くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 八の巻 その十

 翌朝の朝食前、自分は適当な広場を見つけて六尺ほどの棒を手に、棒術の修練をしていた。片腕での扱いは困難で、かなり棒術の制限がかけられているが、それでもできないことはない。

 杖術は、突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀、杖はかくにも外れざりけり、と言うが、棒術もまた同様で、刃がついていないだけ自由に扱えるので、持ち手の長さを操れば太刀としても使える。

 それだけ応用が利く武器で、長さを選ばなければ長めの枝だろうがなんだろうがすぐに見つけられるのも杖術と同じく何かと重宝する術だ。

 そうして、片手でも可能な棒術の技術を模索しながら小一時間ほど汗を流していると、木刀を二本携えた坂本少佐がやってきた。

「初美、腕試しといこうか」

「昨晩の誘いに乗ってくるあたり、少佐もまだまだ若いですね」

 自分は、笑みを浮かべながら答えた。

「なに、貴様は腕のある奴だと聞いていたからな。誘われなくてもお相手願ったよ」

「侍と噂に名高い坂本少佐だ。期待してますよ」

 棒を地面に置き、少佐が投げ渡してきた木刀をキャッチする。

「では……戸隠流忍術免許皆伝初美あきら、一手仕ろうか」

 右手で青眼に構える。

「講道館剣術坂本美緒、参る」

 自分と坂本は互いに名乗り合い、挨拶代わりに剣先をコツッ、とあわせた。

「せいっ!」

 刷り上げるように切っ先をあげて額をかち割りに来たのを、木刀のみねで受けてそのまま滑らせ、返す刀で少佐の額に切っ先を当てた。

 いくらなんでも、申し合わせたように剣を使うことなんてあり得ない。どうやら、自分の腕を確かめにきたようだ。

 舐められたな。

「まずは一本、ですね」

「凄いな、あっさりと流されて一本取られたのは初めてだ」

「自分の腕を計りにきたのはわかってますよ、少佐。満足ですか?」

 一歩後ろに引いて、下段に構えつつ言った。

「わかるか」

 と、呑気に言ってきた。

 これには、武術家としての自分の矜持をいささか傷つけられた。

 視界が血の色に染まったような錯覚を覚え、

「舐めるな! 講道館の小娘がっ!」

 気づけば、ありったけの殺気を込めて怒声を放っていた。

 そこらの人間なら、気あたりだけで腰を抜かすだろうが、真正面から受け止めて平然としているあたり、さすがは講道館剣術の師範から直接指導を受けただけはあるか。

「侮ったな! 貴様の前に立つのは扶桑陸軍初美あきら少尉ではない! 戸隠流次期宗家、免許皆伝者の初美あきらだぞ!」

 一拍おいてかぶりを振り、

「すまなかった、初美殿。本気で参る」

 五行の構えで言う脇構えになり、相対する自分はカールスラント流剣術の雄牛を構える。左半身になって、霞の構えよりも高く柄を頭上にあげ、相手の鼻先に切っ先を向ける構えだ。

 視線を誘導し、視野を狭めることができる。

 自分を見る坂本の目に殺気が宿った。

 そうだ、自分はあいつが真剣になったその瞳を見取りたかった。

 ぞくりと肌が粟立ち、身震いするこの感覚も久しぶりだ。

 これほどの殺気を飛ばせるあたり、坂本もやはり相応の実力はあるのだな。

 くくっと喉の奥から自然と笑い声がこぼれる。

「いぇぁっ!」

 気合い一閃、そのまま眉間に向けて突きを放つが、坂本はずっと後ろに下がりながら頭を横にふって避け、大きく一歩踏み込んで脇に構えた木刀で自分の左脇を叩き切りにきた。

 だが、自分はそれをすでによんでいて彼女の動きに合わせ、脇を護るように木刀を立てる。

 カツッ、と木刀が打ち合わさる音が響くと同時に、自分は大きく体を沈めて木刀を背負うようにしながら少佐の木刀を滑らせ、受け流して立ち上がりお互い青眼に構えた。

「ああまであおってくれたのだ。よもや卑怯とは言うまいな」

「むしろ嬉しいよ」

 自分と坂本はにやりと笑みを浮かべ合う。

「しかし、本当に女の腕力か。私の剣を片手で受けてもまったく握りが揺るがない」

「だからこその師範代だ。甘く見るなよ」

「心から謝罪しよう――せりゃあっ」

 加減のない唐竹割りが飛んでくる。

 自分は一歩踏み込み、木刀を横一文字にして受け止めつつ少し右に軸をずらしつつ坂本の一撃を流し受け、返す刀で面打つが逆風に切り上げてきて、カン、とはじいてきた。

 跳ね返された木刀の勢いを殺さず、くるりと回って右胴を切りに行く!

 今度は坂本がガッと受け止め面打ちにくるが、またも自分はあいつの木刀を受け流して姿勢を崩させてから袈裟斬りかかり、当たる寸前でびたりと止めた。

 坂本は、一筋汗を頬にたらしながら、

「参った」

 と、答えた。

「久しぶりにいい汗を流せた。坂本殿には感謝する」

 自分は剣を引いて、一歩後ろに下がり頭を下げる。

「こちらこそ試す真似をしてすまなかった、初美殿」

 彼女も自分と同じように一歩下がって頭を下げてきた。

「坂本さああぁぁんっ!」

 宮藤の声が聞こえてきた。

「朝食でもできたか。どうやらここまでのようだな」

 木刀を返しながら自分が言うと、

「そのようだな。では行こうか」と、坂本少佐は答え、「朝メシか、宮藤!」

 駆けてくる宮藤に手を振って挨拶をした。

「朝ご飯できましたー、あれ? 初美さんも?」

「まぁな、呼び出し感謝する」

 そして、自分たちは食堂へと向かうのだった。

 


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