異世界へはスマートフォンが   作:河灯 泉

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魔法、そして吸収

「魔法を教えるのは構わないけど……あなた適性はあるの?」

「たぶん大丈夫……だと思、う?」

「なんで疑問系なのよ……」

 

 呆れられたが仕方が無いだろう。前例が無く、これから先もおそらく起こりえない事例となるはずなのだから。

 

 サイリは精霊であり、神の手によって再構成された半神霊でもある。

 それはこの世界において存在しないはずの者であり、故に異分子と看做され(システム)から外されている。サイリが魔法を使えないのは属性が無いからだ。

 しかし、サイリは魔力を投げ捨てた純戦士になるつもりなど毛頭無いし、何事にも裏道というものはあるのが世の常というものであって。

 

「リンゼの属性は火だけですか?」

「私は火と水と光の3つが使えます。光はちょっと苦手ですけど……」

「結構。とりあえず全てを見せてもらいましょうか」

「なんで教えを請う側が偉そうなのよ……?」

 

 エルゼの言葉には聞こえない振りをして、リンゼが取り出す魔石とやらを手にとって観察する。

 色の付いたガラス玉のような物質だ。構成は不明瞭で読み込んでみようにもノイズが多い。食べてみれば解析も進むのだろうか?

 

「水よ来たれ」

 

 リンゼの詠唱が終わると同時に魔石から水が零れ、その下に置いたカップへと注がれていく。

 水を創造しているのか大気中の水素と酸素を使っているのか、見ただけではわかるはずもない。たぶん実際自分で使ってみても答えは出ないだろう。正に神秘、それこそ奇跡、故に魔法。

 

「――いけますね、おそらく」

「ん……なにか言いましたか?」

「いえ、なにも」

 

 笑っているようで、けれども少し怒っているような曖昧な笑みを浮かべて誤魔化す。

 面倒な手順を踏んでいる自覚があるだけに、やはりいつかチェーンソーを製作する必要があると再確認したサイリであった。神はバラバラになるべきだ。

 

「ではもう一度。今度はこれを持ってやってみてください」

「これは……なんですか?」

「私の命より大事なものです。絶対に――くれぐれも、落としたり濡らしたり握り潰したりしないように!」

「わ、わかりました……」

 

 スマホを渡されたリンゼが涙目になって頭がすっぽ抜けそうな勢いで頷く。

 

 さて。ここでおさらいだ。

 スマホの充電は魔力によって行われる。

 その魔力は今までサイリ自身の魔力によって賄われてきた。

 しかし、サイリ以外の魔力でも充電は可能である。……実際に試したことは無いが。

 

 では。他人の魔力を使って充電しようとしたとして、充電に使われるはずの魔力をサイリが使用することは可能であるか否か。

 

 

 

 ――答えは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「水よ来たれ――――――あれ? 水よ来たれ……あれっ!?」

 

「……魔力供給確認、転換完了」

 

 

 

「【水よ来たれ】」

 

 詠唱。

 サイリの掌から水が溢れ出てくる。

 ……そして、実験に成功したことを確認するとすぐに止めた。

 

「水よ来たれ――あ、できたっ!」

 

 サイリが魔力の横領を止めた途端にリンゼの方から水が噴出した。

 どうやら力加減を間違えてしまったらしい。

 

「どうなってるんですかぁ~!?」

「いえ。こういうことですよ」

 

 溢れ出る水を治めるためにサイリは再びリンゼから放出される魔力を奪う。

 

 サイリは悪霊混じりであるため人類を対象にした吸収(ドレイン)などお手の物だ。それが精気だろうと魔力だろうと、吸おうと思えば吸える。……無論、常人の致死量までにはかなり長い時間が掛かるし貯めこめる量にも限度があるが。

 

「外に出ましょうか。これ以上は迷惑でしょう?」

 

 サイリにとって他人の迷惑かどうか考慮する心なんて無いが、ここで注目を集めるのは好ましくない。二人を動かす簡単な理由のために迷惑と言っただけで。

 しかし店の中で魔法の練習をされて良い顔をする奇特な人間もそういないので別におかしな理由ではない。

 

「私の魔力から変換は……できますね。かなり劣化しますが」

 

 水の属性は手に入れた。スマホで読み込んだリンゼのものと酷似した魔力を複製することができるようになったものの、現段階では極めて非効率なため実用段階にはない。

 しかしこれでサイリも水の魔法が扱えるようになったのだ。実に喜ばしい。

 

「どういうことか説明してもらえるんでしょうね?」

「勿論です。まだ終わっていませんからね」

 

 エルゼとリンゼを連れて宿に戻る。

 敷地内の庭でまた別の魔石を出して先程と同じ工程を繰り返す。

 

 属性:強化・火・光の読み込みが完了した。

 

「つまり、これを通して魔力を得て初めてあなたは魔法を使えるってことね」

「そういうことです」

「そりゃこの板ひとつが命にも並ぶ訳よねぇ……こんな無属性魔法初めて見たわ」

「凄いです……私も欲しいくらいです」

「あげませんよ」

 

 こんな不条理、人間やめたって手に入るかどうか。

 属性と魔法が個人の資質を大きく左右する世界で全てを物にしようだなんて、いくらサイリでも恐ろしくて気が持たない。それに見合うだけのコストとリスクがあり、致し方なくこうしてこっそりと公開しているのだから。もし間違って広められでもしたら世界中の国が総力を挙げてサイリの身を捕まえようと動くだろう。最悪火種になる前に消される可能性もある。サイリは弱くないが強くもないので殺そうと思えば不意を衝かずとも簡単に落とせるだろうし。

 

「普通の無属性魔法も使えればいいんですけどねー」

 

 普通ってなんだ普通って。

 現地民である双子から声にならぬ言葉が聞こえてきたような気がした。

 基本的にオンリーワンのオリジナルな魔法であり、そこに普通もなにもあったものじゃないだろうに、と。

 

「たぶん読み込むことさえできれば使えると思うんですけどね? 情報をフルコピーできるだけの容量は無駄に拡張されていたりするので」

「なにを言っているのかさっぱり理解できないわ」

「そういうものです。特にわかる必要は無いので気にしないでください」

 

 さーて属性は済んだから次は個々の魔法を習得しますかねー、と鼻歌交じりにリンゼに詰め寄り次から次へと魔法名の記憶、実技見学、実践、のサイクルを繰り返すサイリ。

 少々マッドな方面に思考が傾いてはいるものの、害はないしなにより楽しそうなので双子もサイリの好きに学ばせていた。一緒に戦う者の戦力が増すなら教える二人にとってもプラスになるわけだし。

 

 サイリが無属性魔法を取得するためにはその適性を持つ人間を見つける必要があり、それをどうやって探せばいいのかが最大の難点である。

 軽く調べたところによると無属性魔法というものは汎用性や利便性を別に考えると意外に適性を持つ者は多く、街中の人混みで石を投げれば誰かしらに当たるくらいの割合で存在するらしい。

 なので地道に有用そうな無属性魔法の使い手を当たっていけばそのうち役に立つ人間に出会えるかもしれない。そこは人の身でどうこうできる範疇にないので完全な運任せだ。……神には頼らないけども。

 

 ――気が遠くなりそうな、地道な活動だ。

 

 ……まぁでも。今すぐに何かが必要というわけでもないし、焦らずコツコツとやっていこう。

 サイリはまだ生まれたばかりなのだから。

 まだまだこれからだ。

 何事もやり始めが一番楽しい時期とも言うし。

 

 

 

 ――まぁ。その最初が苦行となることもあるわけだが。

 サイリはどちらかと言えば楽しむ側だ。

 

 善哉(よきかな)

 





「相手の魔力を奪って自分の物とする……まるで将棋ですね」
「将棋ってなによ?」
「ただのボードゲームです」


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