くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞   作:高嶋ぽんず

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くノ一の魔女〜ストライクウィッチーズ異聞 六の巻 その二

「ヴェスナです。初美少尉をお連れしました」

 ノックの後、ヴェスナは簡素な作りの木の扉を開けた。ぎぃ、と軋み音が大きい。建て付けが悪い様子はないから、単に古くて油もさしていないだけなのだろう。

「ありがとう、ヴェスナ。そして、サイレントウィッチーズへようこそ。噂は聞いているよ、《くノ一の魔女》」

 ショートヘアに水色のセーターのウィッチが、書類山積みの安い事務机から立ち上がってヴェスナと自分を出迎えた。

 しかし、その呼び名、どこもかしこもか。もうどうしようもないな、こりゃあ。

 ため息が出そうになるのをぐっとこらえる。

「初美あきら少尉です。よろしくお願いします、ウィンド少佐」

 敬礼しようとする自分を手で押しとどめて、自分の右肩を叩きながら握手を求めてくる。

「わたしのことはハンナでいいよ。君のような腕利きが短い期間とはいえこうして補充兵としてやってきてくれるのは、こちらとしても大変有り難いや」

「微力ながらお手伝いに参りました。それから、連絡していましたが……」

「ああ、人型ネウロイのことだよね。聞いてるよ、エジプトの巣に出たんだってね。人型の戦訓を学びに来たんでしょ?」

「はい。よろしければ、是非」

 自分は力強く頷く。もしこれからもアレと出会うことがあるなら、可能ならば撃破、無理でもアフリカの時のような醜態を晒すわけにはいかない。そのためには、複数回彼らと戦闘をし生き残ってきたサイレントウィッチーズに戦訓を学ぶ必要がある。

 死ぬのは嫌だからな。

 だからこうしてわざわざ世界の果てまでやってきたし、この後、ブレイブウィッチーズに向かい、同じく戦訓を学ぶ。扶桑に戻って穴拭大尉にも話を聞く必要もあるだろう。

「わかったよ。でも、よくあいつから逃げられたね」

「自分には、《迷彩》という固有魔法があります。これを使えばレーダー波や魔導波などを吸収し、レーダーから隠れることができます。まぁ、排熱までは隠せませんが」

 アフリカでのあの時のことを思い出す。なんとか排熱も消せないものか。

「なるほど。それで逃れることができたんだね」

「奴には排熱を見られて、追いかけられましたが」

「撃破はできたわけではないんだね?」

「ええ。どうしても撤退して、ネウロイの巣の情報を持ち帰る必要がありましたから、危険はおかせませんでした」

「いい判断だよ。あいつらはウィッチの意識を奪い、自分の支配下に組み入れるからね。どれぐらいの距離まで近づけたの?」

 は?

 ネウロイが人間を支配下に組み入れて何の益があるんだ?

 ……いや、まてよ。

 人間はネウロイのコアを利用してウォーロックを作り、巣を破壊した。向こうも同じことをしようとしていると考えられはしないか。

 とするならば、ネウロイは人間の思考についても学んでることになりえる。そして、だからこそネウロイは人間の嫌がることをやってきていると推測できる。

 自分は、ハンナ少佐の言葉に引っ掛かりを覚え、思考を巡らせた。

「どうしたんだい? 何か思い当たる節でもあった?」

「あ、いえ、ちょっと気になることがあったので。自分はとにかく逃げることで精一杯でしたから。しかし、それは本当なのですか? 追跡されてる時は、特に何も起きなかったんですが」

「本当だよ。いらん子時代のチュインニ准尉と迫水戦闘隊長が支配下に置かれた。ブレイブ隊との共同作戦では、ルマール少尉が囚われそうになったが、何とか無事に生還したんだ」

「ふむ……貴重な情報、ありがとうございます」

「司令」

 ヴェスナ軍曹が声をかける。

「っと、少し長く話しすぎたね。すまなかった、ヴェスナ。とりあえず彼女を部屋に案内してくれないかな」

「了解しました。こちらです」

 彼女の先導に従って、割り当てられた部屋に歩いていく。随分淡々としてるな。下手に馴れ馴れしくされるよりは付き合いやすいが。

 ともかく彼女に案内されたそこは、士官室としてはあまり大きくはないが、小さな机と作り付けの本棚があり、そして暖炉が設えられていて、いかにも雪国という感じだ。

「こちらが少尉の部屋になります」

「ありがとう、ヴェスナ軍曹」

 案内された部屋に入ると、ごろりベッドに寝転がる。大の字になりたいところだが、あいにくベッドはそんなに大きくない。

「さて、これからどうするか」

 ぼんやりと天井を眺める。

 人型ネウロイか。

 懐から写真を一葉取り出した。

 そこには、ネウロイの巣の黒い雲。その雲が作り出した竜巻の根元にいる人型ネウロイが写っていた。

 黒い人型のネウロイだ。

 なぜこいつは、自分を狙ってきた。

 自分がバレたのは恐らく排熱を捕えられたのが原因だろう。だが、なぜ自分を執拗に追いかけてきた。自分を洗脳するためか。それとも単に排熱を追いかけてきただけなのか。

 あれやこれやと考えれば考えるほど、理由は溢れてはこぼれ落ちていく。思考の迷路に迷い込んだかのようだ。

「あれこれ考えても仕方ないか」

 自分はベッドから起きて部屋を出るのだった。




難産です。
仕事が忙しいこともあって更新は遅くなります。
すみません。

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