くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 七の巻 その十二

 あちこちから機関銃の発砲音とネウロイの破壊音が聞こえてくる中、自分は滞空しながら頭を押さえる。痛みとめまいが激しくミキシングされ、脳内で反響を繰り返している。

 船酔いと二日酔いと火酒をシェーカーにぶち込んで飲まされたような感覚だ。

「大丈夫ですか、初美さん」

 そんな声がどこからか聞こえてきた気がするのと同時に、意識にかかっていたもやが風に吹かれて消えていく。

「う……あ、ああ、ジョゼか。助かった」

 こんなことができるのは彼女ぐらいだ。

「はい。少しじっとしていてください。すぐに治します」

「戦況を教えてほしい」

「現在、小型ネウロイの掃討を行いつつ、《大鯨》へ攻撃をくわえています」

 散漫としていた意識が、即座に自分の手に戻ってきた。

 回復魔法というのは、本当にすごいものだな。

「そうか……助かった。もう大丈夫だ、自分も攻撃に参加する」自分は、ジョゼに頭を下げて上昇を開始する。「サーシャ大尉、これより自分も戦闘に参加する。指示を頼む」

『よかった、無事なんですね。初美さんは直上から《大鯨》に攻撃を加えてください。ジョゼさんは下原さんとロッテを組んで小型ネウロイの排除をお願いします』

「了解っ!」

《大鯨》の直上に移動し、機関銃で一斉射を行った。ダダダダッと銃声が鳴り響き、火線は大型ネウロイに吸い込まれていく。

 命中した部分がはじけていくが、それだけだ。

 即座に命中した周辺のうろこが赤く染まる。

「ならばっ!」

 ロール機動を行いながら急降下を敢行すると、幾条ものビームが自分を追いかけてくる。

「ふっ!」

 息を吐き、構えていた機関銃を背中に回して抜刀。

「ぃぇえええぇぇぃっ‼」

 魔法力を込め、巨大な黒鯨の横っ腹を切り裂く!

 途中で刃が止まるが、力任せに大型ネウロイの土手っ腹を裂いた。

「ぬぅありゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼」

 びきびきっとヒビを入れつつ装甲を断ち割り、ついには腹にまで刃を通し、

「これで、どうだああああぁぁっ‼」

 縦一文字に切り裂かれたネウロイは破損箇所を修復するため、攻撃を控える。

「管野! ひかり! 今だっ!」

『へっ、よくやった初美っ! いくぞ、ひかりっ!』

『はいっ! 管野さん!』

 紫電改のエンジン音が二つ重なって聞こえ、

『ここです、管野さんっ!』

『応っ! 《剣・一閃》っ!』

 瞬間、頭頂部が青く輝き、そこを中心として細かいヒビが全身をめぐって全体が白い光を放った。

【――――‼】

 怪鳥の如き断末魔をあげ、細かい破片となってネウロイは消滅したのだった。

 

 司令官室。

 自分は、作戦において達成すべきだった案件――すなわち、人型ネウロイ二機の両撃破を失敗した報告をするため、ここに訪れていた。

 洗脳の影響が、あそこまで大きいものになるとは思わなかった。もう少し軽微だと予想していたが、滞空するのもやったの状態にまで影響がでると想像もしていなかった自分だった。

「大言壮語をはきながらの失態、申し訳ありませんでした」

 自分は、頭を下げて謝罪する。

 なにかしらの責任問題になっても、抗弁せずに甘んじて処分を受けるつもりだったが、ラル少佐は書類の山の谷間で苦笑しながらこう答えた。

「報告はサーシャより受けている。本作戦の目的は《大鯨》の撃破だ。それが成功したのだから、問題はない」

「寛大な措置、感謝いたします」

「もう一機を仕留められなかったのは残念だが気にすることはない。それで、貴様はこれからどうするつもりだ」

 どうする、とは……ああ、まだここにいるのかそれとも別のところにいくのか、ということか。

「まだ資料は拝見しておりませんし、先生にもいろいろ教わりたいこともあります。ですからしばらくはここにいますよ」

 ラル少佐は無表情のまま片手にもったコーヒーカップを置き、

「そうか。では、しばらくの間だがよろしく頼むぞ。《くノ一の魔女》の腕、頼りにしているぞ」

 そう言って、彼女は山積みの書類に手をかけ出したので、自分は司令官室を後にしたのだった。


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