くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 八の巻 その十三

 マルタ島上空、自分は《迷彩》を用いて浮かんでいた。

 これから島を包む要塞型ネウロイの内部へと侵入し、写真をとる。

 それが今回の作戦内容だ。

 ヴァラモ島の時と同じく人型ネウロイは中にいるだろうし、ウィッチたちを守るために自分が一人で奴らを撃破する。

 問題は、やり方だ。

 奴らをネウロイとして扱っていたが、人間としてあいつらを捉えなおそう。

 考え方や心構え、戦い方を根本から変えるのだ。

 奴らはネウロイではない。

 人間と考え、彼らを暗殺する。となれば、空戦機動は必要ない。

 場所と状況が重要だ。

「さて、いくか」

 方針を定めた自分は、半球状の装甲側、海面ぎりぎりまで降下して自分が入り込める隙間があるか確認した。

 装甲はどうやら五メートル以上の隙間を空けて浮かんでいるようで、これなら十分に中へと潜り込める。

 そのまま、ゆっくりと中へ飛行する。

 内部はヴァラモ島のネウロイと同じく頂点部にコアが浮かび、正方形のネウロイがかなりの数浮遊していた。

「何もここまであの島と同じじゃなくてもいいだろうに」

 人型ネウロイが二機、自分を見つけて飛んできた。

 舌打ちして要塞外へと飛び出して増槽を投下し、すぐに上昇して外壁に張り付いて出方を待つ。

 一機、もどきが現れて、自分を探しているようだ。

 そしてもう一機要塞型から姿を見せた瞬間、自分は急降下して背中から守り刀を突き立てる!

 怪鳥の如き声と同時に人型は崩壊し、白く輝く結晶のような破片が散らばるが、同時に自分から距離をとろうと動き始めた残りの一体は、両腕から熱線を放つ。

 だが、自分は動きの起こりから狙いを察知し、よけるために身を屈めてうまく回避できたものの、リュックをえぐられてカメラなどの撮影機材は消滅してしまった。

「ちっ!」

 舌打ちして小太刀を鞘に収め、ホルスターからリボルバーを抜き放ち、全弾ネウロイへ向けて撃つ!

 距離にして十メートル。拳銃弾が当たるギリギリの距離だが、弾丸はなんとか右肩と左足に命中し、動きが鈍った。

 その刹那を見逃さず、リボルバーを捨てて手裏剣を二本、魔力をこめながらコアの存在する胸部へと抜き打つ!

 カカッ、と二本とも胸の中心に突き刺さり手裏剣はコアへと到達した。人型の体表に白く輝くヒビが走り、みじんに砕け落ちた。

「ふぅ……」

 人型ネウロイをネウロイとして扱うのをやめ、人間として捉え暗殺した。

 殺すには、戦闘機動など無用だ。

 それは、くノ一として長年鍛えてきた技術だ。

 常にこのやり方で対応できるわけではないが、何かしら障害物が存在する場所であるならば十分に応用できるのは、今回の一件ではっきりしただろう。

「しかし、カメラがなくなったのは痛いな。まぁ、内部状況はヴァラモとほとんど変わらんから絵にすれば問題はないだろう」

 なんなら、《迷彩》を使ったままネウロイのコアを破壊してもいいのだが、偵察が絶対命令で、それ以上のことを行う許可は出ていない。

「戻るか」

 帰投するための燃料も心許ない。

 急いで基地へと帰還するのだった。

 

 基地に帰投し、坂本少佐とミーナ中佐へマルタ島で起きたことを口頭で説明し、見た状況を簡単な絵にしたためた。

 なにより二人を何より驚かせたのは、人型ネウロイ二機の撃破だ。

「ほ、本当なの? もどき二機をあなた一人で?」

 椅子に座っていた中佐が、机を叩くように手を置いて立ち上がる。

「はい、撃破しました」

「どうやったんだ?」

 坂本少佐は、若干食い込み気味に尋ねてきた。

「暗殺ですよ。環境を利用して有利な状態で不意を打ち、相手を不利な状況におとしいれ、対応される前に殺す。自分は戸隠流忍術の師範代で、忍術には暗殺術も含まれていますから、簡単とまではいいませんが難しいことでもありません」

「暗殺、か。我々普通のウィッチには不可能だな」

「そうね、初美さんじゃなければできないようね」

 ふむ、と腕を組んで眼帯の少佐は呟くように言い、ミーナが彼女の意見に同意しながら椅子に腰を下ろす。

「それで、マルタ島の内部はこの絵の状態だったわけね」

「ええ、大きさ以外はヴァラモ島の要塞型ネウロイと全く同じでした。自分なら、そのまま要塞型ネウロイを破壊できましたが、命令には撃破が含まれていないのでコアの破壊は行いません。それでよかったのですよね」

「かまいません。あのネウロイに関しては、西部方面統合軍司令部よりある作戦の決行を命じられています」

「ある作戦?」

 自分は首をかしげて尋ねた。

 きな臭い匂い、とまではいかないものの、やはり何かいやな気配は感じる。

「第三一統合作戦飛行隊、アフリカのマルセイユ大尉とハルトマン中尉の合同作戦です」

「ティナとの、ですか?」

 一瞬耳を疑ったが、司令部の事情もあるのだろう。

 自分が、マルセイユ大尉のことを愛称で言ったものだから、二人とも一瞬驚いた表情を見せたが、

「そうか、初美はアフリカにも行ったんだったな」

 坂本少佐が、自分の経歴を記憶していたのか、自身を納得させるように呟いた。

「ええ、自分はそこで初めて人型と遭遇しました。奴らとはその頃からの因縁です。それで、作戦内容は」

 本来なら、二人が自分に作戦内容を話す義務はないだろうが、前段階の偵察任務を成功させたのだから、それぐらいなら教えてくれるだろう。

「扶桑海軍の伊四〇〇型潜水艦でマルセイユ大尉とハルトマン中尉を輸送、ネウロイ内部に潜入し、二人でこれを撃破します」

「伊号ですか。我が国もマルタ島奪還には力を入れているようですね」

 伊四〇〇号は、扶桑海軍が製造した最新鋭の潜水艦と聞いている。

 確か、二名のウィッチを運搬、発進させることができる超大型の潜水空母で、地球を一周半移動する航続距離を持っているという。

 海軍の虎の子だろうに、使用許可がおりたな。というか、よく地中海近海を航行していたものだ。

「知っているか。さすがはくノ一だな」

「恐縮です。それで、ティナ――えーと、マルセイユ大尉はいつ頃到着するんですか?」

「明日、よ」 


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