くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 八の巻 その五

 一週間の移動を終え、ロマーニャの第五〇一統合戦闘航空団基地に到着した。

 五〇二のペテルブルク基地もそうだが、ずいぶん風光明媚な場所や建物を本拠地とするのだな、などと思いながら、痔ができそうなほど座らされて疲れがたまった腰を叩きつつ、タラップを降りると、そこにはミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐とポニーテールに眼帯をつけたウィッチが待っていた。

 ふむ、彼女が名に聞くところの坂本美緒少佐か。

「初美あきら陸軍少尉、ただいま到着いたしました」

 タラップから地面に降りると、自分は陸軍式の敬礼で名を名乗った。

「こうして直接会うのは初めてね、私がミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐。ミーナ、と呼んでちょうだい」

「私は扶桑海軍少佐、坂本美緒だ。階級のことは気にせず、坂本でかまわない」

「では、少しの間になると思いますがよろしくお願いします、ミーナ中佐、坂本少佐」

「早速だが、左腕の状態はどうなっている。まだ完治はしていないのか?」

 と、坂本少佐が訊いてきた。

「はい、完全には治っておりません。抜糸もしておらず、完治にはもうしばらくかかるかと」

 自分がそう答えると、少佐はうなずいて、

「ミーナ、すまないが作戦会議は少し後にしてくれるか?」

「わかってるわ、宮藤さんね」

 などと言って、微笑んだ。

 自分の腕の治療を先に済ませてしまうのか。

「ああ、そういうことだ。初美、まずその腕を完治させなければならないな。ついてこい」

 少佐はそう言って、自分を基地へと案内する。

「了解しました。失礼します、ミーナ中佐」

 赤髪の女公爵に頭を下げて、自分は颯爽と歩を進める少佐の後をついていく。背筋がすっと通っているあたり、かなりの使い手のようだ。武術家として、講道館剣術とは試し合いをしてみたくなるが、それをぐっと飲み込む。

「どうして左腕を失ったのか、詳しい事情を聞かせてはくれないか?」

 少し後ろを歩く自分に、優しい口調で問いかけてきた。

「五〇二との共同作戦で、自分は人型ネウロイを二機相手にしました。一機は撃破できたのですが、もう一機を仕留め損なったのです」

「ふむ」

「ともかく、その作戦は、人型ネウロイを一機逃した以外は成功し、無事超大型ネウロイの撃破をしました。それから数日後、自分は下原貞子少尉と、ジョーゼット・ルマール少尉とともに定時偵察任務に就きました。そのとき、偵察型ネウロイを撃墜したのですが、不意を打って人型ネウロイが自分の背後からやってきて、腕を切り落としたのです。その人型は、おそらく自分が撃墜に失敗した奴のはずです」

 腕を落とされた時の衝撃と痛みを思い出してしまい、左腕の傷口を押さえてしまう。

「なぜそう言い切れる」

「自分が撃墜した人型ネウロイは、扶桑刀で切り伏せたのですが、そのときの様子を奴は見ていました。そして、自分の腕を切り落としたネウロイの右腕は、扶桑刀のような形状をしていたのです」

「なるほどな、そういうわけか。大変だったな」

「自分はウィッチである以前に忍者であり武術家です。腕の一本ぐらい、いつでもなくす覚悟はあったので、気にはしておりません。それよりもあの時、人型ネウロイを撃墜できなかった後悔のほうが大きいです」

「どうしてだ」

「人型ネウロイは、ウィッチを洗脳し、操る先兵です。あいつらからウィッチを守れるのは、自分をおいて他にはいません」

 そこまで言い終えると、自分は息を吸って、

「自分は、彼奴らからウィッチを守りたいのです」

 宣言するように強く言った。

 それを聞いて、少佐はふと立ち止まり、

「そうか、お前も護りたいのか。そうか、そうか」

 と言って唐突に笑い始めたものだから、自分はいぶかしんで彼女の顔を見た。

 自分は何かおかしなことでも言っただろうか、と思っていると、少佐はさっぱりとした笑顔で、

「いやぁ、すまんすまん。これから初美少尉と会わせる宮藤も同じことを言って、無茶をして欧州までやってきたのを思い出してな」

 と、自分の右肩を叩きながらそう言った。

 それでか。人をバカにするような人物ではないと思っていたので、唐突に笑い出されてどうすればいいのか迷ってしまった。

「ああ、横須賀基地での一件ですか。噂を聞いたことはありますが」

「理由如何によっては、初見少尉の偵察任務参加を見合わせようと思ってはいたのだが、それを言われてはな。宮藤を欧州に連れてきた手前、引き下がるしかあるまい。さあ、医療室まであと少しだ。行こうか」

「了解です、坂本少佐」

「初美、私のことは階級抜きで呼んでくれ。海軍と陸軍の間柄ではあるが、同郷の人間にそうよそよそしくされるのもな」

 なるほどな。気っ風のいい人柄だとは聞いていたが、その噂は本当だったか。

「わかりました、坂本さん。よろしくお願いします」


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