くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 七の巻 その十三

 書類保管室で、人型ネウロイとの交戦記録を閲覧したのは、《大鯨》を撃破してから三日経過した日だった。

 その間、自分は念のため逃した人型ネウロイが現れる可能性も考えて、《大鯨》が遊弋していた空域を中心に偵察任務を行っていたが、それもラル少佐の判断のもと終了し、自分が五〇二へやってくるきっかけとなった資料の閲覧がようやく可能になったというわけだ。

 もっとも、書かれていることは以前ロスマン先生と偽伯爵から聞いていた状況の再確認でしかなく、実りあるものではなかったのだが。

 よって、自分が五〇二にとどまる理由はなくなったといえるが、どこに行けと指令を受けているわけでなし、もうしばらくここにやっかいになるつもりだった。

 背伸びをしながら保管室を出ると、

「あ、初美さん」

「どうしたんですか、こんなところに」

 下原とジョゼが仲良く二人で歩いているところに出くわした。

「ああ、人型ネウロイとの交戦記録の閲覧にな。二人はどうしたんだ?」

「私たちは、これから哨戒任務です」

 と、下原が答える。

 ふむ、そうか。自分も手が空いたことだし、

「それなら自分も付き合おう。取り逃がした人型ネウロイがまたやってくるかもしれないしな」

「ありがとうございます、初美さん」

 ジョゼはにこやかに微笑みながら礼をいってきた。

「それじゃあ、飛行計画書の訂正をしてきますね」

 下原は一人、廊下を小走りで司令室へと向かった。

「ジョゼ」

「なんですか? 初美さん」

「あの時は助かった。改めて礼を言う」

 自分は、ジョゼの顔を正面から見ながら言った。

 あの時、とは人型ネウロイからの洗脳を治療してくれた一件のことだ。

 こうしてきちんと礼を言う暇がこれまでなかったので、ちょうどいい機会だと思った。

「気にしないでください、初美さん。いつか私が初美さんに助けられることがあるかもしれませんし、お互い様ですよ」

 人の役に立つことがうれしいのだろうか。

 心からの笑みを浮かべているジョゼだ。

「そう思うことにしよう」

 自然と自分もの微笑んでしまう。

 なるほど、彼女のようなムードメーカーがいてこそ、部隊も回るんだろうな。

「それじゃ、格納庫にいって定ちゃんが来るのを待ってましょう」

「そうだな、行こう」

 

 そういうわけで今、自分は下原&ジョゼコンビと午後の定時偵察に出ていた。

「このまま、南方を回ります」

 下原は、インカムで管制に伝えると、三人で太陽の方向へと飛んでいく。

 しばらく偵察を行っていると、

「みなさん、気をつけてください。西に偵察型ネウロイが二機、こちらにむかってきます」

 と、下原が機関銃を構えながら警告を発した。

 自分とジョゼも合わせて銃器を構える。

「こちら下原、偵察型ネウロイ発見。これより迎撃に移ります」

 インカムで管制へ報告し、加速を開始した。

 むこうもこちらを発見したらしく、散発的にビームをうってくるが、あたるどころかかすめる気配もない。あっちにしてみれば当たればもうけ、ぐらいの射撃だろう。

 自分たちと偵察型は、ヘッドオンになる。

 有効射撃距離に入ると、

「攻撃開始っ!」

 下原の号令一下、攻撃を開始する。自分の射撃も含めた銃弾がネウロイの装甲をはぎ、有効打をあたえ最終的にはむこうの攻撃をさせるいとまもなく撃破に成功した。

「こちら下原、偵察型ネウロイの撃墜を確認しました。このまま偵察を続け――」

 ネウロイの鳴き声が聞こえるのと同時に、黒い塊が自分の背後からすり抜けた。同時に、左腕が何かにはじかれたような衝撃が走る。

 持っていた機関銃の重量を右手で持ちきれず、墜としてしまう。

「初美さんっ‼」

 ジョゼが悲痛な表情を浮かべていた。

「初美さん、左腕‼」

 下原に言われて、自分の左腕を見る。

 上腕部の途中から、左腕が消えていて、血があふれるように流れている。

「なん……だ?」

 左腕が刀のようになっている人型ネウロイが、滞空して自分を見ていた。

「二人とも離れろっ‼」

 自分は喉が張り裂けそうなほどの声で叫び、懐から棒手裏剣を抜き放って打つ。

 だが、その一撃もむなしく空を切り、人型は、何かに満足したのか、猛スピードでどこかへ飛んでいく。

 そして、意識を失った。


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