ちなみに作者こと私は原作読破していません。無理です。厳しいのです。
なので描写とか設定が足りないところも出てくるでしょう。
……許してつかぁさい。
「山菜パスタ大盛りおかわりください」
「は、はい山菜パスタ大盛り追加~!」
私の目の前には大量の皿と次々足されていく料理。
口の中にある分を飲み込んで注文すると「おぉぉぉ!?」とギャラリーがどよめく。
そんな平和なお昼時。
朝食は宿で取り、ひとまず自分の限界を知るために適当な飲食店を回って辿り着いたのがこの『ギルド』である。いやギルドは飲食店ではないのだが併設されているので別に間違ってもいないだろう。
食べられるだけ食べてみようと思って色々な物を口に入れる作業を繰り返しているうちに観客が増えていき、食べて飲んで注文を頼むだけで歓声が上がっていたのだがいつしか呻き声やらなにかを堪えるような悲痛なBGMに変わっていった。どうやら人類にはまだ早い食べっぷりだったようだ。
料理の味は悪くなかった。
……しかし、魔力の貯まり具合を考えるとこのくらいのペースでも数日しか生産と消費の割合がプラスを保てないだろう。スマホの充電限界値を超えてもこの身体に貯められる魔力は別になっているので無駄になることはないがとにかく身体のコスパが悪い。
さてどうしたものか。今回の実験で低燃費の重要さと課題が浮き彫りになり、人間社会で悪目立ちする原因を作ってしまった。一応、食べれば食べるほど魔力の生産量が増えて消化に必要な魔力が減っていくという最適化の過程が垣間見えたがこれだけではまだ誤差の範囲内でしかない。何週間何ヶ月と食べ続けていれば効率も上がるだろうが。
「まぁ、このくらいでやめましょうか」
そう告げると店員はホッと一息吐き、すぐさま会計を求める。
お会計は金貨2枚で済んだ。これが100日分の宿屋代だと考えればいったいどれだけ食したのかという異常性が際立つが、やってしまったものは仕方がない。ここに来るまでも朝からずっと食べ通しだったから所持金は金貨1枚と銅貨数枚しか残っていないがだからどうしたと言うのか。サイリに節約や倹約といった概念は根付いていないので危機感を覚えることもない。
「あなたすごい食べっぷりね!」
「えぇ、どうも?」
褒められているのか貶されているのか判断に迷ったが相手が少女の声だったので振り向いて答える。
後ろにいたのは二人の人間――少女たちだった。髪型や服装に差異はあれどほぼ同じ人間が並んでいるようにも見えた。髪の長い活発そうな少女と髪は短めでやや引いた位置にいる少女。
あぁ、本当にそっくりな双子とはこういうものですか。と初めてみる一卵性双生児であろう個体を観察するサイリ。目付きや雰囲気で区別はつくだろうが入れ替わろうと思えば人に気付かれることなく入れ替わることも容易だろう。そんな演技ができる相手かどうかはさておき。
「よくそれだけ食べて平気ね。……お腹とか」
中身の胃袋か、それとも外見の肉付きか。どちらの意味だろうか。
……両方か。
「まぁ。色々あるので。……貴女は?」
「あたしはエルゼ・シルエスカ。こっちは見ての通り双子の妹、リンゼ・シルエスカよ。よろしくね。――あなたは?」
「私はサイリ。……よろしく? エルゼ、リンゼ」
「よ、よろしくおねがいします……」
リンゼはエルゼから一歩引いた場所から小さく会釈をするだけだった。おそらく人見知りの気でもあるのだろう。
……というか。なにがよろしくなのかは訊くべきか否か。この世界特有の挨拶の文化だったりするのだろうか。誰でも知っているような常識かもしれない物事を訊ねるのは中々に勇気がいる。サイリが神経質になっているだけにも思うものの、人間関係の構築とは中々難しいものであるし。
「お二人はどうしてここへ?」
「いまさっき登録を済ませたから依頼を受ける前にお昼でも食べておこうかと思っていたんだけど……」
「サイリさんの食事を見ていたらそれだけで気が済んでしまったと言うか……」
「そうでしたか」
ギャラリーのほとんどは同じ感想を抱いていたそうで、サイリが食べ終わってもギルド内に残っていた何人かが小さく頷いた。対抗心すら芽生えない食べっぷりだったそうだ。
今度から人前では食べる量を加減しておこう、と学習したサイリであった。
そしてそんなサイリにエルゼは物怖じせずに話を振ってくる。
「ねぇ、サイリのランクは?」
「ランク?」
「ランクと言えばギルドのランクのことよ。……あ、もしかしてまだ登録する前だった?」
「そうですね……ギルドですか。えぇそう、ですね」
働き口を見つけなければ食費も宿代も賄えず、いつかそう遠くないうちに機能停止し野晒しで朽ちて死ぬことになるだろう。サイリはこんな未発達な文明世界で無様に死ぬのは嫌なのでそれは避けたい。
サイリにできることと言えば人間社会に紛れる為に必要不可欠で現在も維持し続けている人体実体化、魔力生成、ネット検索による膨大な知識の取得……くらいだろうか。魔法は異分子であるサイリ自身に適正がないため今のところは使えない。サイリ自身が魔法が使えないことへの対策はあるが、条件と制約によってすぐ使えるようにはできない。
ちなみにサイリの身体能力は常人よりやや高い状態で固定されている。身体の構築が甘いとちょっとした衝撃で崩壊するので結合は強めにしている。たとえ真っ二つに切り裂かれたところで中身は伽藍堂なのでグロにはならないはずだが……いや、大量に物を食べていたから今壊れたらある意味グロくなるか。
「――よし。では登録してきます」
「いってらっしゃーい」
「い、いってらっしゃい……」
いつの間にかフレンドリーな関係になっていた二人に見送られてカウンターへ向かう。
比較的若い女性にギルド登録を申し込む。
説明については常にデータとして記録保存されているので適当に聞き流し、手渡された紙に必要事項を書き、提出。
問題は、ここからだ。
ピンを手渡され、血液をカードに染み込ませれば登録は完了するとのこと。
血液。
生物でないサイリには必要がなく、必要がないために生成も製造も生産も成形もされていない命の源である。
……まぁしかし。なければ作ればいいだけで。
食事の際に唾液を創造したように、指先に意識を集中させて血液となるであろう身体の一部を構築、構成。血液型はどうなっているんだとかそもそも脊髄から始めて血液となるものを作っているのかとか、そういうものは置いておいて。
登録はつつがなく済んだ。というか済ませた。
「ね、サイリ。もしよかったら一緒に行かない?」
先程までいた席に戻ると大量に積み重ねられていた皿は片付けられ、すでに別の客が座っていた。仕方なく居場所を求めて移動していると一枚の紙を持ってやって来たエルゼがそう提案してきた。
一角狼という魔獣を5頭討伐する依頼のようだ。
……ただの大型犬でも普通の人間が勝てる相手ではないのに狼とは。この世界の人間はかなり強いのだろう。まぁ魔法がある以上当然かもしれないが。サイリだって出力自体は元いた地球の人類種より幾分か上なのだし。
「たった銅貨18枚ですか……しょっぱいですね」
三等分して一人当たり銅貨6枚。3日分の宿代にはなるが命を掛けて武具を損耗させる戦いの対価がそれではその日暮らしがやっとだろう。下手に怪我でもしたら稼げなくなりその時点でジ・エンド。借金で身売りでもして生き永らえるか、一思いに死ぬか。
とまぁ、そんな暗い話はしたところでなる気がないので放棄。そんな最悪を想定したところで現状打てる手で対応策が練れるわけでもないし。生きている以上は背負うべきリスクだ。それすら避けようだなんて傲慢が過ぎる。
街中で安全に小銭を稼ぐ方針なら、それもアリかもしれないけれど。
サイリはそんな人生(人ではないが)なんて真っ平御免だ。そもそもこの未発達で未熟な文明世界に骨を埋めるつもりもない。骨なんて元々ないだろうというツッコミはさておき。
人として終わりたくない。神として崇められ顕現したい。そんな思いも無くはない。
……なんて、当分先のことを考えてから今をどうするかという現実に戻る思考。
「あたし達でも勝てるくらいの、そんなに強い相手じゃないからこんなものでしょ。どうする?」
「その言葉に甘えて同行させてもらいます。流石に私一人じゃ厳しそうですし」
数の暴力はどんな強者も飲み込むし、そもそもサイリは強者ですらないので。
殺せば死ぬようなレベルで張り合うのも阿呆らしいから自分の存在維持さえ害されなければ自分の強さには拘らないスタンスでいる。今は存在の維持が容易ではなさそうなので少し危機感を抱いているだけだ。
「それじゃあ申請してくるから」
そう告げるとエルゼは身軽に人を避けてカウンターまで素早く歩いていった。
それを見送ってからふと、呟く。
「……あぁ。そういえば」
「どうかしましたか?」
「私、戦ったことないんですよね」
「………………え?」
当然と言えば当然の話だろうが。
戦ったことがなければどう戦えばいいのかという根本的な話まで出てくるわけで。
サイリは自らの戦闘スタイルというものが欠如していることをつい今しがた思い出した次第である。
二人の設定というか生まれとか育ちとか経歴とか、そういう主人公に出会う前の姿がさっぱりわからないのですが誰か知っていたら教えてください……(´・ω・`)web版の何話目に昔話があるとかそういうのでも構いませんので。