超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER-   作:ブリガンディ

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予告通りラグナたちとテルミたちの対決となります。
ラグナ対テルミがかなり多いです。

感想のコメントでタイトル当てられた時は流石に焦りましたね・・・(笑)。
ラグナとハクメンの時もそうだしバレるかも知れないと感じてはいましたが・・・。

また今回でアニメ3話分が終わります。


24話 Nightmare Fiction

「テルミ・・・よもや貴様までもが此の世界に居ようとはな・・・」

 

「おうおう・・・ハクメンちゃんも久しぶりだなぁ。正直俺も驚いたぜ。ラグナちゃんとハクメンちゃん(テメェら)が共闘してる事なんか特にな・・・」

 

ハクメンとテルミはお互いの心中を話す。この発言に皆が特に驚かなかったのは、俺とハクメンの敵対関係が消える瞬間を目の当たりにしているからだろう。

レリウスは研究をすることが最優先である以上なのだろうか、自分から無防備のハクメンを攻撃することなく女神の観察に入っていた。

 

「ユウキ=テルミ・・・?じゃあ、あいつが・・・」

 

「へえ・・・俺のことを知ってるってこたぁラグナちゃんから聞いたか。いやあ・・・それにしてもこいつと盟約組んで良かったぜェ・・・。

レリウスと合流できたのもあったし、こうして躰はまた用意してもらえたし、こうして俺様がラグナちゃんをブッ殺すチャンスを手にしたんだからなァ・・・ケヒヒヒヒッ!」

 

ノワールの呟いた言葉を拾ったテルミが気味悪い笑い声を上げる。その様子はまるでこれから起きることを楽しみにしているかのようだった。

 

「テルミ・・・一つ聞くが、テメェはいつからこの世界にいやがった?」

 

「・・・アレ?覚えてねえのか?オイオイ、連れねえじゃねえなぁ。ラグナちゃんよぉ・・・」

 

俺はテルミに問いただしながら歯を食いしばる。セリカのように死んでしまった人間もゲイムギョウ界に来ていた以上、おかしく無いのは確かだ。

ただそれでも、俺があれだけ苦労してようやく倒した男が、その努力を嘲笑うかのように俺の前に立っていることを信じたくなかった。

 

「・・・まあいいぜ。俺は今すげえ機嫌が良いから答えてやるよ・・・。

俺様がこの世界に来たのはなぁ・・・ラグナちゃん、テメェがこの世界で初めて『蒼炎の書(ブレイブルー)』を起動する直前だ・・・」

 

「この世界で初めて・・・?じゃああの時右腕に出たアレは、ただ『蒼炎の書』の制限が解けたことを知らせる奴じゃねえ・・・。

俺たちの世界から、誰かがこっちに来た時に知らせる役割でも持ってんのか?」

 

テルミの話を聞いた俺は疑問がまた一つ増えた。

『蒼炎の書』をゲイムギョウ界で起動して以来、蒼い炎のようなものが発生した後は必ず誰かが来ていた。一人は今日中に見つけられるとは思えず、レリウスとテルミはその日以内に見つけることはできなかったが、それでも発生する度に一人来ている。

だが、最初の一回だけは『蒼炎の書』をこっちで起動する前だったため、起動してからだと説明がつかなくなるため、俺の疑問は路頭に迷うこととなる。

 

「今まで通りだったら俺様が答えてやっても良かったんだが・・・生憎『蒼の魔導書(それ)』はもう真なる『蒼』になっちまったから俺の管轄外しなァ・・・。まあいいや」

 

テルミはわざとらしく言いながらその考えを放棄してアンチクリスタルとやらが作り出した結界の方を見やる。

 

「それはそうとしてだ・・・そろそろ時間じゃねえの?」

 

「ああ・・・その通りだな」

 

「・・・時間?何の話を・・・っ!?」

 

テルミは女性の方へ振り向きながら問いかけると女性はそれを肯定した。

その話を聞いたネプテューヌが時間という言葉の正体を聞こうとしたが、まるでそれに答えるかの如く、ネプテューヌたちの変身が解けて、元の姿に戻ってしまった。

 

「変身が解けた・・・!?」

 

思わず声を出したベールだけでなく、皆がその事実に動揺した。俺は目の前でノワールの変身が解かれる瞬間を一度見ていたが、二度目でもやはり信じられない光景だと俺は感じた。

 

「成程・・・いくら女神と言えど、アンチクリスタルに封じられればただの人という事か・・・」

 

レリウスはその様子を見ながら率直な感想を述べる。女神の性質やシェアエナジーはレリウスの知識欲を刺激するのには十分すぎるものだろう。

また、レリウスの言葉を聞いた四人は悔しさに歯嚙みをする。無理もない。特定の状況下と言えど、こういった手合いに女神ではなく人だと言われれば応えるものがあるだろう。

 

「あ~あ~、悔しそうにしちゃってよぉ・・・。何だ?こんなもん無けりゃすぐに倒せますってか?

やっべェ~超ウケるわぁ・・・それに引っかかっちまったからこそ、テメェらは身動きできねえ囚われの身なんだぜ?ケヒヒヒヒッ!」

 

テルミの嗤いながら放った言葉は彼女たちを更に煽り、同時に恥辱感も増すものだった。

現にテルミの言っていることは何も間違っていないため、何も言い返すことができなかったのが更にそれを煽るものとなっていた。

 

「まあ、こいつらになんか言うのはこの辺でいいだろ。

さて・・・早速やり合おうかと思ったが・・・先に名乗っておくならいいぜ。サクッと済ませちまいな」

 

「一応、その理由を聞かせてもらおうか?」

 

「俺が『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』を倒したらテメェの名を聞く人一人減っちゃうじゃん?それって勿体無くね?」

 

「確かに、言われてみればそうだな・・・」

 

女性は一度テルミに問うが、その意図が分かったところで納得して一歩前に出た。

 

「ではそろそろ名乗らせて貰おう・・・。

私はマジェコンヌ・・・。四人の小娘が支配する世界に、混沌という名の福音をもたらす者さ・・・。

ラステイションの洞窟。ルウィーの教会。プラネテューヌの森・・・そして今日、リーンボックスの海底で四つ目を手にしたことでこの結界を作り出す準備は整い、貴様らを潰す計画を実行に移せたのだ・・・。

ネズミ・・・少し手間取ったとはいえ、リーンボックスの海底の件は助かったぞ」

 

魔女のような女性・・・マジェコンヌは自身の目的を告げながらアンチクリスタルがあった場所を答える。その表情はもう勝ったも同然のような涼しい笑みだった。

 

「オバハンがやったルウィーの教会程大変なものはない気がするっちゅが・・・。本当に間に合って良かったっちゅよ・・・。

まあ、飛び火してきたからおいらも名乗るっちゅよ。おいらはワレチュー・・・ネズミ界ナンバー3のマスコットっちゅ」

 

マジェコンヌに感謝を伝えられたネズミは、世辞のように向こうを誉め返してから自分の名を名乗った。

 

「珍しく褒めたというのに謙遜とは勿体無い奴だ・・・。まあ、さすがにラステイションの洞窟でテルミと協力を結ぶ以上の成果はなかったかな?」

 

「ラステイションの洞窟・・・?じゃあ、あの時私の変身が解けたのも・・・」

 

「ピンポンピンポーンッ!大正解!あん時アンチクリスタルの中で見てたけどよぉ・・・。

面白かったぜェ・・・あんだけ自信満々にしてた奴が突然竦むように動けなくなるところはよぉ・・・!ヒ・・・ヒヒッ・・・!」

 

さっきのマジェコンヌが言ってたアンチクリスタルの場所で思い出したノワールが言いかけると、テルミはわざとらしく言いながらこみ上げてくる笑いを抑えてた。

テルミの答えを聞いたノワールは絶句しか起きなかった。また、ノワールだけでなく、ネプテューヌも信じられないという顔をしていた。

 

「んで・・・俺にこの体をもっかいくれたのがついこないだ来たばっかりのレリウスってわけよ・・・。

何でアンチクリスタルの中に居させられたかは知らねえが、こうして外に出れた以上良しとするかね。レリウスのは感謝しねえとな」

 

「大したことではない・・・。此の世界でも応用をすれば私の技術が使えるとわかっただけ良い収穫だったよ」

 

テルミは本当に機嫌がいいらしく、自分の持っている疑問をあっさりと水に流してしまった。

 

「ルウィーの教会・・・?まさか・・・」

 

「知っていますの?ブラン?」

 

「ええ・・・。誘拐事件の後、アレを置いてあった部屋を確認したら見事に無くなっていたわ・・・」

 

ハッとしたブランの様子に気づいたベールが訊いてみると、ブランは沈んだ表情になりながら答えた。

 

「・・・どうして相談をして下さらなかったんですの?せめて話だけでも聞ければ、まだ対策だって立てられましたのに・・・」

 

「ごめんなさい・・・それに気が付いたのはあの対決直前の時だったから・・・」

 

ブランの回答を聞いたベールはそこから先を問うことができなくなった。俺に余計な負担をかけたくないことから躊躇ったというなら、俺の元々の行動が問題だからあまり気にしすぎないでくれるといいんだが・・・。

 

「・・・私が摘み取る機会を潰してしまった・・・と言うことか・・・」

 

「いや・・・これは誰が悪いとかなんてねえ・・・。タイミングを逃すかのような因果が重なり過ぎちまったからな・・・不可抗力だ」

 

さすがに不可抗力も同然な出来事を連続で目の当たりにしたらそれを話す余裕なんて無くなる。

そんな状況で誰かを責め立てるなんて筋違いにも程があるだろう。そんなことをしたら、ノエルへキツイ言葉を投げちまった時の俺見てえなもんだ。

 

「ヒヒ・・・ドタバタ続きで残念だったなあ・・・。さて、そろそろ話しも飽きてきたところだし丁度いいや」

 

テルミが嗤いながら数歩前に進む。その表情は楽しみであるということを隠しきれてない笑みのようだった。

 

「来いよ・・・『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』・・・。今度こそ俺様がブッ殺してやるよ・・・」

 

「簡単に殺されるかよ・・・!テメェらブッ飛ばして、あいつらを助け出す!」

 

テルミは口元をニッと吊り上げながら俺に改めて宣戦布告をしてきた。

対する俺は自分のやるべきことを言いながら右腕を腕の高さまで持ってくる。

 

「第666拘束機関開放・・・次元干渉虚数方陣展開!『蒼炎の書(ブレイブルー)』・・・起動!」

 

そして、右手の甲と足元から蒼い螺旋が出始め、それが消えることで起動を完了した。

 

「『蒼炎の書(ブレイブルー)』か!そいつはいいねえ・・・だったら・・・。

レリウス。マジェコンヌ・・・お前らが準備してくれたアレ・・・早速使わせてもらうわ」

 

「ああ・・・存分に使うといいさ」

 

「私も構わん。お前の目的を果たすと良い」

 

二人に一声かけるとあっさりと承認が下りたので、テルミは「ありがとうよ」と例を言いながら両腕を頭上で交差させる。

 

「第666拘束機関開放・・・次元干渉虚数方陣展開・・・!」

 

『・・・っ!?』

 

「貴様・・・其の状態でも使えるとでも謂うのか!?」

 

「クソが・・・!冗談キツイぜ全く・・・」

 

テルミの紡いでいく言葉に俺たちは絶句する。

俺とハクメンは『ハザマ』の体じゃねえってのに使えることに。四人は俺の『蒼炎の書』と起動コードが全くもって同じことに。

 

「ヒ・・・ヒヒッ!マジェコンヌの持つこの世界の情報と技術を基に・・・俺が持っている向こうの世界でのあらゆる情報と、レリウスの培った技術を応用すりゃなんぼのものよ・・・!

見せてやるよ・・・『碧』の力をッ!コードS・O・L!『碧の魔導書(ブレイブルー)』起動ッ!」

 

テルミが両腕の交差を解くように両腕を自身の下側へ振るうと、奴の周りにいくつかの碧いサークルが現れ、少ししたら消える。

ただ・・・今回はそれだけでは終わらず、俺たちのいる場所を囲うように薄い碧色の弱い光が一瞬現れ、すぐに消えた。

 

「グァ・・・ッ!?何だ?急に体が重くなった・・・」

 

「ヒャアーッハハハハァッ!どうよ!?アンチクリスタルの技術を応用した特殊空間は?

アンチクリスタルの近くで発動するのが条件だが・・・起動してる間、この世界で『善』と判断された奴は身動きに弊害が出るシロモノだ・・・。

シェアエナジーもらってて・・・尚且つ女神たちと友好関係と協力関係持ってるラグナちゃんは動きづらくてしょうがねえんじゃねえの?ケヒヒヒヒッ!」

 

テルミの『碧の魔導書』が起動されたと同時に、俺は全身が急に重くなったような感覚に襲われた。

それはマジェコンヌと行動を共にしている内に思いついた策らしく、どうやらアンチクリスタルと連動しているものらしい。

シェアエナジーを遮断される以上、こっちの弱体化は避けられないので相当な痛手であることには変わらない為、正直言ってかなりヤバい状況だ。

 

「成程。あの世界では『悪』とされていた男が、此の世界では紛れもない『善』に変わるか・・・。

これは面白い・・・実際に持ち帰らずとも、観察するだけでも十分なデータは得られるだろう」

 

「予想以上に凄い効果っちゅね・・・さて、おいらは避難避難・・・」

 

レリウスは俺の状態を確認しながら仮面に手を当ててほくそ笑む。明らかに研究対象を見つけて楽しみにしている顔だった。

一方、ネズミはその効果に感心を見せながらも、自身の身の安全のためにその場から一度離れた。

 

「・・・ならば、私がさして変わらぬということは・・・」

 

「ああ・・・ハクメンちゃんは現状、『中立』じゃねえの?自分の行動を振り返ってみたらどうよ?

ったく、勘弁してくれよ・・・。『中立』じゃあ効果が無えからつまんねえじゃねえか・・・」

 

「そうか・・・あの対決が私を『中立』へ移したか・・・」

 

テルミの返答にハクメンは自分のことを思い返した。

ハクメンは俺と会ってからすぐにケリをつけようとしている。その時は後回しと言って引いてくたものの、結局はその『善』である俺と戦うのだから、この世界では『悪』になる可能性が出てくる。

しかし、その後は俺と戦うことはなく、共闘して時に女神を支えるようになったのでここで取り消しになって『中立』・・・と言うことなんだろう。

 

「さあ来いよラグナちゃん・・・今度こそ俺様が引導を渡してやるぜ・・・」

 

「・・・ざけんなっ!そう簡単にくたばってたまるかよッ!」

 

テルミに向かって吠えるように反論しながら俺は走っていく。俺が走り出すのが見えたテルミは崖の上から降りて直立の姿勢で待ち構える。

ハッキリ言ってすげえ絶望的な状況だが、皆を助けると決めた以上、引くわけには行かなかった。

 

「今のままでは不味い・・・!ラグナよ、私と代われ!」

 

ハクメンが俺の方へ走ろうとした瞬間、イグニスが遮るようにハクメンの前に立ちはだかり、右腕で殴りかかる。

ハクメンは『斬魔・鳴神』を横に構えることで受け止め、そのまま押し返す。そこまでは良かったのだが、依然としてイグニスはハクメンの前にいて、俺との合流を徹底的に妨害する構えだった。

 

「悪いが、『蒼の男』の持つ魂を見るためなのでな・・・邪魔をされては困る」

 

「レリウス=クローバー・・・味な真似をする・・・!」

 

俺との合流を諦めて、レリウスを倒すことを選択したハクメンは『斬魔・鳴神』を頭上に掲げながらレリウスに肉薄する。

 

「『六英雄』・ハクメン・・・お前の今持つ魂の耀きも、この目で見定めさせて貰うぞ」

 

レリウスはハクメンを見据えたまま仮面のずれを直してほくそ笑んだ。

 

「まずは試しだ・・・『ウロボロス』ッ!」

 

テルミが『ウロボロス』を自身の左肩の近くから呼び出し、それを俺に向けて飛ばしてくる。

対する俺は剣を右から水平に振ることで、先端の蛇の頭に相当する部分を弾き飛ばしてさらに近づいていく。

ある程度以上近づいたところで、俺は大地を強く蹴って跳躍してテルミに近づいていく。

 

「テルミィィィッ!」

 

「ヒヒッ!来な・・・!」

 

俺が剣を持つ右腕を引くと、テルミは自身の懐に隠してあったバタフライナイフを二本取り出す。

そして、俺が剣を右から斜めに振り下ろすのに合わせてテルミは体を右に捻りながら二本のバタフライナイフを下から上に振り上げ、俺の攻撃を受け流した。

その時投げられるように受け流されたため、俺は体が前に一回回ってしまうが、術式の応用で姿勢を立て直し、足を滑らせながらも着地には成功した。

突っ込んでから着地までの一巡の流れで解ったことがあるとすれば、力が入りづらくなっていることと、体の動きが妙に重く感じることだった。どうにか打開策を見つけねえとテルミにやられっぱなしになるのは間違いなかった。

 

「・・・アレ?そういやラグナちゃん・・・お前、『イデア機関』はどうしたんだ?」

 

「ッ・・・!」

 

テルミがバタフライナイフを一度しまい、振り向きながら嫌な笑みを向けてこっちに訊いてきた瞬間、俺は歯嚙みをしてしまった。

そして、その表情を見た瞬間テルミは勝ちを確信したようににやけた。

 

「あぁ・・・!もしかしてそう言うことかぁっ!?ヒャァーハッハッハァッ!ご機嫌だぜ俺様ちゃん!

ざまあねぇなラグナちゃん・・・あん時自分の左腕、守っときゃ良かったのによぉ・・・ケヒヒヒヒッ!」

 

「クソがぁ・・・!だがまだ終わりじゃねえ!」

 

「それか・・・じゃあこっちは・・・」

 

高笑いするテルミに、俺は毒づきながらも剣に黒い炎のようなものを纏わせ、それを下から振り上げることによってデッドスパイクを放つ。

テルミは自身に迫る黒い炎のようなものを見てから自身に碧い炎のようなものを纏う。

 

滅閃牙(めっせんが)ァッ!」

 

そして、その碧い炎のようなもので獣の顔を形どり、デッドスパイクを打ち消しながら俺に向けて体当たりをかましてくる。

 

「・・・何だとっ!?グアァ・・・ッ!」

 

「次行くぞぉ・・・」

 

予想以上にかけられている弱体化の酷さから反応できなかった俺はまともに受けて低く吹っ飛ばされてしまう。

その吹っ飛んでいく先には、そのまま滅閃牙で背後に回り込んでいたテルミが体を僅かに右へと捻って構えを取る。

 

蛇翼崩天刃(じゃよくほうてんじん)ッ!」

 

「うおぉっ!?」

 

「まだだぜ・・・!オラッ!」

 

テルミは少しの溜めの後、左に一回転しながら放った強力な回し蹴りで俺を空高くまで打ち上げる。

そこから追撃するためにテルミは一度後ろに数人分下がってから『ウロボロス』を俺の方に飛ばしてきた。

テルミが伸ばしてきた『ウロボロス』は受け身が取れないが故にあっさりと受けてしまい、背中を嚙みつかれたような感覚が走る。

 

「ぐっ・・・!?」

 

蛇咬(じゃこう)・・・っとなぁッ!」

 

テルミは俺を自分の背後にある方の崖に投げ飛ばす。それによって俺は背から壁にぶつかるように崖に打ち付けられる。

その時、崖が軽く抉れたことで俺は体が少しだけ埋まってしまう。

 

「グァ・・・!」

 

「ホラホラどうした?そんなんで終わりなのかよラグナちゃん?まあ、動きにくいんじゃしょうがねえだろうけどな・・・ケヒヒヒヒッ!」

 

「ぐっ・・・クソが・・・!」

 

崖にぶつかったときの勢いが強かったことで俺は思わず呻き声が出た。

俺は毒づきながらもどうにか崖に埋まった体を動かして埋まっている状態から脱して地面に着地する。正直この段階でもかなりダメージがデカいと絶望的だった。

 

「まだ戦える・・・!だったら諦めたりなんかしねえぞ・・・!」

 

「ヒャァーッハハハハァッ!いいねぇッ!楽しくなってきたぜェッ!」

 

俺は剣を逆手から通常の持ち方に直して両手で握り直し、もう一度テルミの方へ突っ走る。

それを見たテルミは高笑いをしながら全身から碧い炎のようなものを溢れ出させる。

 

「でぇりゃっ!」

 

「オラよッ!」

 

俺が剣を上から縦に振りおろすのに対し、テルミは軽めに素早く右足を上げながら、碧い炎のようなものを蛇の頭にして自身の脛の近くから上に飛ばす。

それぞれの攻撃がぶつかった瞬間、俺の攻撃はあっさりと弾かれ、その反動で俺は数歩後ろに下がってしまう。

 

「な・・・!?」

 

蛇顎(じゃがく)ッ!」

 

俺がテルミの用意した策にここまでやられていることに驚いてる隙を逃さず、テルミは滑るように俺の懐まで飛び込む。

そのままテルミは俺の腹辺りに『ウロボロス』を押し付けて俺ごと軽く宙に飛ばす。

 

「そらッ!」

 

さらにテルミはそこから『ウロボロス』に碧い炎のようなものを纏わせながら振り下ろし、俺を勢い良く地面に叩きつける。

 

「ガハ・・・ッ!」

 

「ケヒヒッ!ここまで圧倒的だとちょっとばかし同情しちまうぜ・・・」

 

「この・・・ッ・・・蛇野郎が・・・ッ!」

 

テルミに煽られ、それによって出てくる怒りをどうにかして抑えながらも立ち上がるが、これだけでも相当ヤバい。

アンチクリスタルと併用したテルミの『碧の魔導書』で作り出した空間は予想以上に厄介なもので、ここにいる味方側でハクメン以外まともに動けないのは確実。しかもハクメンがこうしている間に『善』と判断されたら終わりだ。

であればそうなる前にアンチクリスタルかテルミを潰す必要があるのだが、現状俺はアンチクリスタルに近寄れず、更にはテルミ相手に相当な不利をもらっていた。

一番望みのあるハクメンも、今はレリウスが全力で足止めをしているし、後ろにはマジェコンヌが控えているという三重苦だった。

諦めるつもりは毛頭もねえが、ここまでくるとさすがに応えるものがあった。

 

「嘘・・・いくらやりづらい状態だとは言っても、ラグナがこうも簡単にやられるなんて・・・」

 

「残念だったなぁ・・・不利を背負っちまったらラグナちゃんが俺様に勝てる要素なんてねえからなぁ・・・ヒ・・・ヒヒッ」

 

ネプテューヌの戦慄するような声にテルミは再びわざとらしく煽るように答える。

テルミの言っていることは事実で、始めてテルミと戦った時は『蒼の魔導書』を『碧の魔導書』に封じられ、殆ど何も手出しができずに大敗をしている。

この時はラムダが命を投げ出してまで俺を庇ったことと、その後ラムダから受け取った『イデア機関』があったからこそどうにかテルミを追い返している。

ノエルたちがツバキ=ヤヨイを助けた直後も、セリカが来なかったら俺は死んでいた可能性があった。

最終的に勝てたのは『蒼の境界線』の時のように、奴の強化の源である『憎しみ』や『恐怖』が完全に消えた状態で、『エンブリオ』の影響でテルミが弱体化。俺は資格者じゃないからそのままという状態でようやく勝ち目ができたものだった。

それだけ俺はテルミに不利を強いられていた。今はシェアエナジーでいくらか恩恵は貰っているが、それはアンチクリスタルで強化の部分が無効化。更にテルミの策は『イデア機関』が破損してるせいで抜けられないとほぼ八方塞がりだ。

 

「引けラグナッ!此の場は私が引き受ける!」

 

ハクメンが俺とテルミの状況を見て再び向かおうとする瞬間を待っていたかのように、イグニスが左手を鎌に変形させてハクメンに急襲する。

ハクメンは咄嗟に避け、その隙に紅蓮を放つが、イグニスは体を回転させながら舞うように避けてレリウスの隣に佇む。

 

「ほう・・・仲間へ意識を向けるか・・・お前の魂も随分と面白い変化が見られるな・・・」

 

「貴様・・・あくまでも足止めをすると謂う事か・・・!」

 

レリウスは戦いながらも『観察』の『眼』を向け続け、ハクメンのことも確認していた。

ハクメンが俺の方へ行こうとすればイグニスと共に足止めをし、レリウスを潰そうとすればイグニスとの連携でやり過ごす。

更にその間にもレリウスは『観察』を続けている。これは余裕があると言うよりは、レリウスは自然と『眼』がそうしてしまうようだ。

それが解っているからこそ、ハクメンは呻くような声で怒りを表していた。

 

「ほう・・・思ったよりいい効果が出てるな・・・」

 

「シェアエナジーどころか、『善』かどうかだけで判断されるって・・・冗談じゃないわね・・・」

 

「一体・・・何を基にそのような策を立てたんですの・・・?」

 

マジェコンヌはテルミの優勢と、俺が受けている影響を見て満足そうに呟く。

ブランは今回の策を目の当たりにして沈んだ表情で呟き、ベールは身動きが取れないせいで苦悶の表情になりながらもその策への疑問を口にした。

 

「あの状況じゃ俺がやるしかねえか・・・」

 

四人は身動きが取れない・・・ハクメンはレリウスに足止めされているからこっちに来れる保証は無い・・・。

ハクメンたちの状況を見た俺はこの場を離れるにしても現状じゃテルミを追い払うしかないと判断して、剣を逆手に持ち替えながら構え直した。

 

「おっ?まだ付き合ってくれんのか?いやぁ~ありがたいね。こんなに楽しい日は久しぶりだぜぇ・・・」

 

「付き合うとかどうとか関係ねえ。俺はあいつらを助け出す・・・それだけだ」

 

テルミの言葉に返しながら俺は足をほんの少しだけ動かす。

こんなところで諦めるつもりはねえ・・・ここで諦めたら、サヤを助けた時の俺の努力はそれまでだとなってしまいかねねえからな・・・。

そんな思いで俺は目の前にいる『俺の人生を変えた元凶(超がつくクソ野郎)』を見据える。

 

「ああ・・・そうだったわ・・・。テメェ、あんだけブッ殺すっつってたのに急に殺すじゃなくて『救う』だとかなんだとか言ってたっけか・・・」

 

「だったらなんだよ?俺は『蒼炎の書(こいつ)』を奪うためには使わねえ・・・『蒼炎の書(この力)』は俺の大事なものを護るための力だからな」

 

テルミに何と言われようと俺の方針と決意はもう変わらない。そのためには皆を助けて護りぬく。

もし『あいつ』が助けを求めて俺に話しかけて来ているんだとしたら、絶対に見つけて助け出してやる。

そのためには努力も惜しまねえし諦めねえ・・・。『蒼炎の書』が起動している場合、普段ならこういう時にシェアエナジーが連動してくれるのだが、阻害されているせいでそのようなことは起こらない。

そのため『蒼炎の書』と地の力でアンチクリスタルの能力込みのテルミと戦うのだが、強気に言った俺も内心はかなり焦っている。時間が経てばネプテューヌたちの身に何があるか解らないからだ。

 

「・・・ハッ!言うじゃねえか!だったらその決意・・・俺様が正面から踏みつぶしてやるよ・・・!」

 

「言ってろッ!『タケミカヅチ』が相手でも折れなかった俺の決意・・・テメェごときに折られるかよぉッ!」

 

俺とテルミは同時に地面を強く蹴って一気に距離を詰める。

―諦めの悪さ・・・。それはあの世界にいる間でも俺が数少なく堂々と誇れることだと思う。

それがあったからこそ、俺は力の使い方を自分で選び取ることができ、サヤを助けて結果的に何の罪の無い人と俺の大事なものを護ることができた。

そんな俺が・・・体が言う事聞きづらい(これっぽっちの足枷)くらいで諦めるわけにはいかねえッ!

 

蛇刃牙(じゃばき)ッ!」

 

「この野郎ッ!」

 

テルミは右手から碧い炎のようなものを蛇の頭形をさせて飛ばす。対する俺は黒い炎のようなものを纏わせた剣を下から上に、体を捻りながら振り上げることで弾き返した。

俺の足掻こうとする意志がまるで形となるかのように、俺はこんな不利な状況でもテルミの攻撃に押し切られなかった。たった一度でもそれは俺にとっては大きかった。

対するテルミはまだまだ余裕なようで、「やるじゃねえか」とにやけながら軽めにジャンプする。大体自分一人分だ。

 

「耐えてみなッ!裂閃牙(れっせんが)!」

 

「ガントレットハーデスッ!」

 

テルミは右手に碧い炎のようなものを纏わせ、それを蛇の頭を形どらせて飛ばす。

対する俺は左手に黒い炎のようなものを纏わせて、少しジャンプしながら殴ることでそれを打ち消す。

 

「おお・・・もうここまで順応するか・・・やるじゃねえかラグナちゃん。なら・・・これはどうよッ!?」

 

この攻撃が終わったとき、テルミは着地している。対する俺は宙にいるが、そのまま体を回しながら蹴り上げる体制はでき上がっていた。

対するテルミは被っていたフードをおろし、自身の頭に獣のような頭を形どった碧い炎のようなものを纏わせる。

 

「喰らえッ!」

 

墜衝牙(ついしょうが)ァッ!」

 

テルミはその碧い炎のようなものを上から下に向けるように首を振ることで頭突きをする。

一方で俺はそのまま右足による蹴り上げを繰り出した。それぞれの攻撃がぶつかり合って俺たちはお互いの立ち位置が入れ替わる。

立ち位置が入れ替わり、足を滑らせるように着地してテルミの方に向き直るまでは特に問題はなかった。だが、そのまま次の行動を起こそうかと思った瞬間、俺は右足の痛みを感じて行動を止めた。

当たり所が悪かったのだろうが、それでもすぐに動けなかった俺はしゃがみ込んでしまう。力が入りづらいことから、恐らくは軽く血が出てる。

 

「マジかよ・・・!」

 

「オイオイなんだよどうした?もう限界なのか?あんだけ啖呵切ってんのに情けねえなぁ・・・。

まあでも、こんな状況下で耐え続けてるんだ・・・頑張ったほうじゃねえの?」

 

「ま・・・まだだ・・・!グ・・・ッ!」

 

血が出るであろう状態にも関わらず俺は立ち上がる。ただし、その体は何度も受けたダメージのせいで傷だらけのボロボロで、かなりフラフラした状態だった。

 

「まだ立つか・・・奴の何が一体あそこまでさせるのだ?」

 

「一度決めたら諦めねえっつう根性から来てるなこれは・・・。

普通、ここまでやりゃあ大体折れるんだけどよ・・・ラグナちゃんの場合体がボロボロになるくらいじゃ折れねえからなぁ・・・」

 

マジェコンヌの問いに答えながら、テルミは「あ~、めんどくせえ」とぼやく。

一方で、ハクメンとレリウスの攻防は未だに続いており、ハクメンが攻めればレリウスはイグニス連携して防ぎ、レリウスがイグニスと攻めればハクメンは卓越した技量でその連携をいなしていく・・・と膠着状態になっていた。

 

「ハクメン・・・お前の魂は今までとは新しい形で輝きを増しているな・・・。何がそうさせたのだ?」

 

「答える義務など無かろう・・・」

 

「ふむ。それもそうだな・・・。お前がそうなった答えを私は殆ど持ち合わせている」

 

ハクメンが『斬魔・鳴神』を使い、低空で椿祈を繰り出す。

流石にそれを受けるわけにはいかないと判断したレリウスは飛びのくことで避け、次にきた『斬魔・鳴神』を左から水平に振ったハクメンの攻撃を、自身の背に隠してある機械の腕二本を使って受け止めた。

 

「成程・・・。強度を上げればもう少し楽になるな」

 

「此の狂人めが・・・ッ!」

 

「ハクメンの方は大方纏まって来たな・・・さて、『蒼の男』の方は・・・」

 

ハクメンの吐き捨てるような声もどこ吹く風のごとくレリウスは受け流し、俺を『観測』るために眼を回した。

 

「(これ以上はキツイな・・・どうにかして奴に一撃食らわせれるか・・・?)」

 

自分の体の状態を確認したら大分ヤバイ状態であることは目に見えている。

ただそれでも、できることがあるならやるべきだろう・・・。そう考えて俺は再び剣を持っている右腕を引く。

 

「おぉ、やるか?ヒヒッ・・・いいぜ。来な・・・!」

 

「行くぞぉ・・・!カーネージシザーッ!」

 

テルミは右手で『ウロボロス』の鎖をゆっくりと回しながらこっちに向かって歩いてくる。

俺はそれに構わず全速力で突っ込み、剣を上から縦に振り下ろした。テルミは無防備なままでいたため、そのまま剣がテルミを切り裂く・・・ことは無かった。

 

「バァカ・・・。まんまと乗ってくれたなァ・・・」

 

テルミは碧い炎のようなものとなって一時的に姿を消す。

少しだけした後に俺の背後にテルミはいるが、俺の周りは『ウロボロス』の鎖が囲んでいた。

その技を思い出した俺は即座にそれを破壊すべく二撃目の動作を始める。

 

皇蛇懺牢牙(おうじゃざんろうが)ァァッ!」

 

「喰われろッ!」

 

テルミが両腕を交差させて鎖で一気に俺を締めようと動かしたのと、俺が剣から鋏状のエネルギーを出してそれをぶった斬ろうとしたのは同時だった。

テルミがわざと手を抜いたのか、或いは俺の諦めねえ根性が勝ったのかはわからねえが、俺はその鎖を斬って破壊することに成功した。

そこまでは良かったのだが、テルミが用意した策のせいで限界が来ていた俺は剣を地面に突き立てながら膝をついた。

 

「ラグナっ!」

 

「クソ・・・ッ!こんな時に・・・」

 

「ザ~ンネンッ!テメェもここまでだな・・・」

 

ネプテューヌは俺の身を案じて叫び、俺はどうにかして立ち上がりながらテルミの方に向き直る。

テルミは親指を見せるようにしてポケットに手を突っ込んで直立し、にやけた顔でこっちを見ていた。

俺は一瞬だけその顔がまるで、絶望を与えに来た悪魔のように見えた。そして『その悪魔(テルミ)』は行動に移る。

 

大蛇(おろち)ッ!武錬殲(ぶれんせん)ッ!」

 

テルミは体を右に一回転させながら足払いをする。立っているのがやっとだった俺は動くことができず、簡単にすっ転ばされてしまう。

そして、前のめりに倒れた俺の頭をテルミは思いっきり踏んづける。

 

「ガァ・・・ッ!」

 

「ヒヒヒ・・・思い出したかよラグナちゃん?

本来テメェは無様な負け犬で、地べたを這いつくばるのがお似合いだってことをよぉ・・・!」

 

「クソ・・・!蛇野郎め・・・!」

 

テルミの勝ちを確信したような言い方を前に俺は吐き捨てるように毒づいた。

俺に勝ち目がほとんど無いのは解ってる・・・それでも言わずにはいられなかった。

 

「いくら『蒼の男』と言えど、あの状況では魂の輝きにも限度はあるか・・・正確に測れん以上、私がまだ未熟か・・・或いは・・・」

 

「・・・・・・遅かったか・・・!」

 

レリウスは仮面のずれを直しながら再び思慮に入り込み、ハクメンは悔しさのあまり左手をきつく握りしめる。

 

「そんな・・・いくら不利だからってラグナがこうも簡単にやられるなんて・・・」

 

「ラグナっ!返事してっ!・・・ラグナ!」

 

「私たちも動けませんし・・・。どうすれば・・・」

 

「あいつら・・・ここから出れたら絶対に締め上げてやる・・・!」

 

ノワールは目の前の状況に呆然とし、ネプテューヌは俺のことを呼び続け、ベールは全体の状況をみて唸り、ブランは今回の騒動を起こした奴らに敵意を向けた。

しかし、これらの負の感情はテルミにとってはいいスパイスになってしまう。更にはマジェコンヌの愉しみにもなってしまったようだ。

 

「おうおう・・・悔しいか?憎いか?

いいねえ・・・。もっとだ!もっと『恐怖』や『憎しみ』を見せろぉ・・・!俺様の糧になるからなぁ・・・ヒッ・・・ヒヒッ!」

 

「せいぜいそこで喚いているのだな・・・お前たちはどの道ここで終わるのだからな・・・。フッ・・・フフフ・・・」

 

そして、外道二人は夜空に顔を向けて高笑いをするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「静かね・・・」

 

「もう退治し終わっちゃったのかな・・・?」

 

ズーネ地区に入る直前、アイエフとネプギアは余りの静けさに疑問を持った。

モンスターが大量に表れているのなら、まだ戦闘が続いていてもおかしくないし、いくら女神四人とラグナ、ハクメンの六人でも早すぎるからだ。

そして、ズーネ地区の中に入った瞬間ネプギアの体に異変が起こった。

 

「っ・・・うぅ・・・っ!?」

 

「!?ネプギア!大丈夫!?」

 

ネプギアが自身の背に体重を掛けてきたことと、ネプギアが苦しそうな声を出したことに気がついたアイエフは目だけをそちらに送って気遣いの声を掛ける。

緊急事態で叫び気味になってしまったが、気にしている場合ではなかった。

 

「ごめんなさい・・・急に体が締め付けられるような感じに襲われて・・・」

 

「っ・・・こりゃ急いだ方が良いわね・・・ネプギア、しっかり掴まってて!」

 

ネプギアの身を案じながらも、長居するわけには行かないと判断したアイエフはバイクの速度を上げる。

ある程度進んでいると曲がっている先から突然球体状の機械型モンスターが目の前に現れた。

 

「「っ!」」

 

アイエフはとっさに左手の裾に隠してあったハンドガンでモンスターを撃ち抜くことでそれを撃破する。

 

「まだ残ってる・・・!?遅かったっていうの・・・?」

 

ネプテューヌたちが罠に掛かってしまったと思ったアイエフは歯噛みしながらも更に進んでいく。

 

「・・・!アイエフさん、アレ・・・!」

 

ネプギアに言われて前を注視してみると、奥の方で紫色の怪しい光が見えたので、アイエフはそちらに向けて進んでみる。

 

「ん・・・?アレは・・・」

 

その光の見えた方に進んで行くと、ラグナが夕べに借りていたバイクが見えたので、アイエフはその近くに止める。

そしてその先を見てみると、紫色の光で形成されている三角錐に女神たちは捕らわれていて、更にその隣では黄色いフードを被った男に頭を踏まれている傷だらけのラグナが・・・。更にその奥では仮面の男と戦っているハクメンの姿が見えた。

 

「間に合わなかったか・・・!」

 

その状況をみたアイエフは歯噛みした。後もう少し早く仲間に伝えればと思わずにはいられなかった。

 

「お姉ちゃん・・・兄さま・・・」

 

『ネプギアと少女』はバイクから降りて三歩前に進む。

ネプギアは姉が負けたと言うことが信じられず、少女は目の前の兄がまた自分を置いていくことを恐れて・・・。

 

「ネプギア・・・!?」

 

しかし、体が思うように動かず、ふらついて転びそうになったところを、アイエフは左手を伸ばしてネプギアの右腕を掴むことで、どうにか膝から座らせる形に留める。

 

「ヒヒッ・・・じゃあな」

 

「うおぉぁぁぁ・・・ッ!」

 

黄色いフードを被った男はそのまま足でラグナを持ち上げるように蹴りあげ、左足に碧い炎のようなものを纏わせてラグナの胴を蹴り飛ばす。

ラグナは成す術もなく吹っ飛ばされて地面を転がり、仰向けに倒れ込む。

それでもなお、ラグナは剣を地面に突き立て、それを杖代わりに立ち上がろうとする。

 

「っ!兄さまっ!ダメッ!」

 

「ちょっと、ネプギア!?」

 

ラグナの元へ走ろうとした少女をアイエフは掴んでいた右腕を引っ張ることでその先へ行かせないようにする。

それでも少女は先に進めない状態でも可能な限り体を前に出していた。

 

「ネプギア!すぐに逃げるって言ってたでしょ!?ネプギアっ!」

 

「兄さまっ!・・・兄さまぁっ!」

 

アイエフが叱りつけても少女はラグナのことを呼び続ける。

・・・目の前にいるのは本当にネプギアか?アイエフはまるで初めて会う人に怒っているような感覚に襲われる。

 

「っ!?サヤ・・・?」

 

そして、その声を聞いたラグナが、皆がこちらに目を向けた。

その時、フードを被った男と、仮面をつけている男はまるで狙いの人物が来たと喜ぶように、少女を見て嗤っていた。




今回でアニメ3話分が終了になります。
ラグナとテルミばっかり喋ってますね・・・(笑)。
今回出てきた中で喋ってない人物はいませんが、それでも二人の比率が凄いです・・・。

ちなみにテルミですが、レリウスが用意した躰=ハザマ分とテルミ本来の分を合わせたハイブリッド版となります。
ハザマが「僕にも使えそう」といって『碧の魔導書』を起動してるシーンがCFにあったので、テルミは普通に使ってもいいんじゃないかと思ってこの状態になりました。

次回からそのままアニメ4話分に入りたいと思います。

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