くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女~ストライクウィッチーズ異聞 七の巻 その十

 先生に連れられてやってきた次の場所は、娯楽室であった。長椅子がいくつか並べられ、壁にはダーツの的がぶら下がっていて、そこにいくつか矢が刺さっている。

 喫煙の習慣を持っているウィッチがいないためかヤニ臭さはなかったが、若干のアルコール臭が漂っているのは、高足のスツールに腰掛けテーブルに肘つきながらウォッカをなめるように飲んでいるクルピンスキー中尉がいたからだ。

 長椅子に寝転がりながら、ガリア語の文庫本にのめり込んでいた管野中尉が、本から目を離して先生と自分を見やり、

「お、どうした初美」

 と、声をかけてきた。

「そこの偽伯爵に話があってきたの」

 先生がかわりに答える。

「じゃあ、人型をしとめたもう一人のウィッチって」

「ああ、それは僕だよ。どんな話が聞きたいんだい、あきらくん」

 自分は、立ったままの姿勢で、

「人型をどうやって撃墜したのか、そのときの様子を聞かせていただければと」

 偽伯爵のような類いの人物は、敬して遠ざけるにかぎる。迫水少佐のように、遠ざけてもふりはらっても張り付いてくる人間はいるものだが、クルピンスキーはまだ口説き方がスマートだから、あのスオムスの痴女のようなことにはならないと思いたい。

「あの時のことか」

 管野中尉が何かを思い返しながら呟いた。

「そんなにたいしたことはしてないよ。シリンダー内の《もどき》を撃っただけ」

 実にあっさりしたものだ。そんな程度の話ではないだろう。

 ロスマン先生は、クルピンスキー中尉の返答を聞いてため息をついた。

「あの時は、シリンダーのコアになっていた《もどき》を破壊するため、管野さんが先頭になってシリンダーに突貫、コアになっていたネウロイをそこの伯爵が撃ったのよ」

「な、たいしたことないだろ?」

「その後、傷だらけになった伯爵は、頭部からの出血で目が見えないままの狙撃でなんとか撃破したわ」

「先生の誘導でね」

 なんだ、先生もその場にいて知ってたのか。

「あの時は先生の誘導がなかったらあいつを撃墜できなかったよ。先生には感謝している」

 昔の戦場を懐かしむような憂いのにじむ表情で言った。

「まぁそういうわけだから、僕のはあきらくんが望むような内容じゃなくて悪かったね」

「いえ、奴らも逃げるという事実を知り得ただけでも十分です。参考になりました」

 自分は、そう言って二人に頭をさげる。

 三人の話を聞いて、大体の戦術は固まった。

 ぶっつけ本番になるが、効果はあると思われる。

 ただ、そのためにはブレイブウィッチーズの援護が完璧に遂行されなければならないが、ネウロイの巣をも破壊した彼女たちだ。信頼していいだろう。

 そして、作戦当日を迎えた。

 空は雲一つない晴天、ネウロイがいなければ気持ちよく空を飛べたことだろうが、今はまだ奴らがいる。

 のんきに飛べる空ではない。

 ネウロイを絶滅させる。そのための一歩が今日行われる作戦だ。

『これより《大鯨》攻略作戦、《エイハブ》を開始する』

 インカムから、ラル隊長の芯の通った声が聞こえる。

『詳細は説明したとおりだがもう一度説明する。まず初美が《迷彩》を使用して《大鯨》に接近し、人型ネウロイを釣り上げ、撃破を狙う。その間、ブレイブウィッチーズは初美が狙われないよう周辺のネウロイの掃討を行う。人型の撃墜が確認されたのち、《大鯨》の攻略を行う。以上だ。作戦の成功を願う』

「では、ブレイブウィッチーズ、総員発進します」

 少佐のあとをついで、サーシャ大尉が宣言する。

 ブレイブ隊全員のストライカーユニットが轟音をたてて、風を巻き起こす。

 格納庫内をつむじ風が暴れ回る。

「出撃っ!!」

 号令一閃、サーシャを先頭として次々と飛び立っていく。

 ブレイブ隊の最後のひかりが促進装置を離れて飛び立ったのを確認して、

「オン・マリシエイ・ソワカ」

 摩利支天手印を結びつつ真言を唱え、発進した。発進の衝撃が体を襲い、速度が離陸可能になるまで一気に上昇し、空へと舞い上がる。

 高度三千まで上がると、V字編隊を組んで《大鯨》の遊弋する空域へ向かうのだった。


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