くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 六の巻 その十三

 自分は、サウナルームを出て身支度を調えると三隅軍曹の居室に向かうことにした。

 扶桑に戻ったとき、彼女が出演する記録映画で、苦労して空戦ネウロイを模したグライダーに格闘戦を挑んでいたのを見たのだが、接近してもなかなか木刀を当てられずに難儀していたのを覚えている。

 そして、あの分だとまだまだ彼女はまともに空戦ネウロイを扶桑刀で相手にできないだろうと思えた。

 そこで、自分が稽古をつけることで、その一助となればと考えたのだ。

 銀幕の中にいた軍曹は必死だった。元々才能はあったのだろうがそれに驕らず、できないからと腐らず技量をあげるため訓練に邁進していた。自分はそういう人間が大好きだし、無性に応援したくもなる。

 それなら、多少なりとも彼女の手助けをできれば、と感じた。

 だから、

「三隅軍曹、初美だ。少し用があるのだが、かまわないか?」

 自分は、彼女の部屋のドアをノックした。

「はい、なんでしょうか」

 三つ編みお下げの彼女は、すぐに反応してドアをあけた。

「剣術の稽古をつけようと思ったのだが、やる気はあるか?」

「本当ですか?」

「武芸武術に関しては嘘は言わない」

 自分がそう言うと、三隅は破顔してすぐに部屋の奥に引っ込み、ドタバタと物音を立てて木刀を持ちやってきた。

「お、お願いします! 」

 自分は満面に笑みを浮かべて首肯し、外へ向けて歩き出す。

「まぁ、海軍の学校でならったことのおさらいにしかならないかもしれないがな。とりあえず外に出るか」

「はいっ」

 元気がいいのはいい傾向だ。

 

「貴様は空中での斬り合いをどう捉えている?」

 木刀を持った三隅軍曹を連れ立って、自分は兵舎の脇の芝生にやってきて、そう尋ねた。

「どう、とは?」

 ふむ、やはり彼女は空戦における文字通りの格闘戦がどういうものなのか理解していないか。

「そうだな……では、こう尋ねよう。佐世保では空戦ネウロイを扶桑刀で斬ることについては、どう教わった?」

「えーと、据え物切りと心得よ、と、そう教わりました」

「それは空戦原則だな。まぁ、似たような物だが。実のところ、空戦でネウロイを切るのは、おおまかにわけて二種類の交差機動しかあり得ず、対象は大型ネウロイのみとすべきなのだ」

「二種類の交差機動で対象は大型、ですか」

「そうだ。それ以外ではほとんど成功しないと思ってかまわない。そうだな……自分はこうやって貴様の前を歩いて横切るから、その木刀で斬りかかってみるといい」

「い、いいんですか?」

「かまわん」

 自分は、三隅の前をゆっくりと歩く。

「いやあぁぁっ!」

 声を上げて斬りかかってくると、半歩体を横にずらしてよけた。

 三隅は空振りに終わった木刀の勢いを殺しきれず、とととっ、と転びそうになったので、地面に倒れそうになった彼女の胴をさっと抱えて助け起こす。

「大丈夫か?」

「あ、ああ、ありがとうございます」

「いや、無事ならかまわない。つまりはこういうことなのだ。後ろや横から相手を捉えようとする場合、加速するか横に振られるとそれだけで回避されてしまう。その動きを追う側は捉えきれない。つまり、ウィッチとネウロイの航跡が交わらないわけだな。ここまではわかるか?」

「はい、わかります」

 実演を交えての説明だからな。これでわからないとこちらが困る。

「よろしい。では、どうすればネウロイとの航跡を重ねやすくできるかだ。その一つがヘッドオンだ。こちらに突っ込んでくるネウロイにむかって自分もつっこんでいく。これがが一つ目の交差機動になる。では、もう一つがどういう状況か考えてみろ」

 眉を寄せて腕を組み、うーんと考え込み、

「えーと……上下からの攻撃、ですか?」

 いいところをついてくるな。さすがは五〇七隊に配属されるだけはあるということか。

「おしいな。正確には上からの交差機動だ。相手を俯瞰した状態で視認し、相手が下降による加速の利点が生かしづらい上空からの急降下攻撃が有効だ」

 自分は、右手をネウロイ、左手をウィッチに見立てて仕草でその様子を教える。

 三隅は、ふむふむと頷きながらその状況を見て頭に入れていく。

「そりゃあ、黒江大尉や坂本少佐のような空戦の達人ならば中型や小型のネウロイを扶桑刀で撃墜することも可能だろう。ただ、貴様はそうじゃない。それならば、やることはみえてくるんじゃないのか?」

 天啓でも得たかのように、三隅は表情を明るくさせる。

「わかりました、初美少尉! ありがとうございます!」

「しばらくはヴァラモ島の攻略作戦も実行されないだろう。なんなら訓練飛行も付き合うぞ」

 と、自分が提案すると、

「お願いします!」

 目を輝かせながらうなずいたのだった。


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