超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER-   作:ブリガンディ

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今回でこの章が終わりとなります。

キャラリクエストの方でヒビキ、バング殿、タオカカの三人を頂きました。頑張って出せるようにしたいと思います。


33話 蒼を探しに

日差しが無いのに明るさ感じた俺はゆっくりと目を開ける。

普段と全く違う天井が見えたので、起き上がって周りを確認してみると、俺のいる場所はリーンボックスの教会にある部屋の一室だということが分かった。

 

「(そういやあの後寝ちまったんだったか・・・)」

 

教会に戻って来るや否、疲労困憊だった俺たちは全員寝ることで体を休めていた。流石に丸二日も徹夜すれば寝たくもなる。

まあそれでニューや女神たちを助けられたんならそれでいいんだ。この疲労が頑張った分だって言うなら甘んじて受けよう。

この後の事だが、ネプテューヌから疲れを取るのも兼ねて、ちゃんとできなかったパーティーの続きをやりたいとの提案が出ていた。

これ自体は誰も反論することなく、すぐにそれをやることは決定し、今はリーンボックスの役員たちが準備を進めている。各国の教祖達も来るので、日が沈んで少ししたら始めることにしたそうだ。

また、ベールからはそのパーティーの続きも兼ねて、今後の方針とノエルたちの事を訊いておきたいそうだ。まあ、ドタバタしていたからその辺は仕方ねえな。

もうじき時間になるから、そろそろ部屋から移動しようとしたところで一つのことに気が付いた。

 

「あっ・・・風呂に入ってねえや・・・」

 

戻って来てすぐの事だが、女の子が風呂に入らず過ごすのはマズいので、俺とナオトは皆に風呂を譲り部屋で休んでいた。

少し寝すぎていたようで、結果的にこんな時間になっていたのだ。

また、ハクメンはその時ロムとラムに風呂を誘われたが、狼狽しながら断った。その様が余りにも変だったので皆が爆笑したのは言うまでもない。例外はさっさと寝たいが故に移動した俺やナオトくらいだった。

ブランがいなかったらどうにもならなそうなものだったので、ハクメンには合掌しかない。

 

「だとしたらさっさと入るか・・・」

 

流石に風呂に入んないままパーティーに参加するのはマズいものがあるので、俺は風呂の準備を済ませて部屋を出た。

 

「・・・ん?ラグナは今から入るのか?」

 

「今から入る。そういうナオトは今上がったのか?」

 

「ああ・・・。何でも、人数が多すぎたから、メンバー二つに分けて入ったらしいぜ。そんなこともあって、ついさっき風呂が開いたんだ」

 

「・・・マジかよ」

 

移動している最中、ナオトと鉢合わせになった。

そんで軽く話を聞いたら流石にビックリする内容だった。確かに風呂の準備が終わったのは昼過ぎだけど、人数が多いとはいえここまでかかるのか・・・。

女の子って長風呂多いんだろうか?そう疑問に思ってしまった俺は悪くないと思う。

 

「そういや、ニューの方はどうだった?起きたら知らねえ場所だったし、オロオロしてたんだが・・・」

 

ニューがオロオロしてたのは本当だ。教会についてから目を覚ますや否、「ここどこ?実験とかそういうの無いよね?」と不安そうな顔で俺に訊いてきたからな・・・。

そんなこともあって、気がかりになっていた俺はナオトに訊いて見たのだった。

 

「俺が見た感じ大丈夫そうだったな。・・・ノエルさんだっけ?基本的にあの子が面倒見てあげてたよ」

 

「そっか・・・それなら大丈夫だな」

 

ナオトの話を聞いた俺は一安心できた。ノエルは向こうでシスターやってるっつってたからな・・・。その過程でニューの面倒見てたなら大丈夫なのも頷ける。

そういや、あいつ料理は大丈夫なのか?サヤのクローンってんだから殺人料理になってる予感がするんだが・・・。

・・・あ?『モテメガネF(ファイナル)』?んなバカな話はやめろッ!アレかけた本人に地獄を与えるだけの厄災だからッ!

 

「それより、時間大丈夫か?そろそろ入んないとマズいだろ」

 

「・・・ん?」

 

話していたらすっかりと忘れかけていたが、パーティーの時間まで後少しだった。

割と時間が押している為、ササッと入った方がいいだろう。

 

「おお、結構ヤべエな・・・。じゃあ俺は入って来るわ」

 

「おう。また後でな」

 

善は急げ。ならば早く入ってしまおう。

そう決めた俺は短く会話を切り上げ、風呂場に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

リーンボックスの教会の中で最も大きな部屋を使い、現在はこれからどうするかの会議をしている。

ナオトたちには簡単な紹介を頼んだのだが、ここで頭を抱えたくなるような素性が幾つも発覚した。

 

「本当は死んじまってるんだけど、ラケルとの契約もあって、今は半死人になってる」

 

「・・・へ?死んでる?」

 

まず初めに、ナオトは自分が生きた死人だと言ってきた。これに動じなかった者はラケルとアイエフで、その内アイエフは非常に難しい顔をしていた。

 

「アイちゃん?大丈夫です?」

 

「・・・えっ?ああ、何でもないわ。気にしないで」

 

その様子を見て、体調を崩したのかと思ったコンパが訊いてくるので、アイエフは慌てて笑みを作りながら答えた。コンパは「それなら良かったですぅ」と安心している様だった。

アイエフの心情に気づけた者はラケルただ一人で、他の人は気づく余地も無かった。互いに似てる部分のあるラグナも、自分とレイチェルのようなものかと考えるだけに留まった。

このことを聞いて間抜けた声を出してしまったネプテューヌは悪くないだろう。ナオト自身も仕方ないだろうなと割り切ったような表情をしている。

ロムとラムはセリカの時と同じように幽霊なのではないかと勘違いして泣いてしまった。それを見たナオトは「実体あるから落ち着いて」と慰めようとしたが、自分から言い出していたのが仇となって余計に泣かせてしまった。

極めつけに、ナオトは生きた人に戻る為『蒼』を探していると話してきた。ここで教祖達が頭を抱えたこととして、『蒼』がある可能性は示唆されているが、あると言う確証がない事だった。

更に言うと、ナオトとラケルはラグナ達とは更に違う世界から来た人間だと言う。

 

「じゃあ、ラグナさんたちを知っていた理由はどうしてでしょうか?」

 

「こっち来る前にラグナ達がいる世界に飛ばされててな・・・。そこで顔を合わせたんだよ」

 

イストワールの問いにナオトは正直に答える。

ナオトの回答を聞いて、女神たち四人はラグナがナオトに問いかけていた意味を悟った。

詰まる所、ナオトは少なくとも二度以上の異世界渡航をしてしまっている身だった。ラグナ達が比較的冷静だったのもあるが、ナオトがゲイムギョウ界に来てもそこまで慌てなかったのは比較的納得しやすかった。

ナオトがこれ程頭を抱える事情を持っているのだから、ラケルもまたなのではないかと考えたら案の定だった。

 

《今はこの姿で行動せざるを得ないけど、私はヴァンパイアよ》

 

「ヴァンパイアって・・・あの吸血鬼のよね?」

 

《そうよ・・・ナオトと違って理解が早いから助かるわ》

 

「あんな説明されたら固まるに決まってんだろッ!」

 

ブランの問いに肯定しながらコントのような流れでボケとツッコミを行う二人。

ゲイムギョウ界住まいの人たちはそんなコントにポカンとする間も無く、「何でこんな人たちばかりなの?」と頭を痛める。その一方で、ラグナ達は大して驚かなかった。

 

「あの・・・ラグナさんたちは平気なんですか?」

 

「平気かって言われれば平気だな・・・」

 

「あはは・・・私たち、実際にそんな人を知ってるからね」

 

ミナは気になって訊いてみたが、ラグナは「そんなに驚くもんか?」と聞きたいかのような表情をしながら、セリカは苦笑交じりに答えた。

ハクメンとナイン、更にはノエルとニューまでもが無言の肯定を示したので、ゲイムギョウ界組はラグナのいた世界は吸血鬼と共存が当たり前なのではないかと考えてしまった。

ラケルはもう少し自分の事を話そうとしたが、長くなるか相手を置いてけぼりにするか、どちらかになるのが予想出来ていたナオトはラケルの言葉を遮って次の人に譲った。

次にナインの紹介ではあるが、こちらは特に問題になることは無かった。

 

「ちなみに、あの世界で術式と事象兵器(アークエネミー)を作ったのは私よ」

 

「じゃあ、ハクメンさんが持ってる『斬魔・鳴神(それ)』は・・・!」

 

「ナインが作ったものだ・・・。『蒼の少女』が持つ『ベルヴェルク』もな」

 

特別重要なことはこれだろう。ナインはラグナたちの世界では殆どのことに使われている術式を開発し、『黒き獣』を倒す為に事象兵器(アークエネミー)も作っていた。言わばあの世界での天才だった。

話を振られたノエルは右手に『ベルヴェルク』の片方を掴んでそれを見せる。

これらは暗黒大戦で『黒き獣』を倒す為に作られた武器であったが、その後は殆どが人間同士の戦いに使われてしまっていた。

だが最終的に、悪意ある者が使い続けたのは『ウロボロス』だけだったのはせめてものの救いと言うべきか、それとも『ウロボロス』は悪人に使い続けられてしまったかと見るべきだろうか。それは判断の難しいところだった。

そして、ノエルとニューのことではあるが、記憶が二つ分と言うことで二人とも自身の説明にかなり戸惑っていた。

ノエルの場合、片方が統制機構の脱走兵。もう片方が教会のシスターで、ニューの場合は片方がラグナと融合して『黒き獣』になること以外頭に無い時代。もう片方は無気力に生きていたという二つの記憶があり、どちらも本当の自分の記憶であることは変わりないと言う。

ここまではいいのだが、気になったネプテューヌが次のことを聞いたことにより、二人の衝撃的な素性が発覚する。

 

「そう言えば、二人ともビックリするくらいネプギアと似たような感じがするけど、なんでか解ったりする?」

 

「「・・・・・・」」

 

ネプテューヌからすれば短なる好奇心だが、ノエルとニューに取っては自身の重たい出生を話すことになり、もしかすれば受け入れて貰えない可能性が示唆されてしまった。

その不安が故に、ノエルとニューは一度顔を見合わせる。特にニューは居場所を貰えると思ったらいきなり追い出されるかも知れないので、不安でしか無かった。

 

「ああ・・・そのことなんだが・・・」

 

「大丈夫です。私から話しますから・・・」

 

ラグナは気を遣って話そうと思ったのだが、それをノエルは制止した。

そんな自分のことを不安そうな顔で見つめてるニューを見て、安心させる為に「大丈夫だよ」と言ったノエルは顔を正面に戻した。

 

「それは・・・私とニューがラグナさんの妹・・・サヤさんのクローンだからです」

 

『・・・!?』

 

ノエルから告げられた衝撃の事実にゲイムギョウ界組とナオトたちが絶句した。

確かにラグナは以前、ネプギアが自分の妹に似ていると言っていた。それに対して彼女たちは最早ラグナの妹を元に作られた存在だった。

実際のところこれを話せば動揺するだろうなとはラグナたちも確信していた。ラグナは初対面の時、非常に動揺して殆どまともに話すことができなかった程だった。

 

「と言うことはだけど・・・ノエルさんにも、ニューと似たようなお名前が?」

 

「はい。私のもう一つ・・・本当の名は、『次元境界接触用素体』、No.12(ナンバートゥエルブ)・・・『μ-12(ミュー・トゥエルブ)』です・・・」

 

チカの問いにノエルは逃げること無く答え、それを聞いたゲイムギョウ界組が言葉を失う。

ラグナたちは解っていた為特に何もないが、一人例外だったのがナオトだ。

ナオトはこの時、彼女は他の素体の少女たちと比べ、非常に人間らしいと感じていた。

 

「確か・・・ノエルと言う名前は貰ったものだったね?」

 

「義理の両親に拾われた時・・・まだ素体として精錬されてなくて名前の無かった私が貰った・・・大事なものです」

 

「ごめん・・・聞かない方が良かったよね・・・?」

 

「大丈夫ですよ。話さなきゃいけない事だと思ってましたから。それに・・・」

 

ケイの確認をノエルは肯定する。それを聞いた事情を知らなかった人たちが申し訳なさそうな表情をする。特に聞いた本人であるネプテューヌは訊いたことを後悔していた。。

他人にどう思われようと、何と言われようと、自分が本物だと思えば本物・・・。左腕のことで話していた時にラグナはそう言っており、それを聞いたノエルもまた、自分が人だと言えば人だと言う考えを持つようになった。

 

「例え他の人にどうだとか言われても、その人が本物だと、思えばそれでいいんだと思います。偽物だからいけないとか、そんなことは無いんです・・・」

 

ノエルがそのことを伝えると、皆は大事なものを思い出したかのような表情をした。

女神たちも、他者を寄せ付けない程の圧倒的な力を持つが、根本的な面では人と変わらないからだ。

思い返せば納得でき点ばかりだったのがわかり、ケイは「済まない。聞くだけ野暮だったね」と詫びた。ノエルも大丈夫だと返したので、この件はそれ以上もつれること無く終わった。

 

「そういや、ノエルたちはこの後どうするんだ?ナオトは不良の事故みたいなもんで、ノエルはニューを追っかけて来たんだろ?」

 

「私はこっちでお世話になるつもりよ。名の知れている死人が戻ったら騒ぎになるでしょうし」

 

ラグナは気になったことをナオトたちに訊いてみる。

セリカと同じく一度死んでしまっているナインが残るのは予想ができていた為そこまで驚きはしなかった。

 

「そうだな・・・俺は帰れるならすぐに帰るけど・・・」

 

「私も帰れるなら・・・待たせちゃっている人もいますから・・・」

 

「帰れるなら帰った方がいいんだろうけど・・・どうしようかな?」

 

ナオトとノエルは言うまでも無く帰るつもりだったが、ニューは一人迷っていた。

何しろ自由を手に入れたばかりである為、こうした方がいいとこうしたいの狭間で彷徨ってしまうのだ。

 

「・・・申し訳ありませんが、実は元の世界に帰す手段が確立していないんです・・・」

 

「・・・マジ?」

 

「ああ~、うん。これはしょうがないね・・・」

 

「そうね・・・今まで来たのは全員がゲイムギョウ界(ここ)に残る人たちだし」

 

イストワールが申し訳なさそうに言い、ナオトは思わず目が点になってしまった。

そのナオトの反応を見たネプテューヌとノワールは苦笑する。

今までこの世界に残る人たちばかりだったのもあって、元の世界に帰る方法等は一切手をつけていなかった。

それを話すと、ナオトは「そんなんアリかよ・・・」と肩を落とした。

 

「俺に所有権があるし、『門』が見つかればそのまま送ってやれるんだけどな・・・」

 

「そりゃ有り難いけど・・・大丈夫なんかな?俺、前にあの世界の『門』に近づいちゃいけないとか言われたんだけど・・・」

 

「この世界の『門』なら関係無いんじゃないかしら?『調停者』はそう言ってたんでしょう?」

 

ナオトの最大の危惧・・・それは以前に『門』に近づいてはいけないと言われてしまった。

ナインの言う通り、それはあくまでその世界での話であり、この世界であるならば関係ない・・・。ナオトはそこでごくごく簡単な見落としをしていたことに気づいた。

 

「ああ・・・なるほど。確かにそれなら平気だわ」

 

《ナオト・・・どうやらあの子絡みは色々と参ってるようね》

 

「面倒ごとにならないならまだ良かったんだけどな・・・」

 

ナオトがその少女の事をあまり良いように見れないのは、主観の違いから来ていた。

ナオトからすれば人探しで訊いてみようとしたらいきなり攻撃された。その少女の場合は聖域に侵入して来たので排除をしようとした。

能力があるとはいえ、元々普通に暮らしていたナオトからすればそんなのはあんまりなことであり、イラついたりするのは仕方ないことであった。しかも、その時は時間が無い事も重なって尚更だ。

また、その少女は何がどうであれ、その聖域に踏み入ることを許されない人たちが踏み入った場合、今後の憂いを断つために排除せねばならなかった。それ故にナオトが怒ったりするであろうことは予想ができていた。

互いに落ち着いて話し合いに持ち込めれば衝突をしないで済んだかも知れないが、状況的に最初から詰みであったとナオトは考えていた。とは言え、終わった事をこれ以上考えても仕方ないのは確かだった。

 

「・・・『門』の方は見つけ次第連絡・・・と言う形にしておいて、問題はこれからになりますね・・・」

 

「ユウキ=テルミ・・・だったね。彼の口からも『蒼』と言う言葉が出たのは間違いないんだね?」

 

今回の最大の問題・・・それは『蒼』が本当にあるのかどうかである。

そもそも『蒼の男』であるラグナすらあるかどうかを判らない状況だと言うのに、テルミはあって当たり前かのように訊いてきた。

この事実が今回はかなりの大問題であり、仮にテルミが先に見つけてしまった場合、ゲイムギョウ界が本当に壊滅させられてしまう恐れすらあった。

そんな事実を知って不安になる皆をよそに、一人事実を知っていたネプテューヌは悩んだ末、話すことを決める。

 

「ああ・・・そのことなんだけどさ・・・『蒼』はこの世界のどこかにあるみたい」

 

『ええっ!?(はあッ!?)』

 

ネプテューヌから飛んできたまさかの発言に、全員が思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

この発言が、既に『蒼』を所有しているラグナや、ラグナたちの世界の細かい裏事情を知っているナインやハクメンであれば、まだ幾らか納得できた人がいるかもしれない。

しかし、今までそのようなことを一つも知らず、ゲイムギョウ界で過ごしてきたネプテューヌからであった為、驚きが増していた。

 

「どうしてネプテューヌから・・・。いえ、この際は関係ないわね・・・。いつ知ったの?」

 

「割と情けない話、私たちがみんなあの水に沈んでやばかった時あったでしょ?その時に・・・」

 

ノワールの問いに答えながら、ネプテューヌはラグナの右腕を指さす。

 

「ラグナの『蒼炎の書』が教えてくれたよ」

 

「・・・『蒼炎の書(こいつ)』が?」

 

ラグナは自分の右腕を見つめながら思わず聞き返した。

いつ教えたんだ?ラグナは考え出すものの、全く答えが出そうに無かった。

 

「でも、この世界に『蒼』があるなら、色々と説明がつく事もあるわね・・・」

 

「ああ・・・俺たちが術式を使う為に必要な『魔素』も、元を辿れば『蒼』から来るものだからな・・・」

 

「でも・・・この世界、『魔素』は無いんじゃないんですか?私たち普通に術式通信しちゃってましたけど・・・」

 

「其れは大気中にあるシェアエナジーが、この世界に於ける『魔素』の役割をしているから問題は無い」

 

「ハクメンの行ってる事は本当だよ。シェアエナジーも『蒼』が根源みたいだし・・・」

 

ラグナたちは今までの疑問に回答が来たことを喜んだ。ノエルの疑問も、ハクメンの一言で解決した為、問題は無かった。

ハクメンの一言にネプテューヌが肯定したことで、それは揺るぎないものとなった。

 

「その問題が解決したのはいいのですが・・・。ネプテューヌ、正確な場所は解りませんの?」

 

「いや~・・・悲しいことに何もわからないんだ・・・。ただ、あるって言うのは間違いないよ?」

 

ベールに聞かれ、ネプテューヌは頭をかきながら苦笑交じりに答えるしか無かった。

ネプテューヌが知る事のできたのは『蒼』があると言うことだけで、位置などは解らなかったのだ。

 

「そうなると、テルミが見つける前に何とかしなくちゃいけないんだけど・・・何か対策はある?」

 

曖昧な情報はあまり宛てにしたくはないが、本人の情報だけが頼りになるこの状況下、ケイはネプテューヌの事を信じ、『蒼』がこの世界にあること前提に話を持ち出した。

この対策というのを、ラグナたちに問いかけてみたのだが、ラグナたちの反応はあまり良いものが無かった。

 

「対策ったって・・・とにかくテルミより早く、最低でも同じタイミングでそこに辿り着くしかねえんだよな・・・」

 

《『蒼』は純粋な力だから、そこに『善』『悪』は全く関係無い・・・だから、テルミより先に『蒼』に選ばれる必要があるわ》

 

ラグナとラケルは『蒼』に関することを話すが、対策と言っていいのかどうか判らないものになっていた。

 

「・・・えっ?それ・・・対策って言うより・・・」

 

「早く動くってだけになりますね・・・」

 

ユニとネプギアは呆然としながら呟く。

ラケルですらこうなら諦めるしか無い。ラケルと関わりの深いナオトと、あの世界で詳しいことを知るハクメンとナイン、ノエルは割り切りが付いていた。その中には『蒼の境界線』で話を聞いていたラグナも含まれる。

ともあれ、絶対にこれと言った対象法が何も無い為、『蒼』に選ばれるようどうにかしなければならない。それだけは確かだった。

 

「探すのはいいけど、それを見つけた後はどうするの?」

 

「確かに、そこが一番の問題ですね・・・一歩使い方を間違えたら、信仰者を自分だけのものに変えることだって可能でしょうし」

 

ノワールの問いかけにイストワールは最も危険なことを示唆した。

信仰の独占はそこ以外の国の女神が消滅の危機に追いやられる程のものであり、うっかりその可能性を実現しようものなら、『蒼』を巡る争いが勃発してしまう。

それだけは何としても避けなければならない為、皆が真剣な表情になる。それに伴い、慎重に決める必要があることから暫くは沈黙が走ってしまう。

やがて、悩んだ末にネプテューヌが一つの提案を出す。

 

「これはできたらなんだけどさ、『蒼』を見つけたらナオトに使わせてあげるのはどうかな?」

 

「・・・!?お前本気かッ!?俺たち会ってから殆どしてねえんだぞ?まともに話せる時間だって無かったってのに・・・」

 

ネプテューヌの提案にナオトは思わずその考えに疑いを持った。

世界の根底を覆せる程の代物をあっさり他人に譲ると言うことは、異世界組の中で最も一般的な感性を持つナオトは正気の沙汰とは思えなかった。否、ナオトどころかこの場にいるほぼ全員がそう思っていた。

ただ一人、ラグナだけは例外だった。ラグナは自身を犠牲にする覚悟で自分たちの世界にいた人たちの殆どを救う為に『蒼』を使った事象干渉を行った為、ネプテューヌの考えは自分のやったことを個人に向けるものだと考えていた。

 

「俺はそれでいいと思う。後はナオト次第だがな」

 

「ちょ・・・ちょっと待ちなさいラグナ。まさかだとは思うけど、いつもの『救う』とか『助ける』とか、そっちで考えているんじゃないでしょうね?」

 

「いや、俺はあの世界を去る時に『蒼』を使って、大規模な事象干渉で皆の為に『悪夢』を取り払ったことあるからさ・・・一人くらいなら別にいいんじゃねえかと思ったんだよ」

 

ナインの釘を刺すような問いかけに対して、ラグナの回答は納得せざるを得ないものだった。

ラグナは『エンブリオ』の影響で記憶を失った状態であろうとも、我が身を犠牲にしようとも、大切な人たちを中心に、ただ多くの人を助ける為に独りで戦う覚悟すら持っていた。

個人的に強い欲も特に持たず、気づける人にしか気づけない優しさを持つラグナだからこそ、『蒼』はあのような使われ方をされた。故にラグナはネプテューヌの考えを支持した。

この時、それを理解したハクメンは「テルミに『蒼』が渡らずに済んで良かった」と、一人心底安心したのだった。

 

《どうするのナオト?貴方がいいと言えば、少なくともネプテューヌは譲ってくれるわよ?》

 

「そう言われてもなぁ・・・」

 

ラケルに促されるナオトは迷っていた。確かに人から貰えてしまうのなら貰ってしまった方がいいのだろう。しかし、それが世界のパワーバランスを崩壊させる恐れがある『蒼』である以上、そんな易々と受け取ってしまうのも気が引けた。

確かにすぐ人に戻れるならそれでも良いだろう。しかし、人に戻るということはドライブが消える可能性も否めない。

ましてやナオトはラケルとの契約のお陰で身体強化貰っているだけであり、それが無くなってしまえばドライブ能力があるだけで、身体能力が少し高いだけの普通の高校生にまで力が落ち込んでしまう。

元の世界に戻るまではどれくらいかかるか分からないが、いざ戦いという時に戦力にならないというのは、ナオトとしてはよろしくなかった。

―もしそれで身近な人を護れなかったら?ナオトはそのことに恐怖感を抱くようになっていた。初めの頃は力があるくらいなら普通の暮らしに戻りたいと言う願望の方が強かったが、今のナオトは力を持つ者の責務を理解している為、無責任に投げ出してはいけない事も分かっていた。

悩むに悩み、ナオトは一度訊いてみることにした。

 

「・・・一つ訊かせてくれ。どうして俺の為に使おうと思ったんだ?」

 

ナオトはその考えに至った理由だけは訊いておきたかった。

それが無ければ納得できないのが一つ、もう一つはとある人物に似通った部分を彼女から感じ取っており、それを確かめたかった。

 

「みんなが納得する言い方だったら、ゲイムギョウ界を滅茶苦茶にするよりも、困ってる人誰か一人を助けた方がずっといいと思ったから。私の個人的な理由だとしたら・・・」

 

確かに建前の方は大いに納得できるものだった。ナオトのみならず皆も特に反対は無かった。

しかし、本音はもう一つ方にあるらしく、ネプテューヌは一度言葉を途中で切ってしっかりと聞けるような状況を作る。

 

「ナオトなら『蒼』を持っても悪いように使わないと思うんだ・・・」

 

「・・・お前・・・」

 

自分で面と向かって言ったことが割と恥ずかしかったらしく、ネプテューヌは「みんなの前で堂々と言うのは結構恥ずかしいんだね・・・アハハ」と頭を掻いていた。

その様子を見てナオトは自身の疑念が晴れたものを感じた。

 

「(誰かに似ているなと思ったら、マコトさんだったか・・・あの人も真っ直ぐな人だったよな・・・)」

 

ナオトはあの世界で僅かな時間しか共に行動しなかったが、その少女のことは良く覚えている。

会って間もないと言うのにも関わらず、自分のことを信じてくれた人物だった。ナオトはその時、恩人によく似た目をされて逆らえなかった事も覚えている。

あの後会うことは叶わなかったが、もし会えたのならお礼を言いたいところだ。そう考えていたナオトは思わず笑みを見せた。

 

「・・・ナオト?」

 

「ああ、いや!何でもない・・・。せっかくの気持ちは有り難いんだけどさ・・・やっぱり、『蒼』は俺が自分で見つけて使うよ。そんな代物他人から貰えないよ」

 

今が会議中だったことが仇となり、ネプテューヌに心配させることになってしまった。

そのことに気が付いたナオトは慌ててその考えを置くことにし、自分の答えを出した。

これは、ラケルを見つけてやるなら自分の力で『蒼』を手にしたいと考えていたからもある。しょうもないプライドかもしれないが、ナオトは自分の走った道の意味が無くなりそうなのは嫌だと思っていた。

 

「んー・・・それじゃあ仕方ないか」

 

「悪いな・・・気遣ってもらったのに」

 

「いいよいいよ。私も無理に決めるべきじゃないのは分かってるし・・・」

 

ネプテューヌが残念そうにしたのを見たナオトは申し訳なさそうに謝るものの、ネプテューヌも流石に今回は状況を弁えているのでそこまで引きずることは無かった。

 

「そうなるとナオトさん以外が『蒼』を見つけた時を決めませんとね・・・」

 

チカの言う通り、今回の会議はこれを決めないことには終わらない。しかし、全員が納得できるような決め方をしておかねばならないことは確かだった。

 

「少なくとも信仰心等、シェアエナジーに関わる事に使用することは固く禁じよう。それだけは絶対条件だと思う」

 

「そうですね。それを良しとしてしまったら、せっかくの和平も崩壊同然になってしまいますからね」

 

ケイの提案には口に出したミナのみならず、全員が賛成した。

異世界組の人達は首を傾げていたが、ラグナは和平の当日にやって来た為、そのことを知っていた。

ラグナがゲイムギョウ界に来た日は、ゲイムギョウ界の歴史からすれば新し過ぎる方で、実のところまだ三ヶ月経つかどうかくらいであった。

戦争が起きてもおかしくない状況を止め、各国の国民たちを安心させたばかりだと言うのに、今までゲイムギョウ界で誰も知らなかった未知なる物の為だけに争いを起こしてしまったら本末転倒であろう。

だからこそ、それは避けなければならなかった。そして、全員が納得のいく答えを出す為再び暫しの沈黙が走るのだった。

 

「あの・・・」

 

やがて、ノエルが手を上げながら声を出したので、全員がそちらを振り向く。

 

「その事なんですけど、本当に必要な時が来るまで使わないでおいて・・・平時は厳重な管理の上で封印しておくというのはどうですか?」

 

誰がどう使うかで迷ったり、揉めたりするくらいならいっそのこと封印してしまえ。自身が『門』の存在を知ってしまった時に、『人としての自分(ノエル)』と『素体としての自分(ミュー)』の二つに切り離すという行動をした事のあるノエルが出した結論だった。

使えるものなら使っておきたいと思う者もいるかもしれないが、それによって道を踏み外すよりは良いだろうと。力を代償に憎しみに囚われてしまった事もある彼女は尚の事そう思っていた。

 

「其れには私も同感だ。役目無き力を不用意に持て余すのは危険だ」

 

真っ先に同意を示したのはハクメンだった。

彼は『エンブリオ』にて役目を終えた後は我が身を殆ど封印も同然のことをしてもらったが、その時ハクメンは『自身の持つ躰(スサノオユニット)』ごと、亡霊でもある自身も沈んでいった。

 

「そうですね。私もそれがいいと思います。皆さんはそれで大丈夫ですか?」

 

イストワールは賛成の意を示すと一緒に皆に問いかけると、誰も反論する様子無く首を縦に振ったので、これで『蒼』の取り扱いは決まった。

 

「何事も無いのでしたら、後は皆さんが元の世界に戻る方法が確立するまでの間、どこで過ごすかを決めて頂いてこの会議は終わりなのですが・・・」

 

イストワールの言葉を聞いて、ラグナとネプギアは自然と目があった。

それもそのはず。二人は帰り道の途中で『少女』の事をどうするか決めようとしたのだが、結局決まらなかったのだ。

 

「えっと・・・ラグナさんもですか?」

 

「・・・てことはお前もか・・・」

 

どうやら二人が考えていたことは同じだったようで、その事を即時に理解する。

しかし、それだけでは周りの人たちが完全に困惑するだけなので話すなら話す。それをこの場で決める必要があった。

また、殆どの人が置いてけぼりになっている中、薄々と感じ始めているハクメン、ネプギアの姿を一目見て僅かに感じ取っていたナインは特に動じる様子を見せていなかった。

 

「あの・・・お二人とも、何の話をしようとしているのですか?」

 

「ああ、悪い・・・。こうなったら話した方が良いか・・・?どうする?」

 

イストワールもそうだが、殆ど全員が頭の上に『?』のマークが入りそうな状態でいたのが見え、ラグナはネプギアに話を振った。

すぐに話してしまうのもいいが、この件はネプギアが他の誰よりも深く関わっているので、彼女の気持ちを尊重したいと考えていた。

 

「私は大丈夫です・・・。どちらにせよ、その内話さなきゃいけないと思ってましたから・・・」

 

「済まねえな・・・。じゃあ話そう」

 

ネプギアがそれを良しとしてくれたことにラグナは一言詫びを入れて、皆のことを見据える。

 

「俺たちが話そうとしていたのは、最近起き始めたネプギアの変調についてだ・・・」

 

『・・・!』

 

殆ど全員が息を吞む。それくらいにラグナが切り出した内容は巨大な爆弾ものだった。

下手をすればある保証の無い『蒼』よりも重要な内容になる。特にゲイムギョウ界で過ごしてきた人たちにはそれ程の価値があった。

 

「確認だが・・・ネプギアが俺のことを『兄さま』って呼ぶときがあったのはわかるな?」

 

ラグナが周りを見てみると、全員が頷いた。殆どこっちへ来てから間もないノエルたちが頷いているので、これで一から説明する必要は無くなった。

それが分り、ラグナはそのまま本題に入ることにした。

 

「実はな・・・時々そうやってネプギアから体を借りて出てくる奴が・・・多分、この世界のどっかにいるんだ」

 

「・・・人数は一人なんですよね?」

 

ラグナに対して真っ先に問いかけたのはユニだった。友人のことを案じての内容ではあるが、これは非常に重要な問いだった。

今までの傾向からして同じ人物がネプギアの借りているのは一人であると信じたいが、何せ人数が多ければ多いほど、ネプギアへの負担も大きくなるからだ。

 

「ああ。それは間違いなく一人だ」

 

しかし、その危惧はラグナの言葉によって否定される。それを訊いたユニは心底安心した。

ユニはネプギアがその少女と一緒に戦うことを選んだから女神化できたのを知っている為、それ以上追求しようとはしない。せめてその少女に出会えたら一言言ってやろうと思うくらいだった。

 

「ところで、その子の場所はわかるの?」

 

「いや、残念ながらまだなんだ・・・」

 

「そっか・・・じゃあ探さないといけないのかぁ・・・」

 

ラグナから良い回答が帰って来なかったネプテューヌは、「ちょっと大変になるな・・・」とぼやいた。

ネプテューヌからすれば本当の意味での家族は妹であるネプギアただ一人である為、早く何とかしてあげたい気持ちになるのは無理もない。

しかし、それがすぐに解らない以上、時間をかけてでも探すしか無かった。そのネプテューヌの様子をみたラグナは、持ち込むなら今だろうと確証した。

 

「そこで皆に頼みたいんだけど・・・『蒼』を探すついででも構わねえから、そいつのこと探すのを手伝って欲しいんだ」

 

わがままだと思っても、ラグナは頼まずにいられなかった。本当なら何度も呼び掛けられている自分と、少女と深く関わっているネプギアの二人だけで行くべきなのかもしれない。しかし、毎日そうやっていたりでもすれば怪しまれ、かえって負担をかけることになるだろう。

その為、少しでも早く見つけるならなるべく多くの人に協力を頼むべきであり、今回のように後々問題にならぬよう先に話しておくのが正解だろう。

しかし、前途の通りラグナたちは今までこの事をほぼ隠していたと言ってもいい状態であり、今まで全く手掛かりを掴めていないのだった。

複数の悪い状況が重なっていた為、ラグナはそこまで期待していなかった。ネプギアもただ祈るだけだった。

 

「分かった・・・それなら探そうよ。というか、『蒼』よりもそっちが先じゃない?」

 

「そうね・・・せっかく難を逃れたのに、ネプギアが取り返しのつかないことになったら大変だもの」

 

「今までの事を考えるに、その子はラグナを待っているんでしょうから、早く見つけてあげましょう」

 

「実態の解らない『蒼』よりも、大変な思いをしているネプギアちゃんの方が大事ですわ」

 

だが、そんな二人の予想はあっさりと四人にいい意味で裏切られた。

しかし、いい意味で裏切ってくれるのは四人だけでは無かった。

 

「アタシも探したいですっ!一言言ってやりたいのもあるけど・・・それ以上に会ってみたいんです」

 

「私もっ!その人のこと気になるーっ!」

 

「・・・私も気になる」

 

次に乗ってくれたのは候補生の三人だった。広い視野で見て判断した彼女たちと比べて好奇心の部分が強いものの、それでも賛成は賛成だった。

 

「私も、皆さんがそれでいいのなら構いません」

 

「僕も女神たちがいいと言うなら、彼女たちを尊重するつもりだよ」

 

「私も賛成です」

 

「勿論、アタクシもですわ」

 

更に教祖の四人は女神たちの意を尊重する方針を取った。これで教祖も賛成と同義になる。

 

「アイちゃん、私たちも・・・」

 

「ええ。今回も無茶振りに付き合おうじゃない」

 

和平を組む前からネプテューヌと関わりがあった二人は、まるでこうなることを予見していたかの如くあっさり受け入れる。

これによって、ゲイムギョウ界組は全員がラグナとネプギアの頼みを受け入れたことになる。

 

「ねえノエル姉。ニューにも手伝えるかな?」

 

「勿論、今のニューでも手伝えることだよ」

 

暫く沈黙を保っていたニューは、『ムラクモ』の力を失って少々不安になっていたのでノエルに訊いてみる。

それをノエルが優しい笑みで肯定してくれたことにより、ニューは安心することができ、同時に始めて自分にやりたいことができたのを自覚した。

 

「ニューも手伝いたい・・・それが、ニューの始めて自分からやりたいと思ったことなんだ・・・」

 

「・・・ニュー。分かった・・・それなら私も手伝います。似たような経験のある私なら、見つけるまでの対策の手伝いだってできますし」

 

《ナオト。貴方はもう決まったの?》

 

「決まったかってそんなの・・・手伝うに決まってんだろ?建前とか抜きで、こういうの放って置けない性分だからな」

 

「一人でも多い方がいいなら私もっ!ミネルヴァもいればもっと早くなると思うの」

 

「ああ・・・これはもう止まらないわね・・・。セリカが探しに行きたいって言ったら誰かに見てもらわないと・・・」

 

「私も手を貸そう・・・。此の躰の影響で、疲労との縁が遠くなっているのでな・・・」

 

「お前ら・・・」

 

「みんな・・・」

 

異世界組ですら、ニューの一言を皮切りに全員が賛成や肯定を示した。

一人でも手伝ってくれればいいと思っていたら、全員が手伝ってくれることにラグナは驚き、ネプギアは嬉しさのあまり目元が潤んだ。

 

「なら、改めて頼むよ。それと・・・本当にありがとう」

 

「いいって、いいって・・・こっちだって色々と助けられているからおあいこだよ。それじゃあみんなっ!『蒼』とその女の子を探しをこれから頑張ろーうっ!」

 

『おおーっ!』

 

ラグナの礼に対してネプテューヌは照れた様子を少しだけ見せた後、すぐにネプテューヌが拳を高く掲げて締めくくる。

ゲイムギョウ界組はそれに合わせて拳を高く掲げるのに対し、異世界組はいきなりのことに対応が間に合わず、「お、おー・・・」と言いながら小さく拳を上げるに留まった。例外は元々明るい性格をしているセリカだった。

そして、ここで全ての重要案件は終わったので、その後は居住する場所を決めてからパーティーで全員が楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

パーティーが終わって後は寝るだけだったのだが、眠れなかった俺は二度目の風呂にしゃれ込んだ。

リーンボックスの風呂場は大分デカく、小さい温泉と言ってもいいくらいに大規模だった。

俺は複数ある湯船の内、一番デカい湯船を選んで奥のど真ん中まで進み、そこに背中を預けるようにして入っていた。

睡眠はボロボロになっていた時も含めてそれなりに取れていたので、風呂の中で寝ちまって溺死とかいうシャレにならない自体は避けられる。

 

「(俺は・・・本当にいい奴らと会えたんだな)」

 

俺はさっきの話を振り返ってそう思った。見ず知らずの俺をあっさりと受け入れてくれただけに留まらず、俺が危険な時は気を遣ってくれるし、極めつけには隠していたことを責めずにあっさりと協力することを選んでくれた。

本当に頭が上がらない。ネプテューヌが言うには、俺のおかげで和平後の友好関係がより円滑になったと言うのだが、俺はそれ以上にあいつらから恩を貰っていると思う。

どっかで礼させてもらわねえとな・・・。そんなことを考えていたら、カラカラとドアが開け閉めされる音が聞こえた。

どうしたもんかとそっちに首を回していこうとしたが、明らかに女の子のだと分かって即座に顔を正面に戻した。

 

「(・・・ちょっと待てよ?コレ下手したら色々とヤバくねえか・・・?)」

 

風呂場に入っている以上、体洗うからいいとして、普通に嫌な汗が垂れているくらいに俺は焦っている。

俺が先に入っているのを気づいてないから今入って来た奴は間違いなく慌てる。

これはまあどうせそうなるだろうからいいとしてだ。問題は外の奴らが見た時だ。そういつが入って行くのを見なかった奴が見た場合・・・。

 

「(・・・俺が気づかずに入ったアホか、女の子が風呂入ってる所に堂々と入った変態扱いされるじゃねえかぁぁぁ!?)」

 

色々な意味でヤバい。何でだ!?テルミたち一行追い払って、あの四人とニューを助けたのに何でこうなんのッ!?

もう訳が分からねえ・・・。幸い、湯船は複数あるんだし、別の場所に入ってくれればまだ事故は回避できるだろ・・・。そう思ってた俺が甘かった。

そいつはあろうことか、俺と同じ湯船を選びやがったじゃねえかッ!どうすんだこれ?俺逃げ場無いんだけど・・・。焦る俺をよそに、入って来た奴はどんどん俺に近づいてくる。

そして、湯気で陰になっていた姿が露になる程近づいてきて、俺たちはお互いに硬直する。

 

「・・・ネプギア?」

 

「・・・えっ?ラグナ・・・さん?」

 

入って来たのはネプギアで、どうやら俺が入っていることに気づいていなかったらしく、何も身につけていなかった。

つまるところ、ネプギアは今自身の裸体を惜しげ無く晒している状態になっている。バスタオルも無い。流石に湯気で一部は隠れているが、そういう問題じゃない。後髪をシュシュ使って纏めてるけど、重要なのはそれじゃない。

ネプギアからすればうっかりとは言え、俺の前に裸で来てしまったのに気付き頬を朱色に染める。

 

「えっと・・・いつから入っていたんですか?」

 

「ついさっき入ったばっかりだ・・・。俺の服あったの、気がつかなかったか?」

 

「ラグナさんの・・・」

 

思い返していくネプギアの顔はみるみると赤くなっていく。どうやら大方把握したらしい。

 

「す、すみませんっ!私、すぐに上がりますから・・・!」

 

「ま、待て落ち着けッ!こうなったらいっそのこと追い出す方が良くないから・・・!」

 

両腕で胸を隠しながら頭を下げて謝り、慌ててこの場を離れようとするネプギアを俺は慌てて引き留める。

どの道ネプギアがこっちにきていた段階で詰みのようなものなので、追い出したら余計に誤解を深めることにもなるから結局はこう選ぶしかなかった。

 

「じ、じゃあ・・・失礼します・・・」

 

割り切ったか諦めたか、ネプギアはおずおずとした様子で一言入れてから俺の右隣まで移動し、湯船に肩まで浸かる。

そこまではいいのだが、気恥ずかしさから俺たちの間に沈黙が走ってしまう。俺は顔が赤くなるとかそういうのは無かった。そういう色沙汰を感じる余裕が無かったせいだろうな・・・。少し悲しくなる。と言っても心臓の鼓動が嫌でも分かるくらいなので、無反応ってわけでもない。

ネプギアはというと、自分のやったことのバカらしさのあまりか、顔を真っ赤にしたまま顔を下に向けていた。間違いは誰にでもあるにしろ、このやらかしは辛いだろうな・・・。

 

「なあ、ネプギア・・・」

 

「あの、ラグナさん・・・」

 

俺たちが話を振ろうとしたタイミングが奇しくも同時であった為お互いに言葉が詰まってしまった。

 

「ど、どうしましょう・・・?」

 

「そうだな・・・こういう時は俺から先に言うとするか」

 

レディーファーストと言う言葉はあるが、こういう場合は話が違ってくる。

その為、話を振られた俺は自分の方から言い出すことにした。

 

「とりあえず、皆に手伝って貰えるようで良かったな・・・『あいつ』を探すの」

 

「はい・・・私も安心しました」

 

振りだせる話と言ったらまずはこれ。

今回の件で原因を皆に話せたし、その原因に直面できる日だって来る可能性が上がってきた。

これでネプギアの身で『あいつ』と交代交代になる機会が少なくなると思うし、ネプギアも『あいつ』も満足の行く結果に終わることができるかもしれない。

 

「そういや、ノエルから対象法は聞けたか?」

 

「そっちも聞けました。『ネプギア()』としての記憶を優先して、『あの子()』の記憶は情報として捉えるようにって言ってくれたんですけど・・・やっぱり、少しだけ納得できなくて・・・」

 

ネプギアが苦い顔をしたことで大方察しが付いた。ネプギアはノエルの融合と似ているようで違い、共闘と言った方が正しい状態だった。

その為、ノエルのやっていた対象法があまり有効じゃなかった。今のネプギアからすれば、自身の半分を捨てるようなものだからだ。

その状況を理解した俺は少しだけ考え込み、一つの答えを出した。

 

「なら、これはどうだ?どっちも自分でいいとして、表・・・主だって行動する方を決めておく。それで必要な時だけもう片方が行動するってのは・・・」

 

「主だって動く方を決める・・・。っ!そっか!ラグナさんそれですよっ!」

 

「おおっ!?」

 

ネプギアがずずいと体を寄せてきたので、俺は思わずネプギアのいない方へ体を少しだけ傾けてしまった。

ちなみに本人は気づいて無いのか、胸の膨らみが俺の左肩に当たっていた。

幾ら色沙汰に疎い俺でも、こうされて何も思わない程そっち方面でタフネスではない。

ちなみに当のネプギアは、少ししてから「私が基本として動けばいいんだ・・・それなら『あの子()』を除け者にしないで済む」と俺から離れてそう言いながら喜んだ。

俺が少し安心していると、今度はネプギアが誰かと話しているように何か言っていた。

 

「どうした?」

 

「あっ・・・ラグナさん。今からちょっとの間ですけど、『あの子』と変わって来ますね」

 

そう言ってネプギアは目を閉じる。一瞬だけ水面が風に揺られる。

そして、目をゆっくりと開けたその瞬間、ネプギアの纏う雰囲気がサヤとほぼ同じものになっていた。

 

「あはは・・・いきなりでごめんね兄さま?」

 

「・・・いや、なんてことねえよ。今日はどんな用だ?」

 

一瞬、自在に行き来できるようになっていることに驚きはしたが、それ以上動じることはなく、俺は『ネプギア』との話を進めることにした。

すると、『ネプギア』は僅かな時間だけ目を閉じて、ゆっくりと目を開ける。

 

「今日はお礼が言いたかったの・・・。『お姉ちゃん』たちを・・・ニューを助けてくれて、本当にありがとう」

 

これは『ネプギア』の紛れもない本心だった。今まで俺は、この状態での『ネプギア』がネプテューヌのことを『お姉ちゃん』と呼んだところを見たことがないので、あの時ネプギアに受け入れてもらえたのが決定打だったんだろう。

 

「なんてことねえ・・・俺は助けたいから助けたんだ。・・・礼を言われんのは悪い気分じゃねえが」

 

「ふふっ・・・兄さまらしい」

 

本音で話してくれる『ネプギア』の姿勢に有難みを感じた俺は、その姿勢を尊重して本音で返していくことを決めると、『ネプギア』は楽しそう笑みを見せた。

やがて、『ネプギア』は少し寂しくなったのか、俺の左腕に両腕を組んできて、左肩に頭を乗せた。

 

「ねえ兄さま・・・私のこと、どれくらいで見つけられそう?」

 

「・・・どうなんだろうな・・・細かくはわかんねえけど、そんなに遠くないと思う。少なくとも年が回るなんてことはねえ」

 

少し不安そうになっている『ネプギア』に、俺はなるべく安心できるように答えてやる。

その答えに満足したのか、『ネプギア』は少しだけ安心したように「良かった・・・」と呟く。

 

「・・・もう少しでまたお別れしなくちゃいけないから、最後に一つだけ・・・。兄さま・・・私はいつでも待ってるから、早く迎えに来てね?」

 

「ああ・・・任せてくれ。サヤ・・・」

 

そこまで長い時間体を借りることができないのは、負担が影響なんだろうか?『ネプギア』最後に俺へ自分の意思表示をした。

だからこそ、俺はもう片方の呼び方をして大丈夫だと答えてやった。

 

「・・・ありがとう。兄さま」

 

それが嬉しかったのか、『ネプギア』は安心したように俺のことをそう呼ぶ。

そして、表側のネプギアが戻って来るまでの数分間、俺たちはこうしていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「みんなー、忘れ物ないー?」

 

「大丈夫だ、すぐ出れる」

 

「こっちも大丈夫だぞ」

 

「私も大丈夫だよ。お姉ちゃん」

 

会議とパーティーの日から一週間後、プラネテューヌ居住組は朝早くから少女探しに出ることにした。

プラネテューヌに来たのはナオトとラケルで、アイエフとの連携、ラグナのサポートが役割として与えられているナオトの事を配慮した結果となった。

また、ナインは5pb.にいつでも気軽に会えるようリーンボックスを選び、ナインと久しぶりに共にいられるようになるし、今まで振り回したから少しは頼みを聞いてあげたいと思ったセリカも、これを機にリーンボックスへ引っ越した。

その際、ミネルヴァ整備の為にプラネテューヌにいた一部の整備士がリーンボックスへ転勤をした。ゆくゆくはリーンボックスの整備士だけでミネルヴァのメンテナンスを可能にするつもりのようだ。

また、ノエルとニューはラステイションに異世界組がいないことと、ニューがラステイションの雰囲気を気に入ったことからラステイションで過ごすことを決めた。

そして、準備を終えていざ行こうという時、ラグナの元に術式通信が飛んできたので、ラグナは術式通信に応じる。

 

「俺だ」

 

『ラグナ?私たちもメンテナンスを終えたミネルヴァと一緒に、試運転も兼ねてそっちへ向かってるわ。合流した時はよろしくね』

 

その相手はナインであり、その電話内容でラグナは大方把握した。

暫く会えてないのだから会いたいのだろう。今日は色々と盛大に疲れるだろうな・・・。ラグナは朝っぱらから一人落胆するのだった。

術式通信は現在異世界組と女神たち、そしてアイエフとコンパのみが使用可能な特殊通信法となっていた。

近いうちに一般の人も使えるようにしたいが、それでも最低限の術式適正は図る必要があるそうだ。

 

「こりゃもう少しかかるだろうな・・・」

 

「おぉーいっ!何してるのー?置いて行っちゃうよーっ!?」

 

「悪い、今いく!」

 

いつの間にかエレベーターが来ていたらしく、ネプテューヌに促されたラグナは急いでエレベーターに乗り込んだ。

 

「(待ってろよ・・・必ず、俺が見つけてやるからな・・・)」

 

エレベーターがどんどんと降りていく中、ラグナはあの時話した少女へ心の中でそう宣言した。




以上でこの章は完結となります。

『お風呂場で何してんの!?』と思った方はごめんなさい。

さて、次回からですが、新しい章に入る前に、一度アニメ版の次回予告にもあったNGシーンみたいなのを一度やってから新しい章に入りたいと思います。
これに関しては一話分で終わると思います。

追記・・・
ブレイブルーの最新作で新キャラが発表されましたね。
ブレイブルー側からは獣兵衛が参戦・・・ルナセナの願いが叶った形でしょうか?
ずっと参戦して欲しいと言ってくれていた人たちへの配慮だとしたら嬉しい限りです。

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