインだな。お前を追ってここまで来た」

 

 ヒーロー殺しは彼の目をみてその目的を悟るが、同時に子供のヒーローごっこに付き合う程酔狂な男でもなかった。

 

「口に気を付けろ。場合によっては子供でも標的になる」

 

 その自分を見ていないステインに対し、彼の心はもう歯止めがきかない。

 

「標的ですらないと!これから僕がお前を捕まえるヒーローだ」

 

 ヒーローの言葉に反応したステイン。それを見て彼は最後の一線を越える。

 

「僕の名を刻み込んでおけ、僕はヒーローインゲニウム!お前を倒すヒーローの名だ」

 

 偽物のヒーローは全て消す。そのステインの標的に、この時彼はなった。

 

「そうか。なら死ね」

 

「おおお」

 

 彼は個性を生かし間合いを一気に詰め、刀を振れないようにし、強烈な蹴りを見舞うが、それは簡単に避けられる。

 

 仕方のないことだが、彼は速度を優先した為、その挙動は真っすぐすぎ、対人において殺人術を極めたステインに対してその攻撃は素直すぎ、ステインの初手を封じつつ無難に威力の出る蹴りで当たりやすい胴体を狙うも、逆に避けられ、自分が次の一手を打つまでの隙に、腕に足のスパイクを突き立てられ、背中を蹴られると、無事の方の腕に刀を突きさされ身動きを封じられる。

 

「お前も、お前の兄も弱い。偽物だからだ」

 

「黙れ悪党。僕の兄さんは僕に夢を、皆を救う立派なヒーローの姿を抱かせた立派なヒーローだ!お前が潰していい理由なんてない!」

 

「偽物は偽物だ。本物なら俺がここにはいない」

 

「ふざけるな!絶対に殺してやる

 

 叫ぶが、即座に冷静な声が響く。

 

「あいつを先ず捕まえろよ」

 

 指を指され初めて彼はこの時自分以外に誰かいることに気が付いた。

 

「間違えた。はぁ、先に助けるものを助けろ」

 

「へ?」

 

 今まで憎しみにとらわれていた彼の心に空白が生まれる。

 

「自らを顧みず他を救い出せ。己の為に力を振るうな」

 

「………………」

 

 彼の視線は襲われたヒーローに釘付けだった。

 

「目先の憎しみに捕らわれ、私欲を満たそうなど、ヒーローから最も遠い行いだ」

 

 ステインの言葉が耳に入らない。

 

「だから死ぬんだ」

 

 ステインが刀を引き抜く痛みで正気に戻った彼は慌てて叫ぶ。

 

「なっ何だあれは?えっ何。ヒーロー殺しは変態も殺すのか」

 

「はぁ、あれは汚物だ。偽物と言うのも憚れる何かだが、ヒーローであり、粛清対象だ」

 

「へ?ヒーロー。あれが、でもヒーローは兄さんのような。でもヒーロー殺しが此処にいるということは変態はヒーロー。ヒーローは変態?兄さんも?」

 

 真面目過ぎる脳がショートを起こしかけていた。だが、それも仕方ない。尊敬する兄のヒーローとしての死、更に仇を目の前にして少年の心は既に許容値を超えていた。

 

 だから、目の前の全裸で言葉に表すのが不快になる格好で固まり、そして何故か固くなっているモザイクつきのナニを晒し、流れる血以外に何故か赤に染まる肌は少年を壊すには十分であった。

 

 混乱する少年を哀れに見るステインは止めを刺す。

 

「所詮偽物も汚物もどちらもヒーローを名乗る価値などない。はぁ、俺の粛清対象に変わりない。お前の兄も、この変態もだ」

 

「違う、兄さんはちがうんだぁぁぁぁぁぁぁ!

 

「じゃあな。正しき社会への供物」

 

 体が動かない。それでも彼は必死に憎き敵に絶対の真理を突きつける。

 

「兄さんは変態じゃない!」

 

 刀はそんな彼を貫かない。

 

 もの凄い速さで何かがステインを吹き飛ばす。

 

 そのステインを吹き飛ばしたものの姿に覚えがあった彼はその名を口にする。

 

「緑谷君!」

 

「助けに来たよ!飯田君」

 

 悔しさに涙する少年に、友のピンチに駆け付ける少年。青臭い。そんな青臭い臭いがするとき、変態は奮い立ち、その少年たちの熱きパトスを浴びるために、その悲しみを正義の力に変えて遂にヒーローが立ち上がる。

 

「もう大丈夫だよ少年たち。私が来た」

 

 あたりに光が溢れ出す。

 

 その光にトラウマを刺激された緑谷は倒れ伏し、有名なヒーローのセリフを言う変態をヒーローと認識したくない彼は目から溢れんばかりの涙をこぼし、美しき思い出の中の兄の姿を守ろうとする。

 

「ああ、俺を求める声がする!悪に染まった男の声がする!悪が私の理想を壊す時!全てを包み昇天させる天使が今ここに降臨する!」

 

 眩しさにステインは目を細め、立ち上がる。

 

「正義はここに!行くぞステイン!」

 

 光が終息する。

 

「エンジェェェェェル☆スタァァァァァイル

 

 

Ver.モザイク抜き」

 

「はぁ、醜いな」

 

 さっきまであえいでいたせいか、顔が微妙に蕩けていた。確かに醜い。

 

「言いたいことはそれだけか。ならば受けてみよ!」

 

 物凄い勢いで距離を詰める変態に対して冷静にその動きを観察するステイン。

 

「エンジェェェェェル☆ラぁァァァァァァシュ」

 

 変態の一撃は全てが一撃必殺。掠っても致命傷になりうるその拳の雨に対してステインはその全てを受け流し、またよけ、距離を取り一撃も貰わない。

 

「偽物は俺を倒せない」

 

 それどころかその拳を浅く傷つける様にして刀を振るい血をその刀に付着させていく。

 

 ヒーロー殺しは彼のラッシュの終わり際にその刀に付いた血を嘗めとるためその口元にもってくる。

 

「その手はもう見たァァァァァァ」

 

 血を嘗めたとたん体の自由を奪われたのを思い出した変態は更に距離をつめ、拳を振るおうとする。

 

「無意味だ。はぁ、偽物は何処まで行っても偽物だ。ゴミはなおさらどうしようもない」

 

 そして彼はその血を嘗めとる。

 

 個性が発動し、血の持ち主の動きを封じる。

 

 そして後はいつも通りに刀でその首を掻っ切るだけだが、その彼は目の前に近づいてくる巨体に既に刀を振るうスペースが無いことに気が付き、下がろうとして壁に背をつける。

 

「俺の思いは!」

 

 変態の声が聞こえる。

 

 ステインは既に無意味だと悟りつつもその刀を振るおうとする。

 

「誰にも止められない」

 

「ゴミがっ!」

 

 巨体の前に進むというエネルギーは体が硬直したからと言ってすぐに消えるものではない。だが、同時にそのエネルギーは体が動かなければ制御できない。

 

 しかし、変態の場合制御する必要が無かった。まあ、制御するという文字が辞書にあるか怪しいが、この場合は必要なかった。

 

 既に敵は逃げ場がなく、此方は短い距離しか充てることが出来なくても問題が無い。

 

 何故ならばもう狙いは最初からついている。

 

「エンジェェェェェル☆ベェェェェェェゼ」

 

 巨体がヒーロー殺しを押しつぶすのと同時に不快な粘つく水っぽい音が長く響き渡る。

 

 声にならぬ悲鳴があたりに響いた。

 

「ヒーローは必ず勝つ!」

 

 悪は撲滅。彼の熱い唇が呪われた王子を救い出す。多分彼はもう二度とヒーローを襲わないかもしれない。

 

 少年たちはヒーローの奥深さを知りまた一歩大人から遠ざかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、ヒーロー殺しが捕まり、プリプリプリズナーの名が一躍有名になる。

 

 だが同時に警察、ヒーロー共にこう思う。

 

 

 

 死ねばよかったのに

 

 

 

 

 

 

 

 ヒーロー殺しの最大にして唯一の失敗である。

 




次回、ヒーロー殺しと天使の囁き

 語られなかったヒーロー殺しに捕まるまでの天使の行動を皆さまに、ぜひ次回も読んでくれよな。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。