くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 七の巻 その五

 あのあと、自分は木製疾風をはいて、ロスマン曹長に連れられ、モシン・ナガン片手に射場へとやってきていた。自分の射撃技術の検証と指導のためだ。

《大鯨》と命名されたネウロイの撃滅作戦は、《大鯨》が動く気配を見せないため、明後日に行われることになっていた。

 そこで、あいた時間を使って、自分こと初見あきらの射撃技術の促成教練をやろうというわけだ。

 ライフル弾を込めたモシン・ナガンを構え、およそ二〇メートル先の台座にのった五センチ程度の正方形の鉄のついたてを狙う。

 モシン・ナガンの装填数と同数のついたてが並べられていて、右端に焦点した。

「引きつけ、頬当てともに問題ないわね。撃って」

「了解」

 サイトを標的に会わせ、引き金をしぼればバガン、と大きな銃声が響いて銃弾は標的をかすめ、たん、と倒れた。

 どうやらプレートは蝶番で台に固定されているらしい。

「ユニットによる衝撃吸収はしっかりできてますね。次。一番左を狙って」

 ボルトを操作して排莢、次弾を装填して構える。

「撃て」

 銃声が響き、わずかに左に外れてしまう。

「右」

 今度は標的に命中して倒れる。

「左」

 左端をかすめた。

「右」

 中心にヒットして倒れる。

「お疲れ様です。管野さんの言うとおり、確かに射撃技術は未熟のようね」

 まぁ、そうだろう。中野学校でも、射撃の評価は丙だったからな。空戦ではなんとか使えるぐらいにまで鍛えはしたが、促成教練だったため根本的な原因の解明と解決はできなかった。

「原因はわかりますか?」

「わからないわ。もう一度撃って。ただし、今度は五メートル前に進んで」

「了解しました」

 自分は、ライフルに弾を込めてプレートを戻すと、言われたとおりに五メートル進んで標的を撃つ。

 さすがに今度は全弾命中し、すべてのプレートを倒すことができた。

「わかったわ。変な癖がついてるように感じる」

「癖、ですか?」

「言葉では言い表せないのだけど、射撃時に体が微妙にブレてるわ。それが原因のようね。何か思い当たる事柄はないかしら」

 原因、か。

 考えてみても思い返してみても、原因らしい原因はみあたらない。強いて言うなら。

「ないこともないが、扶桑武術……かな」

 これぐらいしか、本当に思いつかないのだ。

「では、それが原因ではないかしら。身に染みついた武術の癖が影響しているのでしょう」

「そういうものなのか」

「そういうものよ」

 訳知り顔で頷く曹長は、似たような事例でも見てきたのだろうか。

「できることなら、その癖とやらを取り除きたいのだが」

「毎日、何発も射撃訓練をして、少しずつ取り除くしか方法はないのだけど、初美さんにはそんな余裕はないのでしょう?」

「それだけの余裕があるなら、自分の五〇二への編入も可能だろうな」

「でしょうね。それなら、現状としては当たらないことを利用するしかないわ」

 当たらないことを利用する? 不思議なことを言うな。

 ロスマン曹長は、首をかしげている自分を見てふ、と微笑み、

「管野さんが言うには、あなたの剣術はかなりのものだとか。ならば、射撃を格闘戦に持ち込むための手段として用いた方がいい、そういうことよ」

 なるほど、そういうことか。

「ふむ、相手を自分が望む軌道へと誘導するように射撃すべし、ということか」

「どうせあたらないなら、むしろその方がいいと思うのだけど。あたればあたったで儲けものだし」

 なるほどな。現状、急な改善は武術の形を崩すことになりかねないし、それならばいっそ当てることを考えなずに利用する事を考えたほうがいいわけか。

 問題点の洗い出しから対応策まであっさりとでてくるあたり、さすがは先生と呼ばれ、慕われるだけのことはあるな。

 自分は、曹長のアドバイスに納得して、

「なるほどな、助言に感謝する」

 頭を下げた。

「あなたには次の作戦でしっかり働いてもらわないといけないから、当然のことね」

「期待に応えられるかはわからないが、もちろん可能な限りの協力はさせてもらうさ」

 


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