超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER-   作:ブリガンディ

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今回でアニメ5話の部分がようやく終了します。


36話 一時の休息

今日もクエストを受けに行こうと思ったラグナの元に、ネプテューヌから意外な知らせが届けられた。

 

「・・・先行プレイテストの招待?」

 

「うんっ!各国が力を合わせて作った初のゲームなんだけど、女神とその側近の人たちだけで先行プレイできるんだって!」

 

「へえ・・・それって凄いのか?」

 

ネプテューヌが言うに、どうやら新作のアーケードゲームを自分たちだけが先行して遊べるようで、それで大喜びしていた。

そう言われるのは構わないのだが、こう言ったことに疎いラグナは今一凄いのかどうかが分からず、率直に訊いて見た。

 

「そりゃ凄いに決まってるでしょぉっ!?だってロケテストよりも前なんだよ!?私たちだけで時間の許す限り遊びたい放題なんだよっ!?こんなおいしい話他にないって!」

 

「お、おう・・・何だか悪かったな・・・」

 

ネプテューヌが余りにもダメ出しをしてくるので、ラグナは思わず身を引いてしまった。

まさかネプテューヌがここまで言って来るとは思わなかった。この喜び方を見たラグナは、自分もゲームしたりしてその楽しさを学ぼうと考えるのだった。

 

「しっかしゲームか・・・結構久しぶりにやる気がすんなぁ・・・」

 

《ナオト、福田に借りていた『教材』とやらはどうなの?》

 

「うおぉぉいっ!?何でお前がそれ知ってんだ!?つか、アレは今関係ねえだろうがぁぁぁッ!」

 

実のところ、ラグナ以外は全員が朝一でその話を聞いており、ナオトはゲームをやれる時間を懐かしそうに言う。

しかし、ラケルが痛いところをついてきたのか、ナオトは絶叫気味にラケルへ反論する。

―シンノスケの野郎、なんてことしてくれやがったんだ!?ナオトは頭の中が混乱しそうになった。

 

《落ち着きなさい。私はハルカからその話を聞いたの。それでその後福田から・・・》

 

「どっちにしろ対して変わんねえじゃねえかッ!つうかハルカは何言ってんだぁっ!?」

 

どんな経路であるにしろ、シンノスケから借りたゲームがラケルに知られていることにナオトは焦りを隠せず、更に声を荒げる。

ラケルに知られたと言う事態が中々に絶望的なものであり、またこれをネタに『下僕』扱いされるのかと考えたら、ナオトはかなり憂鬱な気分にさせられた。

 

「えぇ・・・?ナオト。アンタって・・・」

 

「お・・・俺から借りてる訳じゃねえからなっ!?あっちが無理矢理押しつけてきてんだよッ!」

 

「その慌てぶりがますます怪しいわね・・・」

 

「ち、ちょっと待て!?んなこと言ったら絶対俺から進んで借りた風になるじゃねえかッ!」

 

アイエフが蔑むような目で見てきたので慌てて弁解をしようとするも、それは罠だった。

ナオトの様子を見たアイエフがニヤリとしながら問い詰めて来るので、ナオトは狼狽するのだった。

 

「ナオトさん・・・もしかして、『ギャルゲー男』とか言われないですか?」

 

「・・・っ!?」

 

コンパからのまさかの問いかけにナオトは引きつった顔になる。

―・・・待て待て待て。何でこいつらこの渾名知ってんの!?ナオトはただただ狼狽し、混乱するのだった。

 

「あの・・・コンパさん。見た感じ、図星だったんじゃ・・・」

 

「・・・えっ?ホントですか?」

 

「アレ適当に言ったのかよッ!?」

 

ナオトの様子に気が付いたネプギアがコンパに告げると案の定だったようで、それを知ったナオトが絶叫する。

 

「・・・『ギャルゲー男』?なんだそりゃ?」

 

《あら?ラグナは知らなかったのね?それならナオトの周りの環境を簡単に説明しましょうか。皆も良かったら聞いて》

 

ラグナが率直に質問したことで、ラケルはナオトの有無を問わずに話を始める。

大まかに上げれば、家事全般・・・特に料理が得意で世話焼きな幼なじみの女の子。ちなみに幼なじみの女の子は毎日起こしにくるし朝と晩も作ってくれるそうだ。

また、その幼なじみの母親はナオトが住んでいるマンションのオーナーであり、その人は高校生持ちの親とは思えない程の美人である。

その他、ナオトには病弱な妹、先程言っていた『教材』を渡してきたりするナオトの悪友、ナオトたちの世界にある大企業の令嬢でもある生徒会副会長の女子生徒もいる。

 

「ああ・・・うん。これは確信犯だね」

 

「ナオトさん・・・いくら何でも狙ってる風にしか見えないですよ?」

 

「観念して自分がそうであることを認めなさい。この『ギャルゲー男』」

 

「・・・ごめんなさい。助け舟を出せそうにないので・・・」

 

「嘘だろおおおぉぉぉぉぉおおおぉぉおおおッ!?!?」

 

ネプテューヌ、コンパ、アイエフ、ネプギアの四人に言いたいように言われてしまい、ナオトは絶望の声を上げる。

どうやらこの世界ではシンノスケだけの言い方では無かったらしい。それを知ったナオトは気が重くなったように感じた。

 

「・・・何だろうな?理解できてないのがおかしい風に思うのは俺だけか?」

 

《気にしないで。私も詳しくは理解しきれて無いの》

 

「そ・・・そうだったのか・・・仲間がいて助かったぜ・・・」

 

ナオトが嫌なことを知って絶望するのとは対照的に、よくわからず困惑していた所に同意してくれる人がいたラグナは一つの安心感を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ラグナがネプテューヌからゲームの話を聞いてからおよそ二時間後、ラグナたちはゲームの先行プレイを行える会場に足を運んでいた。

場所はラステイションにあるラボの一室。今回は市民に口外をしない先行プレイである為、貸し切りにしてもらっている上に関係者以外立ち入り禁止の標識案内までしてくれている。非常に用意周到である。

今回会場となったラステイションのゲーム企業、『アークシステムファクトリー』は今回の件の事をあっさり・・・と言うよりもノリノリで承諾していた。

恐らくは初めてプレイしてくれるのが女神たち一行だからだろう。付け加えれば、自国の女神であるノワールが注目しているゲームであり、あの廃ゲーマーとして有名であるベールがプレイしてくれるのもあって尚更であった。

 

「こんにちは!今日の先行プレイに参加するプラネテューヌのメンバーですっ!」

 

「どうもお待ちしておりました。私、『アークシステムファクトリー』のミズノ=トシミチと申します。本日はよろしくお願いいたします」

 

『アークシステムファクトリー』・・・略して『アーク』の中に入ると、入り口で今回の先行プレイするゲームのプロデューサーを担当している男性、ミズノ=トシミチが出迎えてくれた。

彼はこのゲイムギョウ界では珍しく苗字持ちである人物で、少しふくよかな体格をしてサングラスをかけていた。

ラグナとナオト、ラケルの三人は自分たち以外にもこう言ったパターンの名前を持つ人物を見れたことで、少しの安心感を感じた。

 

「それでは早速ご案内します。こちらです」

 

トシミチに案内され、ラグナたちは『アーク』の中に入って先へと進んで行く。

そして、エレベーターで14階まで上り、今回の用意してくれている貸し切りの部屋まで連れていって貰った。

 

「こちらが本日使用する部屋になります」

 

簡単に説明したトシミチはノックをしてからドアを開ける。

 

「失礼します。プラネテューヌからの先行プレイ参加者を連れて来ました」

 

「やっほーっ!今着いたよーっ!」

 

「あっ、これで全員揃ったわね」

 

トシミチがドアを開けて中にいる人へ説明するや否、ネプテューヌが元気よく挨拶する。

それをトシミチは邪険に思うことは無く、メンバーにプレイしてもらえる事の嬉しさから寧ろ楽しみにしていた。

また、ノワールの言い分から、プラネテューヌの一行が揃ったことで今回参加するメンバーが全員揃ったようだ。

ちなみに、メンバーは教祖達以外全員である。教祖達は仕事が山積みだったが故に参加出来なかったのである。あのハクメンですら、ロムとラムの付き添いを手伝う面もあるだろうとは言え、参加しているのにである。

 

「さて、参加者も揃ったので始めさせて頂きます。本日はお忙しい中お時間を割いて頂きありがとうございます。本日皆様にプレイして頂くゲームはこちら・・・『DIMENSION BLUE』となります」

 

『おお・・・』

 

トシミチが今回の先行プレイで使う筐体を紹介してくれ、それをみた全員が感嘆の声を上げる。

今回のゲーム、『DIMENSION BLUE』は2D対戦型格闘ゲームであり、レバーと四つのボタンを使い分けて戦うゲームである。

弱、中、強と分かれている三つの攻撃に、女神たちはシェアエナジーを活用した攻撃である『シェアスキル』、その他のキャラクターは魂から生まれ出る能力である『ドライブ』を使用する。

・・・女神と『ドライブ』で察しが付く人もいるかもしれないが、今回のゲームが注目されている理由として、ラグナや女神たちが格闘ゲームで出るゲームだからというのが大きい。

 

「このゲームの世界観はこちらになります」

 

トシミチはそう言って、奥にあるモニターに世界観を紹介するための画面を映す。

世界観としては、女神たちが和平を結んでおらず、武力によるシェアエナジーの取り合いが禁止されていないという、女神たちを題材にする際、かなり頻繫に使われていた設定。

女神たち自身は無理に争おうとしてはいないが、女神同士で遭遇すると何故か豹変し、全力で殺し合いに掛かるような状態になってしまっている。ちなみにそのような状態になるのは四女神だけで、候補生の四人はそのようなことにはならないが、四女神に遭遇すると襲われてしまう為、現在は『ドライブ』能力者と共に対策を立てている最中。

そんな不安が高まっているこの世界に突如として現れた謎の青年であるラグナと、四女神の豹変には何者かが関与していると踏んで独自に調査に赴くところだったアイエフが出会うことから物語が始まる・・・という世界感だった。

 

「・・・こりゃまた随分とハードだな・・・」

 

「作り話とは言え、実際に起きたら怖いですね・・・」

 

世界観の説明を聞き、その部分を読みながらラグナは呟き、ノエルは少々割り切れていない面を見せる。

この辺りは異世界組ではナオトとラケル以外が似たような反応を示していた。ベールとネプテューヌは以前ラグナが自分のいた世界は娯楽に欠けているものがあると言っていたので、もしかしたらそのせいかもしれないと考えることができた。

 

「そう言えば、今回プレイ可能なモードは何があるの?」

 

「今回プレイ可能なモードはこちらになります」

 

一度気まずくなりかけた空気を変えるべくブランが問いかけると、トシミチはモニターにプレイ可能なモードを紹介した。

そこには『VS PLAYER』、『SPARRING』、『ARCADE』の三つが出されているが、注意深く画面に注視すると、『ARCADE』モードはラグナでのみプレイ可能な状態であった。

 

「申し訳ございません。『ARCADE』は正式に稼働するまでは、ラグナ以外完全非公開でと言い伝えられていますので・・・」

 

「なるほど・・・それは仕方ないわね」

 

トシミチが深く頭を下げながら説明するので、ブランのみならず、全員が潔く納得した。

 

「さて・・・説明としては以上になります。今回は対戦が可能な二台セットと、一人で練習がしやすい一台セットを用意させて頂きましたので、時間の許す限りお楽しみ下さい」

 

トシミチが言い終わるが早いか、全員がそれぞれの場所にぞろぞろと移動を始める。

二台セットは普段からゲームをプレイするゲイムギョウ界組、一台セットの方はゲーム経験を殆ど持たない異世界組と綺麗に別れた。

トシミチはその様子を見て、ラグナたちが大方初心者であることに早々と気が付いたので、質問等が来た時の為、そちらの近くにスタンバイしておいた。

彼の方針として、お客様は女神も一般人も皆平等であるという考えの持ち主である為、女神癇癪をするつもりもない。このような立ち回りをしたのは、彼女たちは余り質問をせず自分たちで楽しむことが予想できたからだった。

 

「えっと・・・誰からやる?」

 

「御前から良かろう。今後此の様な事に長く関わるのは御前だろうからな・・・」

 

「なるほど・・・んじゃあ俺からやるか」

 

ラグナは投げかけて見たものの、ハクメンに勧められたので結局は自分が最初にやることになった。

こちらは一人台である為、プレイ可能なのは『SPARRING』と『ARCADE』のみとなってしまうが、ラグナはどちらにすべきか迷った。

このゲームにいるラグナであれば『ARCADE』もプレイ可能である為、どうせなら自分を使って見ようと思っていたラグナは悩まされることになっていた。

 

「そうだな・・・じゃあ初めてだし・・・」

 

まずは自分が操作に慣れる為、ラグナは『SPARRING』を選びんだ。

画面が暗転した後、一瞬だけフラッシュしてからキャラクター選択画面に入る。

しかも奇遇なことに、1P(ワンプレイヤー)側はラグナに初期カーソルが重なっていた。

このゲームでのラグナは、キャラクターセレクト画面では剣を右手で逆手に持った状態で前を見据えている状態だった。

これは使えと言うことだろうと感じたラグナは迷わず自分をセレクトした。この際、カラー選択が出てきたが面倒なので初期設定のカラー1・・・つまりは今のラグナそのままを選択した。

そして、そのままトレーニング設定の画面に移行するのだが、面倒だと感じたラグナは初期設定のままで決定した。

その直後実際にバトル画面に入る直前、今回戦うキャラクターが二人、上下に1Pと2P(ツープレイヤー)のキャラクターが映し出されるが、この時ラグナは初期設定だった為、ナオトとラケル以外がちょっとしたことで驚いた。

 

「・・・俺が二人?」

 

「えっと・・・どういう事ですか?」

 

「向こうのラグナ・・・分身したの?」

 

「・・・そうとは思えんがな・・・」

 

まず初めにラグナが思ったことをそのまま呟き、ノエルが困惑を見せた。

ニューの疑問にはハクメンが曖昧ながらも否定した。ラグナや女神たちの能力の再現を大切にしている為、そんなことにはならないという考えだった。

 

「ああ・・・そのことですね。同じキャラになった場合でも対戦できるようにしてあるんですよ。このゲーム内の設定としては・・・」

 

トシミチが困惑している彼らに説明をしてくれた。

このゲーム内でのラグナは突如としてゲイムギョウ界に現れている為、それと似たような理由で偶然にも同一人物がであってしまった・・・と言う形になる。

それを聞いたことで異世界組はようやく納得が行った。自分達の疑問が解決できて一安心である。

ナオトは実際にゲームを作る時の練り込み具合の大切さを、肌で知ることができたと同時に、シンノスケもここに来たら喜ぶかなと考えていた。

そして、実際のプレイ画面・・・もとい、バトル画面になり、ここからラグナが実際に操作することとなる。

 

「えーっと・・・」

 

まず初めに、ラグナは移動からやってみることにした。

前進・・・後退・・・しゃがみ・・・ジャンプ・・・地上ダッシュ・・・バックステップ・・・・空中ダッシュ・・・空中バックステップ・・・ハイジャンプという順番で一通り移動をしてみた。

 

「おおっ!私の5C強いねっ!」

 

「私も5Cが強いんだ・・・。お姉ちゃんとお揃いでちょっと嬉しいかも」

 

「な、なんか向こうは向こうでヒートアップしてるわね・・・」

 

「えっと・・・あの二人が言ってる5Cってなんだろう?」

 

ラグナがぎこちなく操作をしている一方で、ネプテューヌたちはバリバリ対戦をしており、ラグナたちのようにゲームをあまりプレイしない人には分からない専門用語を用いた会話すら始まっていた。

ナインはその様子を見て焦りに近いものを感じ、セリカは彼女たちの間で飛んでいた専門用語に首を傾げた。

 

「彼女たちのいう『5C』というのは、レバーの位置とどのボタンを押したかによって変わるんです。まず、レバーに関しては電卓を思い起こしていただくと説明が楽になります」

 

トシミチはセリカ達の疑問に答えながら電卓を待機している全員に見せる。

ナオトは何となく理解しているので確認程度だが、ノエルやハクメン、セリカ達は全く持って知らない為、食いついていた。

 

「この電卓の1から9の数字を見て欲しいのですが、これらの数字で真ん中にあるのは5です。また、筐体のレバーはどこにも傾けていないなら真ん中で制止しています。彼女たちの言っていた『5C』の内『5』はレバーの位置が関係してきています。ちなみにこのゲームですと、何もしていない場合は立ち状態です。

そして、次に『C』の部分はどのボタンを押したかになります。彼女たちは『C攻撃』に使うボタンを押したので、そのまま『C』と言っています。

つまり、このゲームの『5C』と言うのは『立ち状態でのC攻撃』となるんです。この説明で大丈夫だったでしょうか?」

 

纏めて説明してしまったのでトシミチが念のため確認すると、皆が首を縦に振ってくれていた。

それを見てトシミチは「しっかりと教えられたな」と安心感を覚えた。

 

「・・・ん?これってどう出すんだ?」

 

「どうかしましたか?」

 

ラグナが疑問の声を出したのに反応し、トシミチはすぐにそちらへ移動する。

せっかくなので自分たちも一緒に説明を受けようと、異世界組の全員はトシミチについていく。

 

「ああ・・・この辺の技の出し方がわかんなくてな・・・」

 

「・・・なるほど。そういうことですね」

 

ラグナは筐体の近くに用意してあった、操作説明とキャラクターごとのコマンド技が乗っている資料に目を通しながら練習をしていた。

一通りゲーム内のラグナが持つ通常技を全て出した為、次はコマンド技を出して見たかったのだが、今一矢印の意味を理解できていなかったのである。

それを見たトシミチは自分もコレに引っかかったことを思い出しながら、しっかりと説明しようと決意した。

 

「このコマンドは、まず初めにレバーを回すように入力していきます。回しきったらそれよりも一瞬遅いから同時くらいのタイミングで指定されたボタンを押してください」

 

「それでいいのか・・・じゃあ、これから出してみるか」

 

トシミチの説明を受けたラグナは、このゲームでのデッドスパイクを出して見ようと思った。

ちなみにこのゲーム、ラグナだけゲイムギョウ界に突如現れたと言う設定からなのか、『地を這う死の顎(デッドスパイク)』だったり、『空を裂く闇夜の剣(ナイトメアエッジ)』と言った風に書かれていた。

また、『アークシステムファクトリー』が提供する格闘ゲームではお馴染みの一撃必殺技。このゲームでは『AH(アストラルヒート)』となっている技の名前は『奔流する黒き憤怒(ブラックオンスロート)』と書かれてあったりする。

これを見たラグナは読みづらい書き方してるなと思いながらも、『地を這う死の顎(デッドスパイク)』のコマンドを入れてみる。

 

《『地を這う死の顎(デッドスパイク)』ッ!》

 

ネプテューヌが言っていた専門用語風に表すなら、ラグナは『236D』とコマンドを入力した。

それがコマンド受付時間以内に入力できた為、ゲーム内のラグナは腰に下げてある剣を引き抜きながら振り上げ、目の前に黒い炎のようなものを飛ばした。

それは相手側のラグナに当たると同時に消え、相手のラグナは飛ばされ、当たった位置から現れた複数の紅い球が攻撃をしたラグナの右手に吸収された。つまりは『ソウルイーター』の再現である。

 

「おっ・・・」

 

「無事に出せたようで何よりです」

 

分からないことが分かると嬉しくなることは多い。今回ラグナはその例に漏れること無くそう感じていて、それが分かったトシミチも嬉しく思った。

ラグナはこの調子で『砕き散らす地獄の牙(ヘルズファング)』、『叩きつける冥府の鉄槌(ガントレットハーデス)』、『血を求める狂気の鎌(ブラッドサイズ)』、『飛翔する獄炎の翼(インフェルノディバイダー)』、『急襲せし悪魔の刃(ベリアルエッジ)』、『空を裂く闇夜の剣(ナイトメアエッジ)』、『終わらぬ攻勢(エンドレス・ターン)』と通常必殺技に分類されるコマンド技を出していく。

終わらぬ攻勢(エンドレス・ターン)』だけ名前がおかしいと感じた人の為に答えると、メタい話がこの世界でラグナは『まだ終わりじゃねぇぞ』を一度も使っていない為、その技の存在を知られていない。

その為、この技だけはトシミチによる捏造なのだが、何の偶然か動きは完全に『まだ終わりじゃねぇぞ』そのままだった。

 

「思ったよりも追撃コマンド多いな・・・」

 

先程からコマンド技を出していたラグナが率直に感じたことだった。

ラグナの技は『ソウルイーター』の兼ね合いがあるのか、専用の追撃コマンド持ちの技が四つもあったりする。

しかし、これでもラグナはかなりシンプルなキャラクターであるとトシミチが言っている為、その他のキャラクターがどれだけ複雑なのかをラグナは考えたく無かった。

 

「(・・・アレ?もうそんなに経ってんのか?)」

 

ラグナが画面の上側を見ると、残りのタイムが既に50に差し掛かっていた。最初は500もあったのに、いつの間にかこんなに時間が経っていた。

 

「後試して無いのは・・・」

 

ラグナがコマンド表を確認して見ると、残りの試していない技は『虐殺せし旋風の鋏(カーネージシザー)』、『喰らいつくす闇の嵐(ペインズダークネス)』、『駆け抜ける混沌の嵐(シードオブタルタロス)』、『奔流する黒き憤怒(ブラックオンスロート)』の四つだったため、ラグナは順番に試していく。

こちらでも『喰らいつくす闇の嵐(ペインズダークネス)』の名前がおかしい、『闇に喰われろ』はどこにいったという人の為に答えると、『闇に喰われろ』はその技を目撃した人物がネプテューヌとノワールしかいないという点もあるが、トシミチらスタッフがそのままだと今までつけてきた技名の中に、場違いすぎる名の付いた技が出来てしまうと危惧してこの様な形をとったのである。

ちなみに、この技も見事に『闇に喰われろ』と完全に同じ動きをしていた。これも素晴らしい偶然であった。

 

「・・・よし」

 

そしてタイムが残り10になった時、ラグナは一呼吸して自身を落ち着け、『2141236C』とコマンド入力をする。

 

《見せてやるよ・・・『蒼炎(あお)』の力を!》

 

そのコマンド入力は成功し、無事に『奔流する黒き憤怒(ブラックオンスロート)』の発動に成功した。

それによって振り上げられた剣が相手のラグナに当たった瞬間、周りの背景が黒に変わった。

 

《恐怖を教えてやる・・・》

 

そして、ここからは『虐殺せし旋風の鋏(カーネージシザー)』などと同じように自動でやってくれるので、後は見ているだけだった。

ゲーム内のラグナはこの世界で初めてエンシェントドラゴンに放った時のように、剣を鎌に変形させて連続攻撃を始める。

 

《地獄はねえよ・・・》

 

鎌で相手のラグナを攻撃する度に紅い球が現れ、ラグナの右手に吸収されるのも全く持って同じであった。

 

《あるのは無だけだ・・・》

 

そして、最後に攻撃している方のラグナが当時のように、『獲物を殺す体勢になった獣』を思い起こさせるかのような状態になり、そこから剣で相手を一閃する。

相手に剣が当たった瞬間、相手のキャラクターが一瞬で黒い羽根を散らしたような状態に変わり、そのまま消え入るような演出と同時に『ASTRAL FINISH』という文字がデカデカと画面上に映し出された。

 

《これが『蒼炎(あお)』の力だ・・・》

 

このセリフをゲーム内のラグナが言い切ったと同時にタイムが0になっていた為、ラグナのプレイは一度ここで終了となった。

―それにしても見事な再現性だな・・・。ラグナはプレイしてそう感じた。

このゲームを開発した人たちの凄い点として、ラグナたちの戦っている姿は、基本的にはネットなどの情報でしか手に入れられず、しかも運良くその一部始終を手にすることができる程度のものだ。

しかしこのゲームはどうにか教祖やラグナたちに協力を受け入れてもらっており、そのお陰でここまで再現できていたのだ。しかし、その予算も半端な額では無かったはずだ。

一体どれだけの人たちが努力をしたのだろうか?それを考えただけでも、このゲームを開発した人たちの思いが伝わってくるような気がした。

 

「(トシミチさんもそうだけど、このゲームを作ってる人たちは間違い無く他人に誇れることをやっている・・・。俺にもこんな風に誇れる事があるといいんだがな・・・)」

 

同時に、ラグナは少し羨ましくも思っていた。それは自分の経歴から来ることだとラグナは自覚していた。

彼女たちはもう既に周知の事だが、ラグナは元々妹を助ける為にかなりの悪事を働いていた為、ラグナの事情を知らない人たちからは基本的に目の敵にされていた。

それが故にラグナの行動は事情を知らない限り評価されたものではなく、事情を知ったとしても他にやりようがあったはずだという人すら出てくるだろう。

それに対して、トシミチらのゲームを作り上げるという行為は正当な手段で自身の力を証明するものであり、プレイする人たちに楽しんで貰える為という確固たる理由がある。無論、プレイする人たちはその意図が分かっている為、正当な評価が下されるのだ。

無論、彼ら作ったのゲームがプレイヤーの肌に合わないということがあるかもしれないが、ラグナからすれば自分よりも遥かにまともな自己主張だと感じるのだった。

 

「どうでしたか?プレイしてみた感想は?」

 

「難しいけど楽しかったよ。時間さえあればまたやりたいかな」

 

ラグナ自身がゲームをあまりやらないのもあるが、それでも格闘ゲームというジャンルは敷居が高いのは確かなことだった。

ゲーム自体が初心者である人が格闘ゲームから始めると挫折しやすいのもあるが、今回が自由に練習できるモードから始められたこと。そして演出等をしっかり楽しめたことが大きかった。

何がともあれ、そうしてライトユーザーの人が「またやりたい」と言ってくれたことはトシミチにとっても大きく、彼は心の底から嬉しそうな顔を見せるのだった。

そんなトシミチを見て、ラグナはこれからも頑張って欲しいと思ってると、コートの左側の袖口を引っ張られたのでそっちを振り向いて見ると、ニューがやりたそうな目でこっちを見ていた。

 

「そっか。んじゃあ変わるか」

 

「うんっ!」

 

色々と触れられるいい機会だからニューにやらせて上げようという皆の判断が分かったラグナは、交代することを言うと、ニューはとても嬉しそうな笑顔になった。

ラグナが筐体の席を開ければニューはすかさず空いた席に腰を下ろした。

ニューはラグナと違ってそもそもゲーム自体が始めてである為、迷うことなく『SPARRING』を選択する。『ARCADE』では敵が動くため、満足に練習できないからだ。

 

「あっ、ニューもいるんだ・・・」

 

ニューは自分がいることに気が付き、それを選択する。カラーのことは良く分からないので初期のままだ。

今回のゲームでの事象兵器(アークエネミー)は、『自身が条件を提示したらそれを守れる人』。『目的が果たせないかもしれないという事実を前に折れない人』という二つの条件を満たした人にのみ、ナインから渡されている。

『ムラクモユニット』は事象兵器(アークエネミー)の改良試作品という扱いで、これは精神支配の危険性はないが、その分兵器としての性能が低めになっているという設定になっていた。

 

ちなみに、ラグナは『DIMENSION BLUE』におけるゲイムギョウ界では伝説上の存在とされている『蒼炎の書(ブレイブルー)』を手にしていることから、それを知っている人物を混乱に落とし込んでしまうようだ。

この話を聞いたとき、ゲームでもそうなるのかと落胆したラグナは悪くないだろう。

他にも、このこのゲーム内の設定として、ノエルとニューはラステイションの一家に居候させてもらっている姉妹、ナオトは元々ゲイムギョウ界出身の身で、アイエフやコンパとは幼なじみ。コンパは事情を知らないが、ナオトは数年前の事故に巻き込まれたナオトを助ける為にもう一人の人格、ラケルがアイエフの中に宿っているのを知っている。

その際ナオトは極めて危険なドライブの『ブラッドエッジ』に目覚めてしまい、現在はコンパと手分けしてドライブを捨てる。または『ブラッドエッジ』のリスクをどうにかする方法を探している・・・。とこの辺りはナオトがラケルの眷属になった辺りの時とよく似ていた。

良い点とすれば協力者が一人増えたこと。良くない点としては自分以外にもアイエフが被害を被ってしまったことだろう。

ちなみに、コンパはドライブとして使えるものが回復系なものばかりであり、調整が追い付かず、ゲームセンターで稼働開始して暫くしたらタイムリリースで実装する予定だった。

 

「・・・?」

 

「ニューのドライブはDボタンを追加入力することで追加攻撃できる仕様になっていますよ」

 

「追加入力・・・」

 

ニューのドライブ名は『ソードサマナー』という剣を飛ばす遠距離攻撃なのだが、一発しか飛ばず、威力も低いからこれだけかとニューが困惑したのに気がついてトシミチが説明をする。

タイミングを合わせて押すのは面倒だと感じたニューがDボタンを連打してみると、最初に飛ばした剣が当たった後、ニューが体を動かして指示をするような動きをし、攻撃を受けたゲーム内のラグナの周りに複数の剣が現れて襲い掛かる。

 

「・・・!」

 

「他にもレバーとの組み合わせで剣を飛ばす向きが変わりますよ」

 

「そうなの?じゃあ・・・」

 

試しにレバーを下に入れながらDボタンを押せば、画面内のニューが斜め上に向けて剣を飛ばした。

今回は相手のラグナが地上にいたから当たらなかったものの、相手が空中にいる時に使えば当たるだろうと言うのは何となく分かった。

それからニューは色々と技を試してみて、かなり驚いてしまった技が一つあった。

 

「に、ニューの『5C』?ってボタン一つでこんなに攻撃するんだね・・・」

 

ニューの『5C』は背後にある『ムラクモユニット』の刃で連続攻撃を行うものであり、8HEATと通常攻撃としては破格のヒット数を誇っていた。

しかし、その割に与えたダメージは850前後と通常の強攻撃と大して変わらない。ある種の見た目マジックを感じたものだった。

 

「後は・・・」

 

ニューもいつの間にか残りタイムが僅かになっていたので、一撃必殺技を試してみることにした。

ニューのAHの名前は、こちらでは『解き放つ解放の剣』となっていた。しかし、動き自体は『滅びの剣』と殆ど変わりなかった。非常にセリフが長かったのか、担当の声優が頑張って早口で演技をしているのが伺える技でもあった。

そして、技が当たると同時に『ASTRAL FINISH』の表示が現れ、タイムが無くなったので終了となる。

 

「ふぅ・・・コレ結構疲れるんだね・・・」

 

新しく触れるものばかりであり、最近のニューは今回のように戸惑ったりすることが多い。

 

「でも、楽しかったんでしょ?」

 

「・・・うんっ!凄く楽しかった!」

 

しかし、最後には必ず満面の笑みを見せる。

新しい物事に触れられる時間を手に入れたニューは積極的に物事に触れるようになっている。そして、それは誰かに命令されたりしたものではなく、自分の意志で選択した行動である為、なおの事楽しさを感じるのだった。

そんな風に、希望を持ちながら生きることのできるようになったニューを見て、ノエルもそうだが、異世界組の皆は助けられて良かったと改めて思うのだった。

 

「え、ちょぉっ!?ベールのそのコンボ何!?」

 

「あら・・・ゲーム内の私はやり込み要素満点で飽きませんわね・・・♪」

 

「(・・・さ、流石はベール様・・・もうご自身で研究を始めていらっしゃる)」

 

ネプテューヌの驚愕した声と、ベールの楽しそうに呟いた言葉を聞き、トシミチは握りこぶしを震わせる。

このゲーム・・・間違えなければいける!トシミチはベールの様子を見て確信していた。

 

「よし・・・ちょっと混ざってみるか」

 

ラグナはネプテューヌたちの様子を見て、格闘ゲームの本領は対戦であることを察して二台セットの方へ移動した。

その様子を見ると、自分たちのやっていた『SPARRING』とは明らかに違うゲームに見えた。

まず初めに、キャラクターの動きが非常に機敏だった。ラグナたちがまだ慣れていないというのもあり、彼女たちの動きは全く無駄が少ない。

そして、攻撃に関してもコンボの数が違っていた。というか、自分たちは練習がやっとだというのに、彼女たちはもう地上攻撃から空中攻撃へ持っていくコンボなどを平然とやってのけていた。

 

「(・・・来てみたのはいいが、コレ勝てんのか?)」

 

正直なところ、ラグナには勝てるイメージが全く持って浮かび上がらなかった。

簡単に諦めるつもりはないものの、これは今日すぐ勝つとなったら無理があるだろう。

格闘ゲームが初心者お断りの雰囲気があるのは、経験者との差が余りにも酷過ぎる為、互いに楽しめないのがある。

極めつけには、初心者側がそこで挫折してしまう危険性も高い。その為、格闘ゲームは新規ユーザー獲得が課題となりやすいゲームだった。

 

「あっ、ラグナもこっちでやってみるの?」

 

「ああ。せっかくだからやってみようかと思ったんだが・・・アレを見ちまうとな・・・」

 

「ああ・・・なるほど・・・」

 

アイエフに問われたラグナが答えながら筐体の方を見たのに気が付き、アイエフは同情した。

初心者にいきなりこれをやれと言われても到底無理な話である。いくら何でも経験の差が激しすぎるのだ。

 

「まあ、ラグナが初心者なことはわかりきってるし、あんな動きはしてこないと思うわ」

 

「・・・ならいいんだけどな」

 

彼女たちも流石に理不尽にラグナを祭ろうというつもりはない。それを理解しているアイエフがそう言うと、ラグナも少しは安心できた。

 

「あっ、ハクメンさんってランタイプじゃないんだ・・・」

 

「・・・ステップタイプ・・・」

 

『DIMENSION BLUE』のダッシュには素早く走っていくランタイプと、一定の距離を素早く詰めるステップタイプの二つがある。

ラグナやニューはランタイプなので素早く動くことができる代わりに距離調整は融通が効きづらく、ハクメンやナインはステップタイプなので距離調整はやりやすいものの、大きく相手を吹っ飛ばした際、追いかけるのに手間取ってしまうと一長一短である。特にナインの場合はかなり癖が強く、慣れないと非常に難しいものとなっている。

今回ロムとラムはハクメンがステップタイプだったことに少ししょんぼりとした、しかし、ただでさえ『斬魔・鳴神』で圧倒的なリーチを誇り、飛び道具に対するメタまで備えるハクメンがランタイプだった場合、ニューのような遠距離攻撃を主体とするキャラクターが軒並み戦えなくなってしまうので、それは仕方ないのだろう。

 

「・・・えっ!?それ飛び道具も反応するの!?」

 

「やったーっ!雪風入ったーっ!」

 

「カッコいい・・・!」

 

また一つ対戦が終わる。どうやらハクメンを使っていたラムの勝利で、決め手は雪風となったらしい。

ハクメンのD攻撃は全てカウンターに割り振られており、基本は打撃攻撃を受けた時はそのまま反撃、飛び道具はダメージを受けないで済むというものである。

ただし、雪風のみは例外であり、雪風は飛び道具すらカウンター成立条件に入っていた。その為、飛び道具ならカウンターされないというユニの固定観念を完全に突くことができたのだった。

勿論、雪風を決めたラムは大喜びであり、ロムも目をキラキラさせながら見入っていた。

 

ちなみに、このゲーム内のハクメンは過去に大怪我を負ったのだが、それでも戦う意志を捨てていなかった為、その事情を聞いたナインに『スサノオユニット』と『斬魔・鳴神』を受け取り、今の姿に至る。

しかし、大怪我を負った場所とハクメンの正体が何者なのかは一切が不明という扱い。これはナインがハクメンとして生きることを決めた彼の意志を尊重したという設定になっている。

ハクメンの目的は四女神の豹変を止めることであり、その為に自身の協力者になれそうな者を探しているという設定になっている。

その為、ラグナとは因縁の相手というよりは、ハクメンからすればラグナは『荒削りな面があるものの、見込みのある存在』。ラグナから見たハクメンは『良く分からない部分はあるけど、強いし信頼できるやつ』になっている。

どうしてこうなっているかは『ARCADE』をやって欲しいと言われたので、最後に誰か一人やろうという話になった。

 

「・・・だって、ハクメンさん?」

 

「もうすっかり小さい子の『英雄(ヒーロー)』ね?あなたも・・・」

 

「私に其の心算は無いのだがな・・・」

 

その様子を見たセリカとナインに軽く弄られ、ハクメンは苦笑交じりに肩をすくめる。

しかし、それもそれで悪い気がしないのは確かだった。この世界で自分も周りも大きく認識が変わったのはラグナだけではないのだった。

 

「さて、次の相手はどなたかしら?」

 

「ああ・・・次は俺だ」

 

また少しの間彼女たちの対戦が続き、この大戦に勝利したベールが尋ねる。

そして、もう既に示し合わせたかのように勧められたラグナは、恐る恐る手を上げながら答えた。

全員が対戦で夢中になっている間に移動してきたのでベールは気づいていなかったらしく、ラグナが答えたことに「あら?」と驚き半分の声を出した。

 

「なるほど・・・。それなら、今回は接待プレイが良さそうですわね」

 

「・・・接待プレイ?」

 

「ベールさんは今回、手加減してプレイするんです。基本的に、初心者を一方的に倒さないように、挫折させて引退に追い込まないようにする行為ですね」

 

ベールの言った事が解らずに呟いたのを拾ったネプギアが答えてくれたので、どうにか接待プレイの意味を理解することができた。

 

「それなら大丈夫そうだな・・・」

 

なら当たって砕けろ。取りあえずやってみようと思ったラグナは席について対戦するためにキャラクターセレクトをする。

操作キャラは勿論ラグナ。ベールはグリーンハートを選択している。どうやら女神と女神候補生は変身後で作られているらしい。

一応、変身前は会話だったり、戦闘前会話で使われたりするそうだ。こうなった理由として、技が変身前も変身後もあまり変わらないのが理由でこうなったらしい。

そして、いざバトル・・・の前に戦闘前演出が出てきた。

 

《・・・!?あなた・・・その右腕は・・・》

 

《アイエフの応援は待てねえか・・・悪いけど少し手荒に話を訊かせてもらうぜ》

 

画面外から二人が現れ、すれ違うタイミングでラグナが剣を振るい、グリーンハートが槍を突き出す。

それらがぶつかり合い、二人はそのまますれ違いながら互いの初期位置に着地する。

その後セリフが入り、グリーンハートはラグナの『蒼炎の書』に気付いて驚き、ラグナはアイエフの事を待つ余裕がないことに歯嚙みしつつ、一人で女神に挑むことを決意した。

 

「おおー・・・こんな演出なんだね・・・」

 

「ラグナの場合、今は無視をするって感じだよね・・・多分落ち着いた状況なら答えてくれるんじゃないかな?」

 

「ああ・・・なるほど。俺もラグナだったらそうしようって思ったから、強ち間違ってないかもな?」

 

《私も同感よ。ラグナがナオトの境遇であった場合も、似たようなことが起きるでしょうね》

 

演出を見たセリカの感想に、ナオトも同意の意を示す。

ラケルもラケルで、自分と出会ったのがラグナだったら、きっと彼と同じ道を辿るだろうと感じていた。

しかも、思い起こして見て違和感がないのだから、これまた困る内容だった。

そんなことを考えていると、筐体の方からレフェリーであろうシステム音声が聞こえてきた。

 

《THE WHEEL OF FATE IS TURNING》

 

開始間近であることを示しており、全員が画面に注目する。

 

《REBEL 1》

 

ラグナはどう動けば良いか悩んでいるが、ベールはこの段階で既にこれで行こうと行動を決めていた。

 

《ACTION!》

 

そして、行動が可能になると同時に、ベールは一度空中バックステップで距離を取った。

 

「・・・?」

 

「流石に初手を攻撃には回しませんわ」

 

ベールは最初に攻撃したら焦りで全く動けなくなるだろうと踏んでいたので、攻撃はせずに距離を取って様子見を選んだ。

確かに、ベールの言う通り彼女の扱うキャラが距離を取ってくれたお陰で、ラグナは少し落ち着いて操作ができそうだった。

 

「・・・なんか悪いな・・・」

 

ありがたく思いながらラグナは早速攻撃に移る。初手はダッシュで近づいてからの5B。使っていて妙にこの技が強いと感じたからである。

しかし、ガードされてしまったので、その攻撃はガードの上から体力を僅かに削ることに留まってしまった。

そして、ダメだと思ったので攻撃を止めて少し待とうと思ったが束の間、グリーンハートから「手を止めてはダメだ」いうかのように反撃が飛んできた。

その攻撃が槍を使った足払いだったことから、3Cの攻撃ではあることを何となく感じ取っていた。

 

「・・・ありゃ?ってそりゃそうだよな・・・」

 

「ええ。この場合はガードを崩す、固めて動けなくさせる。攻撃を一度中断するふりをしてもう一度攻撃など・・・色々と崩し方が存在していますのよ?」

 

「覚えるのに時間が掛かりそうだな・・・」

 

思った以上に覚えることが多い。そう思ったラグナは頭を使うのが得意ではない自分を悲しむのだった。

その後もベールに色々と教えてもらいながら、どうにか対戦を進めていく。

 

《FINISH》

 

そして、残タイムが03というところで、ラグナどうにか接待プレイしてくれているベールから一ラウンドを取れたのだった。

 

「おお・・・取れた・・・」

 

「その調子ですわ。次のラウンドも、今のラウンドの事を思い出しながら頑張ってくださいな」

 

呆然気味なラグナに対し、ベールは応援の言葉を投げかける。

そして、すかさずラウンド終了のセリフが入った。

 

《そっちにその気が無いのはわかってんだけどな・・・》

 

ラウンドの勝利時、ラグナは罪悪感を持ったセリフを投げていた。

彼女たちは望まぬ戦いを強いられているという状況を知っているラグナは、女神たちにきつく当たろうとはしなかった。

そのセリフが終わってから間もなく第二ラウンド・・・要するに《REBEL 2》が始まったのである。

このゲームは3ラウンド製、2ラウンド先取となっているため、次のラウンドをラグナが取った場合、その段階でラグナの勝が決定する。

 

《DISTORTION FINISH》

 

しかし、次のラウンドはあまり上手く行かず、グリーンハートのシレットスピアーがラグナに直撃したことで試合終了となった。

 

《手加減はしたつもりなのですが・・・》

 

グリーンハートの方は話を聞く聞かない以前に、人命の方を案じていた。

女神同士が対面すると豹変してしまう彼女たちでも、ラグナのように一般の人を前ならば本来の人格を維持できるようだ。

 

「では、次が最後になりますので、気を抜かずに行きましょう」

 

「わ、分かった・・・」

 

そうして、最後のラウンド、《REBEL 3》が幕を開けた。

ちなみに、このラウンドで相打ちになった場合、一度仕切り直しが起こるらしい。

まあそんなことはないだろうと思いながら、ひとまず目の前のことに全力で当たるのだった。

 

《FINISH》

 

結果は最後の刺し合いでリーチに優れるグリーンハートが勝ったと言う形だった。

 

「ああ・・・マジか」

 

「惜しかったねぇ・・・最後の刺し合いが取れてたよ・・・」

 

「でも、慣れてないにしてもよく動けてたと思うです」

 

「ええ・・・相手が手加減してるのもあったけど、初めてでこれなら上出来よ」

 

「そっか・・・それなら良かったわ」

 

思ったよりもショボいやられ方をしてしまったラグナだが、ネプテューヌたちのフォローのお陰で少し安心できた。

あと一歩と言うところで負けてしまったラグナだが、これで折れてしまったかと言えばそれは違う。

 

「もう少し練習しねえとな・・・」

 

「解らないことがあったら、いつでも聞いてくださいね?」

 

「おう。その時は頼むわ」

 

《どうして・・・あなたが『蒼炎の書(それ)』を・・・?》

 

ラグナたちが話していると、グリーンハートがラグナの『蒼炎の書』を気にするような発言をしていた。

伝説上の存在が実在していると言うのは、誰でも混乱するはずである。

 

「これは・・・ストーリーが楽しみになってきますわね・・・。まあそれはさておき、次はどなたかしら?私はいつでもいいですわよっ!」

 

「なら、今度は私が行くわ!」

 

ストーリーの展開を楽しみにしながらも、ベールは次の対戦相手を募り、真っ先にノワールが名乗りを上げて席に着いた。

そこからはゲイムギョウ界組同士なら全力で、異世界組とゲイムギョウ界組だった場合は接待プレイ。異世界組同士は非常にぎこちない対戦・・・。といった形で暫く対戦は続いた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

《此の奥だ・・・。御前ならあの者を止めることができるやも知れん・・・》

 

《・・・?お前は行かねえのか?》

 

《問題が起きているのは此の国だけではない・・・私は他の国で調べを始める》

 

対戦に疲れたことと、終了間近の時間になっていたため、最後に全員で『ARCADE』のストーリーを楽しもうと言うことになった。

今回ラグナの最後の相手はハクメンで、彼の前に力を示すことのできたラグナは奥にいるであろうプラネテューヌの女神を止める事を託される。

ハクメンは設定上、ナインの頼みを訊かねばならないことが多く、何か事あるごとにナインの頼みをうけてしまうことが多い。

どうしてこうなったかは詳しく説明されていない為、ハクメンの『ARCADE』で近いうち出すのだろうと全員が予想した。

 

《また会うことがあるなら、其の時はよろしく頼む》

 

《ああ・・・そうさせてもらう。じゃあ、頑張ろうぜ》

 

ラグナの言葉を皮切りに互いの進むべき道を進む二人。

 

《(色々と解んねえことだらけだが、やるしかねえな・・・)》

 

ラグナがそう決意してドアを開いたところでこの『ARCADE』モードは終了した。

それと同時に、終了の時間が来てしまったので、今日のプレイはここで終了、次この筐体を出すときははロケテストによる初の正式公開だそうだ。

 

「皆さん。本日は本当にありがとうございました。よろしければ、こちらのアンケートにご協力ください」

 

部屋を出る前に、全員はアンケートを記入してから部屋を後にし、会社を後にして戻るべき場所へ歩き出す姿が見えなくなるまで、トシミチは感謝を込めて頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「何度やっても結果が得られないのよね・・・」

 

「設定とかの見直しも大丈夫です?」

 

「大丈夫よ。そうじゃないと、その段階でエラー出ちゃうから」

 

全員でゲームを思いっきり楽しんでから1ヵ月後。プラネテューヌのゲイムギョウ界組は国内から少し離れた場所で昼食を取っていた。

マジェコンヌたちの騒動で取られたシェアは以前プレイした『DIMENSION BLUE』が四ヶ国合作だったことから、シェアの回復に貢献していた。

そして、そこに加えてリーンボックスの方では、ホームパーティーで見せていたゲームが完成したのでリリースすると大成功。

ルウィーの方ではブラン饅頭という饅頭にブランの顔がある饅頭と、追加でパクメンの縫いぐるみを販売した結果大成功をしていた。ハクメンは縫いぐるみの件は非常に消極的だったが、今回結果を出したことでなおのこと弄られると分かったハクメン頭を抱えるしか無かった。

ラステイションの方は上記二国に負けないくらいの勢いでモンスター討伐を行った。ユニも変身出来るようになった為、より迅速な対応が可能となっていた。

 

「私たちだけいつも通りなのって・・・大丈夫なんでしょうか?」

 

「・・・まあ、今日くらいはいいんじゃない?色々と山積みだったわけだし」

 

「今日だけは、体をしっかりと休めてあげるですよ♪」

 

実のところ、プラネテューヌだけは公に出来る事柄に欠けていた為、少々出遅れた感じがあった。

ネプギアの件を表に出してしまえば、それこそ騒動レベルの問題だったため、そうすることができなかったのだ。

 

「はぁ~・・・外の空気って美味しい~・・・」

 

「ほら、ネプ子だってこうしてるわけだし・・・」

 

「・・・そうですね。今日はちょっとくらい休んでも良さそうですね・・・」

 

ネプテューヌが思いっきり寝そべっているのを見て、ネプギアもちょっと昼寝をしようと思い、体を横にしようとする。

 

「あああああああーっ!」

 

『・・・えっ?』

 

知らない声が聞こえたのでそう言うわけにもいかず、彼女たちは思わずそちらに目を回した。

するとそこには、黄色と黒のストラップの服装が特徴の、金色の髪と水色の瞳を持った少女がいた。

 

「こんぱっ!あいえふっ!」

 

その少女はコンパとアイエフの事を知っているらしく、二人を順番に指さした。

 

「・・・二人共、この子知り合い?」

 

「い、いえ・・・」

 

「知らない子ですぅ・・・」

 

「ど、どういうことなの・・・?」

 

ネプテューヌの問いにアイエフとコンパは否定し、ネプギアは少女の素性が解らず困惑した。

そして、少女はそんな彼女たちの困惑を知らぬとでもいうかのように、満面の笑みを見せていた。




そんなわけでゲーム回とアニメ5話のラストでした。ここでピーシェの登場となります。

今回出てきた『ミズノ=トシミチ』はネプテューヌシリーズのシリーズのプロデューサーである『水野尚子』さんと、ブレイブルーシリーズのプロデューサーである『森利通』さんのお二方から名前をお借りしています。
体格のベース等はブレイブルーに近いゲームの話であったことから森Pになりました。

・・・ラグナの技、私のネーミングセンスがないのかもしれません・・・。こんなのがいいよと言うのがあったら何なりとお申し付けください。

ブレイブルーの最新作、ネプテューヌのRe;Birth1+の発売が近づいてくるたび楽しみにで仕方ありません!ブレイブルー方の使用キャラの予定はお決まりでしょうか?
私の場合、ラグナは確定なのですが、相方のキャラが決まりません。
中の人的に嬉しくなるハザマやルビー。主人公&ヒロインとなるレイチェル、ノエル、ニューの誰か。W主人公チームという手段もあって、中々に迷うところです。

さて、次回ですが、ピーシェの両親を探す3週間が本編だと空白なので、再びオリ回を数話分挟んでいきたいと思います。

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