超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER-   作:ブリガンディ

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今回から新章の始まりです。


変わりゆく情勢、蒼が示す真実
34話 少女を探して


ゲイムギョウ界のどこか、暗闇に覆われた所に一つの白い棺が置かれてあった。

その棺が何故置かれてあるのかは誰にも分からず、中に誰がいるのかも、誰も知らない。

そんな状況下で、少女は一人その棺の中にいた。

 

―『兄さま』・・・早く私に会いに来て。『兄さま』・・・。

 

綺麗な金髪の髪を持った少女は、閉ざされた棺の中で、両手を組んで腹の前に置いたまま、目を開けること無くとある人物を待っていた。

自身が『兄』と呼ぶ存在を信じてただ、祈る様にいつまでも・・・。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん?」

 

プラネテューヌの草原地帯でクエストをこなし、残りは報告だけになった途端誰かに呼ばれた気がしてそっちに振り向いて見たが、振り向いた先に見えるのは晴れ渡る青空と先に続いている草原だった。

何も無いと思いたいところだが、ネプギアが『あいつ』と代わって俺を呼んだわけではないし、誰に呼ばれた訳でも無いのに何もない方を見たのは何でだ?

 

「(変だな・・・今日は何ともねえと思ったんだけどな・・・)」

 

「ラグナ・・・?どうかしたの?」

 

「いや・・・誰かに呼ばれた気がしてな」

 

アイエフに声をかけられて俺は一時的に思考を中断する。

今回、午後にアイエフが調査で行こうとしていた場所に同行する代わりに、クエストの協力を受け入れて貰えた。

 

「・・・呼ばれた?変ね。だって、ここには私たちしかいないでしょ?」

 

「それもそうなんだけど・・・なんでかな・・・」

 

アイエフと俺は腕を組んで考え込む。どういう訳か、俺らは立って物事を考える時、たまに動作が一致することがある。

それが以前ギルドで一度起きた時に、周りの奴から「仲良しかよ」と弄られた経験がある為、そうならないよう気を付けたい。

問題としては、『あいつ』に呼ばれた気がするのだが、明らかにネプギアが今いないであろう方向で、しかもこの場には俺とアイエフしかいなかった。

 

「ダメね・・・全く答えが出ないわ」

 

「・・・俺もだ。・・・ったく、何が何やら」

 

お互いに答えが解らなかった為、何故そっちを振り向いたかは、考えても出てこないだろうから一旦置いておくことにする。

置いておくったって必ずしも何もしないわけじゃない。報告が終わった後はいつも通り『あいつ』の事を探しに行くので、ついでに気になった方も行けばいい。

 

「・・・しょうがねえ、一旦戻るか。後であっちに行って戻る時に行けばいいよ」

 

「それもそっか。じゃあそうしましょうか」

 

そう決めた俺たちは一旦報告に向かうべく、プラネテューヌのギルドへと足を運ぶことにした。今回は足場が悪くなる場所に行く予定が予めできているから二人共歩きだ。

ちなみに、こないだレンタルしていたバイクは延長費用が二日分かかっちまって、かなりの額となった。早いところ自分用のバイクを買ってしまいたいところだ。

 

「そういや、最近ドライブの方はどうだ?」

 

「大分良くなって来たわ。ただ、もうちょっと安定感の無さをどうにかしたいわね・・・。ほら、ラグナたちって威力も精度もどっちもあるけど・・・私の場合どっちかを取ったらどっちかを捨てる。或いは両方を中途半端に取るしかできないから・・・」

 

「まあ、使えるようになってから殆ど時間が経ってねえんだ。そこら辺は頑張って経験積んだりしていくしかねえよ」

 

アイエフのドライブは今、どちらかだけを取った状態なら、その取った部分が俺たちに追随できるまでになっているが、それではテルミたち相手にどうしようもない為、合間を縫っては練習を重ねていた。

ナオトも俺も、アイエフと同じで突発的にドライブを得た者だが、長い時間修行して実戦レベルに引き上げた俺と、ラケルの補佐ありとは言え碌に練習する間もないまま実戦でやっていくしかないナオトでは、また伸びが違ったりもする。

俺は威力自体は元々十分だったが精度は極めて酷い。ナオトは比較的安定していたが、体に結構なリスクがある等バラバラだ。もしかしたらナオトは『ソウルイーター』じゃない分、制御自体が楽な方なドライブなのかもしれない。俺のが極めつけに大変なのかもしれないが。

 

「それならラグナ、余裕ができたらまた手伝ってもらってもいいかしら?私の練習に」

 

「色々世話になってるからな・・・。俺で良けりゃ手伝わせてくれ」

 

「・・・頼もしいわね。じゃあその時はよろしくね」

 

人目の無い所にいる間、ドライブのことで話し合いながら俺たちは歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

毎度の如くギルドまで辿り着き、報告するため受付の方に移動する。

ここの移動にも随分と手慣れたもんで、ゲイムギョウ界に来てすぐだった頃は時々確認することがあったが、今は何も確認すること無しに移動することは余裕だった。

たまに俺がここに来たのを見た瞬間、俺のことで話している人たちも見かけるが、内容は大体「あいつ今日何倒したんだ?」とか「最近どれくらいのペースで受けてるっけ?」くらいだから大して気にする必要は無かった。

ちなみに今日倒して来たのは、またエンシェントドラゴンだった。『あいつ』を探すのを協力してもらい始めてからは暫く倒していなかったんだが、今日久々に倒した。

ペースとしては日に1~3だろうか?遠くの場所に行ったりするので、これ以上受けると終わる頃に日が沈んだりしている可能性が跳ね上がるから、余程のことがない限りは受けないようにしている。

アイエフと来ても全くその手に話が行かないのは、最初来た時に明らかただの友人と言う空気だったからなのと、俺がそう言ったことに疎いのがある。

 

「終わったぞ」

 

「はい。報告承りました。今日も早かったですね」

 

「色々と予定がゴタついちまってな・・・」

 

今回の受付の人は始めて俺がギルドに来た時と同じ人だった。あれ以来そこそこな頻度で顔を合わせるので、いつの間にか軽く話すくらいの仲にはなっていた。

ゴタついているとは言うが、実際は『あいつ』関係を知られないようにそれと無く理由を作ってるだけだ。今まで世話になってる分、その辺は申し訳ねえと思う。

また、この人はギルドの役員の人たちの中で唯一、俺が気軽に話しかけられる人なので、知らないとこの道先を訊いたりも比較的楽にできる。

ちなみにアイエフは俺がこの人と時々話す位の仲になっているのをつい最近知った為、俺が今日軽く話そうと思って話し込んでも特に驚きはしない。

 

 

「ああそうだ。ちょっと頼みたいんだが、この場所って何があるか調べられるか?」

 

俺は地図を広げてその場所を指さす。

その場所はプラネテューヌ、ラステイション、ルウィーの三ヵ国から見て丁度同距離くらいにある場所だった。

そんな場所を頼んだのも、俺が先程誰かに呼ばれた気がして向いた方向が大体そっち側だったからだ。

 

「ここですか・・・分かりました。少々、お時間頂きますが、よろしいですか?」

 

「どうする?俺は問題無いが・・・」

 

「私も大丈夫。事前情報が貰えるならそれに越したことはないわ」

 

余りにもかかり過ぎてしまうなら断ってそのまま進んでいくことにしたのだが、今回は幸いそんなことは無かった為、アイエフと相談することにした。

アイエフが賛成してくれたので、俺たちは改めて頼み込むことが決定する。

 

「それなら頼むよ」

 

「分かりました。それでは失礼します」

 

一度礼をしてから受付の人はこの場を離れて行く。

何やら奥の方でカチャカチャ音が鳴っているので、パソコンで捜査しているのだろうか?その辺は詳しく無いから分かったもんじゃない。

そしてここで、いつの間にか少しの間暇な時間ができてしまったことに、俺たちは気が付いた。

 

「そう言えば、今回私が調べに行こうとした所と、ラグナが気になった場所って偶然にも一致していたのよ」

 

「えっ?そうなのか?」

 

何から話すかと考えていたら、アイエフの方から話を振ってきてくれて、偶然の一致に俺は驚く。

調査自体には俺が協力を打診したから別段何も問題は無いのだが、この一致は何かの因果みたいなものを感じずにはいられない。

 

「そうみたい・・・。で、その場所なんだけど、調査する理由はこの場所だけここ数年誰も踏み入れなかったから。あのネプ子ですら一度も踏み入れて無いの」

 

「そんな未知の場所なのか・・・何か寄せ付けないものでもあんのか?」

 

あのネプテューヌですら踏み入れて無いと言うのが少しだけ不安を煽った。

俺にとってまだまだ未知の場所が多いゲイムギョウ界だが、誰も踏み入れて無い場所と言うのは無条件に好奇心だけを先立たせられなくなる。

ちなみにニューも精錬されている事は統制機構の一部の奴しか知らなかったようで、ノエルも始めてニューを見た時大きく動揺していた。

だからこそ俺は少し考えてみるのだが、如何せん事前情報が少なすぎてどうにもならないでいた。

 

「これはちょっとした憶測なんだけどよ・・・どっか、表向きじゃ公表できねえような組織が根城にしてるとかってあるか?」

 

「・・・えっ?ネプ子でもあるまいし、どうしてそんな考えに至ったの・・・?そんな組織いないと思うわ・・・だって、そんな組織がいたら私たち諜報部の誰かが調べに行くだろうし・・・」

 

「そっか・・・それもそうだよな」

 

せっかくだから思いついた事をアイエフに訊いてみたのだが、若干引かれ気味に否定されてしまった。

・・・嘘だろ?その『・・・えっ?』って言いたいの俺の方なんだけど・・・。経験から基づいた考えをあっさり否定されたんだぜ?

しかしまあ、和平が結ばれた以上、そんな考えを持つ人たちが少なくなる可能性が大きいのは否定できず、アイエフの職もあって納得するしかなかった。

 

「(なら、誰が呼んだんだ?・・・『あいつ』なのか?)」

 

現状、考えられる相手はそれしかいない。今回の場合は『呼ばれた』では無く、『呼ばれた気がする』と言う憶測にしか過ぎないのが問題だった。

だからこそ、偶然にもアイエフの調査場所と重なった今回はその原因を解明するチャンスなのだが、ただ危険なだけで何もなかったという時が一番問題だ。

そうなるとお互いに無駄足だからただ最悪なだけだ。・・・こんなことを考えるようになったのも、周りに気を許せる人が増えたからなんだと思う。

言い返せば、俺は誰かを失うことへの恐怖感が日に日に増しているとも言える。と言っても、こんな考え方をするよりも、大切なものが増えたと前向きに捉えた方があいつらの為なんだとは思う。

そう結論をつけることのできた俺は、一度その考えを隅に置いておくことにした。

 

「・・・もしもし?ええ・・・分かった。それじゃあまたそこで合流しましょう」

 

俺が考え事を終えると、何やらアイエフは電話をしていた。

その電話時間は極めて短いもので、ものの十秒もかからず終了していた。

 

「何かあったのか?」

 

「今日の事なんだけどね・・・ネプ子たちも予想より早くやることが終わったから手伝ってくれるみたいなの」

 

「本当か?そりゃ助かるな・・・」

 

どうやら、今日の調査は別行動をしていたネプテューヌたちも手伝ってくれるようだ。

ネプテューヌたちは今日の午前中、教会の方で溜まっていた書類の整理をしていたそうだ。ナオトもこれならできると手伝っていた為、午後はあいつらとも合流できることになった。

 

「今日は六人でいけるのね・・・少し楽になるのか、それともといったところね・・・」

 

「地図だけ見た感じ狭そうだから、手分けした方がいいのかもな・・・ぎゅうぎゅう詰めで動きにくいってのも嫌だろ」

 

俺たちは少しだけどうするかを考え込む。

未知の場所であるから人数が多ければ迅速に調査が進んだり、身の危険に誰かが気付き易くなったりという利点があるのに対し、狭かった場合はその人数のせいで動きづらくなったり、そもそも危険な場所に踏み入ってしまう可能性があがってしまうこともある。

それだけ何が起こるか解らないものである。それでこそ俺が始めて師匠についていって『窯』を破壊した時みてえな形になる危険性がある。

その状況になってモンスターの襲撃だの、元々仕掛けられていた罠が起動したりしたら大変だ。それに関しては、俺やアイエフのように場慣れしている奴らが最大限気を付ける必要があるだろう。

 

「とは言っても・・・何も情報が無いんだし、現地で決めればいいんじゃないかしら?」

 

「・・・まあ、それもそうか」

 

事実、こんな何もないところで考えても仕方ないんだし、今回はその場で決めればいいんだろうな。

俺たちが話し込んでいるとカチャカチャ聞こえていた音が止まり、代わりに受付の人が戻って来た。

 

「お待たせしました。調べた結果がこちらになります」

 

受付の人が調べた結果を、持ってきていた小型端末で表示してくれた。

上から見た感じの図なのだろうか?映された部分はわかるからいいのだが、問題点があった。

 

「途中まではわかるけど・・・その先が隠されてるみたいになってる・・・。ここから先は映らなかったの?」

 

「申し訳ありません。何度も確認したのですが・・・」

 

「なるほど・・・それはしょうがないわね」

 

問題点は途中からの地図情報が空っぽも同然なことだった。

現状、頭一つ抜けた技術を持つプラネテューヌでも解析ができなかったとなると、最早打つ手なしに近い。

以前『お寺ビュー』の話を聞いてはいたが、アレは現在、ゴタつきもあるせいで公表が先延ばしになってしまい、現在は運用ができない。

その為現状はプラネテューヌの解析が最も正確なのだが、今回はご覧の有様だった。

 

「そういや、詳しい立体のやつってどうだったんだ?」

 

「そちらの方は・・・」

 

俺が訊いて見ると、受付の人は端末の画面を切り替えてそれを見せてくれた。

その画面を見て俺たちは思わず息を吞んだ。

 

「どういう訳かわからないのですが、全てがノイズになってしまうんです・・・」

 

「・・・マジかよ」

 

流石にこう言うしか無かった。全部ノイズって何事だよ・・・。俺とアイエフはその画面を見て少しの間啞然していた。

しかし、流石にそのまま居続けるのもよくないので、早い段階で気を取り直したアイエフが表示できた部分の地図だけもらった事で、俺たちはこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ラグナがギルドの方で報告と話し込みをしている最中、レリウスもまた独自に調査を行っていた。

とは言え、前回の戦いでテルミとマジェコンヌが重傷を負っており、その傷も治ってない以上外には行かず、中での調査に留めていた。

場所は以前と同じくラステイションから少し離れた場所にある廃工場で、レリウスはモニターとコンソールを使いながら、何の因果かラグナと同じ場所を調査していた。

 

「この場所だけ異様なまでのノイズか・・・直接調べるのはまたの機会となるが、興味深いのは確かだ」

 

レリウスの調査結果はアイエフたちと同じで、上面図は取れるのだが途中で霞がかったように消えていて、詳しく調べようとすれば画面がノイズで埋まってしまう。

通常では全く考えられない事態に、レリウスの知識欲が刺激されないはずが無かった。

 

「モンスターの調査にも飽きていた頃なのでな・・・あの二人が治ったら手伝ってもらうことにしよう」

 

現在は二人の手当てが優先である為、レリウスはその知識欲を抑え、ワレチューと共に交代制で二人の近くで待機する者と、外に出て簡単な用事を済ませる者の二手に分けてローテーションしていた。

レリウスが中で調べ物をしているのは、自身の用事を済ませようとすれば長くなりすぎる危険があるのと、今現在はワレチューが外にいる為、中を担当しているからである。

 

「そろそろあの二人の様子を確認するべきか・・・」

 

「レリウス、戻って来たっちゅよ」

 

レリウスが二人の状況を確認する為に部屋を移動しようとしたところ、丁度のタイミングでワレチューが帰ってきた。

 

「頼まれてきた物を持ってきたっちゅよ。・・・これくらいであってたっちゅか?」

 

「ああ。丁度いい量だ・・・。わざわざ済まないな」

 

レリウスはゲイムギョウ界で作れる薬に必要な材料の調達をワレチューに頼んでいた。

その薬自体はゲイムギョウ界で作れる薬の調合法をそのまま使う為、元の世界での応用は不可能だった。

本来であれば医療などに関しては専門外であるレリウスだが、マジェコンヌとテルミは動けず、ワレチューは体格の都合上調合するのに難儀してしまう為、消去法でレリウス以外適任者がいなかった。

 

「これくらいお安い御用っちゅよ。とりあえず調合ができたら言って欲しいっちゅ」

 

「了解した。では終わり次第通信を入れよう」

 

「了解っちゅ。そう言えば、終わった後はどうするっちゅか?」

 

「少々気になる場所があるのでな・・・様子見だけしてこようと思う」

 

周囲を調べることだけなら転移魔法で移動して、すぐに戻って来ればいいのでそれだけはできる。

今回問題なのは、余りにも不確定すぎる内部情報のせいで本格的な調査に乗り込めないことだった。

当面は抑えるつもりでいたのだが、そこの情報が気になって仕方ないレリウスは妥協案で下調べだけに留める事を選んだ。

 

「なるほど・・・じゃあ、おいらは仮眠取ってからオバハンたちのところに行くっちゅよ」

 

「分かった。ならば、出来上がった時はお前の部屋から連絡を入れよう」

 

「助かるっちゅ。じゃあ、また後でっちゅ」

 

ネズミも動きっぱなしだったのが影響でかなりの眠気が襲って来ていた。

その為一度仮眠を取らないと、薬を渡す時に事故を起こす可能性が出てきたので、万全な状態にしておきたかった。

そんなこともあって、最低限の会話を終えたワレチューは早めに部屋を後にするのだった。

 

「(あの場所には何があるか・・・治療が終わり次第、手伝って貰うとしようか)」

 

二人に協力をこじつける事を考えたレリウスは、知識欲に突き動かされるまま薬の調合を急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ここだな・・・」

 

「まさかこんなところに洞窟があっただなんて・・・思いもしなかったわね」

 

ラグナとアイエフは他の四人より一足先に、目的の場所の入り口に着いていた。

アイエフが言及した通り、入り口は洞窟のようになっており、その先は真っ暗で何も見えなかった。

また、ここに来るまでの間、この場所の情報を再検索してみたのだが、何も引っ掛からず、地図情報を得ようとすれば先程ギルドで見せて貰った時と同じ反応を示す・・・つまりは入って見ないと解らないのであった。

 

「しかしまあ・・・調査だとしても、何もないってなると少し不安にはなるな・・・」

 

「そうね・・・今回のやることは冒険だとか、探検だとかって言い方は合わないものね・・・おまけに明らかおかしい地図情報。そりゃ、不安の一つや二つ抱えちゃうわよ」

 

ラグナがやっていたことと言えば、ある程度の情報がある場所へ突入が合っているだろう。少なくとも『窯』を破壊する時はそうであった。

調査というのは実際に現地に赴いて調べるというもので合っているが、こうまで異常な情報だけが揃うといつものように行かない可能性が高く、いつも以上に慎重にいかなければならないと意識させられてしまう。

その為、二人はここへ来るまでの間、共に今回の調査にあたってのプランを考えあっていた。元々頭を回すのが得意ではないラグナでも、ここまで異常な事態が揃っている以上、経験に基づいてプランを立てていくしか無かった。

 

「後は行ってからどうなるかね・・・」

 

「おおーいっ!こっちも着いたよーっ!」

 

誰かが体調を崩したりしたら即時撤退、別れ道は危険度が高すぎた場合は全員で行くようにする・・・決めなければならないことを先に決めておいた為、後はネプテューヌたちを待つしかない。

そう考えていたら都合よくネプテューヌの声が聞こえ、そちら振り向いて見るとネプテューヌ、ネプギア、ナオト、ラケルの四人に、奇跡的に今日は予定が空いていたコンパも来ていた。

 

「待ちましたですか?」

 

「いいえ、特に待ってないわ」

 

待ったかと訊かれれば待ってないと返す。そんなやり取りを見て、ラグナはいつか自分もやってみたいと思うのだった。

然程待っていないのも確かであり、その間に今回の調査をどうするかを考えていたので、二人は待っていたと言うよりも、現地で互いに考えていたという感覚だった。

 

「ここが今日調べる場所なのか?何にも見えねえけど・・・」

 

「ああ・・・その事なんだけど、今回の調査で些か不確定要素が多すぎるから、ここで話しちゃうわね」

 

ナオトの言葉に反応したアイエフは自身の持つ形態端末に移して貰った地図情報を表示し、それを皆に見せる。

 

「まず、こっちに来る前に地図情報を貰ったんだけど・・・一番良かった情報がコレ。途中から何も判らない状態になってるの」

 

「えぇー?噓だぁ・・・。その情報どこで貰ったの?」

 

「プラネテューヌのギルドで貰ったわ・・・。あそこでもこれしか貰えなかったの」

 

その情報を見たネプテューヌは怪しすぎる余り訊いて見たが、よりにもよってプラネテューヌの技術でもこれだと分かった瞬間、彼女は絶句する。

ギルドの場面でも述べたことではあるが、プラネテューヌの技術力は他の国より優れているので、彼女は少なくともそのことを自負できる点だと思っている。

しかし、そのプラネテューヌの技術を持ってしてもその結果だと言うことが、彼女にとっては何よりも衝撃的だった。

 

「えっと・・・他には何かあるのか?」

 

「詳しい情報も貰おうとしたんだけど・・・」

 

ナオトに訊かれたアイエフは、苦い顔になりながら端末を操作し、表示された画面を見せる。

 

「な・・・んだ・・・?これ・・・」

 

「信じられないでしょ?まさかのコレだったのよ・・・」

 

「ね・・・ねぷねぷっ!?大丈夫ですか!?」

 

「う・・・噓だ・・・全部ノイズだなんて何かの間違いだよ・・・」

 

余りにも衝撃的な事態にナオトは目を点にした。これについては、アイエフも無理はないなと受け止めていた。

ただし、一人だけ大問題だったのはネプテューヌで、魂が抜けかけてしまっていた。

その為、コンパが呼び掛けたり体を揺すったりしてみるのだが、ネプテューヌは上の空のような反応しかしなかった。

 

《でも、何かあるだけまだいい方ね》

 

「だな・・・何も無かったら本当にキツイからな・・・」

 

何もないよりはある方が圧倒的に良い。ラグナとラケル、この二人は好意的に受け止めた。

特にラグナの場合、情報収集等が全て自力だったものから、他人に頼ってもいい環境に代わっている為尚更だった。

 

「・・・・・・」

 

「・・・ん?ネプギア、どうしたの?」

 

「・・・へ?ああ、ごめんねお姉ちゃん。あの中がずっと気になってて・・・」

 

ネプギアは先程から話に一切参加していなかった。それもネプテューヌに言われてようやくの参加である。

機械好きである彼女が端末情報の異常に一切首を出さないのはおかしいと感じ、皆で考え込む。

 

「もしかしてだけど、こないだ言っていた子かしら・・・?」

 

《ネプギアの反応からしてその可能性は高いと見て良いわね・・・。そうなると、情報の異常は何らかの意思が働いていると思うわ》

 

やはり推測として立てやすいのは『少女』のことだった。以前から起きていたネプギアの変化からして、この推測は有力になりやすいものがあった。

 

「・・・取りあえず進んで見るか?ダメそうなら早めに引き揚げりゃいいだろ」

 

「そうね・・・一先ずはそれで行きましょうか」

 

推測を立て続けても終わらなそうなので、一同は洞窟の中に入って調査することを決めた。

 

「(なんだろう・・・来て欲しいけど、呼んじゃいけないような・・・妙な感じ・・・)」

 

その洞窟に入っていく最中、ネプギアは今までにない程奇妙なものを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「出来上がったぞ。後はこれを渡してやってくれ」

 

「了解っちゅ。じゃあ、また三時間後っちゅね」

 

「ああ。それでは私は行かせてもらう」

 

ワレチューに薬を渡したレリウスは、転移魔法を使ってこの場から離れ、それを見送ったワレチューはマジェコンヌたちのいる部屋へと足を運んだ。

 

「うう・・・こういう時に脚立必須なのは面倒っちゅね・・・」

 

マジェコンヌたちが休んでいる部屋は唯一パスワードを設定している為、コンソールを打って開けなければならないのだが、ワレチューはその体格の小ささが災いして、そのままでは届かなかった。

それもそのはず、成人男性が楽に操作できる位置に取り付けられてある場所に、マジェコンヌの下半身よりも低いワレチューが届くはずも無かったのである。

これの対策として、ワレチューはボタン一つで引き出しや収納のできる脚立を用意していた。

この脚立自体はプラネテューヌで販売されているものであり、ワレチューは普通に手に入れていた。表向きでの入手はブラックリストに登録されているせいで中々困難なのだが、プラネテューヌはセキュリティ関連が甘い為、比較的すんなりと入手できてしまったのだ。

コンソールを操作してドアのロックを解除して、ワレチューは脚立をしまってから部屋に入る。

 

「オバハンたち、薬持ってきたっちゅよ」

 

「ネズミか・・・レリウスはどうした?」

 

「今から調べ物らしいっちゅ。とは言っても、長くなるから下見だけに抑えるって言ってたっちゅよ」

 

「・・・マジか・・・そりゃ、後々こき使われるの確定だな・・・」

 

部屋に入れば上体を起こすのは全く苦にならないものの、もう少しの安静とその後リハビリが必要なマジェコンヌがレリウスのことを訊いてきた。

その質問にワレチューが答えると、テルミはげんなりした。

マジェコンヌの方はかなり良くなって来ているのだが、テルミはまだ十分に回復しきっておらず、まだ上体を起こすのが少々辛い状態だった。

 

「なんか妙な反応があったらしいっちゅ・・・。まあ、詳しい話はこれ飲みながらにするっちゅよ」

 

「ああ。そうさせてもらう」

 

取りあえず脚立で渡しやすい位置に移動してからワレチューは薬を差し出し、マジェコンヌがそれを受け取る。

薬自体は小さいビンに入れられている為、ワレチューはでも十分に運ぶことができる。

マジェコンヌはワレチューから薬の入ったビンを二つ受け取り、片方をテルミに渡す。

マジェコンヌは上体を起こしていた為そのまま薬を飲み、テルミは痛みに苛まれながらも上体を起こして薬を吞んだ。

 

「痛てえ・・・後どんくらいで治るもんなのかねえ・・・」

 

「今は待つしかあるまい・・・。生きているだけまだマシだよ」

 

愚痴をこぼすテルミに、マジェコンヌはこの前の事を思い出しながらなだめる。

マジェコンヌは前回、奇跡的に当たり所が良かった為に生きていた。

元々、アンチエナジーのおかげでそれなりに頑丈な体になっていたが、あの時はシェアエナジーの共鳴を成功させた候補生たちによる大打撃を受けていた為、死亡する可能性すら示唆された。

それを考えたら、生きていて体がしっかり治るのが解っているだけ運が良かった。そう思いながらマジェコンヌはいつものようにかなり苦味の強い薬を飲み終えた。

 

「ところで、妙な反応とは何だ?」

 

「何でも、調べた場所の地図情報やら何やらが正確に取れないから自分で確認してくると言ってたっちゅ」

 

「・・・正確に取れない?機材の故障か?」

 

ワレチューの答えを聞いたマジェコンヌはまず最初に機材のことを疑った。

その理由として、ここは廃工場である為、整備等は全て自分でやるしかないのだ。

この廃工場は、テルミと会う前にマジェコンヌが一度改修してから暫く経っている為、そろそろ替え時かもしれなかった。

 

「いや、あれを見た感じまだちゃんと動いてるっちゅ。おいらもそこまで詳しく見てないっちゅけど、何かの仕掛けがあるのは間違いないっちゅね」

 

マジェコンヌが考えた可能性をワレチューは否定し、その代わり自分の考えを出した。

余りにも酷い検索結果からすれば、特定の者にだけ見れるようにパスワードをかけているかと思えばそうではない為、調べた場所に仕掛けがあるという考えに辿り着いたのだ。

 

「仕掛けねぇ・・・そう言われると確かに気になるな・・・」

 

「フッ・・・そう言うからレリウスに付き合わされるのだろう?」

 

「・・・違いねえな」

 

テルミの呟きに反応したマジェコンヌがからかい気味に問いかけると、テルミは口元を緩めながら肯定した。

しかし、それで気が緩んでしまったのか、テルミは一つのことを失念してちょっとした失敗をする。

 

「うおぉッ!?あだだだだ・・・!」

 

「気になる場所を調べる為にも、安静にして体を治すっちゅよ」

 

まだ痛む体が一番痛みを感じやすい姿勢になってしまい、テルミは反射的に体を逸らした。

それをみたワレチューは咎め気味にテルミへ促すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

洞窟の中に入ったラグナたちは地図で表示されている別れ道まで辿り着いた。

ここまでモンスターなどの気配は一切ない為、現状は別れ道で別行動を始めても問題無いと判断を下していた。

 

「どう分ける?」

 

「そうね・・・取りあえず、私たちゲイムギョウ界組とそっちの異世界組で別れましょう。気が知れている方がやりやすいでしょ?」

 

ラグナが振った内容には、アイエフが簡単に決めて答えた。

アイエフからして、ゲイムギョウ界組は友人たちで集まり、異世界組は互いに似ているからどうすればいいか分かりやすいと言う考えだった。

 

「・・・まあ、それならいいか」

 

ナオトは、ラグナと自分たちはそこまで気が知れていると言っていいのかどうかで引っかかり、言おうとしたが面倒になるのも難なので言葉を飲み込むことにした。

世話になってる人に迷惑をかけると言うのは、どうも気が引けるのだ。

 

《私も問題無いわ。ラグナは?》

 

「ああ・・・俺も平気だ」

 

ラケルとラグナは即時に賛成したため、異世界組は全く問題無かった。

 

「ネプ子たちも大丈夫?」

 

「うんっ!大丈夫!」

 

「はいですぅ!」

 

「私も大丈夫ですっ!」

 

アイエフが確認すると、ゲイムギョウ界組の三人も賛成してくれたので、これで分担は決定した。

 

《何かあった時の連絡は術式通信で行いましょう》

 

「そうね。それじゃあ、また後で」

 

「ああ。アイエフさんたちも気を付けてな」

 

連絡手段を決めて、皆は二手に分かれて別れ道を進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「・・・何もねえな」

 

「ああ。何もねえ」

 

《何もないまま一本道が続いている・・・地図情報も得られないから、進んでいるかどうかすら解らないわね・・・》

 

ラグナたちは歩いてから十分以上も何も無い一本道を進んでいた。

危険が無いから安全に進めるのはいいのだが、こうも何も無い時間が続いていると退屈の一つや二つはある。

ラケルもラケルで、何も無いから近くの情報を調べてみたのだが、まるで遮断されるように何も得られなかった。

ちなみに、洞窟自体は入った瞬間周囲の灯りが点灯してくれたおかげで暗さは特に無かった。

しかし、それ故に何も変化が起きないと言う事態が起きていた。問題が無いのに越したことはないが、やはり退屈なものではある。

 

「おいおい嘘だろ・・・?あんだけヤバいモンだったから警戒してたんだけどな・・・」

 

《拍子抜けね・・・このままでは無駄足になり兼ねないわね・・・》

 

「手伝うって言ったのは良いが・・・このままだと時間だけが過ぎていきそうだな・・・」

 

流石に何も起きない余り、ラグナたちはただ疲労が溜まってきた。

肉体的なものでは無いのだが、何もなさ過ぎて精神的な疲れが増えてきていた。

心なしか、歩くペースも落ち始めていた。

 

「どうすんだこれ・・・マジで何も無いぜ」

 

《気持ちはわかるけどしっかりなさい。歩く速度が落ちてるわよ》

 

「ラケルはいいよなぁ・・・。こういうことで疲労しないから」

 

「ああ・・・こういう時だけその状態がマジで羨ましいよ・・・」

 

ナオトの呟きに反応したラケルが咎めると、ナオトはラケルをジト目で睨みながら愚痴をこぼす。

ラグナも流石に応えていたらしく、彼も思わず呟いた。

 

「・・・ん?なんか広いとこに出たぞ?」

 

そのまま暫く歩いていると、別れ道が終わって広い場所に出た。

その先は再び別れ道になっている為、この段階で三人はここで待つことを選んだ。

 

「はぁ~・・・何で何も無いのぉ~?これじゃあ退屈だよぉ・・・」

 

「でも、広い所に出てきたですよ?」

 

ラグナたちが来た方の反対側からネプテューヌたちもきたようで、全員はここで合流する形となった。

 

「あ、三人はもう来てたのね?」

 

「ああ・・・何も無いからすんなりとな・・・」

 

「なるほど・・・そっちも何も無かったのね・・・」

 

ラグナから聞いた結果にアイエフもげんなりとした。

二つのグループ揃って何も無い以上、流石にここでメンバーを変えるしかない判断となった。

しかし、人数と戦力のバランスを考えると中々決まらなかった。その為、ラケルがいっそのことこれはどうだと思いついた組み合わせを話すことにした。

 

《それなら、前に上がった『彼女』と関わりが深い二人とそれ以外・・・と言うのはどうかしら?何か変化があるかもしれないわ》

 

「ああ・・・なるほど。確かにそれもありかもな。こっちは戦力が揃って、向こうは身軽になる」

 

ラケルの案にナオトは賛成だった。その組み合わせなら何か変化があるかもしれないと言う、ラケルの考えを理解していたからだ。

 

「確かに、迷っているくらいならそれがいいわね。みんなは?」

 

アイエフも賛成しながら残りの皆に訊いて見ると、首を横に振ること無くアイエフを見据えていた。

しかし、その表情が明るいものだった為、それが賛成であることをアイエフは把握した。

 

「ありがとう。それじゃあ二人共、また会いましょう」

 

「ネプギア、ラグナ。気を付けてね」

 

「ああ。そっちもな」

 

「お姉ちゃん。また後で会おうね」

 

組み合わせが決まったので、それぞれのグループに別れて二つ目の別れ道の調査を始めた。




前後半に分ける形だったのと、月曜日に入社式が控えていることから今回はちょっと短めになりました。
次回はこの話の続きとなります。

追記

ブレイブルー最新作にて発売前のプロモーションビデオが出ましたね。
ますます発売までが楽しみになって来ました!個人的にはエピソードモードが楽しみなところです

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