異世界へはスマートフォンが   作:河灯 泉

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勝ち取りたい、ものもない。無欲な馬鹿にはなーれないっ





相伴、そして異能

 八重を伴って一行は食事処に入ったものの、そこで少しばかりの問答があった。

 

 八重曰く、助太刀されて命を救ってもらった上に施しまで受けるのは忍びない、というものであった。

 本人も親切心を無碍にする理由としては無理があると思っていたのか食い気には抗えなかったのかサイリが勝手に頼んだ料理を目の前にしては意地や信念など襖よりも脆いものであった。サイリがダメ押しとばかりに「私のメシが食えないってんですかぁ!?」とハラスメント一歩手前の脅しを掛けたことも大きかったかもしれないが。

 

 八重は武者修行のために生まれ故郷から遥か遠いこの地にやって来たそうだ。

 父親が世話になった人間を訪ねるために王都へ向かう途中、もうあと一歩というところで行き倒れそうになっていたわけだ。

 

 まったく話には関係ないが八重はやたらと肉類を好んで食しているように思えた。ハンバーグ、牛串、焼き鳥、きつねうどん、たこ焼き、焼き魚、サンドイッチ、牛ステーキと半分以上が肉だ。肉まみれの肉祭りだ。というかサラダ食え、野菜食え。不健康な。

 ――更に付け加えるとこの街は近くに湖しかないリフレットと違い海と川の両方に近いためか魚類や海産物をふんだんに使った料理が多かった。魚はともかくタコとかよく食べる気になったな異世界人……貴様らの食文化は東アジアか地中海か。

 ……いや、ベルファストという地名から考えれば自ずと答えは見えてくるか。と言ってもタコはユダヤとキリストの両教から相当嫌われていたはずだが。ぶっちゃけ北欧と地中海はかなり遠いと思うのだが。気にしたらいけないのだろうな。

 

「一文無しってことは……宿はどうするつもりだったのですか?」

「凍えて死ぬような気候ではないので野宿でもしようかと」

「いや野宿はさすがにダメでしょ。あたしたちと一緒に泊まらない?」

「そこまでして頂くのは心苦しく――」

「いくら街中だからって女の子に野宿をさせる方がこちらとしても目覚めが悪いので……どうしてもダメですか?」

「うぅ……」

 

 双子の強気な交渉術によって八重は陥落した。

 というか。同じ卓に着いて食を共にしておきながらそこまで遠慮をするのも野暮だろうと。

 

 どうせ全員同じ部屋で寝るのだから。3人も4人も大して変わらない。シングルかツインか、という話なら料金も変わったのだが。男なら適当に雑魚寝でもすれば済むだろうに、時代背景から見て変に進んだプライバシーや羞恥心を持った乙女というのは中々に面倒な生き物だ。

 どこが半分くらい中世だ。近代どころか産業革命でも起きた後なのかと思うような歪な文明しやがって。食文化は素材と調理法のブレイクスルーさえクリアすれば意外に発達できるだろうが工芸品や量産品は機械化でもないと難しいと思うのだが。無色透明で大型なショーウィンドーなんて論外だ論外。魔法とはそこまで万能なのかと。

 

 ……っと。話を逸らすのはこれくらいにして。

 サイリ、エルゼ、リンゼのパーティーに八重が加わった一幕である。前衛後衛のバランスが取れていて実に安定した面子だ。

 馬車のスペースにも余裕はあるし、なにより女同士ということで異性を乗せるのと比べて気持ちも楽に付き合えるそうだ。まぁギルドに所属する女性は少ないし戦闘に携わる人間が多いから荒っぽい輩が多くなるのも必然で、3人の女性だけで構成された面子の時点で注目の的にはなっていた。今までそれが表には出てこなかったというだけで。

 ……結局。八重が加わることにより、更に多くの目に留まることに変わりはなかった。

 黒一点男一人のハーレムよりは嫉妬やら憐憫やら鬱陶しい意識が向いてこないだけマシかもしれないけども。だからといって百合の花園とか呼ばれるのも良い気はしない。

 

 何度考えてみても、難しいものだと思う。人間社会に溶け込むというのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――≪レゾリューション(resolution)≫」

 

 手元の真鍮を原子分解する。

 左手には銅を。右手には亜鉛を。それぞれ金属塊として分けた。

 

「……うぇっ、きついです。消費される量が半端無いのです」

 

 ほんの数gでサイリの気力とか精神力とか霊力とかの諸々が相当量消えた。

 これはリフレットの街で得た無属性魔法から派生したというか進化したというか最適化させたサイリ独自の異能であるのだが、如何せん消費量が多すぎて戦闘では使い物にならないのだ。この一月の間で新たに会得した『魔石を食べてその属性の魔力を得る』という技能によってある程度は魔力に余裕ができたサイリだが、質の良い魔石でもなければ魔力は大して得られず、低質な魔石なら数を増やさなければ焼け石に水でそれもあまり思わしくない。無属性魔法の消費量が多いのと魔石の価格が安くないのが悪いのだ。

 独自技能に関しては魔力以上にそれ以外のサイリが有する力を使わなければならないために実用的ではない。

 魔力と属性さえ揃えればいくらでも、どんな魔法であろうと扱えるというのは素晴らしいことなのだ。サイリもその点に関してだけは神を褒めてやっても良いとさえ思っている。今のところその条件を十分に満たすことが叶わず不便すぎて「やっぱいつか殺そ」と思い直すまでが一連の流れだが。

 もしも無尽蔵に魔力があったら小石を飛ばすだけのちんけな魔法でも地形を変えるような戦術級の大魔法にしてみせるというのに。……と豪語したところで結局ただの同時起動(マルチプル)による力押しの暴力的な方法になるだろうが。それはあまりスマートではない。無駄が多すぎる。億千万の小石なんて大した迫力はないだろうが生身の人類基準ではそれなりの天災と化すから例え実現できたとしても自重するべきだろう。

 

 

 

「……お?」

「どうしたのサイリ?」

「いえ、なんだかあちらの方が騒がしく感じまして」

 

 無属性魔法【マルチプル】による魔法の同時展開がいくつまで演算処理し切れるかシミュレートしていたサイリは精霊としての感覚に微かな揺らぎを覚えた。

 それなりに大きな、大勢の生物が好ましくない感情を発している。精霊にとって敵意とか害意というものは見ただけで胃もたれするジャンクフードの残飯のようなものだ。ゲテモノ好きや奇特な奴以外は離れたがるだろう。

 しかもそれと同時に人の命の火が消えていくのも捉える。……こちらは悪霊としておやつを見つけたような感覚だが。地味に役立っているのがまた複雑な気持ちになる。サイリはあくまで悪霊混じりであって、決して悪霊ではないのだから。

 

「盗賊でも潜んでいるのかしら?」

「いえ、賊かどうかはわかりませんがどうやら戦端はすでに開かれているみたいですよ。移動していますし」

「数とかはわかる?」

「割と多いというくらいしかわかりませんが。……まさか助けに行くと?」

 

「あたりまえでしょ!」

「あたりまえです!」

「あたりまえでござる!」

 

 

 

「……まぁ」

 

 この3人ならそう言うだろうと予想はしていたし。

 サイリとしても襲われている誰かしらに恩を売る好機であると考えることはできたし。

 いざとなれば奥の手がある。できることなら使いたくない手段だが、安全を確保する方法はある。不意を衝かれての即死の危険はいつだってあるだろうしその程度のリスクで止められるほどいのちだいじにって作戦は合わないからそれは置いておく。

 

 

 

 ――というわけで。

 

 

 

「人助け……参りますか」

 

 




いせスマは異世界オルガの為に作られたんやなって。

艦これと同じくらいMAD素材としてなら存在を許せると気付いた。


10/15 サブタイ修正

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