超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER-   作:ブリガンディ

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これでオリ回は一度終了です。


40話 それぞれの現状

「ねぷてぬ~っ!遊んで~っ!」

 

「ちょっと待っててねー。セーブだけしちゃうから・・・」

 

ピーシェが来てから約一週間した日の事。朝早くからネプテューヌはピーシェに遊ぶ相手を頼まれていた。

普段ネプテューヌは自分のペースで遊ぶことが多いが、ピーシェに頼まれた時はなるべく合わせようとしていて、今回も途中でゲームを切り上げると言う形でピーシェの頼みに応じていた。

勿論セーブの確認をしたらゲーム機をしっかりとしまっておく事も忘れない。というより、ピーシェと遊ぶときにこれを忘れると怪我の元になるので忘れる訳にはいかない。

また、ピーシェはネプテューヌの事を正しく発言できていないので直そうかと考えたが、ネプテューヌ自身が呼びにくい名前であることを自覚していたため、今の呼び方を新しいあだ名と認識して許容することにした。

 

「さぁ~て遊びますか・・・ぴーこ、何して遊ぶ?」

 

「うーん・・・たたかいっ!」

 

「うえぇっ!?またそれ・・・?」

 

試しに聞いてみたら物騒な回答が飛んできてネプテューヌはたじろぐ。

体を動かすだけならまだ良いのだが、ピーシェの場合そこに素人であるにせよ格闘が飛んでくるので付き合うのが大変かつ、怪我の一つや二つ・・・最悪はそれ以上を覚悟する必要がある。

怪我以上も想定しなければならない理由として、何故かピーシェは素の力が強すぎる為で、並みの人間ではただ事で済まないのである。

そうなるといくら力があれど普通の人であるラグナやアイエフに頼むわけには行かず、ピーシェの勢いに振り回されずついていける人物を上げるとすれば、消去法でネプテューヌしか対応しきれないという始末だった。

言い返せば、ネプテューヌはそれだけ小さい子に合わせられる適性があると言う証拠になる。特に元気の良い子供であればそれが更に増す。

 

「またコンパに謝っとかないとね・・・。さぁ来いっ!」

 

「わーいっ!それそれそれ~っ!」

 

覚悟を決めたネプテューヌは腕を広げてピーシェを迎え入れる。

そして、それをみたピーシェは嬉々としてネプテューヌに連続で拳を飛ばすのだった。

 

「ねぷぅっ!?や、やっぱりやるんじゃなかったぁっ!?」

 

「あははははっ!もっともっと~っ!」

 

「またやってんなぁ・・・あの二人」

 

《ピーシェが子供だから仕方ないとは言え、普段付き合うネプテューヌは大変ね》

 

その拳の雨を避けながらネプテューヌが絶叫を上げるのは、最早恒例事項に近いものだった。

また、ピーシェが楽しそうに拳を飛ばすのも同様である。

そして、そんな二人の様子を見て、ナオトは呆れ半分になり、ラケルはネプテューヌに同情する。

 

「そういや、お前が俺にアレを変わってやれって言わないのは何かあるのか?」

 

《貴方が無駄に命を消耗する方が問題よ》

 

「ああ・・・そりゃそうだよな・・・」

 

ナオトが訊いてみると、至極当然の理由が帰ってきたのでナオトは頷くしかなかった。

普段は止めようかどうかで迷うそぶりを見せるラグナだが、今回は珍しく自身がゲイムギョウ界で作った手帳と部屋から持ってきたノートパソコンを使って睨めっこをしていた。

 

「(えっと・・・クエストで稼いで消費を抑えるならこれが買えるけど、いかんせん暫く回せる金が無くなるのはキツイな・・・。それだったらこっちなら普段通りの回し方でも十分やっていけるし良いな・・・)」

 

「うりゃりゃりゃりゃっ!」

 

「ちょ、まっ・・・あばばばばば・・・!」

 

ラグナが睨めっこしているのをよそに、とうとうピーシェの拳がネプテューヌを捉え、連続で叩きつけられる。

するとネプテューヌはいつものように、女子が上げていいのか怪しい声を上げるのだった。

 

「たりゃ~っ!」

 

「おうふ・・・!?」

 

「(・・・よし。これにするか)」

 

ピーシェがネプテューヌの顎に強烈なアッパーカットを叩き込む。

するとネプテューヌの体が軽く浮き上がり、背中からビタンと音を立てて倒れ込んだ。それとラグナが何かを決めたのは同時だった。

 

「やた~っ!きょうもかった~っ!」

 

「皆さーん。お茶が入りました・・・って、お姉ちゃん大丈夫っ!?」

 

「ああ・・・こりゃいつもの通りだな」

 

《幸いに大した怪我になっていないわね・・・部屋に運びましょうか。少しすれば回復するはずよ》

 

ピーシェが両腕を突き上げて喜んだ直後、トレイに全員分の茶を入れてきたネプギアがその現状を見てネプテューヌを心配する。

トレイをテーブルに置いてネプギア駆け寄ると同時にナオトとラケルも彼女の様態を見てみると、完全に伸びてしまっていた。

幸いにも目に見える怪我は無いので、今回は軽傷で済んだ方だった。これが並みの人間だった時を考えたくないのはまた別の話である。

 

「さて・・・俺はちょっと出かけてくるわ」

 

「?クエストですか?」

 

ラグナが腰を上げながら一言告げたので、ネプギアは訊いてみる。

 

「いや、ちょっと買い物だ」

 

そう言うラグナはどこか楽しみにしている表情を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「よし・・・買えた買えた」

 

それから少しして、ラグナは念願のバイクの購入を果たした。

購入したのはリーンボックスで一度レンタルしたタイプと同型、同色のバイクである。あれ以来すっかり気に入っていた。

そんなことで今回無事に購入したラグナはどうするべきかを悩んでいた。

 

「(どうするか・・・軽くラステイションまで慣らしで走るか?あいつら大変かも知れないし・・・いや・・・それかリーンボックスか?)」

 

「あっ、ラグナ。とうとう買えたのね?」

 

ラムダも来たので、ノエルが振り回されて大変なことになっているかもしれない・・・。しかし、ナインのところで対策を練るのに協力するのもいいかも知れない。

そう考えたラグナは車道に出て走り出そうとしたところで、アイエフに声をかけられたので振り向く。そこにはコンパも一緒にいた。

 

「おお、お前らか・・・ようやく貯まったからな・・・お前らはこれから仕事か?」

 

「ええ・・・私はこれからプラネテューヌで情勢の確認」

 

「私はいつも通り病院でお仕事ですぅ」

 

案の定二人は仕事が入っていたらしい。ラグナはそれを聞いて本職を探すべきかと迷ったが、それが厳しいことに気がつく。

何せイストワールに作ってもらった戸籍は学歴は偽装で職歴がなく、とても就職できそうにもない状態であった。

仮に履歴書を書けと言われて提出しても相手を唖然とさせるだけの威力はあるだろうし、面接などを行うにも、敬語等を全く使いこなすことができないラグナは今から覚えてかなければいけない為、恐ろしいまでの時間がかかってしまうのが現状だった。

そこまで現状を纏めて、ラグナの心の中は無性に悲しくなった。

 

「そう言うラグナはどうするの?」

 

「俺はこれから慣らし運転でどこか行くよ・・・折角の新車だしな」

 

「なるほど・・・後で感想を聞かせてね」

 

「怪我には気を付けるですよ?」

 

「おう。そんじゃまたな」

 

二人に見送られ、ラグナはバイクのエンジンをかけて車道に出て、プラネテューヌの外を目指して走らせた。

 

「さて・・・私たちも行きましょうか」

 

「はいです。今日もそれぞれの場所でお仕事ですぅ♪」

 

ラグナの姿が見えなくなったので、二人は仕事場へ向かう為に再び歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ・・・殻だけならできるが、これでは修正に時間が掛かり過ぎるな・・・」

 

レリウスはエンシェントドラゴンの実験以来、用意してもらっていた部屋で『スサノオユニット』創造に挑んでいた。

外側から見た外見だけならばまんまハクメンの姿を形どれるが、それでもテルミの精神を憑鎧させるには程遠い状態だった。

女神のことを詳しく把握できていない以上、情報不足から満足いくものを作り上げられないでいた。

 

「邪魔するぜ・・・って、おおっ!?もうここまで行ったのか!?」

 

「いや、まだこれだけだ・・・形はできていても、中身は空っぽ・・・御前が憑鎧することすら叶わん」

 

試作した結果が余りにも酷いので、次の制作は女神のデータを取れるまで待機だと判断したところで、テルミが部屋に入ってきた。

テルミは形だけ見て激しく期待した表情になるが、レリウスから告げられた真実は虚しいものだった。

 

「あ~・・・やっぱり女神の情報が足りないってやつか?けど、それさえあればいいんだろ?」

 

「ああ・・・全ては明日の結果次第で我々の行動が変わる・・・」

 

レリウスの研究欲から始まった計画の実行は明日に控えられていた。

その為、また後で依頼を引き受けてくれた者から連絡が来ることになっている。

 

「まあ、そうなるわな・・・そういや、女神の情報得る為にガキ一人捕まえるわけだけどよ・・・。実際捕まえた後はどうすんだ?」

 

「データさえ取れれば後は好きにして構わん・・・レイやマジェコンヌが何かしたいと言うなら、そのまま譲ろうと思う」

 

テルミの問いに、レリウスは自分でも驚くくらい他人事配慮した回答を出した。

どうでもいいと言うだけだったらまだいつも通りだったが、譲ると言う単語が来ればいよいよ変わったなと感づけた。

 

「オイオイ・・・テメェにしちゃいくら何でも寛大過ぎねえか?向こうじゃそんなこと無かったろ?」

 

「ああ・・・私でも随分と周りを意識するようになったと思うよ。此れも何かの変化だろう・・・」

 

「だろうな・・・全くこの世界は飽きねえなぁ・・・。すぐさま恐怖で塗りつぶすのを一瞬躊躇っちまったわ」

 

「ほう・・・そう言う御前も、随分と毒されているようだな」

 

「・・・みたいだな」

 

話ながら、自分たちが随分と変化したことに気が付き、二人は笑う。

前の世界が退屈過ぎたのか?今の世界が楽しいのか?或いはその両方か?周りの人間の影響もあるのだろうが、それでもこの変化は良いものだと感じているのは二人共共通であった。

 

「まあ、何がともあれ俺らは目的を果たさねえとな・・・」

 

「そうだな。私も、データは余すことなく取らねばな・・・」

 

二人は互いの目的を再確認する。今の世界を楽しむのはそれでも構わないが、それでも目的を果たさないのは本末転倒である。

 

「んじゃ、俺はそろそろ行くわ」

 

「ああ。また会おう」

 

テルミが部屋のドアを開けるや否、レリウスはすぐに自分が作り上げた失敗作に目を向ける。

別段、テルミがどうでもいいわけではなく、これが二人の『いつも通りのスタンス』であった。

そして、丁度のタイミングで術式通信が来たのでレリウスはそれに応じる。

 

「私だ」

 

『ああ、もしもしクライアントさん?準備の方は終わったわよ』

 

通信をかけてきたのはアノネデスで、彼はハッキングの準備を終えたのでレリウスに連絡をかけてきた。

 

「了解した。開始はこちらで言うので、もう少し待っていてもらうぞ」

 

『はいは~い。それじゃあまたね』

 

短く通信を終え、レリウスは再び失敗作である『スサノオユニット』を見やる。

 

「さて・・・今回の賭けはどうなるか見ものだな・・・」

 

レリウスは一人、明日の結果を楽しみにしてほくそ笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

ラステイションの昼の街並みで、偶然ペットショップを通りかかったユニが一匹の動物に食いついて立ち止まった。

 

「・・・ユニ?どうかしたの」

 

「あっ、お姉ちゃん・・・この子なんだけど・・・」

 

「ああ・・・耳長バンディクートね。この子がどうかしたの?」

 

ユニが食いついたのは耳の長い小動物、バンディクートだった。

 

「ちょっと飼ってみたくて・・・」

 

「そうね・・・ちょっと考えさせて・・・。・・・ターターは食事の残り物とかも平気で食べちゃうから、食費はそんなにかからないし・・・」

 

ユニの希望を聞いたノワールは自国のお財布事情を整理する。

ターターは何かがあると大変なので、基本は安全な強化ケースに入れられた状態で飼われていて、外出する時は基本的にラムダが連れていくことにしている。

理由は言わずもがな。ラステイションのメンバーどころか、今の人員で最もターターが心を開いているのがラムダだった。次点でラグナであり、残りは興味を持ってくれるものの、そこまで心を開いているとは言い難い。

だが、もしかしたらターターとこのバンディクートが仲良くできたなら、ターターも周りにより心を開くのではないか?最近はユニが変身できるようになったので仕事の効率が大幅に良くなっているから、バンディクートを世話する余裕だってある。そう考えたノワールは飼って見てもいいかも知れないと考えた。

 

「・・・なら、世話はちゃんとユニがやる。これなら飼ってもいいわよ」

 

「・・・っ!ホント!?」

 

ノワールの決断を聞いたユニが嬉しそうな顔をして訊き返した。今までのノワールからすれば予想以上に前向きな回答であった。

 

「ええ、今言った通りちゃんと世話をすればね。えっと・・・その子でいいのよね?」

 

「・・・うん!ありがとうお姉ちゃん!」

 

満面の笑みを見せて礼を言うユニを見て、ノワールも微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ここで良かったの?」

 

「うん・・・海を見せてあげたかった・・・」

 

一方、ノエルたちは三人でラステイションの端っこから海を眺めていた。

事の始まりはラムダがターターに、海を見せてあげたいと言う提案からだった。

 

「そう言えば、海って聞くと皆で泳いだりするんじゃないの?」

 

「確かに・・・ゲイムギョウ界で人が泳いでる姿はあまり見ないね」

 

ニューに訊かれてノエルも思い出したかのように言う。

海で泳ぐ人が少ない理由として、プラネテューヌとルウィーの近くには海が無く、ラステイションとリーンボックスで海面に接している場所はほぼ港である為泳ぐのに適さないのである。

その為、海は船で渡る物と言う認識が極めて強く、これが中々海で泳ぐ人を見ない理由にもなっていた。

 

「もしかしてニュー・・・泳いでみたいの?」

 

「できることならしてみたいかな・・・。無理にとは言わないけど」

 

元の世界でも、階層都市に戻るのであれば海を期待できる保証はない。

その為、海を満喫するならこの世界に留まっている間にするしかないのだ。

とは言うものの、ニューに取って海で泳ぐは数多くあるやってみたいの一つである為、どうしてもと言うものでは無かった。

 

「・・・来れて良かった?」

 

「◎#=%×~・・・♪」

 

「・・・それなら良かった・・・」

 

ラムダが問いかけてみると、ターターは嬉しそうに答えるので、それを見たラムダの表情が笑みに変わる。

今回ターターは潮風にやられると大変かも知れないと言う危惧から、強化ケースに入れられたまま連れ出されているのだが、それでも満足だったようだ。

 

「さて・・・そろそろ戻ろうか。ラムダもお昼作らないとだし」

 

ノエルに言われて二人は頷く。

ラムダは普通に料理ができることから、最近はラムダが料理を担当することが増えていた。

特にターターがラムダの料理を好んで食べる傾向があることを知ったので、一任することが多くなっていた。

 

「それなら帰りに食材を買わないと・・・」

 

「ラムダ姉、その前に食材の残り聞かないと・・・」

 

「じゃあ、連絡するからちょっと待っててね」

 

三人は少し慌ただしくしながら買い物をしに向かう。

ノエルはノワールと術式通信を行った事で食材の残りを知れたので、売り場にたどり着くよりも早くラムダに伝えた。

そして、この後教会に戻ってユニが飼うことにしたバンディクートを目の当たりにすることになり、ターターとバンディクートは互いに興味ありな形を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ルウィーの昼下がり、ブランたち姉妹とその付き添い兼護衛のハクメンが街並みを歩いていた。

トリックの件があって以来、ブランはロムとラムのわがままに付き合う頻度が上がっているが、流石にこの元気な二人に毎日付き合わされるのはブランがインドア派な都合上限界がある為、『スサノオユニット』の恩恵で底知れぬ体力を誇るハクメンが協力するというのはルウィーでよく見られる光景だった。

また、走るロムとラムを追うブランと、それを後ろからゆっくりと歩いて、尚且つ見失わないで付いて行くハクメンという絵面はかなりの頻度で見受けられ、時折ハクメンが父親に見える人もいるらしい。全身が鎧のような格好をしている父親が余りにもシュールな姿であることは、この際触れない方がいいだろう。

 

「ふ、二人とも・・・ちょっと待って・・・」

 

そして、ブランが息切れしながら二人に制止を求める姿もいつも通りの光景だった。

 

「あれ~?お姉ちゃんもうバテたのぉ~?」

 

「疲れちゃった・・・?」

 

「くっ・・・普段インドアであることが辛いわ・・・」

 

「・・・あまり無理はするなよ?」

 

幼い二人に心配されて悔しい思いをしている所に、ハクメンからも心配されて一瞬だけブランの心が折れそうになる。

 

「あ、貴方の体力は規格外すぎるわ・・・」

 

「此の躰だからな・・・元の躰であれば、あの時ラグナのバイクに己の足で追いすがる事は叶わん事だろう・・・」

 

「そうなのね・・・。・・・って、貴方あの時走ってあそこまで来てたの!?まさか最初から最後まで全部!?」

 

「無論だ」

 

ハクメンに言われてしまっては元も子もないのでブランは言い返すが、それ以上にとんでもない事実を知ったブランが面食らう。

しかもハクメンはそれをあっさりと肯定した。しかも堂々とした姿勢のままだ。これにブランは呆然とするしか無かった。

 

「う・・・噓でしょ?余りにも飛んでいる話だわ・・・」

 

「あれ・・・?お姉ちゃん何があったの?」

 

「大丈夫・・・?」

 

「然したる事ではない。ただ、私の此の躰の規格外さに呆然としたようだ・・・」

 

ブランが両膝と両手を地面に付いて伏せてしまったので、流石に二人も心配になる。

流石にハクメンもこの話はするべきでは無いと感じ、以後は自重することを決めた。平和に馴染めない男の苦悩であった。

 

「・・・ブランがこの状態では持たんか。一度休憩を挟もう」

 

「「はーい」」

 

ただでさえ体力が疲労で減っているのに、カルチャーショックまで受けたブランを此のままにするのは不味いので、ハクメンは一度休憩を提案した。

そのことに二人は反対せず、右手を真っ直ぐに上げて受け入れる。今回は大丈夫だったが、これで二人が反対していたらブランが疲労で倒れていた可能性がある為、ハクメンは心底安心した。

ハクメンは近くのベンチにブランを運んで座らせてやった後、ロムとラムがブランの隣りに座る。二人で左右を挟む形だった。

疲れた時には甘い物だろうか?安直ではあるが、そう考えたハクメンは何か買ってきてやろうと思ったが、何も聞かずに行くのはよくないので、まずは二人に・・・できればブランにも訊いてみることにした。

 

「御前たち・・・何か食べるか?」

 

「はいはい!私アイス食べたーいっ!ストロベリーで!」

 

「私も!ブルーベリーで!」

 

試しに訊いてみれば二人はすぐさまに食いついて、味までご丁寧に話してくれた。

正直なところ、後々訊くのは面倒だったのでありがたい話だった。

 

「ブラン、御前はどうする?」

 

「私はチョコミントでお願いするわ・・・」

 

「承知した。少し待っていろ」

 

ハクメンは手間をかけずに素早く頼まれた味を購入して三人の元へ持っていく。普段はハクメン以外の三人で並んで何かを買うのだが、今回はブランがダウンしていて、ロムとラムの二人では些か不安なのでハクメンが代役をすることになった。

また、その後ハクメンがアイスクリーム店に並ぶという、余りにもシュール過ぎる光景は即座にネットにアップされ、事情を知らない人たちを爆笑の渦に包み込んだが、それはまた別の話。

 

「待たせたな。食べるといい」

 

「わーいっ!ハクメンさんありがとーっ!」

 

「ありがとう・・・♪」

 

「助かったわ・・・」

 

アイスクリームをもらった三人はそれぞれのペースで食べ始める。

ロムとラムは待ち遠しかった為か早目なペースで、ブランは体に気をつけてゆっくり目なペースだった。

 

「ハクメン・・・貴方どれくらい全力疾走していたの?」

 

「・・・確か、一時間弱であったか・・・。此の躰で無ければ間違いなく不可能だった行為だな・・・」

 

「い、一時間全力疾走って・・・」

 

「倒れちゃう・・・」

 

ブランの切り出しによって思い返されていくパーティー当日の夜。確かにハクメンはあの長い道を、ラグナのバイクと並走する形で走りきっていたのだ。

ロムとラムはハクメンが走って向かう姿は見えていたのだが、まさか止まらずに走り続けるとは思ってもみなかっただろう。

 

「あの時本当に危なかったよね・・・お姉ちゃんたちはああなるし、ネプギアも大変だったし」

 

「でも・・・私たちは変身できるようになった・・・」

 

「流石に二回もああなるのは勘弁だけどね・・・」

 

事実、あの時候補生たちが変身できていなければ四人を助ける事は不可能だっただろう。

セリカの能力がテルミとマジェコンヌの弱体化に成功していても、候補生がいなければマジェコンヌを抑えられなかった可能性が極めて高い。

また、ナインたちが合流する前にラグナとハクメンが倒れてしまう可能性も高かった為、本当に奇跡だったと言える。

 

「ほ、本当にどうにかなって良かったわ・・・。私はあの時助けられたから、今度は貴女たちを護らないと・・・」

 

何故だか今日は嫌なことを抉られたり、変なところで疲れたりと妙に災難なことが続くブランだが、それでも妹たちを守ろうとする意志は変わらなかった。

 

「私たちだって、護られるだけじゃないよっ!」

 

「私たちもお姉ちゃんを護る・・・♪」

 

「二人とも・・・」

 

ブランが二人を護ろうとする意志は本物であるが、ロムとラムの意志も本物であり、それが分かったブランは嬉しくなって笑みをこぼすのだった。

 

「さて・・・十分に休めたし、そろそろ他の場所に行きましょうか」

 

「はーい!じゃあ次はこっちっ!」

 

「わーい・・・♪」

 

「あっ・・・ちょっと二人とも・・・!走ったらまた私が・・・!」

 

ブランが言うなりすぐに二人が走りだしたため、ブランは慌てて追いかける。

ハクメンは数瞬その様子を眺めていたが、見失うといけないので自分も立ち上がった。

 

「(此の世界での我が使命・・・此度は静かに果たすとしよう)」

 

ハクメンはあまり大事にならないように注意し、三人の背中を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ナイン。一つ頼んでもよろしいかしら?」

 

「頼みごと?今回はどんな頼みなの?」

 

リーンボックスの教会にある、ナインにあてがわれた執務室にベールが頼みごとを持って入ってくる。

ナインはこうして話を聞く姿勢を持っているが、実のところナインは思った以上に多忙な状態だった。

洞窟の件は当然のこと。他にも先日ラグナに持ち掛けられた、自分たちの世界から人が来た時に反応する『蒼炎の書』の話。更にはミネルヴァのメンテナンスで不明瞭な点があった際の対応等々・・・期日が決まっているものでは無いにしろ、余りにもやることが多かった。

しかしそれでも、『エンブリオ』で行った事を考えれば当然だとナインは判断を下し、こうして多忙な一日に身を投じていたのだった。

 

「こちらの資料なんですが・・・印鑑だけ押して貰ってもよろしいでしょうか?私、これからメディアの方へ出る仕事が入ってしまいましたので・・・」

 

「なるほど・・・。そう言う事なら了解よ。こっちで引き受けるわね」

 

「ありがとうございます・・・。それでは、お願いしますわ」

 

頼みを了承してもらえたベールはナインにかなりの数の書類と自分の印鑑を渡してこの場を借りて去る。

どうやらメディアの仕事の時間が近いようだ。そんなベールの姿を見送ったナインは部屋のドアを閉めた。

 

「(・・・また面倒な物が増えたわね・・・)」

 

どれもこれも時間の要する仕事ばかりで、今回の頼みごともかなりの時間を要するのがわかり、ナインは溜め息をついた。

ただそれでも、引き受けた以上はやりきると自分に念を押し、デスクに付いて書類の作業に取り掛かるのだった。

 

「さて・・・これを一度どかしてと・・・」

 

ナインは散らばった書類やファイルをどけて、ベールからもらった書類を置くことのできるスペースを作る。

物の整理整頓がナインは非常に苦手であり、机の上は非常に散らばっていた。

本人にとってはこれが整理出来ている形なのでいいかも知れないが、他人が見たら辟易したり、指摘したりするのは間違いないだろう。

そんなことを一々気にしていてはキリがないので、ナインは書類の作業を始める。

書類の内容は戦闘機の生産数削減、娯楽系統への予算提供に対する増量など、和平を結んだことに合わせての方針が多かった。

特に、数か月前まで戦争が起きかねない状態であった為、その空気を引きずらない為にも軍縮は急務であり、ナインがゲイムギョウ界に来てからこれで二回目の案件だった。

しかしながら、どこかの反対勢力が戦乱に持ち込んだ時に対応できないのは不味いので、順を追ってと言うのだけは相変わらずだった。

 

「平和を維持するか・・・確かに、勝ち取るより遥かに難しい事よね」

 

暗黒大戦時代、『黒き獣』を倒して平和を勝ち取ったが、それでも維持は楽では無かった。

結局は自身が『黒き獣』を倒す為に作り上げた事象兵器(アークエネミー)は持ち去られてしまい、その後の戦いに利用されたりと散々だった。

事象兵器の悪用を阻止する為に、アンチ事象兵器(アークエネミー)となるものも作ったが、ナインはそれを正しく使われた瞬間を目の当たりにはしていない。

そんなことを、この書類を見て改めて感じ取っていたのだ。

 

「でも、今回は人も多いし、こうして力の悪用を阻止する動きも多い・・・前回ほど酷くは無いわ・・・」

 

ナインは現状を照らし合わせて少し気が楽になる。

今回は協力的な人が多いこと、力の悪用を考える者がテルミやマジェコンヌのみに限られていることで、かなりやりやすい状況ができあがっていた。

後は個人でやり過ぎないように気を付けるだけだった。一人で『ムラクモユニット』を作ったりした場合は間違いなく警戒されてしまうので、それは避けたいところだ。

 

「さて・・・後は・・・」

 

「お姉ちゃーん。今大丈夫?」

 

書類の数は残り半分ほどになった所で、セリカがノックをして訪ねてきた。恐らくはこちらに気を遣ってお茶でも持って来てくれたのだろう。

 

「ええ。大丈夫よ」

 

「はーい。それじゃあ、失礼しまーす」

 

一つ一つの期日が決まっていないとしても、極めて多忙な毎日を過ごすナインにとって適度な休憩を外す訳にはいかないので、何も反対する事なくセリカを通す。

そして、入ってきたセリカは案の定飲み物と大量の砂糖を乗せたトレイを持って入ってきた。

 

「あ・・・お姉ちゃんこっちでもこんなにしちゃって・・・」

 

そして、セリカが机の様子を見て苦笑するのも予想はできていた。

 

「どうしても整理は苦手でね・・・って、私が整理出来てるんだからいいのよ」

 

「ええ・・・借りてる部屋なんだから、ちょっとくらいは整理しようよ・・・書類無くしたら大変でしょ?」

 

ナイン自身は問題ないのだが、セリカが言うことも最もだった。

その為、ナインは少しの間考え込む。

 

「そうね・・・。流石にファイルくらいはどうにかしましょうか」

 

その言葉を聞いたセリカは、日常生活で今までで一番安堵しただろう。

意外にもナインがあっさりと受け入れてくれたこともそうだが、こんなことで喧嘩にならないで良かったと言う方が強い。

 

「あ、そう言えば今回は何を貰って来たの?」

 

「チカさんは紅茶を進めてきたんだけど、コーヒーを貰って来たよ。お姉ちゃん大変そうだったから」

 

セリカがやんわりと断った時、チカは少々落ち込んでいた。どうやらベールのお気に入りの品を勧めたのだが、断られてしまったようだ。

 

「なら、それは今度いただくとするわ」

 

何なら仕事を終えた後でも良いだろう。ナインはそう考えながら、トレイに乗っているコーヒーの入ったカップを手に取り、一緒に乗せられているガムシロップと砂糖を大量に入れながらかき混ぜていく。

そして、コーヒーと言っていいかどうかすら分からなくなったものを、ナインは飲み始めた。

予想以上に脳が疲れていたのか、ナインは普段より早いペースで飲み干した。

 

「ご馳走。チカにはごめんなさいと伝えておいてくれる?」

 

「うんっ!お姉ちゃんも頑張って!」

 

ナインの問いかけに、セリカは満面の笑みで答えてくれる。

セリカとまた一緒に暮らすことができる日が来るとは思ってもみなかったナインにとって、今こうしていられる時間は幸せと言えるものだった。

それを護るのももちろんナインのすべきことであるが、何も今回は一人でやる必要はない為、かなり心に余裕ができていた。

 

「それじゃまたね!」

 

「ええ。またね」

 

セリカがドアを閉めて部屋を後にしたのを確認したナインは、机の方へ向き直る。

 

「さて・・・やりましょうか」

 

この日のナインはいつも以上に活力が沸いていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・アレ?もうこんなに減ってる。私が増えたからかな?」

 

レイは冷蔵庫の中を覗いて呟く。

どうやら元々は自分が増えることを想定していない量の買い溜めだったようで、予想以上に消費が早くなってしまったようだ。

 

「今ある材料だけじゃ足りないし、買ってこないとなぁ・・・。どこで買うべきだろう?」

 

候補に挙がるのはラステイションとルウィーだが、往復時間を考えたらラステイション一択だった。

ちなみに、リーンボックスは海を渡る必要がある為、プラネテューヌは以前反対活動を行っていた場所である為、行くわけには行かなかった。

 

「ああ。ここにいたか・・・ひょっとして、残りが足りないのか?」

 

「ええ。私がここに来てから消費量が多くなってしまったので・・・」

 

声が聞こえたので振り返ってみると、マジェコンヌとワレチューがいたので、レイは現状を伝える。

 

「ああ。なるほど・・・。一人分足りないから予想よりかかっちゃうんっちゅね・・・材料の必要数が」

 

「となると今から買い出しか・・・。分かった。金はこれを使うといい。まあ、ラステイションなら一般人らしくしていれば大丈夫だろう」

 

ワレチューは納得したように呟き、マジェコンヌは金の入った袋をレイに投げ渡した。

レイはいきなりのことだったので慌てて受け取るが、以前と比べれば圧倒的にマシな反応を見せていた。

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

「大した事ではない・・・ほら、急ぐといい。遅くなると買える場所が減ってしまうからな」

 

「はい。それでは、失礼します」

 

レイはマジェコンヌに一度頭を下げてから走ってラステイションへ向かうのだった。

 

「さて・・・食事が終わったら後は最終チェックっちゅね」

 

「ああ。レリウスの研究・・・それがどう転がるかが見ものだな」

 

レイはまだレリウスの研究の規模を理解しきれず困惑している段階だが、この施設で過ごしている全員は楽しみにしていた。

もしやすれば、レリウスの研究が女神たちと『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』らを一掃できるかもしれないとなれば、期待するしかなかった。

 

「ああ・・・そうなればおいらは雑務に備えて仮眠するっちゅよ」

 

「分かった。何かがあれば室内通信で起こす」

 

「頼むっちゅよ・・・」

 

そうしてワレチューはあくびをしながら部屋を後にし、マジェコンヌだけが部屋に残った。

 

「(備えは多ければ多い方がいい・・・。今後の為にもな)」

 

マジェコンヌはほくそ笑みながら、あるものの解析に回るのだった。




ようやく次回からアニメ6話分に入ります。長らくお待たせいたしました。

この話を書いてる途中で友人と一緒にブレイブルー最新作の体験版をプレイしていました。
その結果、現状はラグナとハイドの二人が私の中では安定してきました。
しかしながらラグナさん・・・あなた小パン系がないって割と辛くないですか?判定とリーチで勝っているのに発生で負けて大変な目に・・・(泣)。

掛け合い集やアストラルヒート集も早速上がっていましたし、オープニングムービーも上がっていました。オープニングの方は多くのキャラが入り乱れている感じが良かったと思います。
勝利画面でのセリフはラグナ&悠の組み合わせが非常に熱かったので、是非とも聞いて見てください!

もしかしたら、次回からアニメ本編の部分はなるべく2話以内で簡潔に纏める形をとるかも知れません。
流石に最終決戦の場合はそういう訳にはいきませんけどね・・・(笑)。

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