超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER-   作:ブリガンディ

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アニメ11話分が終わるかなと思ったら終わりませんでした・・・(汗)


58話 近づく決戦の時

「・・・とまあ、ここまでがさっき録音できた会話の内容だ」

 

「ふむ。まだ出だしに近い状況だが、これからどうなるかに期待しようじゃないか・・・」

 

女神たちの様子を確認した夜、ラステイションの廃工場に集合して同盟の一同はテルミが録音した会話記録を聞いていた。

シェアエナジーの急激な変化は、それまでの関係を崩しかけているように感じられたので、彼らは『スサノオユニット』完成までこちらの意識を背けることには成功したと考えた。

 

「ところで、先日あの遺跡で準備していたが、其方の用意はどうなった?」

 

「そちらはもう終わっているので、後は全ての用意が整うまで待つだけです」

 

「そうか。早いものだな」

 

レリウスが気になって問いかけたところ、レイたちが行っていた準備は全て整っていたようだ。

これによって、残りは『スサノオユニット』の完成をすればすぐに仕掛けられることが判明した。

 

「後は、どこかで戦いが起こるかどうかに期待っちゅね・・・」

 

「ああ。女神同士の戦いのデータを取り込めれば、それで完成だ」

 

「もう少しだな・・・。まさか本当にやり遂げちまうとはなぁ・・・俺でもビックリだぜ・・・」

 

レリウスがやり遂げる目前まで来ている『スサノオユニット』の創造に、テルミも感嘆する。

彼なら多くのことができそうだと思っていたが、まさか神の力すら創り上げられるようになるとは誰が創造できただろうか?

 

「そう言えば、プラネテューヌではその感謝祭が行われると言っていたな?その日ならば人は嫌でも集まるだろうな・・・」

 

「大きな影響を与えるなら、その日に合わせて決行したいですね・・・」

 

「ああ。それまでには『スサノオユニット(アレ)』を何としても完成させたいところだな・・・」

 

マジェコンヌが先程の録音内容を振り返って話を聞き切り出し、レイがその日に決行したいと言えばレリウスが同意した。

テルミとワレチューも同じ考えであった為、彼らも首を縦に振って頷いた。

 

「では、その日に合わせるようにしてまた動こうか」

 

「じゃあ、今度はオイラがプラネテューヌを見てくるっちゅよ。小柄だから隠れるのも楽っちゅよ」

 

マジェコンヌがそう言えば、今回は真っ先にワレチューが名乗り出た。

確かに、同じ人が何回も潜り込むのは良くないので、人を変える方が良いだろうと判断してそれを了承する。

 

「何か変化があれば私を呼んでくれ。そちらに合流する」

 

「俺は他の国に潜って様子を見て見るわ。何かあったら知らせるわ」

 

「了解っちゅ。それじゃあ、早速行くっちゅよ」

 

「二人とも、気をつけてくださいね」

 

短く話を纏めて、ワレチューとテルミは潜入の為廃工場を後にする。

 

「さて、私たちも周囲には気を付けましょうか」

 

「ああ。ここで失敗しては元も子もないからな」

 

最後の最後でつまらないミスを犯さないように、この場に残ったメンバーもそれぞれの務めを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「この機材はどこに置くんだ?」

 

「それはそっちの隅っこ。んで、そのガスボンベはこっちで使うからそこのままで良いぞ」

 

仲違いしているフリを演じた翌日。プラネテューヌは感謝祭の準備で無数の機材が持ち込まれており、売店を出す人たちが準備で移動を繰り返していた。

久しぶりに楽しめるイベントであることから国民たちも活気づいており、この感謝祭の企画を立てたことは成功と見ても良いだろう。

 

「おお・・・結構賑わってんだな」

 

プラネテューヌで周囲の警戒を兼ねて準備している様子を見ていたラグナは、率直に呟いた。

彼自身こういった物を見たことが殆ど無かったので、準備している場所も新鮮に映るのである。

そうして少しの間楽しんで見ていたラグナだが、途中で一つの様子に目がいった。

 

「食品関係のリストができましたよー」

 

「おっ、サンキュー。次、これが飲料関係のリストだから点検お願いな」

 

「わかりました~」

 

「(あいつか・・・)」

 

リンダが真面目に働いている姿をラグナは目撃した。何やら売店関係に必要なものをリストに纏められているらしい。

そして、そのリストを受け取って早速次の仕事に掛かろうとしたリンダも、ラグナを見かけてそちらへ歩み寄った。

 

「どうも、お久しぶりです!」

 

「おう。エディンとの戦い以来だな・・・。何の仕事してんだ?」

 

「今度やる感謝祭の点検です。当日は自分も売店のお手伝いさせてもらう身ですからね・・・」

 

話して見た感じ、リンダは顔を表に堂々と出せるようにはなったらしい。

後はどのような方針で正当な職に就くかを考え、その道を行けば大丈夫だろうとラグナは確信した。

 

「そっか・・・そいつは良かったな」

 

「それはもう。あの時こっちに気を遣ってくれたブラックハート様に感謝ですよ・・・」

 

どうやらリンダはあれ以来、こちらの奮闘を素直に讃えてくれるだけでなく、その頑張りに対して与えたのが真っ当な道に戻る為の支援だったようだ。

その心遣いに心を打たれたリンダは、晴れてノワールの信仰者になった様子だった。また、この様子からして、シェア操作などは恐らく受けていない純心の信仰者である。

 

「さて・・・これからまだまだ準備するものがあるんで、自分はこれにて失礼します」

 

「おう。頑張れよ」

 

リンダが準備に戻っていく姿を、ラグナは手を振って見送った。

そうして再び準備を進めている時のリンダは、額に汗を見せながらも非常に楽しそうに作業をしていた。

 

「(俺も、あいつらの為にできることをしねぇとな)」

 

その姿を一瞥してラグナはそう決意し、見回りを再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

時間が昼に近づいてきたので、ネプギアは昼食を作っていた。

今回は珍しくラグナが早上がりするので、久しぶりに三人分の食事を準備することになった。

 

「(久しぶりに帰って来てくれるし・・・頑張らないと)」

 

無意識のうちにネプギアは張り切っていた。それもラグナの影響が多大にあることに、本人は気づいていないのだが。

しかしそれでも、ネプギアは最近気になっていることと、気が付いた事がある。

 

「(うーん。ラグナさんのことを考えると、妙に落ち着かないなぁ・・・)」

 

ネプギアはラグナのことを考えると落ち着かなくなっていた。

彼女(サヤ)と混ざっていた人格などが片付き、自分に正直になれるようになった時にハッキリとそうなったのは分かっているが、ラグナのことを明白に意識し始めたのはこの世界で始めて『蒼炎の書』を起動した時かも知れない。

何があっても諦めずに、大切なものを護ろうとする信念・・・その心の強さに自身は惹き付けられたのだろう。

ここまでが、最近気が付いた事である。

 

「(最近、私に対してだけ妙に落ち着いていないような感じがするけど・・・どうしちゃったんだろう?)」

 

これが今、ネプギアの気になっていることだった。

声色などや表情に変化が少ないからこそ分かりにくいのだが、ネプギアと話している時のラグナは僅かに緊張しているような、笑みを浮かべやすいような。そんな感じがするのである。

彼のことであるから、自分をどちらで見れば良いかに悩んでいることは無いと思いたい。そうなると、未だに管理場所が決まらないせいで『蒼』を保有している自分に重荷を負わせまいと気を遣っているのかも知れない。

そう考えると少し嬉しいのだが、同時に少し申し訳ない気持ちも出てきているのも、また事実であった。

ゲイムギョウ界に来て以来一日を楽しんでいるラグナだが、前いた世界での出来事も考えるとスケールの大きいことを一人で関わり過ぎているのである。

 

「何か手伝えることがあると良いんだけど・・・」

 

「・・・?ネプギア、どうかしたの?」

 

「えっ?ああ、ちょっと考え事してて・・・」

 

思わず独り言が出てしまったのを姉に聞かれたので一瞬慌ててしまうが、平静さを取り戻して悩んでいたのを答える。ちなみに、この時しっかりと料理は完成させており、後は盛り付けだけになっていた。

それを聞いたネプテューヌは「悩み事かぁ・・・」と呟いて考え出す。彼女からすれば、ネプギアの悩んでいることは意外と多いかもしれないと考えていた。

自分のことを真剣に考えてくれるネプテューヌの姿を見て、ネプギアはまた嬉しく思うのだった。

また、ネプテューヌは感謝祭の進捗状況を纏められている紙を持っている事から、一仕事終えた後であったにもかかわらず、普通に協力してくれた。これもネプテューヌが物事に関してある程度真面目になった証拠だろう。

 

「・・・ダメだ。一度考えると纏まらない・・・。取り敢えず悩んでいることを教えてもらってもいい?そうすれば私も答え易いから」

 

「うん。悩んでいることなんだけど・・・」

 

ネプテューヌに促され、ネプギアは自分が悩んでいることを話した。

それに対して、一つ一つを真剣に聞いて頷いたり一緒に悩んでくれるネプテューヌの存在は本当に本当にありがたいものだった。

 

「まあ『蒼』のことはしょうがないよ・・・。シェアクリスタルが一般には知られて無いにしろ、私たちに何かがあったらついでに場所が割れちゃうもん」

 

「そうだね・・・。今しばらくは、我慢するしか無いみたい」

 

『蒼』の管理場所にシェアクリスタルが置かれている部屋は却下されていた。

それもそのはずで、まず第一にプラネテューヌのシェアクリスタルが置かれている場所に管理した場合、プラネテューヌの重役しか『蒼』の所在を確認できない故に他の人が『蒼』の防衛を出来なくなってしまうという最大の問題があった。これは致命的だった。

その他にも、これ程強大な力を『独占』することには保有していない人どころか、所有者であるネプギア自身が否定的だった。

ラグナの場合は『蒼炎の書』と共にあることから止む無しであることと、二つも管理する場所は決めきれないということ、何よりもそれを無くすとラグナが右上半身を使えない生活に逆戻りする危険性が非常に高く、そうなった場合マジェコンヌらの同盟に対抗できる人が減るのでそれを避ける為等々・・・とにかくラグナが持っているべき理由が多すぎるので、引き続きラグナが保有する形になる。

以上のことも相まって、現在はネプギアがそのまま保有しておくことしか策が無く、現在早急に対応を求められている案件だった。

 

「ラグナからは何か聞けた?」

 

「うん。必要なことは大体教えてもらった」

 

ラグナが言うには、『蒼』を使わない時は基本意識から外すようにしているとのことらしい。

そうすることによって、普段のように使わない状況であれば『蒼』を持っていなかった時と変わらずに行動できるらしい。

そして、万が一使用するのであれば、『どのような可能性が可能にしたいか』を意識することが重要だと言っていた。

自身が重病に掛かってしまった時、病を完治できる可能性があるのなら、それが可能になるように意識すると言った具合で、そうすれば外的要因だろうと内的要因だろうと、最終的には実現するようだ。

逆に、一般人が宇宙空間を生身で活動するといったように、『どう足掻いても可能にならないもの』はそれの対象外なので気を付けろと言われた。

それを聞いたネプテューヌは、「ぴーこの遊び相手をできるかどうかみたいなものなんだねぇ~・・・」と納得した。可能性がある人たちは自分以外の女神で、不可能なのはイストワールのように体格の関係で振り回されてしまう人やその他色々である。

 

「あっ、ラグナのことで思い出したけど、具体的にはどう思ってるの?」

 

「え、ええっと・・・。もっといろんな事を話したいとか、一緒にいたいとか・・・何だろう?後は、一緒にいると安心するって言うべきか、それとも離れていると寂しいって言うべきなのか・・・」

 

「・・・・・・」

 

ネプテューヌに問われたネプギアが答えている内に少しだけ頬を朱色に染めたのをみて、ネプテューヌは固まりながら何があったのかを悟った。

しかしそうであるのに一切気づけないのであれば、それが何なのかは伝えておくべきだろう。そう決めた瞬間、ネプテューヌは自分の表情が穏やかになるのを感じた。

 

「ネプギア、ラグナのことが好きなんだね・・・。それも異性として」

 

「・・・えっ?わ、私が、ラグナさんを・・・」

 

まさか自分の妹が誰かに恋をしていたとは思ってもみなかったが、相手がラグナであると自然と納得してしまえた。

ネプギアの中にいた少女(サヤ)が深く関わっているのもそうだが、何しろ自分に素直になって生きられるのだからこそ、そう言った方面で意識できるようになったのだろ。

また、それによって自身がどういう状況に陥っていて、ネプテューヌに何を話したのかを理解したネプギアが一気に顔を真っ赤にして顔を下に向ける。

 

「あうぅ・・・。私、いつの間にかそんな風に・・・」

 

「まぁまぁ、何も悪いことじゃないんだし、思いっきり悩みなよ。どうやってラグナの心を惹きつけるかをね?」

 

ネプテューヌに投げかけられたネプギアは頷くしかなかった。

そして、その直後に「戻ったぞー」とラグナの声が聞こえたので、二人はハッとなって声のした方へ顔を向けた。

そちらに振り向いてから少ししてドアが開かれ、ラグナが部屋に入ってくる。

 

「えっと・・・どうした?二人して俺を見て・・・」

 

「ううん。久しぶりに三人でお昼だと思ってね・・・。ね、ネプギア?」

 

「えっ?あ、はい!久しぶりに三人でだったから、ちょっと嬉しかったんです」

 

「そっか・・・。そりゃ何よりだ。俺もちょっと楽しみにしてたしな」

 

ラグナが固まりながら問いかけるものの、ネプテューヌはすぐに平静さを取り戻してそれっぽい事を言いながらネプギアに話を振った。

対するネプギアは、少しだけ慌てながらもどうにかそれらしい事を言って誤魔化すことに成功した。

それによって大して気にしなくて良いと思ったラグナも、柔らかい笑みを見せたので、それによってネプギアは自分の心臓が跳ねるのを感じた。

こうなる辺り、姉の言っていた事は本当なのだとネプギアは改めて実感しながら、すっかり忘れていた盛り付けを終わらせる。

 

「さて・・・久しぶりに張り切って作ったので、量で不満になることは無いと思いますよ」

 

「おおーっ!それは嬉しいねぇっ!それじゃあ早速食べよっか?」

 

「ああ。そうさせてもらうわ」

 

二人が自身の料理を楽しみにしていたと名言してくれたことが、ネプギアにとってはとても嬉しかった。

ラグナとネプテューヌの二人は一足先に席に着き、食事をテーブルにおいたネプギアもエプロンを外して席に着いて食卓を囲んだ。

 

「それじゃあ・・・いただきますっ!」

 

「「いただきます」」

 

ネプテューヌが元気よく言うのに続いて、二人が少し落ち着いた様子で言う。

食事を始めてすぐ、今日は何があったのか、感謝祭の様子はどうだったで会話に花を咲かせながら食べるのは、一人増えるだけでも楽しさが増すのを実感できる。

 

「(この気持ち・・・ラグナさんに伝わると良いなぁ)」

 

「(これは私とネプギアだけで抑えておくべきかな・・・とにかく頑張るんだよ、ネプギア)」

 

談笑をしながら昼食を取る傍ら、ネプギアは心の中で思いが成就することを願った。

その一方で、ネプテューヌは彼女の恋が実るように心の中で応援した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・それは良いけど、本当に大丈夫?」

 

「大丈夫。これであいつらを誘き出せるなら、やってみる価値はある」

 

遂に感謝祭当日となった朝、ネプテューヌとブランは早朝にも関わらず二人で打ち合わせをしていた。

内容としては、ブランがプラネテューヌが不正行為でシェアを取ったと決めつけ、全力で戦う姿を見せることだった。

それによって誰かが釣れるのなら、そこを近くにいた誰かに捕まえてもらう、或いは自分たちで捕まえるという算段であった。

また、ネプテューヌの方は決めつけられて誤解を解きたいという立場から、最初の内は全力を封印することも前提条件にある。

 

「当然、そこまで長い時間はできないから、ロムとラムが止めに入ったらそこで終了にするつもりよ」

 

「なるほど・・・。確かに、それ以上は危険だからね」

 

全力で戦うとはいえど、これが嘘だとバレてしまえば結局のところ意味が無いので、制限は設ける必要があった。

最も、自分たちが本当か噓かを気にせず戦いを見るだけならば、まだ良いのだが、襲撃されてしまったら目も当てられないと言う面が大きい。

 

「・・・分かった。それで、どこに行けばいいかな?」

 

「この前私たちが仲違いをして見せた場所があるでしょう?場所も広いからそこにしましょう」

 

「そうだね。そうしよっか」

 

腹を括ったネプテューヌが促せばブランはどうするかを教えてくれた。

それに反対する理由が見当たらなかったネプテューヌが頷いたことで、どうするべきかは決まった。

 

「さて・・・それじゃあまた後で会おっか。これで何か進展があるといいね」

 

「ええ。私もそう思うわ。それじゃあまた」

 

二人は通信を切って会議を終了した。

それを終えるや否、ネプテューヌは「同盟の釣りをブランとやってみる。そんなに時間はかからないから安心して」という書き置きを残し、すぐに待ち合わせの場所に足を運ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「こちらを渡しておきますね」

 

「完成していたか。感謝するぞ」

 

ルウィーの女神たちが教会を出てから間もなくして、『刻殺しの刀(ヒヒイロカネ)』を完成させたトリニティがそれをハクメンに渡した。

 

「しかし、本当に私で良かったのか?」

 

「ええ。テルミさんたちや私たちは本来この世界にいないはずの存在・・・。であるならば、私たちが持ってきてしまったものは、私たちの手で終わらせるべきだと思うんです」

 

「成程・・・。御前がそう言うのであれば反対する理由はない。預からせて貰おう」

 

一度理由を問うたハクメンだが、トリニティの考えには同意できるので、『刻殺しの刀(ヒヒイロカネ)』を受け取った。

それを確認したトリニティからは、安堵の笑みが見えていた。

 

「・・・?どうした?」

 

「いえ・・・。ただ、ハクメンさんが以前より大分気持ちが楽になったように見えたものですからぁ~・・・」

 

「そうか。ノエル=ヴァーミリオンにもそう言われたのでな・・・。御前も言うならそうなのだろう」

 

どうやら自分は信じられない程心持ちが楽になっているようだ。

それもそのはずで、今までは独りでその使命を果たさねばならなかったが故に独りで全ての重みを背負わねばならなかったのである。

それが誰かと共にできる以上、その重みは非常に軽くなったのである。それは心境が楽になるはずであった。

 

「一人では大変だったでしょう?」

 

「ああ。情けない話ではあるが、大分抱え込むものがあった」

 

だからこそなのか、ハクメンは簡単に自分のことを吐露できた。

目の前の相手が気の許しやすいトリニティだからというのと、ロムとラムの前ではあまり吐かないように気を付けていたからか、自身でも予想外だった。

 

「だが、今はもう違う・・・。私は此の世界にいる者たちの協力があれば、此の世界の平穏を護り続けることは難しくとも苦とは言わないで済むだろう」

 

事実、ハクメンは大分楽な気持ちで事に構えることが出来ているので、それは大きいことだった。

それほどまでに、自身はこのゲイムギョウ界に影響されているのかもしれない。

 

「ふふっ。でも、あまり無茶はしないでださいね?心配してくれる人がいるのですから・・・」

 

「・・・肝に銘じておこう」

 

トリニティにそう言われれば、ハクメンも頷くしかなかった。

 

「では、改めてよろしく頼むぞ。トリニティ=グラスフィール」

 

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

二人は改めて共に戦う仲間として、固い握手を交わすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「大分通りが狭くなってるっちゅねぇ・・・」

 

ネプテューヌがプラネタワーを出た直後、ワレチューはプラネテューヌの大通りで愚痴を吐きながら歩いていた。

感謝祭当日になっているのもあり、人の通りの多さや、売店などの設営から道が狭く、更にワレチューの小柄さが仇となって一般の人に気づかれないことから非常に移動が面倒なことになっていたのである。

 

「(ああ・・・己の歩幅の小ささを呪いたくなるっちゅよ・・・)」

 

己の体格から来る、一歩の小ささによってこのもどかしい時間を長く過ごす羽目になったワレチューは、それを恨みながらもどうにか人気のない場所に辿り着く。

以前テルミが仲違いしている場所を傍受した場所に偶然たどり着いたのだが、それ以上に重要なものを見つけた。

 

「(プラネテューヌの女神が変身した状態でいるっちゅね・・・。条件指定でも食らったっちゅか?)」

 

ネプテューヌがまさかの変身した状態でいたので、間違いなく何かがあると踏んだワレチューは少しの間張り込んでみることにした。

女神に目撃されれば即時に捕まってしまうので、物陰に隠れながら待っていると、これまた変身した状態でブランがやってきた。しかも武器を持った状態でだった。

 

「え、ええっと・・・ブラン?どうして武器なんて持ったまま来ているのかしら・・・?」

 

ワレチューはこれが誘い込みだのなんだの等を知らないが、武器を持ったまま来るなど一言も言われていなかったのでネプテューヌは本気で焦っていた。

それもそのはずで、ブランは素で戦いやすくするよう、武器を持ったまま来るというのは一切伝えていなかったらである。

当然、何も伝えなかったことには自分に非があることは分かっているので、後ほど謝るつもりである。

 

「どうしてって・・・そっちが不正な手段でシェアを取った事が判明したんだ・・・。テメェの応答次第では即ぶん殴るって意味合いだ」

 

「・・・不正な手段で?何を証拠にそんなことを・・・と、取り敢えず武器をしまってもらえるかしら?それと、やっぱり間違いなんじゃないの?」

 

ブランは本気そうな雰囲気を醸し出しながら言うのに対して、ネプテューヌは本気で焦っていた。

とにかく武器を構えられてるので、このままだと本気で殺しに来るんじゃないかとすら思ってしまってるのが最大の原因だった。

 

「オイオイ・・・武器構えられたくらいでそんなんじゃ、不正してますって言ってるようなもんじゃねぇか・・・?」

 

「ま、待ってブラン!いきなりそう決めつけられて、武器を持ったままにじり寄られたらこうもなるわよ・・・!」

 

「(おっ、何か始まりそうっちゅね・・・じゃあ早速・・・)」

 

ワレチューは何か起きると確信して、通信機でレリウスに連絡を入れる。

二コールすると、レリウスが応答してくれた。

 

『私だ』

 

「オイラっちゅ。こないだテルミが会話を傍受した場所にいるんちゅけど、女神たちで戦闘が始まりそうっちゅよ」

 

『・・・ほう?では、すぐに行かせて貰うとしよう』

 

「了解っちゅ」

 

短く交信を終えて通信機をしまうと、即時にレリウスが転移魔法でワレチューの傍に現れた。

 

「おお・・・。速いっちゅね・・・」

 

「此れ程貴重な機会・・・逃す訳にはいかんのでな」

 

余りの速さにワレチューは素で驚き、レリウスは自身の考えを話しながら女神たちの方を見る。

そして、彼女たちの保っていた拮抗は崩され、ブランが戦斧を担いだままネプテューヌに肉薄し、上から真っ直ぐに振り下ろす。

対するネプテューヌは条件反射で手元に刀を出しながら、それを横に構えることで受け止める。

 

「ちょ、ちょっと・・・!本気なの・・・!?」

 

「ああ、本気だよ・・・。そっちが不正を認めないなら、ここで打ち勝ってそれを認めさせてやる・・・!」

 

「くっ・・・!それなら仕方ないわね!」

 

動揺するネプテューヌに対して迷うことなくブランが肯定する。

もう話し合いでは止められそうに無いと感じたネプテューヌは、一度ブランを押し返すことで距離を取って高度を上げる。

それに合わせてブランも上に飛んで彼女と高度を合わせる。

 

「私だって、無抵抗のまま終わる訳には行かないわ!あなたがどうしても戦うと言うのなら、無理矢理にでも止めて話を聞いてもらうわ!」

 

「・・・へっ、上等だぁ・・・!やれるもんならやってみやがれッ!」

 

そして、両者が言い切ると同時に、何度も交差しながら動く高速戦闘が始まった。

この時ブランが最初から武器を構えていた事が功を奏し、レリウスには本気で戦っているように認識させることができていた。

 

「ほう?これは多方向から見てみる価値があるな」

 

そう判断したレリウスはイグニスを呼び出し、自分とは反対の位置から観察にあたらせた。

バレたらバレたでその時ではあるが、その間はじっくりと見させて貰い、『スサノオユニット』の性能強化に活かすつもりだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・!?」

 

戦闘が始まって五分後、リーンボックスで仕事に取り組んでいた傍ら、モニターで反応を確認したナインはプラネテューヌに魔法の反応が出たことに驚いて画面を凝視する。

それも全く同じ場所であったせいなのもあり、まさか堂々と同じ場所を選ぶと予想できなかったことから数秒硬直してしまった。

その硬直はドアノックの音が聞こえたことによって、自分だけでは後数秒かかっていたであろう硬直から少しだけ早く解放された。

 

「お姉ちゃん、今大丈夫?」

 

「セリカ?ごめんなさい、すぐに行かなきゃいけないところができたから、要件は後で伝えて!」

 

「・・・えっ?何があったの?」

 

声の主はセリカだったが、今回ばかりは流石にナインもセリカと話に興じている場合ではなかった。

その焦った様子から、思わずセリカは問いかけてしまうのも無理は無かっただろう。

 

「プラネテューヌに魔法を使われた反応があったの。それも転移魔法がね・・・!」

 

「・・・っ!じゃあ・・・」

 

流石に何も伝えない訳には行かないので、何があったかはしっかりとセリカに伝える。

それを聞いたセリカは大方察しが付いて息を吞んだ。ここまでくれば説明に苦労することも無かった。

 

「ええ。アイツらが潜入してる・・・。私は一度そっちに行ってみるから、そのことを誰かに伝えておいて!」

 

「分かった!お姉ちゃんも気をつけてね!」

 

「そういうセリカも、無理はしちゃダメよ?」

 

短く話を終えたナインは転移魔法で即座に移動を始める。

また、セリカもナインが去ったのを確認すると即時に教会を走ってベールかチカのどちらかを探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「クソ・・・!渋てぇな全く・・・!」

 

「もうやめて!これ以上戦っても無意味よ!」

 

戦闘が始まってから約十分。持っているシェアの差が顕著に出てしまい、ブランは全く押し切ることができないままでいた。

ネプテューヌも全力で戦ってはいるものの、倒すことまでは考えていないので一度制止を呼びかける。

とは言え、元々ロムとラムの二人が来るまでは続けることにしていたので、あまり効果はで無いだろう。

 

「何言ってんだ・・・。そっちの不正をそのままにしておけるかよ・・・!」

 

「・・・話しさえ聞いてくれれば、こんなことにならないで済んだのに・・・!」

 

予想通りというか何というか、ブランは引き下がることを選ばなかった。

そんなこともあって、二人はそのまま先頭を続行することになってしまった。

 

「どうっちゅか?」

 

「ふむ。中々面白いデータだ。魂の輝きも十分に感じられる」

 

その一方で、彼女らの戦闘を分析しているレリウスには概ね高評価だった。

できればこのまま、もう少しだけ彼女らの戦闘を観察していきたいところだった。

 

「もうちょっとでプラネテューヌだけど、お姉ちゃん・・・やり過ぎてないかなぁ?」

 

「ちょっと心配・・・」

 

一方で、ブランとは約十五分遅れでルウィーを出発したロムとラムは、もうじきプラネテューヌに到着しそうだった。

頼まれていることは自分たちの戦闘を止める為に割って入るのだが、この時ブランが勘違いしているためネプテューヌを庇うような位置取りをして欲しいとのことだった。

これはブランが武器を持ったままネプテューヌに押しかけて行くと伝えていたので、自分を庇うように動いたら止めるはずが助長する形になるかもしれないからだ。

シェアが少なくなっているとは言え、女神の力を全力で行使するのだから、ブランがやり過ぎて都市に被害を出していないかどうかは確かに心配なのである。

 

「後は・・・何か問題になりそうなのって言ったら・・・」

 

「あの人たち・・・だよね?」

 

二つ目は、何か問題になりそうなのを見つけたら、それを捕まえる。最悪は追い払うだけでもして欲しいと言われていた。

この状況下でそうなると言えば同盟の人たちくらいなので、二人はその人たちを中心に探していくことにした。

そして、ネプテューヌとブランが戦っている姿が見えると同時に、視界の隅に妙なものが見えたラムはそちらを注視する。

 

「あ・・・ああーっ!?ロムちゃん、アレ見て!」

 

「アレ・・・?あ・・・イグニス・・・!?」

 

ラムが発見したのはレリウスが回り込ませていたイグニスであり、何やら監視しているような様子であることが伺えた。

 

「こうしちゃいられない・・・!ロムちゃん、足を止めに行こう!」

 

「うん・・・!」

 

ロムとラムは、戦っている女神二人は後回しに、イグニス目がけて猛スピードで近づいて行った。

 

「・・・!気づかれたか」

 

「イグニスっちゅか?」

 

「ああ。どうやら後から来た候補生に見られたようだ」

 

そのロムとラムによる、イグニスを捕まえようとする魂の輝きがちらりと見えたレリウスは事態を察してイグニスに引き上げの命令を出した。

 

「「ええーい!」」

 

二人は同時に杖から氷の塊を打ち出すが、レリウスの指示の方が僅かに早く、あと少しで届いた氷塊はイグニスが一飛びすることで避けられてしまった。

しかしそれは、戦っている女神たちの真正面を通り過ぎたことによって、彼女たちが戦闘を中断することになった。

 

「っ!?イグニス・・・!?」

 

「ま、まさか見られていたのか!?」

 

レリウスが監視に来るだろうという予想はしていたが、まさかイグニスを使ってタ方位を観察しにかかるとは思ってみなかったので、少し硬直してしまった。

 

「此れは偶然か必然か・・・興味深いところだが、まあ良いだろう。私の欲しいデータは揃ったので、今回は帰らせて貰うとしよう」

 

「っ!見つけた・・・!」

 

女神二人がイグニスを目で追った先にはレリウスとワレチューがいて、レリウスが挨拶をして去ろうとした時に、転移魔法でプラネテューヌ国内に入ったナインがようやくレリウスを発見した。

 

「逃がさない・・・!最悪どっちかでも良いからここで止めさせて貰うわよッ!」

 

「ナインか・・・残念だが、今回は時間だよ」

 

レリウスを止めようとするナインだが、自身の魔法では相当加減しないと周りを巻き込んでしまうのでそういう訳には行かなかった。

その為、魔法使いにしては決して侮ることのできない、十分な能力を有する体術で止めに掛かろうとするのだが、こちらは距離を詰めるしかないので、走ってレリウスの近くまで駆け寄ることを選ぶ。

しかし、その時にはレリウスが転移魔法の準備を終えており、後は去るだけになっていた。

 

「これにてご退散っちゅよ」

 

「では、また会おう」

 

捨てセリフを置いた二人は転移魔法の球体に包まれて消え去っていき、それによってナインが走りながら放った右の拳は空を切ることになった。

また、一度状況を整理するためにも、ネプテューヌとブランの二人は高度を下げて地面に足を付けることを選んだ。

 

「間に合わなかったか・・・」

 

「ちょっと遅かったかなぁ・・・攻撃当たんなかったし」

 

「でも、追い払えた・・・」

 

ナインは空振りした拳を数瞬眺めてからネプテューヌたちの元へ合流し、ロムとラムはそれぞれの所感を吐きながら二人の傍まで移動する。

 

「・・・取り敢えず、周りにいたのはあの二人だけね」

 

「ああ。後は周りにいるかどうかだな」

 

こうなると流石に戦っている場合じゃないので、全員で自分たちの視界に入る範囲で見回すものの、誰もいなかった。

誰かを見つければそこで仲違いのフリを終了しても良かったかもしれないが、まだ油断はできないので少なくともプラネテューヌを去るまでは続けるつもりでいた。

 

「はぁ。これじゃあ不正かどうかを疑ってる場合じゃねぇな・・・取り敢えず戻りながら誰かいるかどうかは見てやる。ただ、まだ認めた訳じゃねぇのは覚えておけよ」

 

「まだ誤解は解けなさそうね・・・」

 

「ったく、どの口がそれを言うんだよ・・・。二人とも、早いうちに行くぞ。アイツら残ってたらシャレにならねぇからな」

 

「うん。ネプテューヌちゃん、ナインさん、またね」

 

「またね・・・」

 

ネプテューヌとブランの二人は互いに溜め息をついた。レリウスがいなくなったことによる安堵と、これだけでもまだ油断できない二点にである。

その為、ブランはまだ猜疑心が残っているような言い分をして二人を促してから一足先に飛んでいく。

それに従った二人は、挨拶だけしてブランについていった。

 

「さて・・・私も少し周りを調べて見るわ。何かあったらまた伝えるから」

 

「ええ。そっちもお願いね」

 

仲違いを起こしているのは四女神間のみという認識をさせているので、ナインとネプテューヌであれば普通に話すことができる。

その為、短いやり取りを済ませたナインは歩いてこの場を離れていった。

 

「(さて・・・こっちは一旦感謝祭の方に回らないといけないわね・・・)」

 

できることならネプテューヌも周りを調べておきたかったのだが、感謝祭の主役がいないのは流石に不味いのでそれはできなかった。

その為、ネプテューヌは急いでプラネタワーに戻って準備を始めるのだった。




アニメ11話分は次回で確実に終わり、そのままアニメ12話分に入る形になります。

今回はネプギアも恋心に気付く形となりました。
凄い今更感あるので、大丈夫かどうかが凄い不安だったり・・・。

アニメ11話分が終わるとこの章は最終決戦を残すだけとなるので、本当に残りが短くなってきていますが、最後まで読んでいただけたら幸いです。

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