超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER-   作:ブリガンディ

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アニメ11話分の続きとなります。


57話 大切な準備

『取り敢えず、ルウィーはこんな感じだったぞ』

 

「承知した。では、私からブランに伝えておこう」

 

『ああ。頼んだぜ』

 

教会を後にしてから約二時間程、一通り国の中にいる人々の様子を見た限りの情報をラグナはハクメンに伝えていた。

ルウィーにいる人たちは大多数は小さいものを好む傾向があるらしく、平時の姿になってしまったネプテューヌが無茶してまでエディンの女神を止めたことを称える様子を度々目撃していた。

ラステイションと並び、これは比較的自然なものではないかとラグナは解釈していた。

また、ラステイションもそうなのだが、ルウィーにテルミら同盟の姿は無かった。

これらを聞いたハクメンがブランに伝える旨を伝えると、ラグナは改めて頼んでから通信を切った。

話を聞き終えたハクメンはブランに伝えるべく執務室の扉を開け、中に入る。

 

「ラグナからルウィーの状況に報告があったぞ」

 

「早いわね・・・。どうだったの?」

 

「どうやらこの国は、プラネテューヌの女神が平時の姿であるにも関わらず、エディンの女神を止めた事が評価を上げているようだ」

 

「なるほど・・・確かにそれは自然さがあるわね」

 

これで変身した姿のネプテューヌがどうのこうのと話が出てきていたら少しは違ったのだが、今回の話であればそれなりにルウィーらしいという結論に至った。

 

「肝心な同盟がこちらでも見当たらないとなれば・・・やっぱりプラネテューヌかしら?」

 

「その可能性が高いだろう。意図的に信仰を引き上げたのなら、其処が狙い目になる」

 

ブランの推測をハクメンは肯定する。

現状、自分たちが考えていたのは、信仰の下がった女神を各個撃破していくのか、信仰の高くなった女神のシェアが急激に低下するようなことを仕向けて倒しやすくする、他にも仲間割れでつぶし合いが考えられていた。

この中で仲間割れはこちらが乗ると決めたので殆ど効果無しだと考えれば、残っていたのは各個撃破か倒しやすくすることだが、今のところラステイションとルウィーにはいないので、これでリーンボックスにもいないなら間違いなく各個撃破の推測は消えることになる。

 

「全ての国の状況が分るまで待ちましょう。私たちが動くのは、少なくともその後だから」

 

「其れが良いだろう。では、私はそろそろ行かせて貰おう」

 

「ええ。ご苦労様・・・それと、ロムとラムには今の内なら大丈夫と伝えておいて」

 

「承知した」

 

ブランからの頼みを承諾したハクメンが執務室の扉を開けると、そこにはロムとラムの二人が待っていた。

 

「御前たちか」

 

「ハクメンさん、お姉ちゃんってまだ仕事中?」

 

「忙しい・・・?」

 

―成程・・・。彼女がそう伝えるように言っていたのはそういうことか。ハクメンは二人に問われて納得した。

恐らく彼女も、先程執務室に入るより前に、ロムとラムが自信を元気づける為に何かやっていたのを見ていたのだろう。

 

「今の内なら大丈夫だと、ブランは言っていたぞ」

 

「「・・・・・・!」」

 

ならば止める理由はない。ハクメンはブランから預かっている伝言を伝えると、二人は笑顔になりながら顔を見合わせた。

 

「ありがとうハクメンさんっ!ロムちゃん、早く行こう!」

 

「うん・・・♪」

 

「「お姉ちゃーん!」」

 

二人はハクメンに礼を言ったが早いか、早速執務室の中へと入っていった。

そしてその直後、彼女たちは三人で仲良く話していた。どうやら彼女たちが用意していたものをブランが大変気にいったらしく、ブランはロムとラムの二人が執務室から離れた後、自身の個室に大切に飾ることにした。

 

「(今の私にある使命は、此の世界の者たちと共にゲイムギョウ界の平穏を護ることにある・・・)」

 

ハクメンは己の使命を再確認する。

かつては世界にあった『悪』の根源を断ち切って秩序を護る事にあったが、今は信じることのできる仲間と共にこの世界の平穏と秩序を護る事にある。

この使命は一人では相当厳しいものだが、それでも協力できる人がいると言うのは非常にありがたいものだった。

 

「(成し遂げて見せよう・・・。此の世界を、私たちがいたような世界にしてはならぬ)」

 

暗黒大戦時代の惨さを、ループする世界の理不尽さを、一部の欲望にまみれた人たちによる身勝手さを知っているからこそ、ハクメンはこのゲイムギョウ界はそのままの世界であって欲しいと望んでいる。それはラグナやナインも同じである。

そして、己にできることをこなすべく、ハクメンはゆっくりと歩を進め出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「(こっちも大体同じか・・・)」

 

リーンボックスの周囲を確認してみるラグナだが、国内にいる人々の反応は大体同じだった。

こちらもルウィーと似ていて、「エディンの女神を一人で請け負ったから」と言うのが大きい。

ルウィーとは真逆に大きいものを好む傾向にあるリーンボックスである為、こちらも判別が難しい結果となってしまった。

 

「(ったく・・・なんかわざとらしい反応を見せてくれりゃ良いんだけどな・・・)」

 

心の中でそう思っていても、ラグナは口には出さなかった。

ラグナ自身、勘違いから敵視されたり襲撃されたりするのは何度も経験している手前、ここにいる人たちにはそんな思いをして欲しくは無かったのである。

そして、これ以上調べても仕方がないのでラグナは一先ずリーンボックスへ電話をかけることにした。

この手段を取った理由として、リーンボックスで術式通信を使える人がナインとベールの二名と少ないことと、その使える二人が基本的に多忙だからである。

少し時間が経つと、誰かが受話器を手に取った音が聞こえた。

 

『はい、こちらリーンボックスの教会です』

 

「ああ、セリカか。国内の様子を見て回ったから、それを伝えようと思ってな・・・今大丈夫か?」

 

『大丈夫。メモの準備するから、ちょっとだけ待ってて』

 

電話を取った相手はセリカであり、ラグナが訪ねて見れば一度メモ用紙を準備すべく電話から離れた。

この時しっかりと電話の機能を使って音が聞こえないようにしたのは、流石に手馴れている証拠だった。

そのことで一瞬、ラグナは意外だなと思ったものの、彼女は一時期シスターをやっていたので、電話の応対は手馴れているだろうと考えればそれは消え去った。

 

『お待たせっ!それで、伝えたい事って?』

 

「ああ。国内の様子なんだが・・・」

 

それからラグナは、シェアがプラネテューヌに回っている影響で、ネプテューヌたちを称える声は大きくなっていることを初めに話した。

ちなみに、この国では変身した姿のネプテューヌを支持するような声が大きいと言うことを補足説明し、リーンボックスにいる国民の傾向からすれば意外と自然であることを付け加えた。

また、これ以外にも例の如くテルミら同盟の姿は見当たらなかったこともしっかりと伝えておいた。

 

『なるほど・・・分かった。それじゃあみんなに伝えておくね』

 

「ああ、頼んだ」

 

『はぁい。じゃあラグナも頑張ってね』

 

「おう。それじゃあまたな」

 

そして電話を切ったラグナは、再び次の場所へと向かうのだった。

 

 

 

「さてっと・・・後残っていたのが・・・」

 

電話を終えたセリカは今日やることを纏めてあるメモを見て、次にやるべきことを確認する。

そこには食材の買い出しとあったが、今回はいつも通り一人で行ってはいけないことを思い出した。

現在シェアエナジーの偏りが同盟の狙いであると推測されている以上、外へ出るならなるべく自分と行くようにして欲しいとナインに言われていたのである。

セリカは非戦闘員ではあるものの、自身の持っている能力が関係して、今の状況でテルミたちが狙っているかも知れないという考えが上がっており、それ故にセリカ一人で行った場合何かがあった時に対処ができない可能性があるのだ。

 

「じゃあ、一先ずお姉ちゃんに言わないと・・・」

 

「・・・?セリカちゃん、今からお出かけでしょうか?」

 

「あっ、ベールさん。これから買い出し行くのもそうなんですけど、今さっきラグナからこの国の様子を教えてもらいましたよ」

 

「なるほど・・・。ちなみに、その様子はどうなっていますの?」

 

忙しいのは間違いないはずだが、自身の頼みになるとすぐにそちらを優先しがちになるナインである為、言えば何かしら返しそうだと思っていたら、ベールがこちらを見かけて声をかけてきた。

セリカが先程までラグナと電話していて、リーンボックスの様子を伝えてもらったと言えばベールが訊いてきたので、セリカはラグナに伝えてもらったことをしっかりと答える。

 

「そうなると判断が難しいところですわね・・・」

 

「女神様でも難しいんだ・・・。そうなると、何か証拠になりそうなものが欲しいですね・・・」

 

実際どこの国もそう言った断定しづらい状況になっていた。

エディンと戦った時の事が影響しているのは間違いないのだが、それにしては時期が遅いのである。

証拠になりやすいのはエディンの時にも使われていたシェアエナジー収集装置だが、果たしてまた同じ手段をすぐに使ってくるのかと言われればそれは違う気がした。

 

「一先ずこちらでも調べてみますわ。セリカちゃんもこれから行くなら気を付けてくださいな」

 

「はぁい。ベールさんも頑張って」

 

ベールが手を振りながらその場を離れ始めるので、セリカも手を振りながらそれを見送る。

そして、ベールが執務室に入って扉を閉めるのを確認してから、セリカはメモを手に取った。

 

「(みんな大変だからこそ、こういう簡単なことは私が受け負わないとね・・・♪)」

 

とは言え無茶をしていいという話ではないので、セリカは一先ずナインの部屋へ足を運ぶのだった。

案の定というか、ナインは現在非常に多忙であった為、セリカはやはり一人で行こうかと問いかけるものの、それを聞いたナインは「こんな時だからこそそれだけは待って!」と言いながら大慌てで外に出る準備をした。

そして、二人が教会の外に出たのはナインが準備をして大体十分後の話であった。

 

「そう言えば、ハクメンは私がここに来るより前にラグナの呼び方を変えていたのよね?」

 

「うん。そうだけど、どうかしたの?」

 

外に出て買い物を済ませた後は帰路に着いたのだが、この時ナインからハクメンの呼び方が変った事の話題が出てきた。

ナインが来たのはホームパーティーを開いていた日であり、その時は既に呼び方が変わっていたのである。

その事に関して、セリカは二人が戦わないで済むことに安心した事が最も大きかったのでそれ以上は考えていなかったので、ナインに問われたのに首を傾げたのだった。

 

「その時はどうやって折り合いをつけたのか、少しだけ気になってね・・・」

 

「ああ、そういうことか・・・」

 

ナインは現場にいなかったので当時のことを知らない。それだから気になると話せばセリカも納得できた。

そして、ハクメンと再び会った時の状況から、ラグナとハクメンが和解した時までのことを順を追って話していく。

セリカの話をナインは非常に真剣に聞いてくれたので、セリカとしても非常に話しやすかったのである。

 

「一対一で戦って決着を着けるね・・・。ラグナがそれ一回で終わらせると言わなければ、面倒なことになっていたわね・・・」

 

何しろハクメンの性格である。そうするであろうことを容易に想像できたナインは頭を抱える。

―そういう頑固なところは難儀するわね・・・。ハクメンの持つ意志の強さなどを思い出してナインは改めてそう評価した。

今では変わってきているからこそ、その前は大変だったのだと実感させられる。

 

「まあ何があったにしろ、あんたを誰よりも近くで護った二人が手を取り合う日が来たんだからそれでいいとしましょう」

 

「・・・うん!私も、あの二人が仲良くなってもらえて良かった・・・」

 

セリカからすれば本当に安心したことである。寧ろ、今まで前にいた世界では敵対していた事が信じられないくらいだった。

それだけセリカから見て、ラグナとハクメンは暗黒大戦時代で『黒き獣』を打ち、多くの人を助けてくれた恩人とも言える人だったので、敵対を信じられないのは尚更だった。

二人が手を取り合って同じく平和の為に歩く。元いた世界の人たちの大半は気が気でない状況になるかもしれないが、それでもセリカにとっては何よりも嬉しいものなのだ。

 

「さて、暗くなってきたし少し急ぎましょうか・・・」

 

「うん・・・。お姉ちゃん、お願いね」

 

「ええ。任せなさい」

 

話しながら帰っていたらいつの間にか空が暗くなり始めていたので、ナインはセリカを促して少し足を早める。

 

「(何が起こるかわからないからこそ、この子だけは今度こそ護る・・・。そう決めたのよ・・・!)」

 

心の中で決意すると同時に、できることなら何事もなく終わって欲しいとナインは願うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「みんなお待たせ!ようやく企画が決まったよぉ・・・」

 

「そんなに待ってないから安心しなさい。それに、今までのあなたと比べたら信じられないくらいに早いじゃない」

 

トリニティが来てから数日後、再び女神たちで集まって通信による連絡を取っていた。

ネプテューヌは前もってイストワールに企画書を見せ、承認を受けていたのでその辺りの話で話が停滞する心配は無かった。

 

「それで、企画ってどんな内容なの?」

 

「うん。今回考えた企画なんだけどね・・・」

 

「あっ、企画を聞く前に一ついいかしら?」

 

今回は楽しむことには全力を尽くす傾向のあるネプテューヌが提案したものだからこそ、ノワールも期待していた。

彼女たちには先に伝えて置くことは決めてあったので、ネプテューヌはその企画を説明しようとしたが、その時にブランが一度待ったをかけた。

もしかしたら今後の事の話かも知れないので、集まっていた女神たちがブランの映るモニターを注視する。

 

「ここでその企画を聞いた後なんだけど、後日プラネテューヌに集まって話を聞くふりをする時間を作りましょう。そこで、仲違いしだしたアピールをすれば、向こうが何か反応を示すはずだから・・・」

 

ブランの提案を聞いた全員が「なるほど・・・」と声を出した。

確かに、仲違いしているアピールをするのだから、どこかで全員が集まる機会は必要になる。

この他にも、今回シェアが最も多いのはプラネテューヌで、以前までは何かある度に全員がプラネテューヌに集まっていたので、そこならばあまり怪しまれづらいのもまた良い点だった。

 

「となれば、後は誰を同伴させるか・・・ですわね」

 

「なるべく隠し通すのが得意な人や、表情に出にくい人がいいわよね・・・」

 

「後は・・・同盟(あっち)側の目線で考えることだよね・・・」

 

今準備で急いでいる人たちや、その人だけで行けるかどうかを考慮しながら四人は少しの間悩む。

候補に上がった人の名前を記入していき、本当に大丈夫ならその人を〇で囲って印を付けていく。

 

「・・・じゃあ、これで良いかな?」

 

そこで出来上がった候補の人たちとして、ラグナ、ナオト、ラケル、ノエル、ラムダの五人は殆ど確定で大丈夫だと挙げられた。時点で大丈夫そうなのがハクメン、ナインの二人だった。

他の人たちはどうなのかと言うと、トリニティはこちらに来てから日が浅く、意思疎通が難しいことと、『刻殺しの刀(ヒヒイロカネ)』を作ってもらっている建て前そんなに無茶はさせられないと言う意見が出た。

セリカの場合は、ナインが「そんな酷なことをセリカにさせられない」と自分から引き受けに来そうだと予想できたので除外に近い形になる。

ニューはこれまたセリカに近い理由で、今まで大変な思いをしていたのだから、辛いことはさせたくないと言う気遣いから除外した。

最後に、アイエフとコンパだが、彼女たちは普通に仕事があるので入れる訳には行かなかったのである。

上がった人たちの名前を確認した四人は大丈夫あることを示すように、全員を一度見渡してから頷いた。

 

「さて、大丈夫そうだってなった人たちには後で確認を取って情報を共有するとして・・・。そろそろ企画の話を聞きましょう?本来はその為に集まったんだし・・・」

 

「あっ、そう言えば企画決まったからみんな呼んだんじゃん・・・。言い出しっぺの私が忘れてたら世話ないよね・・・」

 

ノワールが促したことでネプテューヌは思い出し、頭を掻きながら笑う。

せっかく真面目に仕事するようになったかと思えば今度はこれかと思った三人は、この方がネプテューヌらしいなとも思った。

 

「まあそれはさておき、話を聞きましょう。これから面倒なことをやるのだから、気持ちを切り替えないと・・・」

 

「そうですわね・・・しばらく気難しい状況になりますから、楽しいものの話を聞いて落ち着かせましょう」

 

「・・・そうだね。じゃあ、私が思いついた企画なんだけど・・・」

 

この後、ネプテューヌは三人に自分が思いついた企画である『ダイナマイトデカい感謝祭』の企画の内容を話した。

その内容はこれから仲違いしたフリをするので、精神的に疲れるだろう彼女たちにとって英気を養うことができるくらい気分の良くなる話であった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

時間は更に進んで、彼女たちが会議を行った翌日。レリウスとテルミはプラネテューヌ国内に潜入して街並みを歩いていた。

但し、普段通り外をうろついていると絶対に通報などをされてしまう為、人気のない道を進んだり、迷彩の術式を使って人にばれないようにしておくなど、念入りに対策をして捜査を行っていた。

 

『どうだ?何か手掛かりはあったか?』

 

「うんや。今日もまだ何も見つかってねぇぞ・・・。そんなすぐには変化しねえとは思ってたけどな」

 

レリウスに通信で問いかけられたので、テルミも歩きながら答える。

確かに数日経ってはいるものの、調査に時間がかかっているのだろうとテルミは考えていた。

何しろ『統制機構』のようにシェアに関することを知っているのはごく一部の人間や女神のみで、更にはその知っている人が明らかに少なすぎるのだ。各国一人で無いにしろそれ相応に時間がかかってもおかしくは無かった。

 

「まあそんなすぐにできるもんじゃねぇのは分かってたことだし、のんびり探すとするかね」

 

『其れが良いだろう。また何かあったら連絡する』

 

「おう。そんじゃあまたな」

 

レリウスとの通信を終了し、テルミは再び国内の探索を再開する。

様子としては何やら楽しそうな話でごった返している国民たちが多く、何やら変化が起こりそうな様子であった。

また、国民たちの会話内容から、テルミは一つの引っかかるワードを引き当てる。

 

「(『感謝祭』ねぇ・・・こりゃあ決行日とかを決められそうな情報になりそうだな・・・)」

 

迷彩を使っているとは言え、接触してしまうと混乱を呼ぶのでテルミはそれに気を付けながら歩いていく。

やがて、人気の少ない開けた場所にやってきたので、テルミはそこで一息つく。

しかしながら、声だけで判別されて追われる訳には行かないので、溜め息すら許されないのが少々休めづらい所ではあった。

 

「(流石にこうも何も起こんねえのは退屈だなぁ・・・なんか面白ぇもんでも・・・。・・・?ありゃラグナちゃんとその周りにいる奴らか?)」

 

テルミが考えながら周囲を見回していると、ラグナとネプテューヌ、ナオトとラケルの四人がこちらへ来ているのが見えたので、テルミは一度隠れる。

迷彩を使っているからすぐにバレると言う可能性は確かに低いのだが、術式に関して詳しく、迷彩の使用機会の多かったラグナがいる以上は万が一を考えて引いた方が良いという判断だった。

そして、しばらくすると別の方角からノワール、ブラン、ベールの三人と、随伴でノエルが来ていた。

 

「(これは何やら変化が起こりそうな予感がするぜェ・・・)」

 

テルミは念の為術式による会話記録を試みる。最悪大したことのない話であれば即時破棄してしまえば問題ないからだ。

ちなみに、テルミは知らないことではあるが、今回ハクメンがいないのはルウィーでの警備強化の協力に出席、ナインがいないのは魔法の跡を逃さないようにリーンボックスで待機しているからである。

 

「いきなりごめんね?呼び出しちゃって・・・」

 

「いえ、大丈夫よ。それよりも話って?」

 

ネプテューヌのお約束のような詫びには流れるようにノワールが答えて先を促す。

もちろんそう来るのは分かっていたので、ネプテューヌも説明を始める。

ネプテューヌが説明を始めるまではいつも通りの様子だったのでテルミも気を抜いていたが、彼女たちが明らかに不審そうにしている目をネプテューヌに向けているのが見えたので、テルミは少しだけ近づいて注意深く話に耳を傾ける。

そして、そこから更に少しだけ時間が経った時、事態は動くことになる。

 

「それには参加できないわ・・・。正直に言ってしまうと悪いけど、私はプラネテューヌのシェアの上がり具合がいくら何でも怪しいと思っているの・・・。ネプテューヌ、本当に不正は無いの?」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ・・・流石にそれは言いがかりじゃない?」

 

ブランがネプテューヌに猜疑心を持っている事を明かしたのだ。

ネプテューヌ自身はそんなことをしていないので、なだめるように言うしかないのだが、これだけでは効果が薄いのが証明されることになる。

 

「そうね・・・最近しっかりと仕事をするようになって来たとは言え、ここまで一気にシェアが傾くとちょっとね・・・」

 

「じゃ、じゃあアレだよ・・・。ほら、前にエディンと戦った時の影響でさ・・・」

 

「確かに、考えられるのはそれが一番でしょうけど・・・。少し、時期が遅すぎませんこと?」

 

ノワールも流石に無視ができなかったようなので、ネプテューヌは一番それらしい理由を述べる。

どうやらベールもそれを一番強く考えていたようだが、彼女の言う通り時期もあってあまり有力では無いので、それを知ったネプテューヌは「そんなぁ・・・」と落ち込んだ様子を見せる。

困った時は助け合いの精神でやってきたネプテューヌだが、互いに困らせ合っているこの状況では流石にいつものように言い出すわけにもいかなかった。

 

「・・・待て待て。ここでんなこと言ったってしょうがないだろ?そもそもネプテューヌがそんな手段使う奴じゃないことだって分かってるだろ?」

 

「確かに今回今までにない程の変動を見せましたけど、それが工作だって決めつけるのは時期早々だと思います」

 

ラグナとノエルはそれぞれの言い方で、プラネテューヌが何かしたということに対して否定を述べる。

この時のラグナは一度落ち着いて欲しいので自身に焦りが見えないように、ノエルも考え直して欲しいのもあって悩んでいるような表情になった。

 

「というか、シェアの取り合いなんて今までずっとやっていたことなんだろ?何でそんな急にこうなったんだ?」

 

《何も調べないで決めつけてしまうのは、私も流石に看過できないわ・・・》

 

ナオトは根本的なところを突きながら問いかけ、ラケルは調べていると一言も言っていないことを突いて問いかける。

シェアエナジーは条約を結ぶ前からずっと存在しているもので、彼女たちは様々な手段で取り合っていたのだから、今回のことでいきなり難癖付けるのはどうかと思うところがあったのだ。

そして、この異世界組四人の問いかけは届いたのか、または届いていないのか、ブランが変身をした。

 

「(おうおう・・・中々ヤベェ感じになってるじゃねぇか)」

 

その様子を見てテルミはニヤリとした。

―これは最後まで聞いてしっかりと持ち帰らなければならないな。そう判断したテルミは迷彩の術式が掛かっているのを確認してから少しだけ近づいた。

 

「じゃあ、私は早速、原因を調べに行かせてもらう。言っとくが、まだ信じた訳じゃないからな・・・。そっちが原因だって分かったらタダじゃおかねぇからな・・・!」

 

「あっ、おい!」

 

怒気の籠った言葉を吐き捨てるや否、ブランは身を翻してさっさと飛び去ってしまう。

ナオトは制止を求めて声をかけるものの、不信感全開のブランには届かなかった。

 

「何事も無ければ参加したかったけど、この空気で参加するのはちょっと難しいわね・・・」

 

「あはは・・・だよねぇ~・・・」

 

ノワールも参加を拒否した事には仕方ないとネプテューヌは少しだけ乾いた笑みになる。

一先ず自分もいられるのはここまでだろうと思ったノワールは、国へ帰る為変身をした。

 

「疑うつもりはないけれど・・・完全には信じきれないから、こっちも調査に回らせてもらうわ。ノエルもそれでいい?」

 

「・・・はい。わかりました」

 

ノワールに投げかけられたノエルは一瞬迷いながら返事をし、『クサナギ』を装着する。

ノエルとしては、ネプテューヌの人なりから不正をするとは思えなかったので、不正の疑惑が掛かってしまったこと自体に悲しい思いをしていた。

 

「その企画は国民たちに楽しんでもらえるよう作ったんだし、しっかりやりなさいよ?」

 

「何か分かったら、すぐに連絡入れますね」

 

それぞれ一言ずつ言葉を投げかけ、二人も国へ帰っていった。

 

「はぁ・・・これ以上、ナインに仕事を増やさせる訳には行きませんわね・・・」

 

《彼女、相当に仕事を請け負っているようね・・・。今回は何を任せているのかしら?》

 

「そちらは秘密にさせていただきますわ・・・。明かせる時が来たら、またその時に」

 

ベールは少しだけ憂鬱な様子を見せる。

その時出た言葉にラケルは問いかけるものの、どうやら今は話せないらしい。

また、ベールもこれ以上プラネテューヌに留まれないらしく、変身をした。

 

「申し訳ありません。私、この後仕事があるのでここで失礼させていただきますわ」

 

そう言ってベールは国へ帰っていく。これによって、この場にはプラネテューヌにいる四人が取り残された。

 

「全く・・・なんだってこうなっちまったのさ」

 

《前途多難ね。今までこんなことにはなっていなかったと言うのに・・・》

 

ナオトとラケルはこの先彼女たちは大丈夫なのかと不安になった。

この二人が知る限り、彼女たちは良好な関係を保っていたので、まさかシェア一つでこうなるとは思ってもみなかったのだ。

 

「はぁ・・・取り敢えず、信じるしか無いか・・・」

 

「そうだな・・・。一先ず、それを進めちまおう」

 

ネプテューヌはこうなると彼女たちから疑いが晴れるのを信じるしかなく、ラグナの言う通り感謝祭の準備を進めることにした。

 

「(さぁてここまでで良いだろ。とりあえずここから離れるか)」

 

一通り話を聞き終わったテルミは、素早く離れてレリウスに連絡を入れた。

 

「レリウス、さっき女神たちがプラネテューヌの女神に疑いを持っている様子を見れたぞ。記録はしてあるから、一旦戻って確認しようぜ」

 

『感謝するぞ。では、そちらへ行くので少しだけ待っていろ』

 

簡潔に連絡を済ませて終了させると、即時に転移魔法でレリウスが現れた。

 

「では、行こうか」

 

「おう」

 

そして、二度目の転移魔法はテルミを巻き込んで移動し、二人はプラネテューヌから脱出する。

確かに潜入して情報を得ることには成功したのだが、今回聞きこんでいた相手がレリウスで無かったことが幸いし、演技であることは最後まで隠し通すことに成功した女神たちであった。




一先ず原作での仲違いの場所まで辿り着くことができました。

次回で恐らくアニメ11話分が終わるかと思います。

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