くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 六の巻 その十五

 偵察写真が現像後、作戦が発令されたのは自分が教導役をやってからさらに数日たってからだった。

 ネウロイに対しての対策は未だできておらず、かつ、ドーム状のネウロイから人型がでていったという観測がされてない以上、あの中にいると考えるのが普通だ。それ故に、作戦立案もかなり難航したのだろう。

 三隅軍曹が基地にいたことに疑問を持たなかった自分に緊張感がないな、と思うが、それなら彼女が戻ってきていたことも理解できる。

 なにしろ、人型への対処法は未だに見つけられていないのだから、ウィッチとかのネウロイとの接触をなんとしても避けねばならない。

 つまり、作戦がとりあえず形をなしたということは、何かしらの打開策が見つけられたということでもある。

 そして、それは自分が望んでいたことでもあった。

 

 太陽が中天にさしかかろうとしていたそのとき、ヴァラモ島攻略作戦は実行に移された。

 作戦は三段階からなっている。

 第一段階は、自分と雁淵、菅野組、それに下原少尉以外の全員でヴァラモ島のドーム状ネウロイから可能な限りネウロイを排出させ、撃墜することにある。

『小型の群れが出てきました。すべてこちらに向かってきます。雁淵、菅野組、ならびに初美少尉には気づいていないようです』

 下原少尉には《魔眼》でネウロイの出現状況を逐一確認、報告する役割が与えられた。出てくるネウロイが小型から中型へと変化したときや人型ネウロイが現れた場合に、ハンナ司令へと伝達するのだ。

『下原少尉はそのまま継続して対象の監視を続けて。他は、ネウロイの撃破を。作戦開始だ!』

『『了解っ!』』

 眼下では、ヴァラモ島のネウロイから排出されていく小型ネウロイとの交戦が始まった。

 島の南方には雁淵軍曹と菅野中尉の二人が待機していて、自分は上空で奴が現れるのを待っていた。

 奴、すなわち人型ネウロイが現れたときが自分の出番だ。

 今のところ、人型ネウロイの洗脳に対して抵抗が確認できている《迷彩》を使用した状態で、奴を撃破、あるいは釘付けして動けなくするのが今の自分の役割になる。

 これが第二段階になる。

 そうやって人型の脅威がなくなったところで、作戦は第三段階へと移行する。

 すなわち、雁淵軍曹が《接触魔眼》でコアへの最短距離の場所を確認、菅野中尉が《剣一閃》でこれを撃破するのだ。

『きゃあああぁぁっ! 危ないですうぅぅっ!』

『メガネかけろメガネ!』

『こっちくんな!』

『最初からメガネをかけたらどうです』

『だってかけたら不細工になりますからっ!』

『空ではネウロイ以外みてないから気にしなくていいよ』

 銃声とともに、どうしようもない内容の会話が飛び交う。おそらく一番緊張感がないJFWだろうな、この部隊は。

 ともかく、彼女たちはなんだかんだと言い争いをしながらも、湧き出すように現れる小型ネウロイを撃破していく。さすがは幾度もの戦いを経験してきた、最古にして歴戦の統合戦闘航空団といったところだろうか。

『司令、人型の出現を確認しましたっ! 場所は頂点部ですっ!』

 そんなところに、下原少尉の無線がとんできた。

『初美少尉っ!』

 ハンナ司令の声が届くと同時に、

「了解したっ!」

 そう叫んで《迷彩》を発動し、頂点部へと急降下を開始する。

「オン・マリシエイ・ソワカっ!」

 ホ一〇三機関銃を構え、頂点から出てきた人型を視認すると引き金を絞り、銃弾の雨を降らせる。

 何発かはかすめるが、コアを貫くことはできなかったようだ。顔らしき部分を自分の方に向けると、独特の飛行音を響かせて飛んでくるが、自分がどういう存在か認識しきれていないようで、攻撃する気配を感じられない。

 ならば、とさらに銃弾を浴びせるが、相手もヘッドオンでこちらに向かってくるので標的としてはかなり小さく、なかなか命中弾を与えらなかった。

 そのまま交差する。

 扶桑刀を抜いていれば一撃で撃破できたが仕方ない。

 ぐん、と体を反らせて上昇機動に移り、体を返して人型を視界内に収める。

「アフリカの時は、手を出すなとの指令があった」

 照準し、撃つ。何発かかすったようで右肩と左足が削れるが、すぐに修復された。

「先日は偵察任務だから手を出せなかった」

 がちん、と音を立てて弾倉が底をついた。

 弾倉交換する暇が惜しい。

 扶桑刀を抜き放つ。

「だが、今は違う」

 脇構えで、矢のように奴へと飛んでいく。

「戸隠流初美あきら、参るっ!」


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