くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 八の巻 その七

 自分は、坂本少佐の案内された道を戻って二式輸送機が停泊している場所までやってきた。すでに木製疾風は荷下ろしされ格納庫へとうつされていたようだ。

 大抵、輸送機の発着場所と倉庫は間近になるように作られているので、あたりを見回してそれっぽい場所があるか検分すると、大きな出入り口の奥に発進促成装置が並べられた建物が見つかる。

 ふむ、あそこが格納庫のようだな。

 どんなものか物見遊山にのんびり歩いて行くと、遠目からはわからなかったが格納庫のすみでストイラカーユニットを整備台にのせてなにやら整備をやっている女性――おそらくウィッチがいた。

「失礼、何をしているのですか」

 自分は、そう彼女に声をかけた。

「ん、ああ、過給器の調整をな。見かけない顔だけど、おたくは?」

 リベリオン陸軍の制服をきたウィッチは、作業の手を止めて自分の方を見た。

 制服をみる限り、該当する人物は一人しかいない。

 シャーロット・イェーガー大尉か。

「失礼しました。本日付でしばらく五〇一に厄介になります。扶桑陸軍少尉、初美あきらであります」

「ああ、今朝のミーティングで隊長がいっていたのはあんたか。えーと、《くノ一の魔女》、だったかな? あたしは、シャーロット・イェーガー、リベリオン陸軍大尉だ。よろしくな」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「堅苦しいなぁ、もっとくだけた感じでかまわないぜ」

 と、笑顔を浮かべながら自分の左肩を叩いた。

 ふむ、腕のことは気にしないか。このあたはさすが自由主義と個人主義のリベリアンだな。

 初対面の人間に心配されても対応に困るしな。

「わかった。シャーロット、よろしく頼む」

「チッチッチ、あたしのことはシャーリー、と呼んでくれ」

 ふむ、シャーリーは別の名前の愛称だった気がするが、本人がそうよんでくれというならやぶさかではない。

「わかったよ、シャーリー。それで、どうして過給器なんてみていたんだ。整備兵に任せればいいじゃないか」

「あたしは機械いじりが好きでね。あたしのユニットはあたしが整備することにしてるんだ。魔力配合を少し調整して、もっと早くならないか挑戦してるんだ」

「なるほどな。でも、どうしてそんなに速度を求めてるんだ」

「ボンネビルフラッツって知ってるかい?」

「いや、聞いたことないな」

「リベリオンのボンネビル・ソルトフラッツっていう塩の大地があってな。毎年八月に、そこでバイクのスピードレースが行われてるんだ。ウィッチになる前、あたしはそこで世界最高速をたたき出した。好きなんだよ、あたしは。速いのが好きなんだ」

「好きならしょうがないな」

 そう、自分が武術をやっているのも、結局のところ好きだからだ。好きなものは寝食を忘れて取り組みたくなる。

 それはどうしようもないことなのだ。

「そういや、ペリーヌがお前を探してたな。あいつとは知り合いなんだろう?」

「まぁ、知り合いではあるが……わかった。ちょっと探してみよう」

 考えてみればそうかもな。自分がここに来た表向きの理由もミーティングで知らされているだろうし、それを知ったペリーヌなら一悶着起こしてもおかしくはないからな。

 あいつはああ見えても、友人が傷つくのをひどく恐れる一面がある。

「邪魔したな、シャーリー」

「いいよ、しばらくここにいるんだろ。それなら仲間さ」

 そう言ってシャーリーと別れたはいいものの、五〇一基地の地図は手元にないし地理も明るくもない。さてどうすればと思案しながら基地内をさまよっていると、包丁で何かを刻んでいる音が聞こえてきた。

 到着したのが昼過ぎだったから、おそらく夕食の準備だろう。

 ということは、リネットさんか宮藤さんが料理をしていると言うことだ。

 包丁の音がする場所までくると、大きめの厨房にたどり着いた。

 出入り口の横の壁を数回ノックして、

「失礼します」

 と、声をかけた。

 そこにいたのは、やはり宮藤さんとリネットさんの二人だった。

「あ、初美さん。傷は大丈夫ですか?」

「あきらさん、お久しぶりです」

「宮藤さん、腕は全く問題ないですよ。それからお久しぶりです、リネットさん」

「……あきらさん、その腕」

「これですか。ネウロイにやられたんですよ、詳しいことは後で説明します。それから、ペリーヌが自分を探していたと聞いたのですが、どこにいるかわかりませんか?」

「それなら、自分の部屋で本を読んでると思います。ペリーヌさんの部屋は……」

 


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