超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER-   作:ブリガンディ

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今回は味方側の話になります。


38話 見え始める真実の欠片

ラグナはいつの間にか暗闇の中にいた。その暗さは自分の着ているコートが見えるかどうか怪しいくらいのものだった。

 

『兄さま・・・聞こえる?』

 

「・・・サヤ?」

 

そんな暗闇の中から、自分の呼ぶ声が聞こえた。

しかもラグナを呼ぶその声はサヤそのものだった。サヤと見た目と声が全くもって同じであるノエルかニューの可能性を考えたが、彼女たちは自分を兄さまと呼ぶことは無いので違うと断言できた。

だが、声が聞こえると言うのに姿が見えないことから、ラグナは焦りながら周囲を見回すが、辺りは真っ暗で何も見えやしなかった。

 

「(・・・どこにいやがるってんだ・・・)」

 

辺りが見えないことから、ラグナは焦燥感に駆られて今すぐにでも移動したいところだが、こんな状況で移動すれば間違いなく死ぬと感じ、その思考を捨てた。

とは言え何もしない訳にもいかない為、もどかしく思い始めていたところで、突如として周囲の灯りが付き、周囲の状況がはっきりする。場所はあの時の洞窟に近いものだった。

 

『こっちだよ・・・兄さま・・・』

 

「この奥・・・って事か?」

 

灯りが付いている方が一方行しかない為、嫌でもそちらに行けと言われているようなものだった。

 

「・・・だあぁ、ここで考えても仕方ねえ。今行くから待ってろよ!」

 

深く考えても答えが出ないならと思ったラグナはそのまま灯りが付いている方へ向けて走り出した。

まるで当然の如く、ラグナが走る先には何の障害もなく、いつの間にか前回よりも奥の一本道に入ったとしても気付く事無く走り続け、最終的に奥にある巨大な扉の前にまで辿り付いていた。

 

「・・・なんだ?こんな馬鹿でかい扉なんて見たこともねえぞ・・・」

 

前に来ることができなかった場所はここなんだろうか?ラグナはそう考えた。

というよりは、そう考えることしかできなかった。その理由として、ここが前に来た洞窟に似ていて、現在は少女の声に導かれ、その最奥部に来ているからだった。

今に至る状況を思い返せば、彼女はここにいるだろうということが伺えるものだった。

 

「・・・この中にいるのか?」

 

『うん・・・その扉を開けてこっちに来て・・・』

 

ラグナの問いかけに答えながら少女はラグナを呼ぶ。

その声を聞いて腹を括ったラグナは扉を開ける為に押して見るが、全くもって反応を示さなかった。

 

「・・・あ?どういうことだ?」

 

『兄さま。右腕の『蒼炎の書(それ)』を使って・・・そうすれば開けられる・・・』

 

「『蒼炎の書(こいつ)』を使えったって・・・こうか?」

 

ラグナは右腕を見て疑問に思いながらも、当てずっぽうに右手を扉に押し当てる。

しかし、それだけでは何も効果が無いのは目に見えていたので、扉を開けてみようと右手に意識を集中して見る。

すると右手から蒼い炎が出てきて、それが触れているものに伝うかのように、扉の外枠と扉に書かれている文字が蒼い光に染められていく。

蒼い光が繋がると、その光が一瞬激しくなり、ラグナは思わず顔を左腕で覆う。

少しすると光が弱まったのでラグナが顔を覆うのを止めて扉の方を見やると、その扉を染めていた蒼い光が弱まり、完全に消えると同時にその扉がゆっくりと開いて行く。

 

「・・・・・・この奥だな」

 

ラグナは開いた扉の中に入って行く。その奥に入ってすぐに、ラグナは思わず違う場所に来てしまったのではないかと錯覚した。

 

「な・・・どうなってんだ?こりゃ・・・」

 

今まで岩の壁で構成されていた道が続いていたというのに、周囲は先が全く見えないくらいの空間が広がっていた。

はっきりと分かる物として、自分の背後にある入ってきた扉と、奥に見える何かの白い棺。そして、棺より更に奥にはうっすらと何かが見えていた。

 

「お・・・おい!俺はここまで来たぞッ!どこにいるんだ!?」

 

しかし、肝心な自分を呼んでいた少女の姿が見当たらず、ラグナは辺りを見回しながら呼びかける。

少しの間見回しながら待ってみるが、それでも返事が返ってこなかった。

 

「まさか・・・場所を間違えたか?」

 

『ううん・・・大丈夫。私はここ(・・)にいるよ・・・』

 

「・・・!?」

 

思わず場所を疑ってしまったラグナの疑問を否定するように、少女の声が棺のある位置から(・・・・・・・・)聞こえた。

ラグナは焦りながら棺の方に視線が釘付けになり、恐る恐るそちらへ近づいて行く。

 

「お、おい・・・嘘だろ?」

 

『そう・・・私はここにいるよ・・・兄さま・・・』

 

肯定する少女の声を聞いたラグナがゆっくりと右手を棺に近づけると、視界が一気にホワイトアウトしていった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・!?」

 

ラグナは目が覚めると同時に慌てて飛び起きる。

辺りを見回して見ると、ゲイムギョウ界に来てから以来、自分のために用意して貰った部屋で寝ていたことが分かる。

 

「(今のは何だったんだ・・・?)」

 

ラグナは何かを自分に語りかけようとしていた夢に戸惑う。

夢で片付けられるものでないくらいにない程ハッキリと内容を覚えていることが、それをより強調していた。

時計を見て見れば普段よりも圧倒的に早い時間に起きてしまっており、今から洞窟に行っても帰ってくる頃には朝食の時間になるくらいだった。

ここまで早い時間で洞窟に向かうならば、置手紙を書いてから行くのが良いだろう。

自分の都合の良い方向に考えるのであれば、自分の試したいと思ったことが誰にも邪魔されずに試せるということだった。

 

「・・・こうしちゃいられねぇな」

 

思い立ったが吉日、居ても立っても居られなくなったラグナは手早く身支度を済ませ、普段皆で集まる部屋に向かい、「飯の時間には戻る」という置手紙を書いてプラネタワーを飛び出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

洞窟は最初の二つの分かれ道は完全に同じだった為、ラグナは何も迷うことなくそのまま突き進んでいく。

灯りの付いている間隔や明るさなどは、以前ここに入った時と何ら変わっていない為、一種の不安すら覚える程だった。

また、あの時『少女』と交代してくれたネプギアによってラグナはこの洞窟に立ち入る許可を貰っているのか、『ムラクモユニット』のような存在たちは一切現れる気配を見せなかった。

そうして進んで行く内に、ラグナは前回までに進めた場所まで辿り付いた。

 

「この奥が一本道だったな・・・」

 

ラグナは奥に見える一本道と、この奥から『少女』の気配を感じ取り、体が強張っていくのを感じる。

 

「・・・ここで迷っても仕方ねえな。取りあえず行くか」

 

一度深呼吸して心を落ち着けてから、ラグナは奥の道へと歩き出した。

辺りを見回しながら進んで行くが、相変わらず等間隔で灯りが置かれあり、そこから別れ道の無い極めて分かりやすい道が続いていた。

もし三回目も同じような別れ道であった場合は条件を満たせていないことを疑うが、今回は道が変わっている為、決めるのは時期尚早だった。

なるべく見落としがないようにと、辺りを目視で確認しながら進んでいると、術式通信が飛んできたのでラグナは歩きながらそれに応じる。

 

「・・・もしもし?」

 

『ラグナ、私よ・・・例の洞窟にいるのはアンタで間違いない?』

 

「ああ。今は俺一人で入ってる」

 

術式通信を送ってきた相手はナインで、彼女の問いにラグナは肯定する。

 

『前より奥に進めているのはこっちでも確認できてるわ。何か変わったものは見える?』

 

「いや、まだ何も見えねぇ」

 

ラグナが今いる洞窟の件では、洞窟を侵さないと約束できる者以外が入ると『ムラクモユニット』のような存在が周囲に現れ、侵入を阻止しようとする動きがあることは既に報告されていた。

その為、現在洞窟の出入りの安全を保証書できるのはプラネテューヌ居住組のみであり、他の場所にいるメンバーはタイミングを合わせる必要があった。現状、例外の可能性としてノエルとニューの二人が挙げられているが、ノエルはまだしも、ニューの方は戦闘能力を失っている為、迂闊に調査に乗り込めないでいた。

そんな条件も重なって必然とプラネテューヌ居住組の者に頼りがちになってしまっており、今回の状況もそれを見事に表していた。

現在の状況に思うところがありながらも、ナインはそれを隅に置いてラグナに問いかける。今回はどんな些細な情報でも有益になるからだ。

しかし、ラグナは新しい場所に進んでから間もない為、大した情報は得られていなかった。

 

『流石に進んだばかりじゃ無理もあるか・・・。何かあったら教えてちょうだい』

 

「分かった。・・・ああ。一つ聞いておきたいんだけどよ・・・」

 

ナインはラグナの状況を聞いて仕方ないと思う一方で、ラグナはナインが通信を送ってきた時に思ったことを聞いておこうと思った。

 

『・・・どうかしたの?』

 

「お前・・・まさかだとは思うが、徹夜・・・ってこたぁねえよな?」

 

ラグナは早く起き過ぎたが故にこうして調査に赴いたのだが、ナインの術式通信の時間は余りにも都合が良すぎた為、聞きたくなった。

プラネテューヌにいるメンバーでこの時間に起きているとしたら、早朝から仕事にいかなければならない時のアイエフとコンパくらいのもので、そのような状況の場合、二人は朝食を取りに来たりはしない。

また、女神たちが早い時間から仕事をする時は当然あるのだが、ラグナたち異世界組は行動時間にはそれなりに自由がある。

その為、一日中起きると言う選択肢もあることにはあるが、女神たちの仕事を手伝うことを考えた場合、そうは行かないことが殆どだった。

また、ナインは洞窟関係の資料纏めや、『蒼』の調査等、多忙になりやすい事をを中心に行動しているにもあって、ラグナは徹夜の可能性を示唆した。

 

『いいえ、徹夜はしていないわよ?丁度一時間前まで三時間の睡眠は取っているわ』

 

「・・・お前それ寝てるって言えんのか?」

 

その切り詰められている睡眠時間を聞いたラグナは思わず問いかけるような言い方になっていた。

余りにも短すぎるが、ナインは『エンブリオ』で行ったことの償いを兼ねているのかもしれないと考えたら、無理に責めようとも思えなかった。

ただ一つ、言っておかなければならない・・・というよりは言っておいた方がいいだろうと思ったことがある。

 

「まあ頑張るのはいいけど、寝ることも忘れんなよ?寝不足のお前みてセリカが何か言うかも知れねえから・・・」

 

『そうね・・・。それなら、今日は後で長めに睡眠を取るとするわ』

 

ナインの性格を理解し、セリカとそれなり以上に関わりを持つラグナだからこそ言えた忠告を兼ねた気遣いだった。

セリカが寝不足なナインの姿を見て、その理由を知ったら無理を言ってでも休ませようとしたり、大げさに何かされるかもしれないので、ナインもそれを素直に受け入れるのだった。

その後は特に会話の無いまま移動が続いていき、暫くして変化らしい変化と遭遇することになる。

 

「ナイン。ここから奥なんだが、道が少し狭くなってる」

 

『ちょっと待ってて。マーカーを掛けるわ』

 

ラグナは進みゆく道が狭くなる場所に当たった為、ナインに連絡を入れた。ちなみにここまでの道のりは別れ道すらない真っ直ぐな一本道であった。

知らせを受けたナインはコンソールを操作してラグナが立ち止まっている場所を記録した。

ナインが見ているモニターには記録が完了した証に、ラグナがいた場所に赤い点が付いた。

 

『完了したわ。そのまま奥に進んでいいわ』

 

「分かった」

 

ナインに促され、ラグナは更に奥へと進んで行く。

今度確認できる変化はすぐに見つかることとなった。今まではやたらと長かったのに、今回はものの五分もしなかった。

 

「・・・!こいつは・・・!」

 

『・・・ラグナ?どうしたの?』

 

「ああ。こいつを見てくれ・・・ちょっとした発見だ」

 

ラグナは実際に見てもらった方が早いと判断し、ナイン宛てに目の前に見えている物を術式で中継した。

 

『・・・扉?どうしてこんなところに・・・』

 

「なんでかわかんねえけど、こんなところにあった・・・」

 

ナインとラグナは純粋に驚きを示した。目の前には巨大な扉があったからだ。

 

『・・・?妙ね・・・少しずつ通信の調子が悪くなってきてる・・・』

 

「ってぇことは、ここが洞窟の最重要機密なんだろうな・・・」

 

ラグナに中継してもらっている画面は少しずつノイズが走り出している為、そろそろ限界であることを示していた。

呟き気味にナインへ返答するラグナだが、彼の心境はそれどころでは無かった。

 

「(・・・おいおい、どういうことだよ?何だってこうも夢の内容と被ってんだ?)」

 

扉を見た瞬間、ラグナは夢の内容と今回の洞窟の中を照らし合わせて動揺していた。

夢の中では走っていたから気付く余地も無かったが、今回歩いてきた道を思い返して見ると、信じられないくらいに一致していた。

あの時に見た夢はただの夢どころか、何らかのメッセージのようにすら思えてきた。

 

「・・・ナイン、通信の状況は?」

 

『残念だけど、もう限界ね・・・一度ここで通信を切るから、後で教えてちょうだい』

 

「分かった・・・じゃあ、また後でな」

 

どうやらこれ以上は通信が続けられないという、洞窟特有の異常事態が起きたので、ここで通信を切ることになった。

 

「(確か・・・夢のなかじゃ・・・)」

 

ラグナは右手を見つめながら思い返して、それを実行する。

右手を扉に触れて意識を集中させると、夢の時と同じように蒼い炎が現れ、扉を蒼い光が覆っていく。

しかし、いつまで経っても扉が開くことは無かった。

 

「・・・?半分だけだと?」

 

違和感を感じたラグナが扉を見てみると、夢の時と違い、扉の右半分しか染まっていなかった。

 

「どうなってやがんだ一体・・・」

 

『兄さま・・・』

 

「・・・!?」

 

その事態にラグナが疑問に思っていると、突如として現れた蒼い球体から少女の声が聞こえ、ラグナは思わず凝視する。

 

「お、お前は・・・?」

 

『ごめんなさい。時間が無いから用件だけ話すね・・・』

 

ラグナはその姿を見て思わず妹の名がよぎった。

しかし、蒼い球体となって話す少女の正体を知るには時間が足りないらしく、少女は用件を話すだけの時間しか残されていないようだ。

その為、ラグナは彼女の正体のことを諦めるしかなかった。

 

「・・・用件?」

 

『うん。この扉なんだけど、『蒼』を使うこと自体は間違ってないけど、兄さまだけじゃダメなの・・・』

 

「俺だけじゃ・・・?他には誰を呼んでくりゃいいんだ?」

 

時間が無いと言われていたので、ラグナは率直に聞くことを選んだ。

とは言え、『蒼』を使うという選択が間違っていないと言われただけ今回は相当マシな結果を出せている。

その事もあって、ラグナは幾分か落ち着いて話を聞く準備ができていた。

 

『兄さま以外にもう一人・・・『蒼を手にする人』、もしくは『蒼を手にする資格を持つ人』が必要なの・・・次来る時は、その人と一緒に来てね・・・』

 

「・・・『蒼を手にする』・・・?」

 

『蒼』が選ぶのは純粋なる力であり、『善』や『悪』は関係ない・・・これはテルミが言っていた事だった。

しかし、気掛かりなのはラグナのように『蒼』を持つ人ではなく、『蒼を手にする人』か『蒼を手にする資格を持つ人』と言ってきた事だ。

少し紛らわしい話を受けたラグナは疑問が残る状態だった。

 

『・・・残念だけど時間みたい。また会おうね、兄さま・・・』

 

「あ、おい・・・!」

 

ラグナは慌てて少女を呼び止めるが、すぐに蒼い球体が消え、同時に少女の声も聞こえなくなった。

 

「・・・取りあえず『蒼』絡みか・・・こりゃ、ゲイムギョウ界にもあることはほぼ確定だな・・・」

 

少なくともこの世界の根底がほぼ確実に覆るだろう。

僅かに見えてきた手がかりを頼りにするしかないが、それでも少女を見つけられる可能性が上がったのが分かり、ラグナは希望を見出して洞窟を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・えっ!?一番奥まで進んだ!?」

 

ラグナの提案によって、現在各国で通信をしながら朝食を取っている。今回は術式通信ではなく、通常の端末を使ってのものになる。

そして、早速飛んできたラグナの報告にネプテューヌが驚きの声を上げたのである。

驚きの声を上げたのはネプテューヌなだけであり、他の人たちも驚きのあまり言葉が出ていなかった。

ちなみに、ピーシェは昨日遊び過ぎたのか、まだ寝ていたので起こしていない。

 

『あの後中には入れたの?』

 

「いや、ダメだった・・・何でも、アレを開けるには俺以外に『蒼を手にする人』か、『蒼を手にする資格を持つ人』がいないとダメらしいんだ」

 

先に情報を知っていたナインだけは唯一例外で、ラグナに話を振ることができるくらいに落ち着いていた。

だが、ナインに問いかけられたラグナは、あまり良くない結果と頭を抱えたくなるヒントを話した。

 

『・・・あれ?『蒼を手にする』って人ならノエル姉がいるよ?』

 

『そっか・・・ノエルちゃんは持ってるんだったね・・・』

 

ニューが思い出したように言った一言で、セリカもそのことを思い出した。

セリカもラグナとノエルと共に、『クシナダの楔』の場所へ向かう際にその力を目の当たりにしている。

異世界組のメンバーだけで会話していたのであれば何も問題なかったのだが、ゲイムギョウ界組は事情を知らなかったのでそうも行かなかった。

 

「えっ・・・?あの、すみません。そのお話は初耳なのですが・・・」

 

「・・・アレ?そういや話して無いんだっけ?」

 

『・・・どうやら、此の事を話すのは忘れていたようだな・・・』

 

イストワールの発言を聞いたラグナとハクメンがハッとして呟いた。

短期間に何人も人が来たのもあったり、『少女』のこともあったりとで、今まで完全に失念していたのだった。

 

『なら、私の持っている『蒼』のことを話しておきますね』

 

知らなかったのならば今話してしまおう。そう考えたノエルが切り出して、自分の持つ『蒼』の力を話した。

ノエルの持っている『蒼』は、向こうの世界では『マスターユニット』の眼の代わりとなって世界を観測できる力を持っていて、見たものを『事実』として観測すれば、それこそどのような事象でも『事実』になると言う代物であることを最初に話した。

しかし、この世界では『マスターユニット』の存在が確認できないままだが、何故か観測が可能であると言う事態になっていた。

その為、考えられる理由としては、この世界にも『マスターユニット』と同等のものが存在すると言う考えだった。

ただし、ハクメンが『マスターユニット』の影響を殆ど受けてないも同然な状態である為、それは肯定し切れるものでもなかった。

ちなみに、ノエルが『眼』の力を入手できたのは、ラグナとニューが融合して『黒き獣』になると言う予定調和を変えたからであることを全員が改めて確認することになった。

 

『無い筈の物をある物に変えるって・・・。とんでもない力ね・・・』

 

「けど、ノエルが『眼』の力を手にするのに、あの行動はこれ以上無かったものだな・・・」

 

その話を聞いたノワールが啞然とし、ラグナは当時のことを思い返す。予定調和を覆すと言うのは、それだけでも相当な力を持つ証明になり得る事だった。

 

『ニュー・・・何だか謝らなきゃいけない気がする・・・』

 

『だ、大丈夫だよ・・・!そんな引きずろうしてるわけじゃないから・・・!』

 

罪悪感が湧いてきたことで落ち込み出したニューを、ユニが慌ててフォローしようとする。

異世界組の人たち・・・その中でも特にニューと密接な関係にあったラグナですら、ニューのことをもう責めようとは思っていなかった。その為、この件はニューの気持ちの問題であった。

 

『その能力がどんなものだったとしても、テルミのような人に渡らなくて良かったわ・・・』

 

《ええ・・・あんな男に渡るようなことがあれば、それこそ世界が終わってしまうわ・・・》

 

ブランの感想にはラケルのみならず、全員が首を縦に振って肯定の意を示す。

ノエルの持つ『蒼』は、ラグナ程強大なものではないにしろ、テルミが持った場合は狙い通りの事象を事実にされてしまうだろう。

そうなってしまえば、テルミの望む世界を作る速度が急激に早くなってしまうので、そんな事態にしたくはない。

 

『・・・こうしてまた一つ重大な話が出たわけだけど、当然テルミたちも知っていることだから、盗られないようにね?』

 

「ああ・・・盗られちまったら、本当に大変なことになるからな・・・」

 

『・・・・・・』

 

ケイの言ったことは紛れもない事実である為、ラグナとノエルは特に気を引き締める。

実際のところ、テルミが『スサノオユニット』を取り戻した直後にノエルは一時的にテルミの手中に収まってしまっていた為だ。

『エンブリオ』での戦いはラグナとジンがテルミを『スサノオユニット』から引きはがし、その後『蒼の境界線』での一騎打ちでラグナが打ち勝ったことで阻止しているが、次も上手くいくと言う保証は無かった。

 

『ところで、奥まで進むと術式通信すらまともに機能しなくなると聞きましたが・・・』

 

『ええ。洞窟の最奥部・・・そこにある扉の前まで来ると、その先は現場にいる人たちしか情報を知ることができないわ・・・』

 

ベールの問いにはナインが肯定する。

今日の早朝にラグナと共に確認した情報であった為、この情報は二人以外には最新の情報となっていた。

とは言え、洞窟の情報は何も良いものばかりではなく、侵入したものを迎え撃つ為に用意されたであろう『ムラクモユニット』に酷似した存在たち、徹底的な情報隠蔽が洞窟内で行われているなど、悪い知らせの方が多い。

特に前者はかなり悩ましいもので、洞窟に向かう際は、『ムラクモユニット』たちに敵でないことを伝えられる存在が必須となってしまっている。

 

『・・・それだけ、よっぽど見せたくない物があるんだね・・・』

 

「(・・・まるで『素体』を隠してる『統制機構』の黒い部分みてえだ・・・それに、奥にあるのは本当に棺なのか・・・?)」

 

セリカは洞窟に向かうことが、何か悪事を働いているのではないかと言う罪悪感を僅かに感じていた。

根っからの悪意がまるで無いセリカだからこそ、今回の話を聞いて洞窟への調査が、他人の住まいに不法侵入、或いは強制捜査をしているように感じてしまったのだ。

一方、『統制機構』の奥へ侵入することがあって、そう言ったことへの抵抗感が極めて薄れてしまっていたラグナは夢の内容を思い返しながら考え込んでいた。

余りにも鮮明に長時間覚えていることが不思議なくらいだが、今回の情報は覚えているだけ調査に役立つものだと考えていた。

とは言え、夢の内容を話しても信じてくれる人はいない為、こればかりはラグナのみの独自資料に留めるしか無かった。

 

『ところで、この後はどうしますか?条件に見合う可能性を持つ人がいるわけですし・・・』

 

「そうだな・・・ノエル、お前は今日の予定開いてるか?」

 

『はい。空いてますよ』

 

ミナに振られたので、ラグナは早速ノエルに確認を取って見る。

案の定ノエルの予定は開いていた為、ラグナは早速本題を切り出せることになった。

 

「なら、俺がこの後すぐにラステイションに行くから、洞窟に行こう・・・。確かめてみてえんだ」

 

『それはいいんですけど、ラグナさんは大丈夫なんですか?今朝も往復したばかりですし・・・』

 

「ああ・・・そうだったな・・・」

 

ラグナはノエルに言われて少し考え込む。

セリカ程ではないにしろ、ノエルも中々意志の固い面がある。その為、ラグナは強引に物事を進められそうに無かった。

 

「・・・じゃあ、洞窟に現地集合でいいか?出入口の位置情報は送っとく」

 

『はい。そうしましょう』

 

妥協案として出した結果・・・というよりはこれしか無かった案を出せば、ノエルは承諾してくれた。

これでこの後の予定は決まったので、後は実際に行動するだけだった。

 

「それでは、情報の共有もできましたし、一度ここまでにしましょう。何か重大なことが分かったらまたこの形を取りましょう」

 

『ええ。それではまた・・・』

 

イストワールの提示したことに返事をしながらチカが通信を切ったことを皮切りに、連続で残りの二国との通信も終了した。

 

「さて・・・じゃあ、俺は行ってくるよ・・・」

 

「ラグナさん・・・あまり無理はしないでくださいね?」

 

ラグナは席を立ち上がってすぐに移動しようとしたが、ネプギアに声をかけられて一度立ち止まる。

恐らくは、この世界で真っ当に生きるつもりなラグナだったが、やるべきことを見つけた今、異世界組の人たちが知る荒れていた頃に戻るのではないかと心配してのものだろう。

 

「ああ・・・そのつもりだ。取りあえず、終わったらすぐに帰ってくるよ」

 

ラグナ本人にそんなつもりは毛頭も無かったのだが、それだけでは足りなそうなので、すぐに戻ってくることを宣言し、部屋を後にした。

 

「(・・・代われるなら代わりたいところだけど、それができないのが悩ましいな・・・)」

 

この時ばかり、ラグナと見間違えられるのに決定的に違う時だけどうしようもない。そんな自分を改めて認識したナオトは歯がゆいものを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ここが・・・今日言っていた場所ですね?」

 

「ああ・・・。取りあえず一番奥まで進もう。話はそれからだ」

 

通信を終えてから少しして、ラグナとノエルは洞窟前で合流を果たし、中に入った。

ラグナが一歩前を進む形で洞窟の中へ進んで行き、二つ目の分かれ道を進んでいる最中に、『ムラクモユニット』のような存在が現れた。

 

「・・・!?」

 

驚いたノエルは反射的に『ベルヴェルク』を引き抜こうとするが、ラグナが左手を前に出して止まるように促す。

 

「こいつらは攻撃したら攻撃するタイプだ・・・。ここは俺がやるから任せろ・・・」

 

「・・・えっ?でも・・・」

 

「いいから。ちょっと待ってろ」

 

この場合は言うよりも見てもらった方が早いため、ラグナは無理矢理話を進める。

 

「悪かったな・・・。こいつは俺たちの身内だから、戻ってくれていいぜ」

 

ラグナの一言を聞いた『ムラクモユニット(彼女)』たちは、一度頭を下げてから霧散ように消えていった。

 

「消えた・・・?それに、今の姿は・・・」

 

「・・・何であの姿をしてるのかはわかんねえが、どうやら俺とネプギアは無条件で平気みたいだ。んで、俺たちがあいつらに身内だって伝えてやれば引いてくれる。

今解ってんのはそんなところだな・・・」

 

「・・・・・・」

 

やはりというか、一度落ち着いた状況になればノエルは彼女たちの姿に驚きを示した。

ラグナは無理もないためそのことを責めたりはせず、現在の段階で解っていることだけ話した。

しかし、ノエルに取っては無視できない要素が強く、今一つ納得出来てない状態だった。

 

「・・・そろそろ進むか。ここからは一本道だから迷うことはねえ」

 

ラグナはこれ以上悩んでも仕方ないと割り切ってノエルに先を進むと促す。

再び先程と同じように、ラグナがノエルの一歩前を先導する形で中を進んで行く。

 

「ここ・・・洞窟にしては設備が綺麗すぎませんか?」

 

「お前もそう思うか・・・何度見てもそう思うんだよな・・・コレ」

 

どうやらノエルも灯りなどをみてそう感じたらしく、ラグナも同意していることを伝えた。

誰も踏み入れたことが無かったと言う事前情報もあったので、尚更そう感じるのだった。

そして、暫く進んでいると、道が狭くなりだす所まで辿り着いた。

 

「あっ・・・道が狭くなってる・・・」

 

「扉はこの奥だ・・・行くぞ」

 

そのまま更に奥へ進んで行き、ものの数分歩くと扉の前に辿り着くことができた。

 

「着いたぞ。ここが最奥部だ」

 

「これが・・・さっき言ってた扉ですね・・・」

 

その扉をみて、ノエルは妙なものを感じていた。

それも、まるで鏡写しの存在が自分を呼んでいるかのような感じだった。

 

「取りあえず、さっきみたいにやってみるか・・・」

 

「さっき・・・?ラグナさん、何をやるんですか?」

 

「この扉を開けられるか試すんだ。『蒼』を使う必要があるけどな・・・」

 

ラグナはノエルの問いに答えながら右手で扉に触れ、意識を集中させる。

すると、先程のように右側半分が蒼い光に包まれた。

 

「・・・やっぱり半分か・・・。ノエル、お前もやってみてくれ」

 

「は、はい・・・でも、どうやって・・・?」

 

ノエルが戸惑う姿を見て、ラグナは自分以外やり方を知らないことを失念していた。

しかし、話さないことには進まないのがオチである為、正直に話すことにした。

 

「扉に触れて意識を集中させるんだ・・・そうすりゃできる」

 

「わかりました・・・では、いきます・・・!」

 

ラグナの簡単な説明を受けたノエルは左手で扉に触れ、意識を左手に集中させる。

ラグナと違って、扉に触れている方の手に蒼い炎は出ていないが、それでも扉を少しずつ蒼い光が包み始めていた。

 

「(・・・いけるか?)」

 

その状況を見て僅かに期待を感じたラグナだが、期待した通りの結果は返ってこなかった。

 

「半分の・・・更に半分?」

 

「・・・外れたか・・・そんな簡単にできるとは思っちゃいなかったが・・・」

 

左側の扉は全体が覆われる訳ではなく、下側の半分しか蒼い光が行き届いていなかった。

その事実にノエルは戸惑い、ラグナは落胆する。希望を一つ潰されたような気分だった。

 

「暫く使っていなかったからか・・・?」

 

「いえ、これは私の練度以前に、ラグナさん以外で既に『蒼』を所有している人は外されている可能性がありますね・・・」

 

「そっか・・・言われてみればそれもあり得るのか・・・」

 

ノエルが出した可能性に、ラグナは正直に肯定する。現状はその可能性が一番高かったからなのもそうだった。

 

「・・・しょうがねえ。戻ってイストワールに話すか・・・」

 

「そうですね。私もケイさんに伝えないと・・・」

 

これ以上は調査を継続できないので、二人は来た道を戻り始めるのだった。




この章は度々洞窟の話を挟むことになりそうです。

勇者ネプテューヌの方、サブタイトルが遂に決まりましたね。
『世界よ宇宙よ刮目せよ!! アルティメットRPG宣言!!』と言うサブタイトル・・・中々インパクトのデカいものでした。
こちらは発売日が9月の27日の予定になっていますね。5月31日だったら私のお財布が死んでいました・・・(汗)。

オリ回の方は後2、3回続くと思います。

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