くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 八の巻 その六

 自分と坂本さんが治療室に到着すると、そこに待っていたのは一人の女医と髪の毛が外はねしている焦げ茶の髪が印象的な女の子だった。

 女医は妙齢の美人で、おそらくウィッチ専門の軍医かなにかなのだろう。

 ということは、女の子が噂の宮藤芳佳軍曹か。

「待たせたな、宮藤。アレッシア先生、お願いします」

「初美あきらさんね、こちらに座ってちょうだい」

 女医――アレッシア先生が、丸い回転椅子へと招いたので、自分はそれに従い腰掛けて上着を片手で脱ぐ。下には白いティーシャツ一枚を着ている。

「うわ……」

 宮藤軍曹が、自分の左腕を見て声を上げた。

 腕を欠損した人間を目にするのは初めてなのだろうから、そういう反応にもなるな。

「ちょっと失礼するわね」

 女医は気にせずに包帯を外しにかかる。

 くるくると、巻いていた包帯を手早く取り去り、傷口にあてがっていたガーゼに手をかけて、

「痛いかもしれないけど、我慢してね」

 かなり真剣な面持ちで言った。

「痛みには慣れています。さっとやってください」

「わかったわ」

 うなずいて、びっとガーゼを引き剥がす。

 皮が剥がされるような激痛が一瞬走るが、意識の外に外して無視をする。

 傷口に張り付いているガーゼのほつれた糸も、ピンセットで丁寧に取り除いてくれた。

「抜糸もするけど、我慢してね」

 そして、傷口を結んでいた絹糸を切って、一本ずつ素早く丁寧に抜く。

 当然、癒着した傷口に痛みが走り、そのたびに眉や頬がぴくっと動いて反応してしまう。

 作業自体は十分とかからずにすんだが、さすがに脂汗が顔面から吹き出ていた。

「さすがだな。そこまで痛みに耐えられるとは」

 坂本さんは、かなり感心した風に感想を述べた。

「意識の外に痛みをおいやればいいだけなんですが、普通の人にはお勧めできませんね」

「さ、宮藤さん、あとはお願いね」

 そう先生が言うと、

「わかりました。あとは任せてください」

 宮藤軍曹は魔法力を発現して自分の左腕に両手のひらをかざし、意識を集中する。柴犬の耳と尻尾が生えてきて、青い光が治療室全体を包む。

 すると、ほぼ同時に傷が塞がり、皮膚も外皮まで完璧に形成された。ガーゼを剥がしたり抜糸した時の痛みも一瞬にして引いて、その治療速度と効果にはただただ驚くばかりだ。

 なるほど、これが噂に聞く宮藤軍曹の治癒魔法か。

「ふぅ、これで大丈夫のはずです。どこか痛むところとかありますか?」

 宮藤軍曹は、額ににじんだ汗を拭いながら訊いてきた。

「ああ、全く問題ない。すごいな、軍曹の治癒魔法は。自己紹介がまだだったな。自分は、扶桑陸軍、初美あきら少尉だ。お二人には深く、深く感謝する」

 自分は、二人に頭を下げて感謝の意を表する。

 左腕がなくなった以外は、すべて元通りになったようなものだからな。いくら感謝してもしきれない。

「そんな、気にしないでください」

 ニコニコと笑顔を浮かべ、宮藤軍曹は言った。

「傷がなおってよかったわ」

 と、アレッシア先生。

「ところで坂本さん」

「なんだ、宮藤」

「どうして初美さんが五〇一に来たんですか?」

 む、いきなりそうきたか。あの作戦に関してはまだ秘密のはずだ。

「宮藤に傷を治してもらいに来たんだ。そのかわり、初美はしばらくの間、五〇一で働いてもらうがな」

 なるほどそうきたか。

 当然といえば当然か。

「そういうわけだ、しばらく厄介になるがよろしくたのむ」

 自分は、坂本少佐にあわせてそう答えたのだった。

 

 その後、自分は坂本少佐に連れられて、ミーナ中佐の待つ執務室へとやってきていた。目的はもちろん、ドーム型ネウロイの偵察任務についてだ。

「ミーナ、私だ。入るぞ」

 坂本さんがドアをノックすると、中からどうぞ、と声が聞こえる。

 ドアを開けて、少佐と自分は中へ入った。

「待たせたな、ミーナ」

「いいのよ、それで初美さんの怪我はもう大丈夫なの?」

「はい。完全に治りました。凄いものですね、宮藤軍曹の治癒魔法というのは。生まれたときからこうだったのでは、と錯覚するぐらいに治療していただけました。感謝します」

「そう、すっかりよくなったのね。では、偵察任務のほうもできそうなのね?」

「もちろん、万全整えて任務にあたらせていただきます」

 自分はうなずいて答えた。

「よかったわ。では、偵察任務の概要について説明するわね」

 ミーナ中佐は、机の引き出しから大きめの茶封筒を一つ取り出した。

「まずはこれを見てちょうだい」

 封筒の中から、数枚の写真を出して、自分たちに見せる。

 その写真には、マルタ島を覆う黒いドームが写っていた。

「初美さんは見覚えがあるはずね」

「ええ、ヴァラモ島を占拠していたネウロイとほぼ同じタイプの要塞型ネウロイだと考えられます。ただ、規模はこちらのほうが遙かに巨大だと思われますが」

「そうね。初美さんの見立ては正しいわ。そりれに加えて、海面とネウロイの隙間はかなりあるから、ストライカーユニットをはいたウィッチ一人ぐらいなら楽にくぐり抜けられる」

「つまり、その隙間から入り込んで、内部を偵察する、というわけだな。しかし、そんなことが本当にできるのか?」

 坂本少佐は、腕を組んで首をかしげた。

「それができるのよ、初美さんならね」

 と、自分に説明を促すミーナ中佐。

「自分の固有魔法は《迷彩》といって、電磁波、魔導波などの波を吸収し、迷彩色で周囲に溶け込むシールドを張ることができます」それを受けて、自分は事情を知らない坂本少佐に説明する。「熱などは防げませんが、ネウロイの目には透明にうつるのでおおよそどんなところでも、安全に偵察が可能になります」

「そういうことか。それなら確かに可能だな」

 自分の説明をきいて、少佐はうんうんとうなずいた。

「偵察任務の決行は明後日に行います。必要な機材は、すでに用意してあります」

「了解しました。では、失礼します」

 自分は敬礼をやって、執務室を後にしたのだった。


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