超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER- 作:ブリガンディ
「ズェアッ!」
「ゼェイアッ!」
ハクメンの振り下ろした『斬魔・鳴神』と、テルミの外からの内へと振り上げた右足がぶつかり合う。
相手の振るっている武器が事象兵器であろうと、『スサノオユニット』を纏って身体能力が上がっているテルミはその攻撃を見事に受け止めて見せられるのだ。
暫く押し合いになるものの、これ以上長々とやっていても無意味だと判断したハクメンが自ら距離を取る事で、それを中段する。
「どうした?此の場であるならば、自由に技を振るっても構わんのだぞ?それとも何か?貴様には今、『
「・・・・・・」
確かにテルミの言う通り、この場所であれば周囲の被害を気にせず攻撃をすることは可能である。
―さて、どうしたものか・・・。ハクメンは口には出さないで迷う。今現在、『鳴神』の中にはトリニティがいる為、彼女のことを案じると無理に振るうわけにも行かないと言う無意識な気遣いがあった。
《私は大丈夫です。どうか気にしないでください・・・》
「(・・・承知した)」
その悩みは自分にだけ聞こえるように告げてくれたトリニティのお陰で解決する。
よってハクメンは、彼女だけ聞こえるように返事をして構え直した。
これらの短い会話は術式による通信で行っており、テルミにはその状態は看破されずに済んだ。
「ならば、此れで行くとしよう・・・」
「来るか・・・ならば!」
ハクメンは『鳴神』を頭上に掲げ、テルミは碧い炎のようなもので剣を作り上げ、腰を落として右側に構える。
「虚空陣・・・疾風ッ!」
「解キ放ツ・・・魔葬ノ凶刃ッ!」
ハクメンが『鳴神』を上から真っ直ぐに振り下ろすのと同時に、テルミは剣を右から左へ振り抜く。
それらはぶつかり合い、『鳴神』に集まっていた蒼い風と、振り抜いた剣から出てくる火の粉が周囲に飛び散っていった。
「・・・!此のような結果になるのはラグナと戦った時以来か・・・?」
「・・・・・・」
ハクメンはぶつかり合った結果を見て少し前の己を再確認するが、テルミは何やら固まったような雰囲気を醸し出していた。
「(・・・何故だ?『
その理由は今回のぶつかり合った結果にある。
実のところを言うと、テルミは『門』の前に来てから微妙に力が落ち始めているのを感じていた。
最初にハクメンの攻撃を受け止めた時もそうで、先程より重みを感じた事で違和感を感じ、今回の大技同士のぶつけ合いでそれは確信に変わった。
―僅かにではあるが、着々と力が落ちている・・・。それがテルミの見解だった。
「(・・・何が原因だ?此の『門』の前にいるだけならば、その様な事にはならない筈だが・・・)」
テルミは自身で思いつく疑問を上げてみるが、どれも合っている気がしないでいた。
本当はもう少し考えていたい所だったが、それは飛んできた火球によって遮られた。
仕方なくそれを飛びのいて避けて辺りを確認すれば、ハクメンは既に安全圏に離れているので、自身が思慮に囚われていたことを嫌でも自覚させられてしまう。
「ボーっとしている暇は与えないわよ?アンタにはあの世界の分も返してやるんだから・・・!」
「チィ・・・!此の場では貴様が最も厄介だな・・・!」
被害を気にする必要がないなら、攻撃の自由度が跳ね上がるナインは非常に厄介な相手に早変わりする。
ナインとしても、ラグナから気を逸らせるので自分が狙われる分には無問題だった。
何しろ自身の強力な魔法を余すことなく使い、テルミに防御や回避を強要すれば、それだけテルミはこちらに意識を向けざるを得ないのである。
「これなら、いくらアンタでも避けたくなるでしょう!?
ナインは一瞬でテルミの眼前にまで移動し、両者の間に巨大な火球を生成する。
いくら『スサノオユニット』を纏ったテルミだとはいえど、これだけ近い距離で強力な魔法を使われれば堪ったものではないと踏んでの行動だった。
「
「ッ・・・!」
そして、ナインはその火球を何の躊躇いもなく爆発させた。当然本人はその瞬間だけ防御魔法で安全を確保している為、何の問題も無い。
対するテルミは流石に避けるしかなく、爆発を起こされるよりも早く距離を取って退避した。
「外したか・・・でも、私だけで終わりじゃない・・・」
「ならば、私が仕掛ければ良い話だッ!」
「己・・・!」
ナイン自身はテルミの注意をラグナから逸らせるようにすれば良いだけなので、ダメージを与えたかどうかはそこまで気にしなくて良かった。
他にも、自分だけではダメだとしてもハクメンに手伝ってもらえるようにすれば良いので、少しは気が楽になるのだ。
この連携はテルミからすると厄介この上なく、間違い無く何かしてくるラグナを警戒したくてもできないのである。
「
「断チ斬ル閃刃ッ!」
テルミは突っ込んでくるハクメンに向けて、碧い炎のようなもので作り上げた剣を振るって迎撃するが、蒼い方陣を展開しながら突き進んでくるハクメンは一瞬だけ動きが止まるものの、大したことはないとテルミに肉薄し、左腕で首根っこを掴んで見せる。
「・・・何ッ!?」
「受けて見よッ!」
テルミが想定外の事態に驚いている隙を逃さず、ハクメンはテルミを地面へ向けて叩きつけて見せる。
「ぐぅ・・・!?」
「まだ終わらぬ・・・!」
『スサノオユニット』の影響で地面を跳ねることが無かったものの、それでもダメージは大きめだったので、テルミが気づいた頃にはハクメンの足の裏が見えていた。
それに気づいたテルミが転がりながら避けるのと、ハクメンがその足を振り下ろすのは同時だった。
ハクメンが踏み抜いた位置はひびが入っており、それを見たテルミは己の違和感が分からずイラつき始めた。
「何故だ・・・!何故こうなる・・・!?」
「余所見している暇はないわよ?見てみなさい・・・」
苛立ちを露にするテルミは、遮るようにナインに告げられて自身の身の回りを確認してみる。
すると自身の躰に張り付くように時計の針のようなものがゆっくりと回っており、回転が進むたびに青、緑、赤、紫と小さな紋章を出していた。
「!?しまった・・・ッ!」
「これでも喰らいなさい!終焉のネフライトッ!」
テルミが気づく頃にはその針が丁度一周しており、針が回り終えた直後、テルミの足元からそれぞれの色をした炎が姿を表してテルミを囲う。
それらの炎が逃げ場を無くすように囲ったのと同時に、テルミへ向けて上空へ昇るように炎が殺到していく。
この大魔法を国内で使おうものなら周囲の引火等で恐ろしい二次災害を出してしまっていたが、ここでは特に気にすべきものはせいぜい『門』と仲間の安否であり、ラグナとハクメンは安全圏に離れ、『門』も範囲外にあった為初めて実行できたのである。
「・・・グッ!うおぉぉぉ・・・!」
テルミは両腕を胸辺りで交差させ、防御方陣を全面に展開することでその業火を防ぐが、それでも防御方陣越しに伝わる衝撃は殺しきれず、自身もその反動でダメージを受けてしまった。
これがもし『スサノオユニット』無しの生身で受けていたのなら、今頃良くてもまともに動けぬ体であっただろうから、これだけでも十分すぎる成果ではあった。
「ぬぅ・・・!此れ程までに喰らうとはな・・・」
「良く言うわよ・・・コレだけやっているのに、全然動けるなんてね・・・」
テルミは『スサノオユニット』を纏っていながらもダメージが大きいことに歯嚙みし、ナインはネフライトを当ててもなお動けるテルミに呆れ混じりに返す。
互いに想定外な事態が起きている故に起きたことだった。ナインはレリウスが制作した『スサノオユニット』の再現度に驚き、テルミはこのダメージから危機感を覚え始めていた。
「(トリニティよ。準備の程は?)」
《大丈夫です。いつでもいけます》
「(承知した)」
ハクメンはトリニティに確認を取り、大丈夫と分かったので『鳴神』は構える程度に留めた。
「ナインよ。頃合いだ」
「!なるほど。それじゃあ・・・。ラグナ!しっかりと決めなさいよッ!」
「おうッ!『イデア機関』接続・・・反転!」
ハクメンからナインへ伝え、それを聞いたナインがラグナへ念押しする。
そして、この時を待っていたと言わんばかりにラグナは『イデア機関』を接続し、テルミへ向かって走り出した。
走り出したラグナの右手は、血のような色をしたエネミーで形成したものになっており、それは黒い炎のようなもので覆われていた。
「ッ!来ると分かっていれば・・・!・・・?」
「行かせはしないわ・・・。向こうで戦ってるみんなの為にも、これ以上アンタの好きにはさせない・・・!」
「己・・・!ならば、此の場で食い止めてやるだけの事ッ!」
向かってくるラグナの方に体を向け直したテルミが先に潰してやろうとしたものの、ナインが氷の魔法でテルミの下半身を氷漬けにして見せた。
これによって距離を取ることのできないテルミは、その場で迎撃しか選択肢が残されていなかった。
「うおぉぉぉおおおおッ!」
十分に距離を詰めたと踏んだラグナが、そこから地面を強く蹴り、ジャンプする形でテルミに近づく。
―また、あの時と同じか。愚かなことだと思いながら、テルミは右手でラグナが握りしめている左手を掴もうとしたが、その腕が動かせなかった。
「・・・何?・・・がッ!?」
「おぉぉぉおおおッ!」
何故止められたのかを考える間もなく、テルミはラグナの手によって『スサノオユニット』から引きはがされる。
どうしてこうなったかが分からないテルミは、ラグナに顔を掴まれたまま周囲の把握に努めると、ラグナの背後には『斬魔・鳴神』では無く『
「なっ・・・クソメガネだと・・・!?テメェいつからこっちに来てたんだッ!?」
「ここへ来たのはつい最近です。もう二度と、会わないだろうと思っていましたが・・・」
焦るテルミと複雑な表情を見せるトリニティ。まさかまた会うとは思っていなかったという考えは二人して共通していた。
しかしながら、短い再会も束の間。次に発するラグナの一声で、ハクメンが動き出した。
「迷うことはねぇ・・・!やれェェェッ!」
「承知した。奴の手から、あの少女を連れ戻して見せよ。それと、我らの望みも御前に託すぞ・・・」
ラグナの一声を承諾したハクメンは、『刻殺しの刀』を持ったまま腰を落とし、右側にそれを引いた。
ハクメンやナインが今持つ望みは、テルミにもう一度終止符を打つことだった。ラグナを筆頭に、今戦っている人たち全員が望んでいることとすれば、それはネプギアを取り戻すと言うことに変わる。
「・・・『蒼の男』よッ!」
ラグナの事をそう呼びながら、ハクメンは『刻殺しの刀』を使って二人を纏めて切り裂いた。
その影響でテルミを中心に碧い光が膨らみだし、すぐそばにいたラグナを巻き込んで専用の空間を作り上げる。
―ラグナさん。信じていますからね?
「(ああ。任せろ!)」
その光に体が包まれていく最中、ネプギアに念押しされたような気がしたラグナは、心の中で力強く応えるのだった。
* * *
「オイオイ・・・まさかこの俺様が、二回も同じ手段でやられるとは思っても無かったぜ・・・」
「それは俺もだよ。二回もこんなことするなんて考えられるかよ・・・」
テルミは呆れ半分に、ラグナは苦笑交じりに吐き捨てた。
元々はもう二度と対面することが無いだろうと思われていたのだが、別の世界に来てこうしてまた対面し、今は再びこの空間にいる。
ここまで来ると『あの日』以来、自分たちは何かの因果で結ばれているのではないかと思えてしまう。
「また・・・ここに来たんだな。『蒼の境界線』に・・・」
ゆっくりと目を開けてみれば、ラグナは蒼い空間の中にいて、ある程度以上離れた先は暗闇で覆われている。
これもテルミと雌雄を決した時の場所・・・『蒼の境界線』そのものだった。
「その通りだ。んで、今回も『門』を開いたのはテメェだぜ?」
「また俺かよ・・・」
テルミに告げられたラグナはげんなりとした。つまるところ、また『頑張り過ぎた』のである。
「んで、お前も選ばれた訳だが・・・今回は少しばかり条件が違うのか?」
「ああそうだ。本来は生き残ったどちらかが『
―当然、防衛側であるラグナちゃんは『蒼炎の書』を使用可能だ。とテルミは付け加えた。
その辺りはまあそうだろうなとラグナは思っていたので、あまり気に留めるようなことでは無かった。
「思えば・・・あの時もそうだったな。また俺は、託されたんだな・・・」
「・・・ああ。そういや、前にもそんなこと言ってたな・・・今回はアイツか?本当に好かれてるねぇお前・・・」
好かれているという表現は強ち間違いでもないが、今回は少々ずれている。ラグナはそう感じていた。
では心の内でテルミの表現を否定したラグナはどう考えているのかというと、信じてもらえていると言う考えだった。
「(まあ、今ならそれも悪くねえかな・・・)」
依然と比べて心持ちが非常に楽になっていたラグナは、思わず笑みをこぼした。
「・・・あ?どうしたよ?」
「いや、なんでもねぇ」
それを見たテルミが気でも狂ったかと感じて問いかけるも、答えるラグナの様子からして、それはないと断ずることができた。
「さてと・・・早いところ始めて終わらせようぜ。俺も向こうへ帰らなきゃいけねぇからな」
「そうだな。『スサノオユニット』はもう使えねぇが関係ない。ここでやることなんざもう決まってる・・・」
ラグナの促しにテルミも同意の意を示す。どちらにも自分を待っている人はいるのだこれ以上は時間をかけられないのが本音であった。
「あの時と同じだ・・・俺は、お前という存在を消し去る事で、お前に救いを与える可能性だ」
「・・・テメェなら言うと思ったぜ。そりゃそうだ・・・何しろ消し去ったはずの俺様がここにいるんだからな・・・」
ラグナの言い分は、テルミからすれば完全に予想通りであった。
何しろ『エンブリオ』でその可能性を実現して見せたと言うのに、このゲイムギョウ界で無に帰ったようなものであった。
「んで、俺も同じだ・・・俺はテメェを倒し、『
「だろうな・・・。テメェにとっちゃ、これが最後のチャンスでもあるからな・・・」
テルミの言い分もまた、ラグナからすれば予想通りであった。
事実、また別の世界で復活等が望めなかった場合、テルミは本当に後がないのである。
そして、これ以上は言葉を交えるよりも戦った方が早い。そう考えたラグナとテルミは、互いに『魔導書』の起動プロセスに入る。
「「第666拘束機関開放・・・次元干渉虚数方陣展開!」」
「コードS・O・L!」
「『
「『
それぞれの『魔導書』の起動を終えて、武器を手に取った二人は一斉に動き出す。
互いに距離を詰めてから、ラグナは剣に黒い炎のようなものを纏わせ上から下に振り下ろし、テルミは碧い炎のようなものを右足に纏わせながら蹴りを放つ。
それらがぶつかり合っても距離を取ることは無く、ラグナは黒い炎のようなものを纏わせた剣を両手で持ち直して下から上に振り上げ、テルミは右手から碧い炎のようなものを蛇の頭の形を作って飛ばし、それらがぶつかり合う。
ぶつかった結果、テルミが放った碧い炎のようなものが消滅するのを確認する間も無く、ラグナは剣を左手で持ったまま右手に黒い炎のようなものを纏わせて軽くジャンプし、上からテルミに殴りかかる。対するテルミは右手のバタフライナイフを左からの右へ振るう事でそれにぶつける。
その後着地したラグナはもう一度右手に黒い炎のようなものを纏わせて拳を振り抜き、テルミは頭に碧い炎のようなものを纏わせ、それで上から下に振り下ろすように頭突きをする。
「ヒャハハハ・・・!ラグナちゃ~ん、おっ楽しみの時間だぜェ~?」
「テメェの好きにはさせねぇ・・・ネプギアを返して貰うぞッ!」
テルミはバタフライナイフをしまい、ポケットに手を突っ込みながらニヤリとした表情を見せるのに対し、ラグナは剣を右手に逆手持ちの状態にして構え直しながら、少々怒気の籠った声で言う。
テルミからすればラグナを倒せる最後のチャンスなのだから、当然楽しむ理由にはなるが、ネプギアを取り戻す事を第一に考えているラグナはそんな場合ではないのである。
そして、ラグナが吐き捨てると同時に動き出したので、テルミもまた動き出した。
「うぉりゃあッ!」
「オラァッ!」
距離が近くなると同時に、互いにジャンプをして更に距離を詰めようとした為、互いが空中にいる状態で最初の攻撃を行う事になった。
この時、ラグナが選んだのは剣に黒い炎のようなものを纏わせながらの振り上げ、テルミが選んだのは二つのバタフライナイフに碧い炎のようなものを纏わせて、内から外への振り下ろしだった。
それらが激突して火花を散らすも、両者は自身の飛び込んだ勢いが殆ど残ったまますれ違い、相手がジャンプしだした時と同じ位置に背を向けたまま着地した。
「おおッ!」
「ヒャハハッ!」
そこから同時に相手の方へ向き直り、再び走って距離を詰める。
剣が届く間合いに入った瞬間に合わさるように、走ってくるテルミに向けてラグナが剣で下段の突きを入れるが、テルミは小さく体を浮かせながら左足を振り上げて避ける。
ならばとラグナはそのままの位置から刃をテルミの方に向けながら剣を振り上げ、テルミは靴の踵辺りからナイフを見せた状態で左足を振り下ろした。
それらがぶつかる事で再び火花を散らすが、自分たちにあまり時間が無いと考えているラグナたちは止まらない。
「ヘルズファングッ!」
「喰らうかよッ!」
ラグナが空いてる左手に黒い炎のようなものを纏わせて突き出してきたので、テルミは右足に碧い炎のようなものを纏わせた蹴りを放って防ぐ。
ここまで戦況が膠着状態にあった両者だが、次の攻撃で動き出すことになる。
「
「コイツを喰らえッ!」
テルミが右手に持ったバタフライナイフに碧い炎のようなものを纏わせながら足元を狙って振るう。
それに対するラグナは、剣を通常の持ち方に変えながら体を右に一回転させ、そのまま黒い炎のようなものを纏わせた剣で左から水平に振るう。
「ッ!?何・・・!?」
「次はコイツだッ!」
先に動きが崩れたのはテルミだった、ぶつかり合ったのは良いものの、ラグナの放った攻撃がテルミの攻撃相手に威力で押し切ったのである。
テルミの体制が崩れるのを見たラグナは、剣を再び逆手持ちに変えながら黒い炎のようなものを纏わせ、それを上から下に振り下ろした。
「ええい、クソッ!」
テルミは体制が崩れたのを利用したまま後ろに下がる事で、攻撃の範囲外に逃れる形を取って避ける。
押された勢いで倒れるかと思えば、そこは流石に手馴れているテルミは術式制御で体制を立て直して見せた。
しかしながら、流石に立て直しながらラグナの姿をとらえ続けるのは難しかったようで、上に気配を感じたテルミが反射的にそちらを見たことでようやくラグナの姿を捉えることができた。
「ナイトメアエッジッ!」
「ッ!」
攻勢を維持できているラグナはもう一度剣に黒い炎のようなものを纏わせ、それを振り下ろしながらテルミへ向けて急降下した。
対するテルミは飛びのいて避けるが、ただやられっぱなしと言うわけでもなく、突破口を見たテルミは敢えて距離を詰める。
「まだあるぞッ!」
「んなこたぁ知ってんだよッ!
ラグナが逆手に持ち替えながら剣を振り下ろすのに合わせてテルミは体を捻る事で避け、そのまま碧い炎のようなものを纏わせた右足でラグナを蹴りつける。
「うおぉぉぉ・・・ッ!?」
それによって上に吹き飛ばされるラグナを見たテルミは、追撃する為に自身もジャンプしてラグナを追う。
「これも喰らいなァッ!」
「ッ!させるかッ!」
ラグナに追いついたテルミが術式を使って、空中で前に一回転しながら右足で踵落としを放つ。
しかし、飛ばされている自分に追い付いてきたテルミを見たラグナは即座に術式を使って姿勢制御をし、剣の腹をぶつけることによってそれを防ぐ。
流石に勢いまでは殺せなかったので、ラグナはそれに逆らうことはせず、大人しく地面に落ちながら体制を立て直した。
テルミは下に降りながら『ウロボロス』を一つ伸ばして追撃を行うが、ラグナが冷静に剣を横に振るう事で打ち払ったので、それは失敗に終わる。
こうなると攻撃を続けても返り討ちで痛い目を見るだけだと判断したテルミは、無理せずに自分も地上に降りることを選んだ。
「やるじゃねぇか・・・。テメェが『
「俺もあの時から色々と学んだからな・・・」
テルミはラグナの強くなった姿に称賛をしながら、心の中では舌を巻く。
最初は自分の作った模造品だからどうにでもなると思っていたら、様々な対抗策が出来上がって其れで対処され、最後は『エンブリオ』で一度消し去られた。
その後は何の因果かこのゲイムギョウ界で再び行動することができたのだが、今はこうして再びこの『蒼の境界線』で自身が消し去られる可能性が出ていた。
「・・・多分、次の攻防で終わりだな」
「ああ。もう時間は残されてねぇな・・・」
互いに、次の交差が全てを決めると確信して、それぞれ武器を構え直し、暫くの間沈黙が支配した。
「「・・・・・・行くぞッ!」」
そして、二人は決着を付けるべく同時に地面を強く蹴った。
* * *
「・・・ん?テルミの反応が消えたっちゅよ?」
ハクメンが『刻殺しの刀』でテルミを斬った直後まで時間は遡る。
浮遊大陸の中でモニターと睨めっこをしていたワレチューが、テルミの反応がロストしたことに気が付いた。
「これは何かあったみたいっちゅね・・・」
すぐに連絡するべきなのだが、ここで一度ワレチューは状況を整理する。
マジェコンヌとレイは女神七人相手に二人だけで戦っている状態なので、今連絡するわけには行かないだろうことは簡単に予想できた。
また、テルミに何かあったと言う連絡はこちらの士気にも関わってくるので、こう言ったことへの変動が少ない人と考えると、それはレリウスしか思い当たらなかった。
そう整理を終えたワレチューが通信をすると、レリウスはすぐに出てくれた。
『私だが、どうした?』
「レリウス・・・今さっきテルミの反応が消えたっちゅよ・・・」
『・・・テルミの反応が?だが、その連絡を私だけにしたのは正解だったな。一先ず、万が一の状況になった時に備えて置いて欲しい。あの二人には、かなりの悪影響が出るだろうからな・・・』
「了解っちゅ。そっちも、無理しないようにっちゅよ?」
『了解した。では、また会おう』
戦闘音が近くで鳴り続いていたことから、レリウスは防戦に徹しながら答えてくれたのだろう。
その為、これ以上は悪いと感じたワレチューは短く要件を伝えて、すぐに通信を切ってレリウスには目の前を集中してもらうことにした。
「(・・・お前がいなくなると寂しくなるっちゅから、帰って来てくれっちゅよ?)」
心の中で祈るワレチューは、不安が拭えなかった。
相殺演出をしたり、展開だったりとCFと殆ど似たような形になってしまいました・・・(汗)。
次回はラグナとテルミの戦いに決着が付き、戦況も終盤に差し掛かることになります。