超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER-   作:ブリガンディ

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今回は予定通り特訓の話になります。

・・・書くことが少ないので、早速本編の方どうぞ。


27話 助け出す為に

「それじゃあ、迎えは要らないということで間違いありませんのね?」

 

「ああ・・・あいつらも、ただ見ているだけで終わらせるつもりじゃねえみてえだ」

 

時間は朝日が昇ってから少しした後、飯を食い終えた俺はネプギアたちが決めたことをチカに話した。

俺が話している理由として、ネプギアたちに少しでも訓練に時間を割いて欲しかったからだ。

そんなこともあって、四人はベールが用意していたゲームをシミュレーションモードで起動して、戦闘訓練を始めていた。

 

「分かりました。そのことはアタクシから各国に伝えておきますわ。

その代わり・・・ベールお姉さまたちを・・・絶対に助けて下さいね?」

 

「・・・分かった」

 

「・・・それを聞いて安心しましたわ・・・。では、お願いしますわね」

 

チカの念押しに近い問いかけに対して俺は強く頷いて答える。

俺の回答、それとその意志を汲み取ってくれたチカは笑みを見せてこの場を離れた。このまま各国に連絡を入れることは間違いない。

さて・・・後はやれることをやっておかねえとな。そう思いながら、俺は昨日と同じく皆が集まっている部屋に入った。

 

「あっ、お帰りラグナ。お話しは終わったの?」

 

「ああ。後は向こうでやってくれるから、俺たちはやれることをやんねえとな・・・」

 

セリカの問いに答えながら、俺は部屋で訓練をしている候補生四人の様子を見る。

訓練の相手は疲労が少ないことと、体を動かしてこっちの世界での感覚を掴みたいと、自分から進んで出たこともあってナオトが担当している。

流石に四対一なのもあって、ナオトは防戦一方の戦いを強いられているが、それでも俺が話を付けている間にやっていることから、四人の攻撃を上手くやり過ごせているのだろう。

ラムの魔力を回した杖による突きを避け、右足による蹴りで反撃するところをロムが杖から赤い防御方陣を張った状態で二人の間に割って入る。

それによってナオトの攻撃は受け止められ、そこからロムとラムは無理せずにナオトから距離を取る。ロムとラムが離れたことによって見えるようになった後ろには、狙撃の準備が終わっているユニがいて、射線が開くと同時にユニはライフルでナオトを撃つ。

ナオトは咄嗟に体を右側へ寄せることでどうにか避ける。相手が一人だけならこれで良かったのだが、今回の相手は四人であり、ナオトが避けた隙をついてネプギアが近づいてきていた。

 

「な・・・!?」

 

「ええいっ!」

 

ナオトが体制を立て直した頃には、既にネプギアがビームソードを上から斜めに振り下ろしていた。

その為ナオトは身体強化の恩恵を受け、上昇している反射神経を活かしてすぐに飛びのくことでどうにか避けるが、その時にシミュレーションモードで使われているエリアの外に出てしまった。

つまりは場外負け扱いだ。そこで一度、シミュレーションモードで出来上がっていた草原の投影が終了し、風景が本来の物に戻った。

 

「・・・アレ?時間切れか?」

 

《いいえ。貴方が範囲外に出てしまったのよ》

 

「マジか・・・。いいようにやられちまったな」

 

戸惑うナオトにラケルが説明すると、ナオトは頭を掻きながら残念そうにした。

とは言え、俺が見た限りナオトはドライブ無しで四人を相手にしていたので、ドライブを使えばもう少しいい結果は出ただろう。

 

「ナオトさん。私たちに付き合ってくれてありがとうございます」

 

「なんてことねえよ・・・。俺もこっちでの感覚分かったし、寧ろ俺がお礼を言いたいよ」

 

ナオトとの手合わせが終わり、四人を代表するかのように武器をしまったネプギアが頭を下げる。

それに対して、得られる物が多かったナオトも小さい笑みを浮かべて答えた。

 

「お疲れ様。次は私が四人に付き合うから、ゆっくり休んで」

 

「おお、悪い。わざわざ助かるよ」

 

アイエフはナオトに一言入れてから、タオルをナオトへ放り投げ、ナオトはそれを受け取りながら礼を言う。

次は自分がやるというアイエフは、先程決めた通りドライブの習熟にある。

ドライブが発現したことによって戦いが有利になることは間違いないのだが、使い方を覚えて無ければ持ち腐れになってしまう。

その為、実践でちゃんと使えるように習熟する必要があった。

 

「さて・・・今言った通り、次は私が相手するんですけど・・・四人共大丈夫かしら?」

 

アイエフの問いに四人は頷く、体力が有り余ってるか、それとも一分一秒が惜しいと思ってるかのどっちかなのは良く分かる。

俺としてはできることなら前者であって欲しいが、後者であった場合もその気持ちはわかるからとやかく言うつもりは無い。

 

《アイエフ、自分でドライブを使うのは初めてだから、私が簡単に教えるわ。分からなくなったらすぐに聞いて構わないわ》

 

「ありがとう。ラケル・・・それじゃあ、早速・・・」

 

「ガラッ!見ぃ~つけたっ!」

 

始めましょうか。もしくは使い方を聞かせてもらうわ。

そのどちらかに続くはずの言葉は、何者かが俺の背後にある部屋のドアを思いっきり開け放った事で遮られた。

・・・アレ?変だな・・・ここスライド式のドアじゃねえんだが、何故かスライド式にドアが開いたぞ?

その妙なドアの開き方と、わざとらしくドアを開ける時の効果音を口にした奴のことを妙に感じた俺たちはそっちを振り向く。

するとそこにはピンク色を基調としたドレスを着ている、金髪の幼い少女・・・アブネスがいた。

ドアを開けるや否、真っ先に俺たちを指差してから勝手知ったる何とやら。そのまま部屋ン中に入ってきた。

この時、『またテメェか・・・』と心の中で嘆いた俺は悪くないはずだ。

 

「・・・えっ?」

 

「・・・女神たちがいない・・・?と言うことは何かあったわね・・・」

 

困惑する俺たちをよそに、アブネスは部屋を見回しながら考え込む。

何でだろう?こいつが来た瞬間から面倒なことが起きると思ってるのは・・・?

 

「・・・誰です?」

 

「迷子か?いやでも・・・セリカじゃあるまいし、迷子でこんな所まで来るか?普通・・・?」

 

その入ってきたアブネスを見たコンパとナオトはそれぞれ困惑の意を口にした。

コンパはその場に居合わせなかったから仕方ないから分かるし、ナオトの言い分は散々味わった俺とナインなら特に理解できるものだった。

 

「ええーっ?私そこまで酷くないよ?」

 

「「「どの口が言うんだッ!どの口がッ!(どの口が言うのよッ!どの口がッ!)」」」

 

セリカの反論は俺、ナオト、ナインの三人で容赦なくツッコミを入れる。

繰り返し言うが、セリカの方向音痴は半端なものではない。

ナインは暗黒大戦時代と、恐らくそれよりも前から散々付き合わされ、俺はイカルガと暗黒大戦時代、そして『エンブリオ』で付き合わされ、ナオトも『エンブリオ』で付き合わされ、最後は置いていかれているのだ。

・・・こうして見ると、場所を把握し切れてねえのに置いてかれたナオトが一番酷えな。

 

「うぅ・・・みんなして酷いよ・・・」

 

「そうは言うけど・・・あんた、行き慣れてるイシャナでだって時々迷うじゃない・・・。

流石に直さないとこの先大変よ?今はプラネテューヌ住まいでしょ?ちゃんと国内歩けるの?」

 

「「・・・はぁ!?そんなに酷いのかよ!?」」

 

『・・・ええっ!?』

 

ナインの口から告げられた衝撃の真実に、ハクメン以外の全員が驚いた。

俺とナオトに至っては最早勘弁してくれと言いたい顔になった。ネプテューヌがいたら俺たちと一緒にそんな顔になるんだろうな・・・。

 

「な・・・何をしたらそうなるんですか?」

 

「何でだろう?私、近道とかちゃんとしてるはずなんだけどなぁ・・・」

 

ネプギアの戸惑いながらの問いに、セリカは全く自覚がないまま答える。

そして、この時俺たちは悟ったような顔になった・・・気のせいじゃ無いと思う。

 

「・・・セリカ。お前、今日からその近道止めようか」

 

「な、何で~!?迷っちゃったらそれはそれでちょっとした冒険になるから楽しいのに・・・」

 

「お前のその冒険とやらでどんだけ苦労したと思ってんだよ!?

牢獄からカグラんとこまで来るようにって言われて、普通は十分の所をお前の近道で二時間も掛かったの忘れたか!?

大体なあ・・・」

 

「ちょっとぉっ!ワタシを無視して勝手に盛り上がんのやめなさいよぉっ!」

 

セリカに提案したら不満そうに反論され、更にそれを今までに起きた事を引き合いに出すことで俺は封殺を図る。

ただ、言葉を続けようとしたところで我慢の限界が来たアブネスが声を大きくして遮ってきた。俺含め、皆がそういえばと言いたげな顔をしながらそっちを振り向く。

 

「それで・・・この子は誰ですか?」

 

「ここでそれを訊くのね・・・。ほら、こないだの誘拐事件でネプ子とラグナを怒らせたっていう、幼年幼女好きの子よ」

 

実際にコンパとアイエフはルウィーの教会に居合わせていないので、実際にアブネスを見るのはこれが初めてになる。

俺としては一回会っただけでも面倒な奴だと思っていたので、正直もう顔を合わせたくねえなとは思ってたんだが、そういうやつに限ってよく見かけるんだよな・・・。そう俺は変に頭を抱えることになった。

 

「えっと・・・確かあなたは、アブネスさん・・・」

 

「アタシたちは忙しいんだから、邪魔しないでよっ!」

 

今回は事態が事態の為、アブネスはあまり歓迎されたものじゃない。

現にネプギアは戸惑っているし、ユニは苛立ち気味な声でアブネスを追い払うような言い方をする。

 

「アブネスちゃん・・・来たのはいいんだけど、みんなこの通り取り込み中だから・・・」

 

「シャラーップッ!中途半端に発達した非幼女なんて不幼女よっ!

女神がいない今こそ、ロムちゃんとラムちゃんを普通の幼女に戻してあげるチャンスなんだわ・・・っ!

我ながらナーイスアイデアっ!まるで草原の輝きねっ!」

 

セリカは本心でアブネスのことを心配したが、アブネスはそれを全く意に介さず自分の目的を告げる。

このアイデア、アブネスに取っては確かに素晴らしいものなんだろうが、俺たちからすればせっかく決意したのに水を差してくるありがた迷惑なものだった。

また、この時セリカが困惑した顔を見せたのに反応したナインが口元をひくつかせていたので、それを見たハクメンは思わず身構えた。

 

「さぁ、可愛い幼女たちっ!一緒にお手々繋いで遊びましょ~う」

 

アブネスは両手を前に出してロムとラムを歓迎する。

そのアブネスの様子を見たロムとラムは、何かを思いついたようにお互いの顔を見合わせて頷いた。

 

「そんなことよりも私たち、あれで遊びたいな~って・・・」

 

「・・・えっ?そんなのでいいの?」

 

ラムが投影用のカメラを指さしながら提案してきたので、アブネスは困惑した。

どうやらラムの選択はアブネスの予想とは少し違うことだったらしい。現にアブネスはそのままの姿勢で固まっていた。

 

「・・・お願い・・・」

 

「・・・・・・」

 

更にダメ出しと言わんばかりに、ロムが両手を重ねて上目使いの状態で目を潤わせながらアブネスに頼む。

それを見たアブネスはその場で硬直しながら思慮に入った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「ね、ねえ幼女・・・?本当にこれでいいの?もっとこう・・・幼女らしい遊びで・・・」

 

数分後、アブネスは悩んだ果てにロムの頼みを受け入れ、特殊カメラで自身の服装ほぼそのままに、体全体が骸骨のような見た目に投影していた。

専用の空間で自由にのびのび遊ぶものだと考えていたアブネスは、目の前で武装している四人・・・その内幼いロムとラムに問いかけた。

しかし、アブネスの問いに返ってきたのは、ユニがライフルのセーフティを解除する音だった。

 

「・・・え??」

 

「みんな・・・かかれ~っ!」

 

アブネスが何を「する気なの?」とでも言いたそうに困惑していることを知ってか知らずか、ラムの合図で四人の訓練が始まる。

始まってまず最初に四人はアブネスを囲んで畳み掛けられるようにした。

 

「え~い・・・!」

 

「えっ!?ちょ、ちょっと待って・・・!」

 

「容赦しないからねっ!」

 

ロムが魔力を込めた杖をアブネスに突き付け、それを危険だと思ったアブネスは反射的に後ろへ大股で数歩下がる。

その足が止まった所を、ユニがすかさずライフルで狙撃したが、アブネスは体を後ろに逸らしてどうにか避ける。

 

「あいたぁーっ!?」

 

「ご、ごめんなさいっ!」

 

アブネスが姿勢を直したところに、ネプギアの振り下ろしてきたビームソードにあたり、アブネスは思いっきり拳骨を受けたような痛みに襲われる。

これはあくまでも訓練である為、流石に死にはしないのだが、このままだと怪我は免れねえだろうな・・・。

ネプギアはアブネスに対して即座に誤ったが、実戦だとシャレにならないくらいの怪我をするのか、それともそれどころじゃないかもしれないしれないので、本当に訓練で良かったと思う。

候補生が四人でアブネスをボコしている中で、俺たちはその間に説明書を読んでいた。流石に連続でやったらアブネスも持たねえから、代わってやらねえと厳しいだろう。

 

「あっ、コンピューターとの対戦モードがあるですよ♪」

 

「やっぱりあるわよね・・・」

 

「・・・どうするです?止めてあげるです?」

 

読んでいた途中でコンパがそのモードの説明を見つけて、俺たちに見せてくる。

俺たちは一度全員でそちらに目をやって確認し、その中でもアイエフは苦笑交じりに呟いた。

また、これを見たコンパが一度止めてあげるべきかどうか迷い、俺たちに訊いてきた。

 

「え~いっ!」

 

「それ~っ!」

 

「そこっ!」

 

「ごめんなさいっ!」

 

「いっ、痛っ!待ってっ!ひぃっ!きゃあっ!」

 

ネプギアたちの様子を見ると、四人に囲まれてボコられているアブネスの・・・攻撃を喰らうペースが上がっていた。

それによって逃げる速度が上がって、更に殴られる速度が上がる・・・とまあ知らない人が見たらエスカレートしていた。

 

「んー・・・しばらくこのままでいいんじゃない?なんか楽しそうだし」

 

アイエフがそういうのも、アブネスが慌てながらも少し嬉しそうにしてるのがあった。

恐らくは幼い二人と一緒に遊べていることが大きいのだろう。俺たちもその光景を微笑みながら見守ることにした。

 

「くっ・・・。ネバーギブ・・・!幼女アーップッ!」

 

アブネスがタダでは終わらんとちょっと変わった掛け声をしながら突っ込んで行く。

そのアブネスが向かって来るのに合わせて、ロムとラムは杖を振りかぶってバットのようにスイングした。

 

「あぁうっ!?」

 

そして、その杖二つに直撃したアブネスは弧を描いて綺麗に飛んで行くのだった。

また、この直後セリカを困らせたことを思い出したナインがアブネスへ攻撃しようとしたので、ハクメンを筆頭に俺たちが全力で止めた。ことを記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「なあネズミ・・・まさかだが、それしか無かったのか?」

 

「マジでこれだけっちゅ・・・こんなことなら自分で回線持ってくるべきだったっちゅよ・・・」

 

ズーネ地区でマジェコンヌは女神の信仰を落とすために、先程撮った写真をばら撒こうとしていた。

その意を聞いたワレチューはすぐに行動を始めたのだが、現場調達で回線を作らねばならず、しかも調達した回線がアナログな電話回線であった。

そのような旧式の回線では、ズーネ地区だと基本的に圏外になってしまうので、繋がるまで更に時間がかかってしまうのだ。このままでは夕方になるかもしれないとワレチューは踏んでいて、退屈そうに寝そべっていた。

 

「はぁ・・・ここへ来て確認不足が響いたか・・・すまんなネズミ」

 

「まあ、おいらもおいらだから句言えないっちゅけどね・・・。ここはお互い様ってやつっちゅちゅよ」

 

マジェコンヌは溜め息をついてからワレチューに詫びた。

ワレチューはそこまで気にしていなかったので、特に表情が変わったりはしなかった。

 

「・・・まあいい。少なくとも今日の日が沈むまでにできるならいいだろう・・・。

それならば、この二人が目的を果たす時間も残せる」

 

マジェコンヌとワレチューの目的は時間の問題なので対して気にする必要はない。

問題なのはテルミとレリウスの目的で、この場を離れた女神候補生やラグナが戻って来なければ達成できないのだ。

特にレリウスの場合は女神候補生が変身でも出来ない限り果たせないため、非常に条件が厳しいものだった。

 

「ふむ・・・此の状況ではこれ以上を望めぬか・・・」

 

アンチクリスタルの結界に捕らわれている女神を見ながら、レリウスは落胆しているようなことを言う。

彼にはすまないが、マジェコンヌたちは我慢してもらうしかなかった。

 

「そうだなぁ・・・暇だしちょいと訊いておくか・・・レリウスも気になるだろ?」

 

「ああ。気にはなる」

 

テルミは忘れぬ内に訊いておきたいことがあり、それを訊く前にレリウスへ同意を求めて見ると、レリウスは同意した。

それを聞いて満足そうに頷いたテルミは、女神たちを捕らえている結界の方へ歩み寄った。

 

「なぁ。女神ってんだからこの世界に詳しいんだろ?そんなテメェらに一つ聞きてえことがあんだけどよぉ・・・」

 

「・・・何を聞きたいの?」

 

歩きながらテルミは彼女たちにはっきりと聞こえる声で話しかけ、それを不思議そうに思ったノワールが問い返した。

その問いに答えずにテルミは歩を進めて、結界の傍まできたところで足を止める。

 

「この世界の『蒼』の在り処・・・それを教えてくんねえかな?」

 

テルミは嗤いながら訊いてきたことに、四人は驚きのあまり言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えばラグナ、あなた『イデア機関』が破損してるって言ってたわよね?」

 

「ん?確かにそう言ってたが・・・どうした?」

 

時間は昼を回って少ししたくらい。体の調子は大分良くなって来たが、それでもまだ心許ない気がする。

そんな中で、俺に『イデア機関』のことをナインが訊いてきたので、不思議に思って訊き返した。

 

「私が状態を確認してもいいかしら?もしかしたら、一時的に使えるようにできるかもしれないわ」

 

「・・・本当か!?それなら頼む。一回でも使えるなら願ったりだ」

 

「ええ。それなら、早速だけど左手を出してちょうだい」

 

ココノエの母親で事象兵器(アークエネミー)を生み出したナインなら、できてもおかしくねえな。

ナインの知らせに喜んだ俺はすぐに左手を前に出し、それを手に取ったナインが魔法を使って左手のチェックを始める。

すると、まるでモニター代わりのように、蒼い縦長の画面が俺の左手の上に映し出された。

 

「・・・どうやら中核が破損してるようね・・・これが原因で動かなったと・・・」

 

「聞いた感じすげえ大事な場所が壊れちまってんだよな?」

 

「ええ。ただ・・・幸いなことに他の部分はどうにか生きているわ・・・」

 

ナインが出してくれたモニター代わりの画面を見てみると、手の甲辺りにある円がヒビだらけになって、軽く円の形がずれていた。

これを見れば流石にこういうことをよく知らない俺でも、ヤバいって言う事くらいわかってしまう。

ただ、ナインが言うには他の部分は生きているらしく、その円の部分以外は軽いヒビが入っていたりするが、形はずれたりしていなかった。

一通り確認を終えたナインは安心したかのような顔をしていた。

 

「でもこれなら、完全には無理だけどその場凌ぎの直しならできるわ・・・。あんたはその場凌ぎの修復でも大丈夫?」

 

「平気だ・・・。あいつらをちょっとでも助け易くなるなら、それに越したことはねえ」

 

俺はナインの問いに対して迷わず首を縦に振った。

完全じゃないなら直さないって言って、それでテルミに勝てず、あいつらを助けられねえなら意味がない。なら少しの可能性に賭ける・・・俺はそうしてきたんだ。『エンブリオ』の時も、そしてこれからも・・・。

 

「分かったわ・・・。なら今から魔法を使って強引な修復を行うから、少しの間じっとしてて」

 

ナインはモニター代わりの画面を消して、右手から白い光を発生させて俺の左手に当てる。

少しずつではあるが、左手の甲の中で何かがはめ込まれていくような感じがした。

 

「あんなのやってて楽しいのかしら・・・?」

 

一方で、ネプギアたちは四人でエンシェントドラゴンを相手に戦闘の訓練をしていた。

十分な打撃を与えづらい状況下、ユニがライフルで牽制し続け、注意が逸れたところでラムとネプギアが手に持っている武器で攻撃する。

また、この後来るエンシェントドラゴンの攻撃は基本的に避け、その攻撃によって生じる余波はロムが杖から発生させた防御方陣で皆を護る。

セリカとコンパに治療してもらいながら、アブネスはどうして四人が頑張っているかがわからないようだった。だが、俺には解る。いや、俺だけじゃない・・・ナインやセリカ、そしてハクメンも。どうしてあいつらが頑張るかが分かっている。

ただ、それを伝えるのに直球過ぎるは良くねえだろうから、少し間を置いた話し方をする必要があるだろう。

 

「・・・そうだな。例え話だが、お前がロムやラムと同じくらいの歳だったとする。

そんな歳で家族と解れなきゃいけないって言われたら・・・お前は普通に遊んでられると思うか?」

 

「あっ・・・そうね・・・。確かにそれは無理ね・・・」

 

俺に言われたアブネスはハッとしてから沈んだ表情になる。

幼年幼女の味方と名乗ってここに気づけなかった自分を情けなく思ってるんだろう。

 

「まあ、その辺は仕方ねえよ・・・。お前にとっちゃあの二人を死地に送り込むようなもんだからな・・・。

でも、あいつらは自分の姉ちゃんを助けたいからこの道を選んだ。だったら、それを応援するって形でも幼年幼女の味方とやらをできるんじゃねえの?」

 

「・・・!そっか・・・そうかも知れないっ!」

 

あの二人限定になっちまうけどなと俺は付け足して自分の意見を話してみる。俺と違ってあいつらは取り返せるからな・・・。諦めねえなら手伝ってやりたい。

そんな気持ちを話してみたら、アブネスは新しい道を見つけたと言わんばかりに顔を明るくさせた。

 

「よーしっ!そうならワタシも・・・ってあだだだだっ!?」

 

「きゅ、急に動いちゃダメですよっ!?包帯がアブネスちゃんを絞めちゃうですぅっ!」

 

アブネスは立ち上がって行動しようとしたが、包帯を巻いている途中であることを忘れていたらしく、左腕に巻かれていた包帯の一部がアブネスをきつく絞めてしまった。

それを見たコンパが慌てて包帯を緩めながら注意するのだった。コンパが現場慣れしてる人で良かった・・・。ノエルの場合夢中になって包帯巻きすぎたりしてたからな・・・。

 

「あはは・・・思い立ったが吉日って言う言葉もあるけど、怪我してるんだから治ってからにしよう?ね?」

 

「・・・そうする」

 

「す、すまねえ・・・完全に俺のせいだ・・・」

 

セリカが苦笑交じりに提案すると、アブネスは渋々受け入れながらゆっくりと座る。

・・・多分、さっきの包帯が応えてんだろうな・・・。俺はナインに制止を言い渡されてるので、顔を落として謝る。

そして、そのままセリカとコンパはアブネスの治療を再開する。

 

「例えお前の言う幼き存在の意思でなかろうと、我らが助けに行くのは変わらぬ・・・。

あの四人が共に行く以上、命に別条が起きぬよう保証はしよう・・・それなら構わぬだろう」

 

「・・・特に幼女二人は傷無しでお願いするわ」

 

ハクメンが出した案にアブネスはいかにもアブネスらしい注文を加え、それを聞いたハクメンは「努力はしよう」と答えた。

その一方で、エンシェントドラゴンと戦っていたネプギアたちだが、その戦いに決着の時が迫ってきていた。

 

「これで・・・終わりですっ!」

 

ユニの牽制によってできあがった隙をついて、エンシェントドラゴンに肉薄したネプギアがビームソードを右から斜めに振り上げる。

その攻撃は繰り返し攻撃して、傷が深くなっていたエンシェントドラゴンの腹に命中し、その攻撃が致命傷になったエンシェントドラゴンは光となって爆発を起こした。

四人はこの短時間で、協力込みでもエンシェントドラゴンを倒せるくらいに力をつけたのだった。

 

「凄い・・・もうこんなに強くなってる」

 

「いえ・・・まだです。まだ私たちは・・・」

 

セリカは純粋に称賛するが、ネプギアは・・・引いては四人共この結果に満足してないようだ。

とは言うのも、ネプギアたちの特訓の目的は変身を身につけるためであり、ただ強くなるだけではないからだ。

・・・変身だけを見た場合はどうも特訓の目的がずれている気がしなくもないが、この四人はしっかりと自分の姉ちゃんを助けたいから、成功率を上げる為に変身できるようにすると言う、しっかりとした理由があるから平気だ。

その副次効果で素の戦闘力も上がっているのだが、勿論この四人は満足しない。最大の目的が達成されてないからだ。

 

「おっと・・・!どんどん精度が上がってやがる・・・。相手に回したくねえな・・・」

 

「いや・・・こう見えてギリギリよ。そろそろ休憩を挟まないと・・・」

 

また、更に奥ではナオトとアイエフがドライブコントロールの練習をしていた。

最初は手元や足元のコントロールから始めていたのも、今は狙い通りの場所に風を飛ばす練習をしていた。

それが現在はナオトの体半分を捉えられるくらいにまでは精度が上がっていたが、慣れないと結構な疲労が起こるらしく、この世界で初めてドライブ能力を得たアイエフは予想以上の精神疲労に参っていた。

アイエフのドライブはレイチェルと似ていて、用途も広いし、使用できる距離を選ばないから覚えることも多い・・・。更にコントロールが難しいから集中力が多く必要になると・・・肉体よりも精神の方が大変になってしまうものだった。

 

《もう少し気を落ち着かせるといいわ。そうすれば、より精度が上がるはずよ》

 

「ありがとう。次はそうやってみるわ」

 

ラケルは精度の上昇で気持ちが高ぶっていると踏んで助言する。それは案の定当たっていたらしく、アイエフは素直に受け入れた。

そして、アイエフとナオトが休憩をはじめたところで、俺の左手から何故かガチャンと音が鳴り、ナインとハクメン以外の全員がビックリして俺の左手を注視する。

ナインは何が起きたかを教えるかのごとく、再び俺の左手の甲の上に縦長のモニター代わりの画面を映し出した。

すると、そこには先程とは違って、円の部分はヒビが残っていながらも円の形のずれは直っていた。

 

「よし・・・。待たせたわね。これで一時的な修復は完了よ」

 

「悪いな・・・助かる。ところで、何回くらい使えるんだ?」

 

ナインは修復が終わったことを告げて俺の左手から手を離し、それによって左手が自由になった俺は左手を開閉させながら訊いてみる。

俺としちゃあ、テルミを追い返す為に一回だけでも使えればいい方だが・・・。それでも、多く使えるに越したことはないと思ってもいた。

 

「そうね・・・最低でも一回。良くて三回は使えるでしょうね」

 

「そうか・・・。なら、三回(・・)だな」

 

「・・・ちょっと!?私は良くて三回(・・・・・)と言ったのよ!?何でそんなあっさりとそう言えるわけ?」

 

ナインの答えを聞いて確信した俺はそう言うが、やはりと言うか何というか。ナインが驚きながら訊いてきた。

まあ・・・普通はそうなるよな。それで二回までだったりしたら勝手に失望するクソ野郎とかってなったら最悪だもんな・・・。

現に俺の発言を聞いた全員が驚いている。『スサノオユニット』の影響で顔に出ないハクメンですら、僅かに首を動かしていた。

 

「何でってそりゃ・・・。お前がココノエの親ってのもあるが・・・それ以上に、暗黒大戦時代に俺との無茶な約束果たしたお前だぜ?そんなすげえ奴が・・・『大魔導士』って呼ばれるくらい魔法の扱いが得意な奴が直したんだ。信頼しねえはずねえだろ?」

 

これは紛れもない俺の本音だ。実際のところ、これがどうだったかは把握する余地はないが、ナインが作った『レクイエム』によって生み出された硬化時間の残りが三時間と言われた時も、間違いなく三時間だったと確信している。

把握する余地が無かった理由として、ナインはその時には『エンブリオ』から去っていて、ココノエも途中で魔素に還ってしまったからだ。

他にも、あの時はココノエが作った物や計算した結果の殆どに狂いが無かったことがあったが、今回は非常に魔法の扱いに長けたナインが魔法を使っての修復であったからというのがある。

そして、それを聞いたナインは一瞬キョトンとした顔を見せてから、思いっきり噴き出して大笑いした。

 

「なるほどね・・・。それなら信頼されてもおかしくないわね」

 

そう言って納得するナインの顔は、セリカが大好きだと言っていたナインの顔になっていた。

そのナインの顔を見たセリカも、本当の意味で大切な人の一人が戻ってきたと笑顔になった。

 

「あんた・・・いい意味で馬鹿だな」

 

「・・・あ?ちゃんと理由持ってんだから馬鹿じゃねえだろ?」

 

ナオトが褒めてんのかどうかはわかんねえが、『馬鹿』って単語にイラついた俺はついつい反応してしまった。しかも喧嘩腰で。

 

「おい?いい意味って言っただろ?ちったぁ人の話し聞けよ?」

 

「んだコラ・・・。どうであれテメェが馬鹿っつったのに変わりはねえだろうが・・・」

 

どうやら馬鹿にして言っていたようではないらしいのだが、やはり馬鹿っつわれたのは引っ掛かる。

それが原因で素直に受け入れられなかった俺は、更にそこを引き合いに出してしまった。

 

「んだよ?せっかく人が褒めたってのによぉ・・・」

 

「言い方ってもんがあんだよ・・・。それとも何だ?やんのかコラ?」

 

「・・・ああ?テメェこそやんのか?」

 

そして、俺たちは互いに近づいて頭をぶつけて睨み合いながらその頭を押し合う。

・・・前にジンとやった時もあったが、そっちとはどうも違う。似て非なるって奴だろうか?

とまあ、そんなことをやってたら、ネプギアたち候補生が止めるべきかどうかでオドオドしていた。

コンパは苦笑交じりに、ハクメンとアイエフ、ラケルは飽きれ半分に見ていた。

 

「ああっ!二人共喧嘩はダメだよっ!今はそれよりも大事なことがあるでしょ!?」

 

「あ、ああ・・・悪いなセリカ・・・」

 

「その・・・何だ・・・つい熱くなっちまった・・・悪いな・・・」

 

セリカが間に入って制止をかけ、俺とナオトは歯切れ悪く謝った。

ただ・・・ここまでは良かったのだが、その瞬間に物凄い殺気を感じて俺たちは恐る恐るそっちを振り向く。

するとそこには、自身に炎の魔法による熱気を纏わせているナインがいた。

 

「「・・・!?」」

 

「あんたたち・・・。セリカをよくも困らせたわね・・・!」

 

「ま、待て・・・!早まるなナイン・・・!」

 

「おいおい・・・確かに迷惑かけたのは悪いけどよ・・・そこまでやるか?」

 

俺とナオトは冷や汗で背中がびっしょりになりながら弁明と制止の声をかける。

ちなみにセリカは久しぶりにマジギレしたナインを見た反動か、青ざめて竦んでしまっている。

 

「問答無用・・・!セリカを困らせた罪を思い知らせてやるわ!」

 

「ナインよ、落ち着けッ!ここで火を放ってはならぬッ!」

 

ハクメンが腕を抑えて説得を試みたが、全く効果を成さないまま十秒以内にナインはその拘束を逃れた。

そして、それによって死の恐怖を感じた俺とナオトは、セリカを巻き込まないことも含めて全速力でダッシュして教会内を逃げ回り、ナインに教会内を追い回されることとなった。

 

「えっと・・・私たち、どうしましょうか?」

 

《十分に休めてるならドライブ練習の再開と行きましょう。さっき言ってたコンピューターとやらを使えば、最悪一人でもできるわ》

 

「確かにそうね・・・。それならやってみましょうか」

 

また、俺たちがそうして逃げ回っている間、ラケルとアイエフを筆頭に、残ったメンバーは時間を有効に使うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「マジか・・・知らねえのか・・・。空振りとは参ったなァ・・・」

 

テルミが『蒼』のことを訊いてから幾分か時間が過ぎ、四人から聞いたテルミは落胆の声を上げた。

彼女たちから聞き出せたものとして、前の世界での知識とほぼそのままをラグナから聞いた程度で、向こうも向こうで捜索中で、場所は一切解らないらしい。

・・・正確には『蒼の守護者』となっているラグナと共に『蒼の門』を彼女たちは探しているのだが、それを見つけた場合は自然と『蒼』に辿り着くので、テルミは彼女たちよりも先に見つける必要がある。

 

「最悪はラグナちゃんから奪うべきか?どっちにせよ、俺様が『門』を見つけちまったらラグナちゃんは強制的に俺様の所まで来るからな・・・」

 

『門』にたどり着けばそこでもラグナと戦う。確かにラグナを倒しはしたいが、欲しいものは楽に手に入れたいテルミとしては非常に面倒なものだった。

『蒼』を手に入れる為にラグナを倒すのは必須条件。自身の目的を二重で果たせるから一石二鳥というべきか、最大の目的の前に『最大の目的(最大の障害)』があるのは面倒だというべきか。今のテルミはそんな複雑な状況に置かれていた。

・・・何ならハクメンちゃんが来た時に躰取り返すか?そんなことを考えていたら、ワレチューの用意していた回線から鳴る音に変化が現れた。

 

「おっ、オバハン!繋がったっちゅよっ!」

 

「繋がったか。よし・・・ネズミ早速始めてくれ」

 

「了解っちゅ」

 

ワレチューの言葉を聞いたマジェコンヌはすぐに実行を頼み、ワレチューは即座に作業を始める。

―レリウスの研究の足しになれば二度美味しいな・・・。マジェコンヌはそう呟きながらほくそ笑む。

そのレリウスはと言えば、イグニスの状態を確認していた。一通りの観察が終わってしまったのだろう。そうなれば候補生たちが来るのを待つしかないため、暇をさせてすまないなとマジェコンヌは思っていた。

 

「おーいっ!・・・マザコングだっけ?何始めるのーっ?」

 

「・・・誰がマザコングかっ!」

 

ネプテューヌのふざけた聞き方にマジェコンヌは怒鳴り返す。

―何故こいつらはこうもぶれないのだ?マジェコンヌは疑問に思ったが、一度冷静になって考えればいくらか要素は考えられた。

まず初めに『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』。テルミ曰く、この男は異様なまでに諦めが悪いそうだ。奴らはギリギリでもその男が来ることを信じているのだろう。

もう一つはハクメンが健在であり、彼の仲間であるナインと呼ばれた女性が戻って来ると言っていたこと。この二人はテルミが用意していた策の中でも平然と動いていたため、非常に厄介だ。潰すならまずこの二人だろう。

最後の一つは・・・あのナオトと言う少年との約束だろう。自分が来るまで死ぬな。言葉だけでは簡単だが、いざ実行すると難しいそれを、この女神ども(四人の小娘)はやりきろうとしているのだ。

そこまで考えて、マジェコンヌは面倒だと思ったのと、こいつの言うことをこれ以上気にしたら負けだなと思って溜め息をついた。

 

「まあいい・・・それよりもお前たち、先程ネズミが写真を取っていたのを覚えているか?」

 

「・・・写真?っ!まさかだけど・・・!」

 

マジェコンヌの問いにブランは一泊置いてからハッとして慌てる。

実際に実行されたら、自分もそうだが、ここにいる四人全員・・・下手をすれば妹たちまで被害が及んでしまうからだ。

 

「ブランまさかですけど、あの方は・・・」

 

「フフフ・・・その通りだ。今からその時の写真を全世界にばら撒く・・・。そうすれば、お前たちのシェアが低下すると言う算段だ・・・」

 

ブランに確認を取ったベールにはマジェコンヌが代わりに答えた。

女神たちが捕らわれている・・・。つまりは敗北している姿だ。それを見たらどれだけの国民が失望するだろう・・・。

それを考えた彼女たちは体が震える。

 

「ほう・・・此れは固定観念に囚われている人と似た反応・・・中々面白い反応をする魂だな」

 

「ん?研究の再開か?」

 

いつの間にかイグニスの調整を終えたレリウスがこちらに歩み寄って来ながら呟いたのを聞き、マジェコンヌは問うた。

これでレリウスの研究が進むならこちらとしても一安心ではある。マジェコンヌにはそんな少しばかりの期待があった。

 

「ああ・・・。あれを撒くのであれば、時期に『蒼の男』たちも戻って来るだろう。

今のうちに其のシェアエナジーの変動によるデータを取っておかねばな」

 

「なるほどな・・・」

 

―それならば納得だ。マジェコンヌは涼しい笑みをしながらズーネ地区から沈み始めている夕日を眺める。

 

「さあ・・・。小娘の妹たち・・・そして、『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』の一行どもよ・・・止められるものなら止めて見せるがいい」

 

マジェコンヌは勝ちを確信したような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

時刻はもう日が沈んでしまって夜になった。アブネスはあの後「絶対に幼女を死なせるな」と言い残して帰っていった。

俺の方は『イデア機関』の限定的な補修が終わったのでもう大丈夫だ。三回もあればテルミを追い払い、レリウスかマジェコンヌを止めて皆を助ける分の回数はある。

アイエフの方も、ドライブ練習が大分効果を出していて、基礎自体はほぼ完成していた。今日はもう遅いからやるなら明日と言う形で今は休憩をはさんでいる。

ナインはアイエフから覚えている限りのモンスターの情報を聞いている。恐らくは準備ができた時の動き方を考えるのだろう。

これだけやってはいるのだが、候補生四人の変身は未だに習得出来てはいなかった。今はこの中で比較的動けて最も素の能力が高いハクメンが相手を務めているが、それでもまだダメだった。

 

「・・・一度此処までとしよう。休息を挟みまた試そう」

 

「ま、待って下さいっ!アタシは・・・いいえ、アタシたちはまだやれますっ!」

 

ハクメンはそう言って『斬魔・鳴神』を鞘に納めようとするが、そこをユニが食い下がる。

ユニの言った言葉は嘘ではなく、皆が強い意志を持って頷いていた。それを見たハクメンはそのままの状態で数瞬悩んだ。

 

「・・・良いだろう。ならばもう一度・・・」

 

ハクメンが言い切る前にドアをノックする音が聞こえ、そのドアが開けられる。

開けてきたのはチカだった。

 

「ごめんなさい。

準備をしているところ申し訳ないのですが、緊急で連絡をしに参りましたわ。詳しくは・・・こちらをご覧になってくださいまし」

 

「・・・!おい、これって・・・」

 

チカが手に持っている携帯端末に写っているものを見て、俺は驚きを隠せなかった。

 

「ラグナ・・・この写真がどうかしたの?」

 

「ああ・・・昨日のズーネ地区であのネズミが撮ってた写真だ・・・まさかだが・・・」

 

「ええ。数時間前に、この様な写真がばら撒かれたのですわ。このままだと、準備をしている間にシェアが下降し続けてしまいますわ・・・」

 

その写真はネプテューヌたちがあのコードに捕まっていた時の写真だった。

これが撒かれてしまった以上、もう俺たちに準備をしている余裕などなかった。

 

「そうなれば行くしかないか・・・。それならすぐに行きましょう。向こうでの行動は移動しながら話すわ」

 

ナインの提案に皆は迷わず頷いた。それを見たナインはすぐに身を翻してチカに一言言おうとする。

 

「あっ、お姉ちゃん。一つだけいい?」

 

「?どうしたのセリカ?」

 

その時セリカがナインに声をかけたのでナインはそっちを振り向く。

俺とハクメンはセリカがどうしたいかはもう解っていたから互いがひそひそ話できるくらいまで近づいた。

 

「セリカが行きたいっつったらナインは止めるだろうけど・・・お前はどうする?」

 

『ナインが言ったところで、セリカ=A=マーキュリーが止まらんのは目に見えている・・・。ならば、我らで護るのみだ』

 

「・・・やっぱりそうなるか。・・・ただ、ナインのこともあるし、俺は一旦制止をかけて見るわ」

 

一応、周りの皆にこの話は聞こえていない。ハクメンは俺の頭の中に話しかけ、俺はハクメンにしか聞こえない声で話したからだ。最早セリカだから仕方ないと言う回答に、俺も苦笑交じりに同意するしつつも、試すことを選んだ。

話しているうちに、セリカは少し悩んでから決意を固めた表情に変わる。

 

「お姉ちゃん・・・私も連れていって」

 

「っ!?セリカ・・・!?あなた本気で言ってるの!?」

 

俺とハクメンに取ってここまでは予想通りだった。セリカがこう言えばナインが驚くのは目に見えていた。

セリカは自分にできることがあるなら絶対にやると言うし、ナインはセリカを巻き込まないで済むならそうするし、仮にセリカが自分から入りに行くなら止めようとする。それは暗黒大戦時代でも変わらないものだった。

もし目の前にいたのがナインの娘であるココノエだった場合、セリカの意見は基本的に通るだろう・・・。だが、目の前にいるのはナインだ。しかもようやく面と向かってセリカと再開できたばかりだ。反対しないはずがない。

 

「うん・・・だってお姉ちゃん。ネプギアちゃんたちが変身できること前提で考えてたでしょ?その前提が崩れちゃったなら、一人でも多くの人が必要じゃないの?」

 

「確かにその通りよ・・・確かにあんたがテルミ相手に有効策だって言いたい気持ちはわかる・・・。でもねセリカ。あんたの魔素を封じる力はラグナに届いて無い・・・。そうである以上、テルミ相手に有効かは解らないし、そのまま行けばテルミに殺される危険だってあるわ」

 

ナインの言うことは最もだった。あの世界のままであった場合、俺の『蒼炎の書』やテルミの『碧の魔導書』は、セリカの周囲にいた場合は魔素の塊である為、全く機能しなくなる。

特にテルミの場合は全身が『碧の魔導書』である為、セリカの近くにいるだけでも相当危険な状態になる。

これは体の右半分や全身が魔素を使う物になっている俺やテルミは致命的なレベルになるが、他の人は体自体に大した影響は起きない。ただ、それでも魔素が関わってくる術式やドライブの使用には弊害が出て来て、カグラはアズラエルと戦っている最中にかなり危ういことになっていた。

とまあ、向こうの世界では非常に影響の強いものだったが、今はどうだ?俺はセリカの近くにいても全く影響が出ていない。それどころか動きやすさすら感じてしまう有様だった。

ベールから5pb.によるライブ直前の時、『5pb.の歌は善き人に力を与え、悪しき人の力を抑える効果がある』とは聞いていた。セリカがその力を持っている保証があるならまだセリカは簡単に押し通せたんだが・・・生憎それを聞いた時は俺だけだった。

 

「でも・・・っ!やってみないと分からないよっ!お願いお姉ちゃん・・・私、何もしないで諦めるなんて嫌だよ・・・」

 

「馬鹿言わないでっ!セリカ・・・私はもう二度とあんたを死なせたく無いの・・・その私が、あんたをそんな危険な場所に行かせると思う?第一、あんたは戦う術を持ってないのよ?とても連れていけるものじゃないわ・・・」

 

セリカがああ言えばナインはこう言う・・・。その様子を見ていた皆が啞然として何も言えないでいる。

この空気の流れを変え、どちらかに傾かせるのであれば俺かハクメンしかいなかった。そして、俺たちは顔を見合わせて頷き、俺が前に出ることにした。

 

「落ち着けお前ら・・・時間がねえんだから・・・。

セリカ、お前の言い分も確かに分かるよ。お前の諦めの悪い所は俺と似たようなものがあるからな・・・。

けど、ナインのことも少しは考えてやれよ・・・。前にも言ったが、暗黒大戦時代の時だってお前がいなかったらナインは縋るもん・・・自分の中にある最大の目的行動理念が無くなって挫折してたんだからよ・・・。

それに・・・今回は暗黒大戦時代の時や、カグラたちとの謀反の時とも違って、お前が無理に何かしなきゃいけないなんてもんは何もねえんだ・・・。俺だってどっちかと言えばナイン寄りの考えだ。巻き込まれないで済む奴がいるならそいつは巻き込みたくねえ・・・」

 

今回割って入ったのは俺だった。ハクメンはもしセリカを連れていくことになった時の最後の押しをするからだ。

俺はもちろんセリカを巻き込まないようにすることを選んだ。ナインの言う通りで、『イデア機関』無しの俺がセリカの近くで普通に動けちまってるんじゃとてもじゃないが連れて行ける保証がなかった。

実際に行った先にテルミ相手に効かなかったら、もう手遅れだからな。そうならない為には連れてかないが一番だ。

 

「ラグナ・・・。ううん。やっぱりそれはできないよ・・・。確かにお姉ちゃんが私のことを大切だと思ってるのは分かる・・・。

でも、私も同じくらいにお姉ちゃんや皆が大切なの・・・。その人たちが頑張ってるのに、私だけ何もしないなんて・・・そんなの納得できないよ・・・。

それに、ネプギアちゃんたちは今回、ラグナと同じ思いをするかもしれないんだよ?それなのに手伝わないはずがないでしょ?」

 

「セリカ・・・お前・・・」

 

「あ・・・あの・・・一つ、よろしくて?」

 

『?』

 

セリカを助長させるものが何もないからセリカを止めることを選んだのだが、それが平行線になってしまってキリがない状態になるどころか、セリカに負けかける。

そんな時に、チカが恐る恐る手を挙げながら遮ったので皆がそっちを振り向く。

 

「実は、今朝から5pb.の歌と同じ力を常に出している反応が気になって探していましたの。そして、その反応の正体が・・・」

 

チカは説明をしながらゆっくりとその細い人差し指をセリカに向けた。

 

「セリカちゃんでしたの・・・」

 

『・・・ええ!?』

 

チカの回答にセリカはおろか、ハクメン以外全員が驚き、ハクメンも首が動いていた。

そして、同時に俺もセリカを止める理由がなくなってしまった。

 

「ベールから聞いたけど、確か・・・5pb.の歌って・・・」

 

「ええ。善き人には力を与え、悪しき人の力を抑え込む力がありますわ」

 

俺の言葉を繋げるようにチカが肯定した。こうなるといよいよセリカを止められる材料が無くなってきた。

 

「んで・・・ミネルヴァはセリカの能力を増幅するアンプの役割も持ってるって、ココノエは言ってたから・・・」

 

「・・・ラグナ、あんた!?」

 

「悪い・・・こうなると止められる可能性が殆ど残ってないわ・・・」

 

俺がこれを思い出してしまったことで、本当にセリカを止めることが無理になった。

ナインは驚きと怒りが混ざった目で俺を見る。それに、対して俺は苦い顔で謝罪するしかなかった。

 

「やっぱり私にもできることあるよっ!お願い、お姉ちゃんっ!」

 

「・・・・・・セリカ・・・」

 

「ならば、私たちでセリカ=A=マーキュリーを護れば良い・・・。暗黒大戦時代と同じ様にな」

 

「ハクメンまで・・・。はぁ・・・どうせこうなると思っていたわよ・・・」

 

セリカは完全に活路を見つけたと言わんばかりにナインに懇願し、ナインは苦虫を嚙み潰したような顔になっていた。

そこへ、ハクメンが前に出てきてセリカを補助したことで、ほぼ一人だけ反対であるナインは諦めるしかなかった。

 

「ただ・・・セリカは私が護る。皆には基本、予定通りに動いて貰うわ。

セリカ・・・付いてくるなら一つ約束しなさい。私の言ったことを絶対に守る。これができないならすぐに転移魔法でここまで送り返すから。いいわね?」

 

「・・・うんっ!ありがとう、お姉ちゃんっ!」

 

ナインはセリカに指さしながら聞くと、セリカは礼を言いながら頷いた。これでセリカも参加することが決まった。

 

「・・・・・・」

 

「うんっ!ミネルヴァ、一緒に頑張ろうねっ!」

 

ミネルヴァの念を感じ取ったセリカはまた笑顔でミネルヴァに返すのだった。

 

「長引いてしまったわね・・・。それじゃあ、そろそろ行きましょうか。さっきも言ったけど、やることは向こうで話すわね」

 

ナインの確認の言葉に反論する人は誰もいない。ああなった以上、最早一刻の猶予もないからだ。

 

「それじゃあ、行ってくるわね」

 

「ええ。お姉さまたちのこと、よろしくお願いしますわ」

 

ナインの一言を聞いたチカは女神たちのことを託して頭を下げる。

それにナインは頷いてから俺たちを促し、俺たちは部屋を後にして移動を始める。

 

「ラグナさん・・・」

 

「・・・ん?」

 

その途中でネプギアに声をかけられた俺は一度そっちを振り向く。

何やら不安そうな表情をしていた。

 

「私たち・・・お姉ちゃんたちを助けられるでしょうか?」

 

変身ができないことが引っかかっているのだろう。それで自信が持てないのが予想できた。

俺はそんなネプギアの頭に自分の右手を乗せてやる。

 

「心配すんな。絶対に助けられる・・・。それに、できるかどうかじゃなくてやるんだ。成功するかどうかがわかんなくて、始めから諦めてそこまでなんて・・・お前も嫌だろ?」

 

「そうですね・・・。すみません。考えすぎてました」

 

ネプギアの表情が少しずつだが明るさを戻していく。それがいいかどうかはよく解んねえが、少なくとも沈んだままよりはずっといいだろう。

 

「ならいいけどよ・・・。ほら、そろそろ行こうぜ」

 

「・・・はい。ラグナさん」

 

途中で立ち止まっていたので、俺たちは最後に部屋を出ることになった。

やることはやったから、後は助け出すだけだ・・・。

 

「(もう少しだけ待ってろよ・・・。絶対に助け出してやるから・・・)」

 

俺は外に出るまでの間、気づかず拳をきつく握りしめていた。




割とナインが会話で結構なウェイト持って行ってますね・・・。戦闘もできて頭も回るから仕方ないっちゃ仕方ない面はありますが・・・。

ぶっちゃけた話、『イデア機関』の破損は女神四人をあっさり助けることが起きないようにした予防措置に近いですね・・・(汗)。
後、ミネルヴァが久々に会話に入りました・・・。
忘れてたわけじゃないんですけど、どうしても入れる枠がなくなったり、ここ入れづらいなとなって入れるの断念してたりしたらいつの間にかこんなことになっていました(笑)。

次回ですが、恐らくアニメ4話分の最後まで行くかと思います。

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