超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER- 作:ブリガンディ
前回、アイエフのドライブ名を提案してくれた方本当にありがとうございました。
前回触れ損ねたことですが、ブレイブルーの最新作が遂にプロモーションムービー出ましたね。残りはDLCって事ですが大丈夫か不安です・・・。
ブレイブルー側ですら10キャラしか出ていないというのに、ガンダムバーサスのDLC商法が記憶に新しい私としては不安でなりません。
また、10周年記念サイトの方で人気投票の中間発表が出ました。
ラグナが現状1位で、ハザマ、テルミの順で2位3位と来てましたね。4位はジンとここまではこいつら絶対来るなと思ってたので安心したのもありますね。
ラグナ1位なのは嬉しかったです。
個人的に意外なところでは5位のヒビキでしょうか。インパクト強い他のキャラを抑えてここまで上がったのはさすがだと思いました。
残りは6位から順にマイ、ノエル、セリカ、ニュー、Esの順で、よく見ると上は男性五人で下は女性五人と綺麗な形になってますね(笑)。
さて・・・長くなりましたが、本編の方、どうぞ。
「着いたわよ!」
「ここか・・・!もう少しだからな!踏ん張ってくれよっ!」
ナオトたちはリーンボックスの教会前にたどり着いた。
たどり着いたことでどうにかこの場を乗り切った為、ラケルはアイエフから離れ、再び黄色い光の球となってナオトの傍で浮かぶ。
するとアイエフの数値は焦りがあるのか、『10681』に上昇していた。
《急な頼みを呑んでくれて感謝するわ。貴方の躰、とても動きやすかったわ》
「それはどういたしまして・・・。それよりも急ぎましょう。こっちよ!」
「分かった!・・・悪い!緊急だから入れてくれッ!」
ラケルの礼にアイエフは世辞で返しながらナオトたちを促し、教会の中へ入る。
また、この時ホームパーティーのメンバーにナオトは入っていなかった為、ラグナの搬送を理由に無理矢理入れさせてもらった。
ドアの前で待機していた衛兵は困惑していたが、アイエフが協力を頼んだという形で事情を話したことでどうにか納得してもらえた。
そして、そのまま中を進んで行き、女神たちが飛び立った部屋にたどり着いたところでアイエフはドアを勢い良く開けた。
「アイちゃん・・・?どうしたですか?そんなに慌てて・・・」
「コンパ・・・いきなりで悪いんだけど、急いで応急手当の準備をお願い!」
「は、はいですっ!」
「私も手伝おっか?人は多い方がいいでしょ?」
「ええ。寧ろお願いしたいくらいよ・・・。こっちよ!急いで!」
アイエフは困惑するコンパと自ら申し出てきたセリカに頼むやすぐにドアの方へと声を掛ける。
その表情からはコンパの指摘通り焦りの色が見えていて、余程の緊急事態であることが伺える。
《ナオト、もう少しよ!頑張りなさい!》
「分かってるよ!もうちょっとだけ我慢してくれよ・・・!」
アイエフの声に答えるように二人の声が聞こえる。
一人はアイエフと殆ど同じ声。もう一人はセリカを省いて始めて聞く声だった。
「えっ・・・?二人目の声ってもしかして・・・」
セリカは少年の声を聞いて思い返す。『エンブリオ』の中で人探しと言う共通の目的を持って、短い間共に行動した少年のことを・・・。
そして間もなく入ってきた少年は、セリカが思い返していた少年その人だった。その少年は傷だらけのラグナを抱えていた。
「やっと着いたッ!この部屋でいいんだな!?」
「ええ!そこにソファがあるから寝かせてあげて!」
「ソファ・・・あれか!」
ナオトはアイエフに言われた通りの場所までラグナを運び、ソファで寝かせてやる。
この時、再び『狩人の眼』で数値を確認してきたが、ラグナの数値は『8005』へと下がっていた。
「え・・・?ラグナさんが、二人?」
「ん?ああ・・・またこのパターンか・・・俺はラグナじゃねえぞ?俺は・・・」
ユニの質問に答えようとしたナオトの言葉は、次に発したセリカの言葉に遮られる。
「・・・ナオト!?ナオトもこっちに来てたの!?」
「えっ・・・!?お前セリカか!?・・・って、そりゃこっちのセリフだ!自分の姉ちゃん探してこっちに来ちまったってわけでもねえんだろ?」
セリカのみではなく、ナオトも意外な再開に驚きを隠せなかった。
前の世界で人探しという共通の目的を持って共に行動していたが、その最中セリカの世話になっている人の家に行こうとしたところ、セリカとはぐれてそれっきりだったのだ。
「あっ・・・えっと・・・そうだね。私もナオトも、お互いに色々と話さないとね」
「・・・どうやらそうみてえだな・・・でも、その前にラグナを頼む。こいつがこのまんまじゃ皆気が気じゃねえだろ?」
セリカの言葉に頷きながらナオトが促すと、そこには何度も「兄さま」とラグナを呼び続ける『ネプギア』の姿があった。
「っ!わかった!ちょっと待っててねっ!ラグナ!すぐに手当てするから我慢してねっ!」
「ギアちゃん、今からちょっと失礼するですよ!」
「ネプギア、ちょっと我慢してなさい」
「っ・・・はい・・・」
アイエフに体を引き寄せられてネプギアは潔く諦め、セリカとコンパの二人がラグナの治療を始めた。
* * *
ズーネ地区にて、ハクメンはテルミとレリウスを相手に一対二・・・否、イグニスも込みで一対三の苦しい戦いをしていた。
並みならない三人が相手ではハクメンも攻撃に回ることができず、防戦一方の戦いを強いられてしまう。
テルミがバタフライナイフを縦に振るえばハクメンは『斬魔・鳴神』を横に振るって弾き返し、レリウスが隠していた機械の腕が飛んでくればハクメンは左腕から蒼い方陣を展開させて防ぎ、イグニスの攻撃が来れば飛びのいて避け、どうにかやり過ごしていく。
「何・・・ッ!?」
「オラオラどうしたよ?あんだけ御大層なセリフ吐いといてそんなモンなのかよハクメンちゃん!?」
「否、まだだ・・・!」
しかし、それにも限度はあり、直後にテルミが飛ばしてきた碧い炎のようなものに反応が遅れたハクメンはそれをまともに受けて足を滑らせる。
そこに間髪入れずにテルミが碧い炎のようなものを連続で飛ばしてきたのを、ハクメンは『斬魔・鳴神』を何度か振るい、それによって発生する『封魔陣』でやり過ごす。
『封魔陣』によって碧い炎のようなものを防ぐのは良かったが、今度は目の前の視界が塞がってしまい、テルミはいとも簡単に背後を取ってしまう。
「・・・!?」
「
ハクメンが振り返る頃には手遅れで、テルミは左手に準備していた『ウロボロス』の鎖をハクメンに巻きつける。
それによってハクメンは身動きを封じられ、『ウロボロス』と共に軽く宙に持ち上げられる。それと同時にテルミはハクメンに背を向ける。
「気持ちいいだろォッ!?」
「ぐおぉぉ・・・ッ!」
テルミが碧い炎のようなものを体から溢れさせながら腕を胸辺りで交差させると、『ウロボロス』がハクメンをきつく締め上げる。
最後にテルミが腕を外へ振るい、碧い炎のようなものを霧散させると同時に『ウロボロス』の鎖を爆発させ、身動きの取れないハクメンは直撃を受けてしまい、地面に足が着くと同時に二歩後ろに下がって膝をついてしまう。
「ハクメン!もう十分よっ!貴方もここから離れて・・・!」
「御前の言い分も分かるが、既に引き潮の時は過ぎている・・・。ならば、戦うしかあるまい・・・」
「ほう・・・ここまで魂の輝きが増すとはな・・・つくづく興味深いな」
ブランの言葉を受け入れて引き下がりたかったハクメンだが、ラグナたちがこの場から離れだす頃には引き潮の終わりが始まっており、今からでは間に合うものではなかった。
そのため、ハクメンには『斬魔・鳴神』を振るい、耐え忍ぶ事しか残されていなかった。
また、レリウスはハクメンの変化を改めて感じ取り、仮面の下で嗤うのだった。
「おうおう、苦し紛れの選択ってかぁ?楽しませてくれるじゃねえか・・・。
ああ・・・そうだ。なあハクメンちゃん・・・教えてくんねぇかな?」
その選択を見たテルミは嬉しそうに嗤ってからハクメンに向けて危険な笑みを見せる。
「そりゃテメェの『正義』に従っての行動なのか?もう一度聞くが、テメェのその『正義』で何人巻き込まれたぁ?」
「貴様・・・!」
テルミの問いが以前と全く変わらない流れであった為、ハクメンは自然と声に怒気が籠る。
ハクメンに取ってはその先を言ってほしくないことだが、テルミは構わず続ける。今回はその最後の一手に追加できるものを追加するつもりでいた。
「そして・・・その『正義』に従ってェッ!何回こいつと同じ声した『ツバキ=ヤヨイ』は死んだんだぁ!?『ジン=キサラギ』ィッ!」
「ッ!・・・テルミ・・・!貴様ァァッ!!」
「ハクメン・・・あなた・・・」
テルミはわざとらしくノワールを指さしながら煽り立てる。それによって堪忍袋の緒が切れたハクメンは、『斬魔・鳴神』を頭上に掲げてテルミに急接近する。
『斬魔・鳴神』を上から勢い良く振り下ろすハクメンに対し、テルミは咄嗟に取り出した二本のバタフライナイフを交差させることによって受け止める。
ハクメンの怒りを見たノワールは、ただ悲しげな表情と目で見守る事しかできなかった。
そして、この時にマジェコンヌとは正反対の崖の上に・・・つまりはアイエフたちが先程までいた場所に突如として紫色の炎が現れ、それが人の形を作ることでその場に一人の女性が現れた。
「(ラグナたちがいない・・・ハクメンが逃がしたと言う事かしら?
・・・本当なら今すぐテルミを殺してやりたいところだけど、この様子だとそうも行かないわね・・・)」
女性は現在の状況を見て推測を立てる。立てるとは言うが、現状だとこれ以外の推測はあり得なかった。
先程ラグナの様子を確認したところ、教会であろうところに運ばれていたため、ハクメンを連れて戻るならそこへ行けばいいと、退路の準備は出来上がっていた。
自身の持つテルミへ向ける憎悪と殺意に従いたいところではあるが、今はラグナやハクメンから事情を訊いてから対処するべきだろうと考えた女性はどうにかしてその殺意を抑えることに成功した。
「元はと言えば『貴様ら』のした事であろうッ!?『あの日』私に『ユキアネサ』を渡したのも・・・!」
「そうだな・・・確かに『ユキアネサ』を
けどよぉハクメンちゃん・・・。その後カグツチでラグナちゃんを追っかけに行ったのは・・・紛れもねぇ
「テルミ・・・!貴様だけは、今ここで滅するッ!」
ハクメンは自身の体重を『斬魔・鳴神』に限界までかけてそのまま押し切ろうとする。
それを不味いと感じたテルミは、慌てて飛びのきながらバタフライナイフを『斬魔・鳴神』から離すことでどうにかして避ける。
地面に叩きつけられた『斬魔・鳴神』はハクメンの怒りを表すかの如く地面を抉り、それを中心に縦長の小規模なクレーターを作り上げていた。
「オイオイ・・・そこまでやるかぁ?」
テルミが冷や汗をかきながら問うと、その問いにはハクメンではなく違う声が答える。
『当然よ。それだけの自覚、あんたにもあるんでしょう?』
「此の声は・・・」
その声は女性のものだった。その声を聞いたハクメンは周囲を見回す。
声が魔法を使って拡散させた声であるため、近くに必ずいることが解っていたからだ。
更に、その声の主は自身が放った言葉を形にするかの如く、テルミの頭上に魔法陣を現れさせ、巨大な拳をテルミに覗かせていた。
「オイオイオイオイ・・・マジかよ・・・」
『あんたにはこれだけでも足りないくらいよ・・・
女性の掛け声に合わせて巨大な腕は上から真っ直ぐにテルミへと落ちていく。
テルミは飛びのくことでそれを避け、レリウスも余波による二次被害を受けないためにイグニスと共に飛びのいて距離を取った。
「ええい、次から次へと・・・おいネズミ、巻き込まれてはいないな?」
「おいらは平気ちゅよ・・・。そろそろ身が持たなくなってくるっちゅが」
次から次へと起こる予想外の事態にマジェコンヌはイラつき、ワレチューは不安を煽られる。
そして、女性はハクメンの目の前に紫色の炎となって移動し、移動した先で元に戻りながらテルミの前に姿を現した。
「冗談はよしてくれや・・・何でナインちゃんまで来てんの?」
「さぁ?どうしてかなんて、あんたの方が詳しいんじゃないの?」
女性、ナインはテルミの問いに問いで返した。答えは持ち合わせていなかったし、持っていてもテルミに答えるつもりは無かった。
「また一人・・・今度も味方でいいのかな?」
「そうね・・・あなたたちがセリカと一緒にいるのなら、味方という事になるわ。セリカに手出しはしていないようだし・・・」
ネプテューヌの疑問に答えるナインの答えがハッキリしづらいものになってしまったのは、自身が『エンブリオ』で取っていた行動が起因している。
自身の目的が理由で、ラグナやハクメンは元より、その他多くの人と敵対関係を作っていた。
そして、ナインの行動理念はセリカを護ると言う事に殆ど集約されているため、セリカに危害が加わるのなら、女神でも敵対関係になる危険性があるため、迂闊に味方だという答えは出せなかった。
「何でセリカちゃんを知ってるの?」
「・・・此の者がセリカ=A=マーキュリーの姉であるからだ」
『えっ!?』
ネプテューヌの問いにハクメンが答えると、四人は思わず声を出して驚いた。
まさか目の前にいるのがセリカの姉だとは思うまい。ハクメンも彼女たちの反応は十分理解できていた。
一方で、その名を聞いた瞬間テルミは嫌な汗を浮かべた。
「・・・マジかよ。やっぱりルウィーで見た時のアレは見間違いじゃなかったのかよ・・・。
全く最悪だぜ・・・あん時は何とも無かったから平気だと思ったのによぉ・・・この状態じゃわかんねぇじゃねえか・・・」
テルミは狼狽とも言えるくらい慌てていた。彼にとってセリカの持つ能力はそれほどまでに驚異的だからである。
「さて・・・ここに長居するわけにもいかなそうね・・・ハクメン、ラグナたちはあんたが逃がしたってことで間違いない?」
「違いはない・・・。先程落ちてきた少年に彼らを託し、私は此の場に留まった」
「・・・『少年』?まさかだけど・・・」
ハクメンの回答にナインは一つだけ心当たりがあった。ラグナとよく似ていて、自分の知る限りではレイチェルと酷似している人物を探し回っていた少年のことを・・・。
「まあいいわ・・・それなら一度引くわよ。あなたたちもそれで大丈夫ね?」
ナインは念のために四人に問いかけるが、四人は迷うことなく首を縦に振って応じた。
「ごめんなさい。また後で来るわ・・・。ハクメン、転移魔法でここから離れるわ」
「・・・承知した」
ナインは一言詫びを入れてから準備を始める。今回は二人だけであるため、ナインほどの魔力があればすぐに可能だった。
ハクメンは煮え切らぬものがあるものの、どうにかそれを抑えながら『斬魔・鳴神』を鞘に納めてナインの隣に立つ。
「ッ!行かせるかよッ!」
「もう遅いわ・・・」
我に返ったテルミは慌てて左手から『ウロボロス』を飛ばしてナインを止めようとするが、もう遅い。
『ウロボロス』の頭がナインに届く前に、ナインとハクメンは黒い球に飲まれ、それが消えると同時に『ウロボロス』は虚空を掴む。
一足遅れたことによって、テルミはナインたちが転移魔法で移動することを許してしまったのである。
「あぁ、クソッ!また逃げられた・・・何であんなに都合がいいんだよ・・・」
「大魔導士ナインか・・・何やら憑き物が落ちたような魂をしていたな・・・」
テルミはイラつき、レリウスはナインが最後に立っていた場所を見ながら顎に手を当てた。
先程レリウスが感じ取っていた物として、テルミへの憎悪をナインは確かに残していたが、それ以上に大切なものがあると手を出すことを最小限に抑えていたのだ。
「ふむ・・・現状ではまだ把握しきれんな・・・私もまだ、向上の余地があると言う事か」
「・・・あんだけ覚えといてまだ伸びんのかよお前・・・ってそうか。別の世界だもんなここ」
レリウスの発言に驚きながらもゲイムギョウ界であることを思い出したテルミは「そりゃそうだ」と納得した。
この世界はレリウスに取っては新しい情報の塊だったからだ。
「仕方あるまい・・・テルミの言葉が正しければ戻ってくるのだ。こちらの今のうちに準備も進めてしまおう」
「そうっちゅね。でも、本当に逃がして良かったっちゅか?」
「あの逃げられ方では追えんだろう。それに・・・変身すらできない小娘一人くらい、逃がしても問題なかろう」
マジェコンヌの自信ある笑みを見たワレチューは確かにそうだと納得し、マジェコンヌに頼まれていた準備を再開した。
* * *
俺は教会の外にある坂道で寝転がっていた。
この時の姿は教会で暮らしていた時と同じ格好で、まだ『蒼の魔導書』を手にする前のことだった。
「兄さまーっ」
「・・・ん?サヤ?」
俺を呼ぶ声がしたので、体を起こしてそっちを振り向くと、そこには手を振りながら小走りでこっちに来るサヤの姿があった。
今日のように笑顔で俺を呼びながら来る場合は大抵、ジンと喧嘩はしていないので、単純に俺といたいのだろう。全く世話の焼ける妹だ。
「こっちにおいで。サヤ」
サヤの甘えん坊がそんな簡単に治んないのは解っている以上、怒ると言う選択肢は捨て、俺も手を振って迎え入れることを選んだ。
段々とサヤが近づいてきて、そのまま勢い良く俺に抱きついて来る・・・筈だった。
「あっ・・・」
「・・・!?」
突然何者かに斬られると同時に姿と声がネプギアのものに変わり、背中から鮮血が舞う。この時、俺が今の姿に変わるのも同時だった。
そして、『サヤ』は力なく倒れそうになり、俺は急いで抱き止める。
「サヤ・・・!おい、しっかりしろッ!サヤッ!」
俺は必死に『サヤ』に呼びかけるが、サヤは返事をしない。
そんな間にも俺の着ているコートの袖から手袋にかけて『サヤ』の血が流れていく。
それから少しして、『サヤ』はゆっくりと俺の方へと顔を向ける。
「兄さま・・・」
「サヤ・・・?サヤッ!」
風前の灯火のような声と表情で俺を呼ぶと、『サヤ』は力尽きるように目を閉じた。
俺は何度か『サヤ』をゆすってみるが、返事をしない。俺のコート越しから『サヤ』の体温が急激に冷えていくことが伝わり、『サヤ』が死んでしまったことを示していた。
「ケヒヒヒヒッ!ザマァねえな・・・」
「サヤ・・・。くっ・・・!」
そんな俺を嘲笑うかのようにテルミの声が聞こえ、そいつはその場から去っていく。
そして、俺は悲しげな顔で眠る『サヤ』の亡骸を抱え、天に向けて絶叫を上げた。
* * *
「あああぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁああああああッ!!」
一気に目が覚めながら俺は絶叫を上げる。
ひとしきり叫んだところで目の前にあるのが天上だということに気付き、俺は慌てて体を起こして周りを見る。
すると周りにはリーンボックスの教会で待っていた皆とアイエフにネプギア、それからこっちに来たばかりであるナオトとレイチェルと声がよく似てる光の球がいた。
そのメンバーの構成から、ここがリーンボックスの教会であることが分かった。
「俺は・・・生きてる?サヤも?」
「あぁ・・・っ・・・兄さま・・・兄さまぁ・・・っ!」
俺が何があったか分からず戸惑っていると、左側から『ネプギア』が感極まって抱きついてきた。
痛む体ではあるが、そこは顔に出さないようにして安心させるために頭を撫でてやる。
「悪い・・・心配かけたな・・・」
「兄さまぁ・・・!うぅ・・・うわあぁぁ・・・!」
『ネプギア』の目尻から零れる涙が俺の服を伝う。
病み上がりだから本当は休むべきなんだろうけど、そうも行かないだろうな。ハッキリとそう思えたのはネプテューヌたちをあのままにできないからだ。
「ラグナ、大丈夫?」
「お手当は済ませたですけど、どこか痛むところはあるですか?」
「助かるよ・・・今のところは大丈夫だ。気がかりなのは『ソウルイーター』の回復がないくらいだ・・・」
前々からそうなのだが、この世界での『ソウルイーター』の能力は相当な制限がかかっていて、それを用いた攻撃以外は相手の生命力を吸って回復することはできない。
だがそれでも、二人が各自の手段で俺を治療してくれたのはありがたいことなので、礼を言うのは忘れない。
「まぁ・・・何とかなって良かったよ・・・ラケルがあの手に出なきゃどうしようもなかったしな・・・」
「・・・ラケル?レイチェルじゃねえのか?」
俺はナオトが口にした名前に戸惑いを隠せなかった。声といい、喋り方といい、完全にレイチェルと同じだったからだ。
《ナオト、これは貴方と同じような間違え方ではないかしら?》
「ああ・・・そっか。俺と逆のパターンか・・・」
「・・・逆?ってことはお前・・・」
「そうだよ。俺はレイチェルをラケルと間違えた」
ナオトに言われて俺は自然と納得した。お前がレイチェルをラケルと間違えたなら俺がラケルをレイチェルと間違えるのも道理だろうよ・・・。
「そうだったか・・・悪かったな。レイチェルと間違えて・・・」
《気にすることは無いわ・・・私たちの世界にいる人も、多くの人が貴方をナオトと間違えるでしょうから》
俺はラケルに詫びを入れるが、どうやらそこまで気にしていないようだ。
それが分かった俺疲労と安心が混ざったせいか、でかめのため息がでた。
「うなされていたようですが・・・問題はありませんこと?」
「ああ・・・どうにかな・・・」
チカにそのことを聞かれた俺は一瞬だけその光景を思い出して頭を抱えた。
だが、いつまでもそうしている訳にはいかないので、その一瞬で抑える。
「病み上がりのところ申し訳ないのですが、どうして貴方だけ無事に戻ってこれたのか・・・。
ベールお姉さまたちに何があったのか・・・聞かせてもらいますわよ?」
「ああ・・・分かった・・・」
チカに言われて俺はズーネ地区で何があったかを話し始めた。
まず初めに大量のモンスターは釣り餌で、それでおびき寄せた女神四人を捉えてアンチクリスタルで力を奪い、最終的にはそのまま打倒するのが目的なこと。
その首謀者の名はマジェコンヌで、更に同盟者が三人・・・。正確には二人一匹いて、その二人は俺がよく知る人物だったこと。
俺は四人を助けようとしたが、自身の体内にシェアエナジーを宿すようになった俺は、アンチクリスタルに弾かれて助けることができなかったこと。
そのまま同盟者の一人であるテルミと戦うが、テルミが用意した策のせいでこの世界で『善』と判断された俺は十分な力を発揮できずに惨敗したこと。
そんなギリギリな状況の中、ナオトとラケルがこの世界に降り立ち、ハクメンは来たばかりのナオトらを含め、アンチクリスタルに捕らわれていない俺たちを逃がすために殿を努めていることを全て話した。
「なるほど・・・それでベールお姉さまたちは力を発揮できなかったのですね・・・」
「やっぱり、それほどヤバい代物だったのね・・・アレ」
俺の話を聞いたチカとアイエフは頭を抱えた。それだけアンチクリスタルは厄介なものだった。
何が厄介かと言われれば、まずアンチクリスタルに近づけるのがアイエフ、コンパ、ナオト、ハクメン、セリカ、チカの六人だけであり、その内チカは教祖と言う立場上現場に向かえないのでここで五人に減らされる。
また、アンチクリスタルを破壊する等を考えると、十分な威力が必要なため、能力とかが戦いに向かないコンパとセリカは外されて三人にまで減ってしまう。
次に問題として、時間が今はまだ平気なものの時間を掛け過ぎると、ネプテューヌたちがただ事では済まなくなってしまうことだった。
そのため、そうなる前に準備を済ませて向かうしかない。『エンブリオ』と同じで再び時間との勝負になるようだ。
「そっか・・・あの黄色いフード付きのコートを着てた人・・・テルミさんだったんだね」
「ああ・・・。お前がこっちに来ている以上、その可能性はあったが・・・マジでこっちに来てるなんてな」
あの時はマジで信じたくなかった。あれだけの奮闘が無に帰るかのような感じだった。
テルミを見た時の俺はそれほどまでにでかいショックを受けていた。
「ねえラグナさん・・・ハクメンさんはまだ戻って来ないの?」
「まだなの・・・?」
ロムとラムの二人に訊かれて俺は言葉を詰まらせる。
あいつなら負けることは無いとは思いたいが、テルミが圧倒的に有利な状況で、レリウスも加入してるとなれば、あいつがやられてもおかしくは無い。
それに、今から向かうにも引き潮の時間は過ぎてしまっている・・・。真っ先に大丈夫と伝えたかったが、俺は一瞬躊躇うことになってしまった。
「・・・ハクメンのことだが、今はまだ・・・」
《お話し中、失礼するわ。そのハクメンを連れて来たわよ》
『・・・!』
「この声・・・!」
俺が答えようとしたところで、俺とセリカに取って聞き覚えのある声が、残りの皆には知らない声が響き、俺たちは周囲を見回す。
そして、その声の主はハクメンを連れて俺たちが全員見回せる位置に現れた。ハクメンと共に来た女性を俺とセリカが見間違えることは無かった。
まるで魔女のような格好をして、『十聖』の証である三角帽子を被っている、『六英雄』の一人であり、セリカの姉である人だった。
「礼を言うぞ、ナイン」
「「ナイン!?(お姉ちゃんっ!)」」
「久しぶりねセリカ・・・そして『蒼の男』、『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』」
ハクメンが礼を言った事を皮切りに俺とセリカは驚きの声を上げ、それに対するナインは不敵な笑みを見せて返した。
ナインの格好は魔女とはいうものの、『エンブリオ』でみたあの格好とは違う。今は暗黒大戦時代の時の格好だった。
「セリカさんの・・・お姉さん?」
「ええ、そうよ。・・・?あなた・・・まさかだけど・・・」
ネプギアの問いに答えながら、ネプギアの姿を見たナインは一瞬驚く。
俺もセリカも。そしてハクメンもネプギアを見た時にそう反応している以上、他の奴が来た時もそうなるだろう。
「やっぱり・・・ナインもか?」
「・・・ということはラグナも?
・・・ラグナ、あんたがこの世界で知っている限りの事を聞かせてちょうだい。できればさっき見てきたアレのことも、対策の為に訊きたいわ」
「・・・分かった」
ナインの頼みを聞いた俺は、ゲイムギョウ界で俺の身の回りに起きたこと、俺の知りうる情報を全て話すことになった。
* * *
「一体、どういう事何ですか?アイエフさん・・・」
「話を聞いた限りでは、アンチクリスタルがどうとか・・・。多分、それがネプ子たちの力を奪ってるんです」
「アンチクリスタル・・・?」
俺がナインに話している間、アイエフは専用の携帯端末を使ってイストワールに俺から聞いたことを報告していた。
どうやら、イストワールはアンチクリスタルのことを知らないようだ。
「調べてもらえます?」
「勿論です。でも・・・三日かかりますよ?」
「・・・心持ち巻きでお願いします」
こんな緊急事態でもイストワールの処理性能は変わらないらしく、アイエフは苦笑いする。
「やってみます。では、ネプギアさんたちはプラネテューヌに戻って来てください。
ユニさんたちもお国に戻った方がいいかと・・・それでは」
イストワールは最後に変身できない候補生たちでは限界があると判断したのか、帰還を推奨してから連絡を切った。
「なるほど・・・あんたがすぐに救出に回れなかったのはそのせいだったのね・・・」
「ああ・・・。情けねえ話だがな・・・」
ナインの言葉に俺は肯定するしかなかった。こうして短時間で動けるくらいまで回復したのは良いが、やられちまうんじゃ意味がない。
体内にシェアエナジーが宿ったおかげで今までは動きやすかったりと便利だったが、それが今回は仇となって皆を助けに行けなかった。この事実は中々応えるものがあった。
「でも・・・どうしてお姉ちゃんたちが簡単に捕まっちゃったの?」
「お姉ちゃんたち、普段なら悪者なんて一発なのに・・・」
ユニとラムは率直な疑問を口にした。
それもそのはずだ。妹たちの前で、あいつらは一度も情けないところを見せたことなんてないからな。
そんな頼もしい姉ちゃんが、ある日突然捕まってしまいましたなんて聞いたら尚のこと信じられねえだろう。
「お姉ちゃん・・・死んじゃうのかな・・・?」
「さ・・・流石に負けちゃったとしても、死んじゃうことは無いですよ」
ロムの不安で仕方ない、消えそうな声を聞いたコンパは困った笑みを見せながら返した。
正直なところ、俺もそれには同意できなかった。また、何か引っかかるものがあるのかナオトは考え込むそぶりを見せていた。
「・・・ナオト?どうしたの?」
「ああ・・・悪い。さっき言われた意味を考えててな・・・。
・・・休んでからでもいい。万全の準備をして来てくれって言葉をさ・・・」
アイエフに対して答えるナオトの言葉に、俺たちは一瞬固まった。
「・・・その言葉。恐らくだけど、チャンスは一回しかない・・・と言う事でしょうね」
「・・・一回だけか・・・」
『エンブリオ』での俺なら「一回あれば十分」とか、「ナインが作ったんだから間違いない」とかって自信を持って言えたんだが、今回はそうも行かない。
ただでさえユニたちが不安になってるってのに、下手をすればその不安と言う火に油を注ぐ羽目になっちまう。
「ごめんなさい・・・」
自分がそのような状況に追い込んでしまった。そう思っているであろうネプギアが沈んだ顔で謝罪する。
それを聞いた俺たちはネプギアの方に一斉に顔を向けた。
「買い物の時に拾った石・・・。あれがきっと、アンチクリスタルだったんです・・・」
「ッ!そうか・・・確かにあん時、マジェコンヌの奴は・・・」
ネプギアに言われて俺は思い出した。確かにマジェコンヌがあん時楕円状の機械に突っ込んだものが、ネプギアが昼に拾って力が抜けた石と同じだった。
「やめましょう。今そんなこと考えたって・・・」
「どうしてあの時めまいがしたのか・・・ちゃんと考えてれば・・・。お姉ちゃんたちに知らせてれば・・・」
アイエフがその話を切って終わらせようとしても、自責の念に駆られているネプギアは止まらなかった。
「ねえネプギア・・・
『・・・!?』
「・・・えっ?何を言ってるの?ユニちゃん・・・?」
ユニから突然の質問・・・。それも正気かどうかを疑いたくなるような内容に俺たちは驚く。
実際にその質問を受けたネプギアは震えた声で必死に声を出してユニに訊き返した。
「・・・聞こえなかった?もう一度訊くわよ・・・。アンタは誰?
「ゆ・・・ユニちゃん?」
ユニは両手の拳をきつく握りしめて、肩を振るえさせながら怒気が籠った声でネプギアにもう一度問いかける。
その漂わせる雰囲気にロムは怯み、ラムは思わず言葉を詰まらせた。周りの皆も、どうすればいいか分からないという状態だった。
この中で例外なのは、大方ネプギアの中にいる『もう一人のネプギア』を知る俺と、初めてネプギアを見てから何やら察しがついてるハクメンで、俺は言うべきか迷い、ハクメンは何も言わず直立を保っていた。
「どうして・・・?どうしてそんなことを訊くの?ユニちゃん・・・?」
ユニに問い返すネプギアは明らかに動揺していた。それも核心を突かれたと言ってもおかしくないくらいにだ・・・。
「こんな事・・・今訊くべきじゃない事くらい分かってる・・・。すごく強いお姉ちゃんが負けて不安なのもある・・・。
でもねネプギア・・・アタシはそれ以上にアンタの事が心配なのっ!」
声を荒げるユニは目尻から涙が浮かび上がっていて、今にも泣きそうだった。
ネプギアと仲が良かったからこそ、最近のことで応えてしまったのは容易に分かる。
「だって・・・!最近は記憶がすっぽり無くなってたり・・・自分じゃない誰かとか言い出すじゃないっ!
今までアタシたちといる時はそんなこと無かったのに・・・どうしてそんな風になっちゃったのよっ!?」
「っ・・・ユニちゃん・・・」
自分持っているの不満をネプギアにぶつけるユニは、とうとう涙を抑えられなくなり、溢れた涙が頬を伝う。
どうすればいいかわからないでいるネプギアは言葉を詰まらせ、感情の抑えが効かなくなってしまったユニはネプギアの胸倉を掴んだ。
「「・・・!」」
「今は止めてはならぬ・・・。最後まで言わせてやるべきだ」
「でも・・・!」
「心配せずとも、御前たちの思うことにはならん・・・。後で彼女を支えてやってくれ。良いな?」
すぐに止めに行こうとしたロムとラムを、ハクメンが二人の頭に手を置いて止める。
この後のことが大方読めていたハクメンは、食い下がろうとする二人に言い聞かせると、二人は一泊置いてから頷いた。
「お願いだからいつものアンタに戻ってよっ!ただでさえお姉ちゃんたちが帰って来れないかもしれないのに・・・っ!
アンタまでそんな風になってどうするのよっ!?アンタが今のまんまじゃアタシたちに・・・ううん、他の誰でもない!ネプテューヌさんにどれだけ心配かけてると思ってるのよっ!?」
「っ・・・!お姉ちゃん・・・っ・・・」
ユニの一言が相当効いたネプギアは目尻から涙を浮かばせる。今までは自身が故意でやったわけではないことが、罪悪感を更に煽る形となっていた。
ネプギアの泣きそうな表情に気が付いたユニは、やってしまったと言いそうな顔を見せて慌てて胸倉から手を離した。
「・・・ちょっと頭を冷やして来ます・・・。すぐに戻って来ますから・・・っ・・・!」
「あっ・・・おい、ユニ・・・」
そう言ってユニはこの部屋を走り去ってしまう。俺は慌てて制止の手を伸ばすが、それを伸ばすには遅すぎて、ただ虚空を掴むだけだった。
「っ・・・お姉ちゃん・・・みんな・・・っ・・・!私・・・っ」
「ネプギア・・・」
その場で崩れ落ちて膝をつき、顔を両手で隠して泣き出すネプギアの側に移動して、頭を撫でてやるのだった。
* * *
「ああー・・・退屈だよぉ・・・。プリン食べたいし、ゲームもやりたいよ・・・。はぁ・・・ネプギア大丈夫かな?」
「ネプテューヌ・・・どうしてこんな状況でもそんなこと考えられるのよ・・・。でも、確かに私もユニが心配だわ・・・」
アンチクリスタルに捕らわれている間、身動きは一切できず、尚且つマジェコンヌたちが手出しをしてこない為何もすることがない時間ができてしまっていた。
それ故にネプテューヌも妹のことを案じながら、自身が今したいことを思わず呟いた。
「私もロムとラムが心配よ・・・。後、もう少し小説を書いておきたい」
「はぁ・・・皆さんは妹がいて羨ましいですわね・・・私も、四女神オンラインのチャットだけ済ませたかったですわ・・・。
今日は予定がありますのに・・・」
「貴様ら危機感というものが無いのか!?」
捕まっているのにあまりにも呑気な会話内容が飛び交っているので、それを見たマジェコンヌは思わず問い返した。
「ああー・・・確かに何もしねえのは俺様も退屈だなぁ・・・」
「ならばお前も、私の研究を手伝うか?」
「・・・やってもいいけど手軽に終わんねえじゃねえかよ・・・」
テルミの呟きを聞いたレリウスが一つ提案を出すが、テルミは断った。
レリウスの研究は時折、自身の安全を保障できないくらいのものであるため、迂闊に乗るわけには行かなかった。
「まあいい・・・。ネズミ機材の方はまだなのか?」
「すまんっちゅ・・・。ここにあるやつ、ジャンク品が多いから接続に時間が掛かるっちゅよ・・・」
「・・・急げよ?時間が来てしまえば元も子もないのだからな・・・」
ワレチューに進捗を訊いてみるが、あまり芳しくないのでマジェコンヌは急かした。
「レリウス、お前の言う研究とやらは本当に進んでいるのか?先程から観察しかしていないようだように見えるぞ?」
マジェコンヌはレリウスに向けて率直な問いかけをする。
レリウスは「此の場でもできる」とは言っていたが、傍らから見えると観察にしか見えない。そのためマジェコンヌはずっと疑問に持っていたのだ。
「其の事については問題ない。私の『眼』には、今もありとあらゆる情報が映っている・・・。
女神達の魂も例外ではない。確かに情報は集まってきているが・・・まだ足りない。やはり、戦闘する際になる姿のデータは欲しいところだな・・・」
レリウスはまだ知識欲を満たせていないようだが、本人が言うにはしっかりと情報が来ているようだ。
しかし、レリウスの欲求を完全に満たす為には最早想定外が来ることを祈るしかないので、マジェコンヌにはどうすることもできない。
「すまんが、それはあの小娘どもの妹たちにでも期待してくれ・・・。
・・・さて、女神どもよ。足元を見てみるがいい」
マジェコンヌはこの辺りが同盟の難しいところだなと思いながらレリウスに返す。
そこからは一度気持ちを切り替え、女神四人に促しをかける。
四人が足元を見てみると、彼女たちを捕らえている三角錐には少しではあるが、黒い水が溜まっていた。
「・・・何アレ?」
「それはやがて・・・お前たちを死に至らしめるだろう・・・。さっき空から降ってきた小僧が躊躇っていたのとは違うものだがな」
―お前たちの終焉ももうすぐだ・・・。心の中で呟いたマジェコンヌは小さく嗤うのだった。
* * *
「さて・・・大雑把に纏めると女神たちは捕まってる。そしてテルミはこの世界で『善』と判定されている人を不利にする仕掛けを持っている。
そして、予想通りであれば・・・私たちがあの四人を助け出せるチャンスはたった一度っきり・・・。これだけ聞くと絶望的状況だけど、あんたは諦めてなんかいないんでしょ?」
「当たり前だ・・・俺は絶対に諦めねえ。『エンブリオ』や『タケミカヅチ』を前に折れなかったんだ・・・そう簡単に折れるかよ。
それに・・・俺はこの世界であいつらに色々と世話になってるし・・・その恩返しもしてえんだ」
ナインに問いかけられたが、俺の決意は変わらない。あいつらを助け出す・・・誰が何と言おうとも、例え俺一人だろうとも、助けに行くつもりだ。
「フフ・・・。あんたが相変わらずのようで安心したわ。何事もなければセリカを任せようと思えるのは、あんたかハクメンくらいしかいないもの・・・」
「お姉ちゃん・・・」
それを聞いて安心したのか、ナインの顔には笑みが浮かんでいた。
セリカも『エンブリオ』の頃とは違って、多少なりとも人を信じることのできる本来のナインに戻っていることが分かって安心していた。
「そういうナインはどうなんだ?諦めねえとは言っても、流石に俺一人で行かせるわけじゃねえんだろ?」
「当然よ。後で来るってあの四人に伝えてるもの・・・。それに、テルミは事が終わったら間違いなくセリカを狙いに来る・・・。だったらそうなる前にブッ飛ばしてやるわ」
俺の問いに答えながら、ナインはテルミへ並ならぬ敵意を見せる。
ナインと会ってから間もない人は驚くかもしれないが、俺のように私的な面のナインを知る場合はナインらしいと思う。
ナインはセリカを誰よりも大切に思っていて、それは下手な奴がセリカと一緒にいようものなら殺しにかかってくるくらいだ。
俺も一度全力で殺しにかかられたので、その時の殺意は身を持って知っている。
「私は今度こそ・・・セリカを護る。他の誰でもない、私の手でね・・・。これはその為の第一歩。そう思ってるわ」
誓いを告げるナインの瞳は強い意志を持っていた。それこそ暗黒大戦の時に停止時間を作る直前に見せた瞳と同じだった。
だからこそ俺は、その言葉をいとも簡単に納得することができた。
「ハクメンは・・・変わらないわよね?」
「無論、テルミらと謂う『悪』を滅すると言う点では変わらない・・・。だが、今までと違い、それは私一人で成すことでは無い。
此れからは、此の場にいる皆と力を合わせ・・・共に秩序を護りつつ行く心算だ」
「・・・まさかあんたに協調性ができるとはね・・・。思ってもみなかったわ」
「・・・同感だ」
ハクメンの回答にナインは肩をすくめながら心中を口にして、ハクメンはそれを聞いて頷く。
このゲイムギョウ界での出来事は、俺たちに取っていい結果が多い。
俺は多くの信頼できる人や、未来に目を向けて生きること。ハクメンには共に歩いて行ける存在や自身の素性を受け入れてくれる人たちだ。
こんないいもんもらったら、恩返しの一つくらいしないとな・・・。
「ナオト・・・お前はどうすんだ?」
「どうするってそりゃ・・・助けるに決まってんだろ?あいつらは俺を・・・いや、俺たちを信じて待ってるんだ。だったら行かないわけないだろ?」
「・・・そうだったな・・・聞くだけ野暮ってもんだったな」
俺の問いに答えるナオトの表情や目は、決意を固めた時の俺とよく似ていた。
レイチェルがナオトの存在に恐怖感にも似たものを持ったのはこれが理由なんだろうな。
ナオトの答えを聞いた俺は安心した笑みを浮かべた。
「後はあの子たち次第だけど、一先ず私たちがあの四人を助けに行くことは決まったわね・・・。
そうであれば早速できることを始めたいのだけど、構わないわね?」
周囲を見回しながら問いかけるナインの言葉に、俺たちは迷うことなく頷いた。
「決まったみたいね。なら、私たちもできる範囲でサポートさせて貰うわ」
「はいです!私も皆さんを手伝うですぅ♪」
俺たちの話を聞いていたアイエフたちはそれぞれの笑みを見せてそう告げた。
それを聞いて、今までの付き合いが最も長い俺が代表して礼を告げた。
《アイエフ。話が決まったところで一つ伝えておきたいことがあるわ》
「伝えておきたいこと?」
《ええ。貴女の中に発現したドライブのことについてよ》
ラケルはアイエフにドライブのことを説明する。
まず初めに、ドライブがどのように発現するかを話し、そこから当然ではあるがドライブ能力は人によって様々な種類があることを話す。
また、魂が強いほど『蒼』に惹かれる程強力なものになることを説明した。
《後、ドライブの名前は人によって決まっていて、本来なら私がその名を知ってすぐに伝えられたのだけど・・・。
この世界では無理矢理行動する為にこの状態なっているから、解析の方に力を回せないの。だから、貴女のドライブの名前は貴女が決めなさい》
「私が・・・?そうね・・・」
ラケルに告げられてアイエフは顎に手を当てて考え出す。少しして「あっ、そうだ」とアイエフは声を出し、顎に手を当てるのを止めた。
「それなら・・・私のドライブ名は『ディベート』よ。意外といい名前でしょ?」
《ええ・・・『ディベート』・・・良い名だと思うわ》
アイエフの提案をラケルは肯定したことで、アイエフのドライブ名は決定された。
「あ・・・そうなると私もドライブの使い方は練習しないといけないわね・・・一度も使ってないわけだし」
《それなら私が手伝いましょう・・・。使い方を教えるくらいならこの状態でもできるわ》
「ありがとう。素直にお願いするわ」
アイエフは思い出したように頭を掻きながら呟く。その呟きにラケルが答え、その答えが嬉しく思ったアイエフは礼を述べた。
俺たちの話が纏まっていたところで、部屋のドアが開けられた。
「ネプギアちゃん・・・どこ・・・?」
「戻ったか。少女ならば向こうだ」
ドアから入ってきたのはロムとラム・・・そしてその二人に連れてこられたユニだった。
さっきユニが飛び出した後、教会から離れないことを条件にロムとラムはユニを探していた。
見つかったと言うことは、教会が見えるところにいたか、教会内にいたのだろう。
ロムに聞かれたので、ハクメンがベランダを指差して答える。
「ありがとうっ!ほら、行こう」
「う・・・うん・・・」
ラムが代表するかのようにハクメンに礼を言い、そのままユニを促しながらベランダに向かい、ロムはネプギアを呼ぶために先に走っていった。
ユニはまだ泣き止み切ってないまま、ラムに引っ張られて行くのだった。
* * *
「(私・・・一番大事なことを忘れてたんだね・・・)」
ネプギアはベランダで外を見ながら考え事にふけっていた。
その表情は後悔の念が強く出ており、自分の今までのことで多くの人を心配させてしまったことを引きずっていた。
ラグナへ対する情は少女としてなら仕方ないものがあるかもしれない。だが、ネプギアとしてではそうも行かない。
少女は基本的にラグナに身の危機が迫った時、頻繫に現れる。そして、その時の明らかに「ネプギアらしくない」行動が周囲を不安にさせてしまっていたのだ。
「(どうすればいいんだろ?兄さまには会いたい・・・でも、お姉ちゃんたちを心配させたくもない・・・)」
少女の願いとネプギアの思いがせめぎあって、更に悩みを加速させていた。
特に先程ユニに言われたことはかなり響いていた。彼女を中心に、身の回りの人にどれだけ心配をかけたのかを考えると心が痛んだ。
「ネプギアちゃん・・・!」
―それなら、いっそのこと話した方がいいのかな?
そこまで考えていたところで、自分を呼ぶ声が聞こえたので、思考を中断してそちらを振り向く。声の主はロムで、後ろにはラムとユニがいた。
「ロムちゃん?それにみんなも・・・」
「ほら二人とも、仲直りだよっ!」
ネプギアがどんな用だろうと考えだすと、その答えはすぐに帰ってきて、ラムがユニの体を押した。
「ごめんね・・・ネプギア・・・一番辛いのアンタだって分かってたのに・・・」
「ううん・・・大丈夫。私の方こそ、気づけなくてごめんね・・・」
ユニは目尻の涙を両腕で拭いながらネプギアに謝る。擦りすぎたのか、ユニの目元は少し赤くなっていた。
対するネプギアも、このことは自分に非があると考えて謝った。その瞳には自分のことを待ってくれてる人がいると分かった安心と、未だに本当のことを話せていない罪悪感が混ざっていた。
様々な思いが混ざった結果、ネプギアの目尻から涙が零れ落ち、それと同時に昇ってきた朝日がその涙に一瞬の輝きを与えた。
* * *
「アタシ・・・お姉ちゃんより強い人がいるなんて思わなかった」
「私もそう思ってた・・・」
昇ってきた朝日をベランダで眺めながらユニとネプギアはお互いの胸の内を話した。
その結果、二人共共通で自身の姉より強い人はいないと考えていた。
「私だって・・・お姉ちゃんがいないとなんにもできない・・・。今だって・・・どうしたらいいのか全然分からなくて・・・」
「そんなの簡単じゃないっ!私たちが助ければいいのよっ!みんなと一緒に!」
「私も・・・お姉ちゃんたち・・・助けたい・・・!」
自身の不安を告げるネプギアに対して、ラムは元気よく答え、ロムも途切れ途切れながらそれに同意する。
幼い二人は冗談で言っている訳では無く、その瞳は強い決意を表していた。
「でも・・・私たち、変身できないし・・・」
ネプギアがすぐにうんと頷けなかったのはこの一点にあった。
女神への変身はいつかできなければいけないことだ。
そして、今回はただでさえ女神四人とラグナとハクメンの六人で挑んでも勝てなかった相手である以上、変身ができなければ話にならない。
「だったらできるようになればいいのよっ!」
「やり方・・・覚える」
できないならできるようにすればいい・・・。それは至極当たり前のことではあるが、今回は何よりも重要なことだった。
「そんなこと・・・できるのかな?」
「・・・お姉ちゃんが言ってた。アタシが変身できないのは、自分の心にリミッターをかけてるからだって・・・」
ネプギアが不安そうにつぶやく中、ユニは自身の姉に言われたことを思い出してそれを伝える。
「心の・・・リミッター・・・」
「例えば、何かを怖がっているとか・・・そういうことよ・・・」
「私・・・戦うの怖い・・・」
「そうだね・・・私もちょっと怖いかな・・・」
ネプギアが反復で呟いたところにユニが具体例を挙げると、ロムが怖いものを上げ、ネプギアが同意した。
特にネプギアは、ラグナの体を張った行動が無ければエンシェントドラゴンにやられていたかもしれない為、その恐怖感は残っていた。
「じゃあ・・・みんなで特訓して、怖く無くなればいいのよっ!」
「そっか・・・そうかも!」
「ええ!」
特訓・・・。ラムが出したその言葉にハッとし、希望を見いだせたネプギアとユニは笑顔に変わる。
「よーしっ!それなら今すぐ始めちゃいましょーっ!」
「ま、待ってっ!せめて残ることだけは伝えないと・・・!」
ラムの元気良い一言を皮切りに、四人は慌ただしく去っていく。
ネプギアはその中で一人、ベランダから中に戻る前に一度振り返り、もう一度朝日を見据える。
「(ラグナさん・・・私も諦めません。お姉ちゃんたちを助け出して、『あの子』と会えるその時まで・・・)」
ネプギアはもう一人の自分を意識しながらも心に決意を固め、ベランダから中に戻るのだった。
日に日に文字数が増えている・・・(笑)。分割しようと考えてもキリが悪いからと結局こうなるんですよね・・・(汗)。
アイエフのドライブ名ですが、『ディベート』を採用させてもらいました。
今回ドライブ名で残念ながら不採用になってしまったものは、技名の方で使わせて頂こうと思っています。
提案してくれた方々には重ね重ね感謝しています。
人気投票の件で続きですが、本日間もなく投票期間が終了します。投票のお忘れは無いでしょうか?私は迷うことなく全てラグナに票を回したので問題ありません(笑)。
また、ネプテューヌがアズールレーンとコラボしましたね。
何度かガチャを回しているのですが、今まで回した中でパープルハートが四回も当っています(笑)。
プラネテューヌ信仰者の私としては嬉しくもあるのですが、他のネプテューヌキャラがノワールとブランが一回ずつだけなので、どんな確率してんだと困惑もしています(汗)。
次回は特訓の話になります。